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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第四章 師匠
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episode66 準決勝第一試合【カーリvsレオ】

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

 【覇王祭】六日目の朝。

 今日は午前中に『カーリ対レオ』、『ビスティア対ヴィデレ』の準決勝が行われる。

 完全にここじゃなくて(リベリオン)でやってくれといった感じだが、会場は大盛り上がりなので問題無いだろう。


「この時を待っていた。あの敗北から…ずっと。」


 会場が、試合を待ち望んでいる中、ヒカルの時同様気持ちの昂りを抑えられず、この会場の誰よりも、この試合を楽しみにしてきるのは自分だという自信があるレオ。


 リベリオンの総督として負けられないのも当然だが、自分のプライド。そして、なによりも自分が認めた天才(ライバル)に負けたくないという対抗心。

 この勝負は、レオの中で決勝よりも意味を持つ大事な試合だ。


「レオ様、いますか?」


 控え室のドアを軽くノックされ、軽く返事を返すレオ。

 ドアから半分顔を出し、レオがいるかを確認するロゼ。


「いる。何かあったか?」

「あの…試合前で申し訳ないんですけど…」

「……。助かる。」

「あっ…」


 モジモジとして中々言い出さないロゼの行動を察し、ロゼの手から青と白の糸で作られたミサンガを取り上げると、自分の右手首に付ける。


「負けられない理由が一つ増えた。まぁ、その、なんだ…今度、同じものを買ってやる。」

「ありがとうございます、楽しみにしてますね」

「行ってくる。」

「行ってらっしゃい」


 照れているのを見られたくないのか、レオは頬を軽く染めながら後ろを向くと、右手を上げる。

 ロゼはそれを嬉しそうに見て、精一杯の応援の気持ちを込めた見送りの言葉を送る。



「レオに勝って師匠にせめてもの恩返しをするんだ…!」


 レオが決意を固める一方で、カーリも、ビスティアに自らの死を告げられてから悩んでいた問題に答えを出したようだ。

 まだビスティアが死ぬということは、実感が湧かず、受け止められない。だが、それでも師匠には一年以上、自分を戦い以外でも成長させてくれた大事な恩師だ。これが最後だと言うなら、師匠に勝って精一杯の恩返しをしたい。それがカーリの悩んだ末に出した答えだった。


「待っていてください師匠。俺は必ず決勝に行きます」


 壁に立てかけていた剣を腰に下げ、自分の頬を叩いて再度気合を入れるカーリ。

 カーリにとってこの準決勝は、レオとは違った意味で負けられないものだった。



『【覇王祭】もついに六日目。強者ばかりのこの試合で、今日はいったいどんな素晴らしい試合が見れるのでしょうか。本日も引き続き、勇者ヒカル様より、スロー映像を映し出す機械仕掛けを提供してもらっています…え、有料?タダなのは初日だけ…はいわかりました。訂正します。勇者ヒカル様より、今大会の運営が本気で泣くほどの料金で貸していただいています』


 昨日の魔獣退治だけでは足りなかったようで、遂には、大会運営から金を巻き上げようとするヒカル。

 なんとなく察したリベリオンのメンバーは、ここにいないヒカルに、「大人気ない…」という哀れみの目を向ける。


『そして本日も解説を務めさせていただきますアドレスです。昨日よりも実況の子との椅子の距離が空いているのが気になりますが、頑張ってやっていきます』


 理由は昨日のヴィデレ戦で明らかだが、娘に反抗される父親のような悲しい声をしていたアドレスを誰も責めれまい。


『そして今回は、両選手同時入場!レオ選手とカーリ選手、同じ軍服を身につけてステージに上がります』

『同世代のライバル同士。これはかなり高次元の戦いが見れるでしょう、私も立場や歳を忘れてドキドキが止まりません』


 強ばった表情でステージに上る二人。

 二人の放つ覇気は、これまでの試合の比では無く、互いにここに全てを捧げるような気持ちがひしひしと伝わってくる。


「【ギアス】、【魔闘気】、【魔眼解放】、『システム:魔剣起動』」

「【勇者の魂(ブレイヴ・アニマス)】」


 互いが試合開始前に、戦闘準備を終え、今すぐにでも始められる状況だ。


「言いたいことは沢山あるが、俺は口に関しては不器用なんでな。戦い(こっち)で話させてもらう。」

「絶対勝つ…!」


 お互いを睨み合い、構えを取る二人。

 勝負は最初の一撃、それを理解している二人は、全神経を開始の合図へと向ける。


『それでは、準決勝第一試合開始です』

「【自迎(じげい)の型・初撃一撃】」


 開始と同時に動いたのはカーリ。無詠唱で【加速(アッケレラーティオ)】を使い、レオとの距離を詰めると、剣に全てのオーラを集めて【初撃一撃】を繰り出す。


「【支配(インペリウム)】」


 だが、この技は一度見ている。

 レオは、自分の目の前の空間を【深淵】の力で支配し、湾曲させて自分に向かって振り下ろされた剣を指一本動かすことなく避ける。


「なっ!?」


 カーリも予想外だっただろう。カーリからしてみれば、自分の振るった剣が、勝手にレオを避けるように曲がったのだから。


「剣の腕が落ちたか?俺はここにいるぞ。」

(まだ【支配】の乱発はできない。だが、ここで見せておくことで、コイツにならある程度の牽制になるだろう。)


 ニヤリと笑みを浮かべ、カーリを挑発するレオ。

 だが、内心にそれほど余裕は無く、次の手を考える。


「【四重魔術陣 直列式 雷同】」

「まずっ!!」


 そしてレオが次なる手に選んだのは、前日にミラが見せた多重魔術陣の直列式の【雷同】。

 自分のオリジナル魔術を、ミラに使いこなされ、負けず嫌いのレオが黙っているはずもなく、たった一日でミラよりも多い四重の雷同をカーリに向かって正拳突きする。


 だが、これを見ていたのはカーリも同じ。流石に直撃するのはまずいと感じたカーリは、その場で思いっきり飛び上がることで回避する。


「【飛雷ウォラーレ・トニトルス】」


 レオは、上空に逃げたカーリに、高出力の雷を放出する。

 ナーブスとの戦いで、ロケットエンジンのような役割で決定打になった魔術だが、本来は上に撃ち出す魔術だ。


「あぶないっ…!」

「まだ終わらないぞ。」


 カーリは自分目掛けて下から昇ってくる雷を、空中に魔術陣を配置し、足場にすることで空中で方向転換。ギリギリのところで避けて見せるが、既にそれを先読みしたレオが待ち構えており、がら空きの体に剣を叩き込む。


「っ…!!」

「…?」


 カーリは慌てた様子で、レオの剣をギリギリで避ける。

 その行動を不思議に思ったレオ。


(俺の剣を避けた?判断ミスか…いや、こいつの直感的な戦闘センスは、こんなところで凡ミスをするほど甘くない。)


 内心で不思議そうに思いつつ、剣の進行方向を手首を捻り、加速させてカーリを追撃するレオ。

 フィエルダー家特有の、避けたら避けただけ加速して追いかけてくる剣。

 それを知っているカーリが、無理な体勢だったとは言え、躱すことはまずありえない。そんなことでミスをする相手ならレオは負けていないからだ。


「ふッ!!」


 またもやレオの振るった剣を避けるカーリ。レオは、なにかの策略かと警戒しながら剣を加速させて連続攻撃をするが、カーリにその様子は無く、空中で追い詰められていくカーリ。


「…ょ…」

「【一点集中】!!」


 苦し紛れに放ったカーリの一撃、それをレオは思いっきり剣ごとカーリをネーザで地面に叩き落とす。


「くぅっ…」

「ぇ…ぞ。」


 地面に叩きつけられ、苦痛の声を漏らすカーリ。

 そこに、ワンテンポ置いて着地するレオ。


「ふざけてんじゃねぇぞ!!!」

「え…?」

「貴様ッ!俺を馬鹿にしてるのか!!不抜けるのもいい加減にしろ!!!」


 唐突にカーリの胸ぐらを掴み、声を荒らげて叫ぶレオ。

 会場では、いつもクールなレオが怒鳴る姿と、その必死さに動揺が走る。


「今、貴様の目にいるのは誰だ!?」

「れ、レオだけど…」

「違う!貴様の目に映っているのは俺ではなく、貴様の大好きな師匠だ!」


 レオの言葉にハッとするカーリ。


「貴様のそのふざけた戦い方も、全く力の籠ってない剣も、全部迷いからくるものだ!試合だろうと、ここは相手に敬意を払う場だ!ふざけた感情など持ち出すな!!」


 レオの怒りは収まることを知らず、次々とカーリに対する文句が出てくる。


「俺がこの試合にどれだけ時間を賭けてきたと思う!?どれだけこの試合を待ち望んでいたと思う!?貴様を倒すためだけに、貴様の目標であるためだけに命懸けで【深淵】を手に入れ、この大会で剣を振るった!全て貴様を倒すためだけに!!貴様の事情など全て知っている!貴様が気負って悩んでいることも知っている!だが、決勝に上がるためにここに立ったんだろう!?ここに立っているのなら、俺を見ろ!俺と戦え!今、貴様の目の前にいるのは俺だ!師匠でも誰でもない…俺だ!!その目に俺を映せ!俺は、俺は…ここにいるぞ!!!」


 レオの悲痛の叫び。レオの顔は怒りと悲しみでグチャグチャに混ざり合い、今にも泣き出しそうなほど悲しそうな顔を浮かべている。


 カーリは、この大会でビスティアに恩を返すためだけに戦っていた。それはレオとの試合も例外では無い。

 カーリは師匠の死という大きな現実に囚われてすぎて、目の前の大切なものを失いかけたのだ。


「これ以上、貴様と戦う意味は無い。俺は棄権する。師匠との最後をせいぜい楽しんでくるんだな。」


 レオは、カーリの胸ぐらを乱暴に離すと、胸ぐらを掴んだ際に落としたネーザを拾い、ステージの外へと歩いていく。


「待てよ…待てよレオ!」

「……。」

「ごめん!!俺、全然見えてなかった…もう、大丈夫!ありがとう!」


 ビスティアはミラとの試合で、カーリはレオとの試合で、気づいた。この大会で必死になっているのは自分たちだけじゃない。他にもいるのだと。


「チャンスは一度だけだ。」

「わかってる」


 レオは、先程とは一変、嬉しそうに少し口角を緩め、振り返ってネーザを握りしめる。


「【一点集中】」

「【深淵よ】」


 吹っ切れたように笑い、レオをその瞳に映すカーリ。

 レオもカーリを見つめ、この一振に全てを込める。


「【初撃一撃】!!」

「【五重魔術陣 直列剣式 雷同・深淵】」


 お互いが今出せる本気を乗せた剣がキンッという甲高いを音をあげてぶつかる。

 体に残った一滴の余力すら残さず、ぶつかったカーリとレオ。

 余波を会場に撒き散らし、火花を散らして、互いの剣が相手に届くようにと押し込む。


「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」


 絶対に負けるものか。そんな気合を感じさせる二人の叫び。


 そして、この長い、一瞬の戦いに終わりが来る。


「リベンジは果たした。それと俺は、一度口にしたことは撤回しない主義だ。棄権する。」


 二人の本気のぶつかり合いを制したのはレオ。


 カランカランと音を鳴らし、カーリの剣の折れた半ばより上が、ステージの上に落ちる。


「っ…やっぱ強いな…」


 カーリは折れた剣を見て、悔しそうに、だが嬉しそうに笑う。

 自分のライバルだと認めた男はやはり、強いのだと実感したからだ。


 準決勝第一試合。


 レオの棄権により、勝者、カーリ。

本編全く関係ありませんが、七月二十四日、作者誕生日\(^o^)/

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