表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第四章 師匠
59/286

episode58 ビスティア【後編】

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

 ランキング戦でレクサスに敗北して以来、ビスティアは死に物狂いで訓練に没頭した。


 身を削り、心を削り、命を削った。


 だが、ビスティアは一度たりともレクサスに勝てなかった。


「チャンスはあと五回…」


 あれから一年半経ち、レクサスの卒業まで残すところ五ヶ月。

 レクサスにランキング戦で挑むことが出来るのは残りたった五回になった。

 少しずつ近づいている実感はある。だが、遠いレクサスの背中。

 焦りを感じながら、ビスティアはぐっと拳を強く握り、訓練を再開する。


「残念だけど、残り五回もなさそうだよ」

「師匠!どういうことですか?」

「レクサスくんが、来月、フィエルダー家の当主を継ぐことになった。だからチャンスはあと一回だよ」

「あと、一回……」


 まだまだ遠い背中を掴むチャンスは残り一回。

 その事実にビスティアは、一瞬、諦めかけた。


「倒しましょう、一緒に」

「あっ…はい!」


 そんなビスティアの肩に手を置いて、優しく微笑むヒカル。


(そうだ、諦めちゃだめだ)


 残り十日。



「勝てるのか…いや勝つんだ…絶対…」


 最後のランキング戦も順調に勝ち進んだビスティア。

 決勝の相手は、因縁たるレクサス=フィエルダー。

 決勝までの時間、訓練場の中にあるベンチで休んでいたビスティアを不安の波が襲っていた。


「よう、ビスティア」

「最後だっていうから見に来たぜ」

「来てくれたのか」


 そんなビスティアの元を訪れたのは、数人の友人達。

 ずっと陰ながら応援してくれた、親友だ。


「クラスの皆も来てるぜ」

「今日は満席だけどよ、俺たち、一番前で見なるからな!」

「だから、勝てよ」

「あぁ…ありがとう、正直不安だったんだけど、お前らの馬鹿面見たら吹っ飛んだわ」

「なんだと!」


 ビスティアの言葉に、怒る友人達を見てビスティアはまたも吹き出して、笑う。


「ふー…行ってくる」

「おう、行ってこい」

「負けたら食堂奢れよ」

「勝ったらその逆な」


 一度深く深呼吸をしたビスティアは、覚悟を決めたようにベンチを立ち、最後の舞台へと足を踏み出す。

 そのビスティアの背中を気合注入のために、強く叩く友人達。


「最後に私から」

「師匠!」

「見せてください、君の成長を」

「はい!!」


 訓練場の中へと入ろうとするビスティアの前に現れたヒカル。

 いつも通りの笑顔を浮かべて、ビスティアを応援する。


「行ってきます!」


 走り出すビスティアの背中を、先程の友人達と同じように叩いくヒカル。


「ててっ…やっぱ、あの人のが一番効くな」


 訓練場の真ん中へと登場したビスティア。

 多くの生徒達の歓声がビスティアに送られるが、ビスティアの目はただ一人しか映していない。


「今日こそ勝たせてもらうぜ、先輩」

「分かっているとは思うが、これが最後だ…」

「言葉いい、戦い( こっち)で語ろうぜ」

「ああ…【ギアス】…」


 レクサスは、【ギアス】を最初から発動させると、魔術陣を二枚砕く。

 レクサスの放つオーラが膨れ上がり、体から黒い靄が天井目掛けて昇る。

 そしてレクサスは、木剣を右手で構え、切っ先をビスティアへ向ける。左手を右手首に添えて、瑠璃色の瞳でビスティアをじっと見つめる。


 一方ビスティアは、赤いバンダナを頭に巻き付けると、半身になって、利き足である右足をぐっと後に伸ばす。


「それではランキング戦、決勝を始めます。はじめっ!」


 審判の教員の合図で決勝戦の火蓋がきられる。


「行くぞ…」


 最初に動き出したのは、レクサス。

 馬鹿げたスピードで、ビスティアとの距離を詰める。


(始まったな…やることはやってきた、だから大丈夫。)


 ビスティアは、逸る心臓の鼓動を感じながら、自分自身を落ち着かせる。


(相変わらず化け物みたいなスピードだな、おい…間合いは二歩半…まだ、まだ引きつける!)


 自分との距離を勢いよく詰めていくレクサスのスピードに舌を巻きつつ、その動きをじっくりと観察する。


「動きが無い。だが…」


 レクサスは、一向に動きを見せないビスティアに疑問を感じつつも、振り上げた剣を振り下ろす。


 育ててれた両親。


(裏で色々言われてた俺をいつも慰めてくれた…)


 可愛い弟と妹。


(出来損ないの俺と違って優秀だ。けど、そんな俺を兄だと慕ってれた。)


 いつも支えてくれた友人。


(あいつらのおかげで、いつも折れそうだった心が、ちぎれそうだった心が繋がった。)


 常に自分の前に立ちはだかったレクサス。


(いけすかねぇイケメン野郎で、ムカつくけど、俺をここまで押し上げたのは、間違いなくこいつだ。)


 自分に希望を与えてくれたヒカル。


(どんな時でも俺を励まし、俺を強くしてくれた。一番の恩人。だからこそ、この勝利を貴方に捧げたい。)


 自分目掛けて振り下ろされる木剣を見つめながら、ビスティアは、今まで自分を支えてくれた多くの人を思い出す。


(怖ぇな…当たったら痛てぇだろうな…)


 けど、ここで止まるわけにはいかない。


 ビスティアは、右足に全の力を込める。


(決める…!ここで決めなきゃ、男じゃねぇ!!)


「【初撃一撃】」


 ビスティアの頭部にレクサスの剣が当たる瞬間、振り抜かれた神速の蹴り。


 一滴足りとも残さずに、自分の持てる全ての力を込めて放たれたビスティアの蹴りは、レクサスの振り下ろされた木剣を砕き、そのままレクサスの側頭部へと突き刺さる。


「ぐぅ……!!」


 レクサスは、そのまま押し込まれ、訓練場の壁へと飛んでいく。


「がはっ…」


 壁に打ち付けられたレクサスは、そのまま意識を失い、倒れ込む。


「勝った…?勝った…勝ったぞ!!!うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ビスティアは、真っ先に拳を掲げ、勝利に喜び、訓練場の中をバンダナを振り回しながら走り回る。


「勝者、ビスティア!!」

「「「おおおおおおおおお!!!」」」


 教員の勝利コールが訓練場に響き渡る。

 これまで無敗の『最強(レクサス)』が敗れたことで、一気に歓声が鳴り響く。


「勝ちました、師匠!」

「見てましたよ、君の成長」


 ビスティアが真っ先に向かったのは、師匠であるヒカルの元。

 優しく微笑みながら、弟子を待つヒカルに、拳を突き出して満面の笑顔を向けるビスティア。

 ヒカルもそれに応えて、ビスティアの拳に自分の拳を合わせる。


「おめでとう、ビスティアくん」

「ありがとうございます!」

「これで、この学園で君は『最強』です」

「次は、貴方を倒します」

「待ってますよ」


 次なる『目標(最強)』は、ヒカル。

 ビスティアは、これからも、最強の頂を目指して、天賦の足で登り続ける。



「卒業おめでとうございます」

「ビスティア…」

「一応先輩なんで、最後に」


 レクサスの卒業式、いつも着崩している制服をピッチリときたビスティアは、最後に門を潜ろうとするレクサスに対してぶっきらぼうに手を差し出す。


「本当は言うつもりは無かった…が、最後だ。言っておこう…」

「なんだよ」

「俺は、君をライバルとして見ていた。君ともっと戦いたかったから、父様に無理を言って当主になるのを一年も先延ばしにした…」

「……」

「この学園生活の中で、君に会えたことが一番の思い出になった…ありがとう、またいつかリベンジをしに来る…」


 ビスティアの差し出した手を、握り返すレクサス。


「じゃあ…」


 そう言って、この学園をあとにするレクサス。


「くそっ、嬉しいじゃねぇかよ…」


 鼻をすすり、レクサスの背中を見つめるビスティア。


 彼はこの後、卒業まで【個人戦闘ランキング】のトップの座を守り続けた。

意外なところで繋がる関係性。

ビスティアがレオを最初見た時に「俺が学園に通ってた頃にいたいけすかねぇ野郎にそっくり」的な発言は伏線でした。

息子ですからね、そっくりなのは当たり前ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ