episode51 タキオン
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何時間…何日経っただろうか。
互いに傷つけ合い、殺しあった二人。
「そろそろ限界だろ?」
「ほざくな雑魚が。貴様の方がボロボロだろうが。」
「その、左腕…もう治らないよ」
「貴様の右足もな。」
幾度と無くぶつかり合い、剣を振るい、拳を振るい、足を振るい、死力を尽くした。
「お互いに全てを出し切った。もう奇襲もフェイントも通じない。」
「その先の戦いは、戦闘と呼ぶにはお粗末なものだろうよ」
向かい合うレオと【深淵】。
「フッ…。」
「なにがおかしい?」
「確かに俺は全てを出し切った。それは貴様も同じだろう?何かあるならもうとっくに使っている…だが
俺は常に成長する。更なる高みへと階段を登り続ける。」
「じゃあ見せてみろよ、その成長を!」
左手を失ったレオと、右足を失った【深淵】。
バランスの崩れた状態でも、二人は圧倒的なスピードとパワーでぶつかり合う。
「おらぁぁぁ!!!」
「ぐふぅ…はぁぁ!!」
「っ…ふっ!」
レオのかかと落としを顔面で受けた【深淵】。だが、そのまま右の拳をレオの腹に打ち込む。
綺麗に入った右の拳に顔を歪めながらも、レオは【深淵】に頭突きをする。
「【雷同】」
「【雷同】」
「俺の方が上だったな。」
互いの頬に打ち込んだ【雷同】は、足の踏ん張りが無い分、レオの方が上だったようで、【深淵】は、後方へと吹き飛ばされる。
「ちっ…【深淵よ】」
「【雷の障壁】」
【深淵】は、空中で体勢を立て直すと、すぐ様【深淵】を使って数本の剣を作り、レオに放つ。
その剣は、人の数倍はあろうかと思えるほどの大きさだ。
それをレオは、【雷の障壁】で威力を落とし、ネーザで叩き落とす。
「急に動きが良くなったな…それが成長か?」
「かもな。だが、動きが良くなったわけじゃないことはわかる。そう俊敏に動けるほど、体に余裕は無い。」
(だが見える…【深淵】の挙動が、魔力の流れ、気力の流れ、筋肉の伸縮、全ての動きがよく見える。)
『ご主人、なんか目が光ってますけど、病気でいやがりますか?死にますか?』
「目…?」
レオは不思議そうに自分の目を押さえる。
「それは…【魔眼】…」
声を震わせて、呟く【深淵】。
「あぁ刻まれている、記憶の中に。【魔眼】によって生み出された感情を…」
「【魔眼】…ヴィデレと同じ?」
『いえいえご主人、【魔眼】に同じものはありませんよ、無知ですねー、馬鹿ですねー』
魔眼。
強力な固有の能力を宿した瞳のことで、この世界に六つだけ存在する選ばれた者にだけ宿る強者の証。
歴史の裏に【魔眼】あり。とも言われたほどのもので、宿主が死ぬと、次の宿主へと所有者を変える。
第六の魔眼。
所有者:ヴィデレ=アルケー=ヴァンパイア。
別名、《万知》の魔眼。
この世で起きているあらゆる出来事をその目に映し、知ることが出来る。
第五の魔眼。
所有者:不明。(所有者が最初から変わってないことは判明)
別名、《万能》の魔眼。
この世の全てのものに適性を持ち、全てを扱うことが出来る。
第四の魔眼。
所有者:スピーリトゥス=サンクトゥス。
別名、《万物》の魔眼。
無機物、生命に問わず全てを創造することが出来る。
第二の魔眼。
所有者:ソリトゥス=レークス=シルフォード。
別名、《万雄》の魔眼。
所有者を慕う人が多ければ多いほど、所有者の力を上げることが出来る。王に相応しい最強と名高い魔眼。
第一の魔眼。
所有者:不明。
別名、《万死》の魔眼。
見たものを命を絶つことができる。対象の寿命、一年につき一秒見なければならない。
「そして、俺が第三の魔眼…。」
『魔眼保有者である年増ババアと契約したり、【深淵】に触れたりで、なんやかんやあって発動したんですかねー』
「説明するなら、きちんとした根拠を持って言え。」
第三の魔眼。
別名、《万視》の魔眼。
この世の全ての動きを見ることが出来、通常では目に映らないものも対象。
「すぐに使いこなしてやろう。」
ヴィデレと同じく真紅の瞳を、朱殷色へと変え、瞳の奥に正三角形を描く三つの金色の輝きがゆっくりと時計回転している。
「魔眼一つ手に入れたところで、何が変わるっていうんだ!」
「変わるんだよ。魔眼じゃなくとも、貴様との差が出来ればな!!」
レオと【深淵】の戦いはほぼ互角。
戦いの中で少しずつ成長していくレオと、レオの体を徐々に使いこなしていく【深淵】。
そこに差はなく、互いに傷を増やしていた。
だが、ここでレオの開眼。
それは二人の均衡を保っていた実力を崩し、レオへと有利に運ぶことになる。
「【深淵よ】」
「【静地】」
やけくそ気味に放った【深淵】の、数十本剣に、レオは真向から突っ込んでいく。
(右足首、左頬、肝臓、右肩、鳩尾、右二の腕、左もも…アイツの狙うところが全て見える…。)
全てを瞬時に見切り、的確に叩き落としていくレオ。
相手の息遣いから、小さな筋肉の動きまで視える《万視》の魔眼は、もはや未来予知と言っていいほどだ。
「一気にケリを付ける…!」
「呑み込め、【深淵】!!」
レオは再度ネーザをギュッと握りしめ、残り十歩の距離を一気に駆け出す。
だが、それを許す【深淵】ではなく、体に残った全ての【深淵】を排出する。
排出された【深淵】は、津波のようにレオに向かって襲いかかる。
「───疾ッ!!」
「馬鹿が!!」
レオは、襲いかかる【深淵】をよけず、更にスピードを上げて正面から突っ込み、呑まれてしまう。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「なっ!!?」
【深淵】の津波を切り裂いて出てきたレオ。
【深淵】は、レオの攻撃を避けようと後ろに跳ぶ。
「言っただろ?支配してやるって…【雷鳥剣貫・深淵】!!」
ネーザに【深淵】を纏わせ、放たれたレオの袈裟斬りは、【深淵】の体に大きく傷を刻む。
「ぐぅっ…!!」
「【剣式雷同・深淵】」
そして、剣を返して放たれたレオの最後の突きは、【深淵】の心臓を貫く。
「がふっ……」
「俺の勝ちだ。」
ゆっくりと体を塵へと変えていき、最後には跡形もなく消滅した【深淵】。
「ふぅ…。」
空間を包んでいた【深淵】が無くなったことで視界が開け、ようやくレオの目に温かい太陽の光が入る。
「レオ…!」
「ぐふっ…!?」
「心配したのじゃ!ばかー!!」
目を細めて太陽を見つめていたレオの鳩尾に、泣きながら飛び込んできたヴィデレ。
ぐりぐりと頭をこすりつけ、鳩尾を深く抉っていく。
「は、離せ!限界なんだ、うっ…本当にどけ!」
「絶対離さないのじゃー!」
「お、おちる……。」
離せと叫ぶレオの意思を無視して更に強く抱きしめたヴィデレ。
レオは、恨めしそうな顔を浮かべながら、意識を飛ばしていく。
「あれ、レオ?レオー!」
☆
「どうです?左腕の調子は」
「問題無い。違和感も大分取れた。」
レオが【深淵】を体内に取り込んでから一週間後。
【深淵】との戦いで左腕を失ったレオは、ヒカル手製の義腕の調子を剣を何度か振るって確かめるレオ。
改めて自分の左腕の義腕をじっくりと見直すレオ。
黒を基調に、魔力を流すと青色の線が浮き上がる謎仕様付き。ヒカル曰く、格好いいから。
随時魔力が必要だが、使用者に合わせてサイズを変えていく永久機関。
レオでも聞いたことのない鉱石を使った丈夫なもので、【深淵】を纏っても特に問題が無く、ネーザを全力で叩き込んでも傷一つつかなかったほどだ。
「それでヴィデレ、話とは何だ?」
「小僧の『二つ名』についてだな。」
「ついにレオくんにも『二つ名』が…」
レオは、脇で控えていたヴィデレに声をかける。
『二つ名』。
その人を呼ぶ、本名以外の別名で、ヒカルだと世界を救った英雄を称して『勇者』。
ヴィデレだと、存在をそのまま使って『原初の吸血鬼』。
ニーツだと、支援系の魔術を自分にかけて前衛で戦うことから『前衛の後衛』など、役職や、存在、戦い方などを元に『二つ名』が付けられる。
そして、『二つ名』は、自然と付いていくものもあるが、通常では、師匠が弟子を認めた時に送るものだ。
「小僧にピッタリなものを選んだつもりだ」
「ほう、期待せずに聞いてやろう。」
と言いつつも、師匠であるヴィデレから送られる永遠に付きまとう『二つ名』。内心少しドキドキしているレオ。
「『タキオン』。それが小僧の二つ名だ」
「『タキオン』…光を越える可能性か…。」
「神とは全ての生物において『光』だ。勇者は、全人類にとって『光』だ。王国は、国民に取って『光』だ。」
ギアス、魔闘気、魔剣、魔眼、深淵。
生まれ持った才能に加え、諦めない心、不屈の向上心、リベリオンを纏める上に立つ者の器。
「その光を越える可能性を持ったのは、この世界で君だけでしょう」
「気に入ってくれたか?」
不安そうにレオの顔色を伺うヴィデレの額を小突く。
「レオの反乱か…。その名に恥じないよう頑張らないとな。」
レオは、そう呟いて笑みを浮かべる。
─────始めよう、歴史に刻まれる王国反乱物語を。
三章完結&祝50話&タイトル回収!!




