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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第四章 師匠
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episode69 決勝戦【前編】

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

「っぅ…」

「痛みますか?」

「師匠…」

「魔人化が始まってますね」

「分かってます」


 控え室で、右足を抑えて小さく呻き声をあげるビスティア。

 その後に何故かいるヒカルに、ビスティアは今更驚くことなく、会話を続ける。


 ビスティアの本来の予定では、【覇王祭】でカーリと決勝で戦った後、自我を失って魔人になる前に人知れず自殺を図るつもりだった。

 だが、予想よりも早く【魔素病】の魔人化の進行が早く、このままでは決勝戦の途中で自我を失う可能性がある。

 今も、視界がかなり曖昧で、体が一部痺れがあり、たまに急激な破壊衝動に駆られたり、吐き気があったりと、コンディションは最悪な状況のビスティア。


「でも、我儘になってもいいんすよね…」

「はい、全責任は私が負いましょう」

「やっぱ、そういうことサラッと言えるって格好いいな…俺の中で最高の男は師匠一人だぜ」

「まあ、私は英雄で、勇者で、元学園長で、師匠ですが、格好つけたがりの夢見る男ですから」


 ビスティアの褒め言葉に、おどけて見せるヒカル。これでもヒカルの中では、かなり照れている方だ。


『決勝戦まで五分をきりました!注目のこの試合、会場も外まで溢れかえっております!』

「じゃあ、行ってきます」


 アナウンスを聞き、立ち上がるビスティア。


「最後に私から」

「師匠…?」

「見せてください、君の成長を」

「……はい!!!」


 あの時と同じ言葉。レクサスとの最後の戦いの時に送ってくれた、忘れたくても忘れられない言葉。

 それに気づいたビスティアは、満面の笑みで、ヒカルにサムズアップする。


「師匠、最後にお願いがあるんすけどいいですか?」

「なんです?」

「気合い注入お願いします」

「わかりました…!」


 恥ずかしそうに背中を指さすビスティアに、ヒカルは笑って背中を思いっきり叩く。


「いっ…つ…やっぱ効くな師匠のは…」


 名残惜しそうに、登場ゲートを潜るビスティア。


「もし、別の世界だったなら、君はレオくんのように英雄(主人公)になれた立場の人間だったのですがね…本当に惜しい…君の活躍が見納めになることが本当に…」


 ヒカルは遠ざかる弟子の背中を悲しそうに見守った。



「うっし!」

「ネーザに傷を付けたあの一撃、あれを使ったら貴様の体はそれきりでガス欠になる。使い所をくれぐれも間違えるなよ?」

「わかってるって」

「貴様のせいで、頑固魔剣の修復に対軍級魔術、五十回以上の魔力を使ったんだ。それ相応の活躍はして来い。」


 同時刻控え室にて、カーリは、腰に剣を二本(・・)携えると、見送りに来ていたレオの小言を軽く受け流し、試合準備に入る。


「最後に…どんな選択肢を選んでも、どんな結果になっても、それが貴様の正義だ。貫き通せ。」


 真剣な顔つきでレオがカーリに胸に拳を軽く打ち込む。


「おう!」


 カーリはそれを更に押し込むように自分の胸をドンッと叩いてみせる。


『それでは、両選手の入場です!』

「行ってくる!」


 カーリは、レオの方を振り返り、軽く手を振るとゲートの奥へと消えていく。


 その背中に迷いは無く、ただひたらさらに真っ直ぐビスティアに決めたカーリの気持ちが見て取れた。



『さあ、始まりました【覇王祭】、最終日!七日間にも渡る長い長い戦いを無敗で通り抜けた選手達が、今日、決勝戦でぶつかり、最強が決定します!』

『本日の決勝戦は、アドレス王国男爵が急用のため、私、ヒカルが勤めさせて貰います』

『英雄と!隣で!この決勝戦を見れる喜びに震えながら、頑張りたいと思います!』


 いつもよりテンションの高いアナウンスの中、会場も、前日までの比ではないほど盛り上がりを見せているため、気にするような人はいない。


『それでは、両選手入場です!』

『今回、決勝に残ったのは、カーリ選手とビスティア選手。二人は師弟関係なので、今日の決勝戦は、師弟対決となります』

『それは熱い展開ですね』

『両選手がステージの上で睨み合います。二人とも、これまでにないほどの集中力を見せていますね』

『これは、例に見ない程の盛り上がりを期待しましょう!それでは決勝戦、開始です!』


 アナウンスの開始の合図と共に、二人の集中力が、相手を殺すために殺気へと変わる。

 ピリピリとした緊張感と、胸を抑えたくなるような威圧による圧迫感が会場を包む。


「「【初撃一撃】」」


 一切の予備動作無しに撃ち出された二人の本気のが乗った一撃。

 カーリの剣と、ビスティアの蹴りが、ステージの真ん中でぶつかる。


 両者の一撃はほぼ互角。少し押し込まれたカーリは、ビスティアの蹴りを受け流す。


「【勇者の魂(ブレイヴ・アニマス)】」


 カーリは、すぐさま白金色のオーラを身にまとい、次の攻撃に備える。


「今のは小手調べだ。次はもっと本気で行く」

「俺だって、倍の本気で行きます」


 本気は出して当たり前。超えて当たり前の二人は、最初で本気の一撃をぶつけたのにも関わらず、次の一手は更に上を行くと宣言する。


「【一点集中】」

「根性、根性、ど根性…」


 カーリは、剣に白金色のオーラを集中させ、ビスティアは、足に気合を溜めていく。


「「【初撃一撃】」」


 再びぶつかる二人の一撃。


「ぐぅ…!?」


 これを勝したのはビスティア。カーリは、場外ギリギリまで吹き飛ばされ、剣をステージに刺して威力を殺さなければ、場外負けだっただろう。


「上等…!」


 白金色のオーラを纏い、剣に集中させた本気の中の本気の一撃を、気合いと根性だけで超えてくるビスティアの桁外れさに、カーリは笑みを浮かべ、次の攻撃の体勢に入る。


「「【初撃一撃】」」


「「【初撃一撃】」」


「「【初撃一撃】」」


「「【初撃一撃】」」


「「【初撃一撃】」」


 幾度と無く、ぶつかる二人の一撃。

 【初撃一撃】。初撃に最強の一撃をぶつけるこの技は、互角の二つがぶつかれば、初撃を超え、何十と数を重ねていく。

 本気を超え、限界を超え、相手よりも上に行く。それが同じ技を使う者同士で勝つ方法。

 普通ならば、短期間の成長において誰も勝てないカーリが優勢だろう。

 だが、ビスティアも、文字通りの意味で死に物狂いだ。

 今までに無いほどの限界を超えて成長し、カーリに食らいつき、追い越そうとしているビスティア。


「勝つ!超える!認めさせる!」

「勝て!超えろ!認めさせろ!」

「「証明しろ、お前()の強さを!!!」」


 フェイントなんて技術はいらない。

 余力を残すなんて考えない。

 今もてる全てを出し、相手に勝つ。


「「【初撃一撃】」」


 体が悲鳴をあげ、血が吹き出し、今にも倒れそうなほどの疲労感。

 だが、ここで止まるわけにはいかない。

 そんな二人の気持ちが、今までに無いほどの本気の試合に、観客の心が震え、高揚する。


「カーリ…お前に見せてやる、お前の師匠がどれだけ強いかを…これが!今!限界を超え、全てを出し切った俺が出せる『最強』だ!!」

「【初撃一撃】」


 ビスティアの言葉に怯むことなく、今もてる全てを出して剣を振り抜くカーリ。

 だが、カーリの剣は、ビスティアの体を傷つけることも、ビスティアの蹴りで受け止められることも、空を切ることすらも無かった。


「【一振入魂】」



限界突破は呼吸。インフレしてからが本番。

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