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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第四章 師匠
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episode70 決勝戦【後編】

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、ストーリー文章評価等いただけると幸いです。

「【一振入魂】」


 ビスティアが、渾身の蹴りを放ち、カーリの剣は、握っている部分から上が全て吹き飛び、空の彼方へと飛んでいく。


(今だ…!)


 だが、カーリはこれを読んでいた。いや、正確に言うならば、レオが読んでいた。



「剣を二本持っていくのか?」


 決勝前日の夜。

 夜が明けるまで模擬戦を繰り返したカーリとレオ。その合間の休憩中に、レオとカーリは、明日の作戦会議をしていた。


「ああ。貴様や、貴様の師のように理屈も概念も通用しない馬鹿は、こういった負けられない場面では、己の限界の上を絶対に行く。特に貴様の師は、今回の決勝戦では、今までに無いほどの力を見せるだろう。」


 根拠は無い。たが分かる。《漢》と言うものは、そういうものだと、レオは知っている。


「こっちが死ぬ気で頭使っているって言うのに、貴様らと来たら、気合いだの、根性だのの感情論でそれを破茶滅茶に壊す。だから嫌いだ。」


 レオの予想では、二人とも試合の中で限界を超えてぶつかるだろう。だが、その中でもビスティアは、成長、壁を壊す、限界を超えるなどと生易しいものとは違う、次元を超えた高みへたどり着くだろう。

 レオが【深淵】を手に入れたように、カーリが【勇者の魂】を身につけたように、常人ではたどり着くとができない、圧倒的才能と、不屈の精神と、血のにじむような努力の先にある『強者』の世界へとビスティアは、試合中に踏み入れる。


「ビスティアの言動、行動、何かしらの予兆があった時、剣を一本犠牲にしろ。」

「だから、二本持っていくのか?」

「そう。『強者』の世界に辿り着いたとはいえ、それは初めて踏み入れた未踏の地。初めて使った後、貴様の師には、試合中で一番の隙が生まれる。」


 ニヤリと口角をあげて笑うレオを見て、カーリは、やっぱりレオの底は知れないとしみじみ思った。



 ───そのがら空きの体に叩き込め、貴様の最強を。


 足を振り抜き、隙の出来たビスティアへ、カーリは、もう一本の剣を抜剣し、突きを繰り出す。


「【極点集中】」


 白金色のオーラを剣に纏うのではなく、剣先の、極わずかな一点に集中させ、更に練度をあげて火力を跳ね上げる。

 ネーザに傷を付けた、最大火力の一撃。


「ちっ……。これだから、理屈の通じない馬鹿は嫌いなんだ。」


 カーリが、剣を突き出した瞬間、観客席の一番前で見ていたレオは舌打ちを零す。


「【初撃一撃】」

「がふッッッ!!?」


 ビスティアにカーリの剣が届く瞬間、ビスティアの姿が霞み、カーリの側頭部に蹴りを打ち込む。

 完全に隙を付き、油断していたカーリを不意に襲ったビスティアの蹴りは、クリーンヒット。カーリは吹き飛ばされ、場外ギリギリまで吹き飛ばされる。


「直感の方が反応し、威力を流したか…だが…。」


 レオはこの技を昨日、実際に受けたからわかる。確かにこの技の威力は絶大だが、一度きりの技なのだ。


 カーリは、相手に剣を振る時に、【加速】を使って加速し、体が加速した状態で【一点集中】を行って威力をあげている。

 だがそれは、白金色のオーラで体を強化したからこそ出せるスピードで、耐えられるスピードであって、生身ではかなりの不可がかかっている。

 【一点集中】に慣れたカーリは、ギリギリのタイミングを掴んでいるが、【極点集中】では、まだ不慣れで、未完成で、時間のかかる技だ。体への負担は、【一点集中】よりも遥かに上だ。


 ミイラ取りがミイラになる。


 ビスティアの『強者』の世界に入った時に生まれた不慣れ故の隙を付けば、カーリの即興の技でも倒せるとレオは踏んでいた。

 だが、実際に、ビスティアの隙を狙ったカーリにこそ、試合中最大の隙が出来ていた。


『カウントを取ります…一、二、三、』

「うっ…ぅぅ」

「俺の勝ちだ…カーリ…」

『四…おっと、ここでビスティア選手も倒れる!』


 カーリがステージの端で呻き声をあげ、顔中を血で染める中、勝ちを確信したビスティアが、カーリに勝利のピースを向けようとした瞬間、ステージに倒れ込む。


『この場合、先に倒れたカーリ選手の負けということでいいのでしょうか』

『いえ、それどころじゃありません』


 試合規定の書かれた紙をめくりながら、呟くアナウンスを、ヒカルが真剣な声音でそれを止める。


「あがっ…んぐぅっ…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

「し、師匠…?」


 倒れたまま、まるで別の生命がその身に宿ったように、限界のはずのビスティアの体がのたうち回る。

 指先から徐々に肌を黒くなり、筋肉が肥大化し、体が倍以上に膨れ上がる。


「ま、魔人だー!!」

「衛兵!衛兵を呼べ!」

「試合を中止させろ!!」


 いち早く、ビスティアの変化に気づいた観客が、大きな声で叫び、混乱を呼ぶ。


『お、落ち着いてください!慌てないでください!今すぐ、衛兵が来ますから!』


 我先に出口に、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う観客達。

 その中で、魔人を倒そうと、ステージの方へと向かう敗退した選手達も見受けられる。


「おい、ド平民。貴様はどうする?」


 ビスティアの体が変化を始めた時、既に動いていたレオは、倒れているカーリの横に立ち、魔人になったビスティアを見ながらカーリに話しかける。


「お、俺は…師匠に、殺せと頼まれた…だから、師匠の後始末は、弟子の俺がやる……!」

「そうか…【ヒール】。」

「レオ…」

「貴様もリベリオンの一員だ。部下の我儘を聞くくらいの器量はあるつもりだ。」


 そう言い残し、観客席へと戻るレオ。


「通してください!衛兵です!」


 観客席の上から、ステージに向かって突入しようと駆けつけた衛兵達。

 逃げ惑う観客のあいだを分け、ステージに走る。


「【雷の障壁】。」

「【水龍よ】…」


 一番前の隊長らしき人が、ステージに登ろうとした瞬間、ステージを雷の障壁が囲み、全長が、会場周り一周分あるほどの水龍が障壁の周りを更に囲む。


「なっ!何をするんです!」

「この魔人は、【リベリオン】が責任を持って倒す。衛兵は、下がってもらおうか。」

「若き少年が、男を見せようとしている…それを止めることは誰にもできない…」


 隊長の前にはばかったのは、レオと、その父のレクサス。

 絶対にここは通さない。そんな意思が、伝わってくる。


「しかし…!」

「安心しろ。貴様らよりは、俺一人の方が強い。万が一は有り得ない。」

「そういうことだ、引いてもらおう…」


 ギアスを解放し、体から黒い靄を立ち昇らせ、衛兵達を威圧感だけで黙らせるレオとレクサス。


「良かったんですか。」

「何がだ…」


 レオは、隣に立つ父であるレクサスに話しかける。


「父…貴方もまた、再戦を楽しみにしていた一人でしょう?」

「問題無い…この世は輪廻転生。いずれまた戦うことがある…」


 レクサスは、ビスティアをライバルとして認め、誰よりも再戦を望んでいた一人だ。

 自分の信念を貫き、棄権したレクサスだったが、その胸の内は、悔しさで溢れているだろう。


「今は、二人の男の戦いを見守るだけだ…」

「そう、ですね…。」


 レクサスとレオは、後ろを振り返り、繰り広げられているカーリと魔人化したビスティアの死闘を見る。


「本当に最後だ。自我を失ったとはいえ、その時間、大切にしろ。」


 聞こえるはずのないレオなりの応援を、カーリに送り、レオは静かに見守る。

書けば書くほど予定が狂う。多分あと2話だと信じたい。

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