episode62 決勝トーナメント三回戦【カーリvsニーツ】
誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。
『それでは、決勝トーナメント三回戦。第一試合はカーリ選手対ニーツ選手です』
『ここからは、かなりのハイレベルになるので解説役として私、アドレス=タータンが勤めさせて貰います』
正午の鐘と共に始まった決勝トーナメント三回戦。
アナウンスが入り、会場は試合開始の合図を今か今かと待ちわびている。
『それではアドレスさん、両選手について何かありますか?』
『そうですね、両選手共、今最も勢いのある【リベリオン】に所属しており、私の立場上肩入れするのは良くないのですが、素晴らしい腕を持った選手ですね。敵でなければ、是非手合わせ願いたいほどです』
『なるほど、敵ながらあっぱれと言うことですね。それでは、時間になりましたので、選手入場です』
これまで何も無かったステージ横の出入口から煙が吹き出し、その煙の奥からカーリが姿を表す。
派手な演出と、注目選手の入場で、会場のボルテージは加速していく。
『カーリ選手はなんと十四歳。平民出身の極々普通の生まれながら、類まれなる才能とセンスで、大人相手にも遅れをとる所か、先を行くほどの実力者です』
『そうですね、彼はまだまだ荒削りな部分が多いですが、この大会に凄く思い入れがあるんでしょう。どの選手よりも必死な感じが伝わってきます』
『カーリ選手の戦闘スタイルは至ってシンプル。軽装と子供ながらの小柄な体格を活かし、相手との距離を詰めて剣と体術、牽制に魔術を使う近接戦闘タイプです。』
『彼のスピードとパワーは、かなり強力です。油断したら一発で場外へ飛ばされるでしょう』
アナウンスのべた褒めに、頬を軽く染めて照れ隠しするように笑うカーリ。
普段、レオに罵られ、ビスティアにボコボコに扱かれているので、褒められる機会が少ないので余計だろう。
だが、カーリは、すぐに顔を引き締めると、決勝で待つ師匠のところへ行くために、心も引き締める。
カーリがステージの上に立つと、逆側の出入口から煙が吹き出し、ニーツが登場する。
『そして、続いて登場するのはニーツ選手です』
『彼女は元々、小国ではありますが、公爵家の令嬢です。実力は公爵に恥じぬ実力を持っています』
『そして彼女は、元勇者魔術学園の卒業生であり、『前衛の後衛』と言う二つ名を持っています』
『彼女の戦闘スタイルは、自らを魔術で強化して、圧倒的スピードとパワーを繰り出す近接戦闘タイプ。これは面白い試合になりそうです』
美人が登場してきたのにも関わらず、会場の雰囲気はどこか怯えた感じだ。
無理もない、予選やこれまでの試合で見せたニーツの見た目からは想像出来ない戦闘スタイルに、多くの観戦者が絶望したのだから。
『それでは、第一試合。始めてください』
拳を構えるニーツと、剣に手をかけるカーリ。
「【強化】【強化】【強化】【強化】【強化】」
開始と同時にニーツは、【強化】を繰り返し、どんどん自己を強化していく。
『ニーツ選手は、【強化】を使うスロースターター。どれだけ強化される前に決着をつけれるか、それが鍵になってきます』
解説のアドレスが言うように、ニーツ相手に勝つには、序盤に決着を付けることが最善策で、長期戦は愚策と言える。
だが、カーリは、目を閉じ、会場が息を呑むほどの集中力を見せる。
「【強化】、【強化】、【強化】」
動きを見せないカーリを見て、ニーツはそれを好機と見て強化するペースを上げる。
「…【勇者の魂】」
カーリは、ここで始めて動きを見せる。
目を閉じたまま、【勇者の魂】を発動させると、カーリの体を白銀のオーラを包む。
「【強化】、【強…」
「【加速】」
両者睨み合いから、遂に試合が動く。
カーリが、【加速】を使って自分から突撃したのだ。
ニーツは、カーリの動きをいち早く察知し、魔術を中断させてカーリを迎え撃つ。
「【一点集中】」
「来なさい」
剣に全てのオーラを集め、ニーツとの距離を詰めるカーリ。
ニーツはそれを、じっと構えて待つ。
「勝負あったな。」
「え?」
「ド平民の勝ちだ。」
観客席から二人の試合を見ていたレオは、カーリの勝利を確信したのか、嬉しそうに口角をあげる。
「さて、次は俺の試合だ。」
「あ、応援してますね!」
「ああ。」
これ以上見る必要は無い。というばかりに、未だ観客席がステージに釘付けの中、レオは一人立ち上がり控え室の方へと向かう。
「【自迎の型・初撃一撃】」
間合いは丁度四歩半。
カーリの白銀のオーラを纏った剣は、剣を避けようとしたニーツの速度を超えて吸い込まれるように、ニーツの体に叩き込まれる。
「くっ……」
ヒカル手製の防刃性に優れたはずの軍服が浅く刻まれ、そのまま場外まで押し飛ばされるニーツ。
必死に足を付けようと踏ん張るが、それよらも早くステージ外へと出てしまった。
「負けてしまいましたか…」
『試合終了!カーリ選手、一撃で決めました!!第一試合勝者はカーリ選手!』
『いやあ、私でも目で追えないレベルって正直自信無くしますね』
アナウンスによる勝利コールで、会場は湧くには湧くが、何が起きたか分からない状況で、若干困惑気味だ。
『そんなこともあろうかと、さっきの戦闘シーンをスローで見てみましょう』
『一昨日の謎のローブ男!』
『英雄ヒカルです』
ヒカルは再び実況席に乗り込むと、会場の丁度真上にヴィデレが以前演説の時に使った魔術の応用と、自身の【レシピ】を使った機械で、先程の試合映像を映し出す。
「さすがと言うべきか、馬鹿というべきか…」
「あ、ニーツさん」
「対戦ありがとうございました、カーリくん。強くなりましたね」
自分達の頭上に映し出された映像を見ながら呆れ果てるニーツ。二人は、ステージ上で握手を交わす。
「それにしても、最初で最後の攻撃、素晴らしかったです」
「ありがとうございます」
【初撃一撃】は、相手の動きに合わせて放つ完全カウンター型の攻撃だ。
だが、カーリはどちらかと言えば、じっと待つよりも自分から攻撃を仕掛けることが多く、そっちの方が自分でも合っていると思っている。
更に、中距離、長距離攻撃の防御や回避方法を知らないカーリに、カウンターは不向きだらう。
そこでカーリとビスティアが修行の中で作り出したのが【自迎の型】。
自ら迎え撃つ。カウンター攻撃なのに、自ら相手に突撃して、相手の防御の構えるタイミングを見切り、普段と同じ躱すことの出来ないタイミングで叩き込む。
そして、ニーツは普段、自分から攻撃を仕掛けるタイプで、カウンターを得意とするタイプでは無い。
ニーツはカーリの突撃攻撃に【初撃一撃】のような破壊力を持ったものは無いと油断し、得意では無いカウンターを取った。
それを読み切ったレオは、途中で試合を見ることをやめて準備に入ったのだ。
「さて、次はレオきゅんの試合ですね」
「はい…」
「…?」
ニーツは、いつもならレオの試合を絶対見る!と言って聞かないような性格をしているカーリが、さほど興味を示さないことに小首を傾げる。
「師匠…」
ここから主要キャラ同士の戦いをピックアップしていくので、長さにバラツキがあると思いますが、ご了承ください




