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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第三章 タキオン
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episode48 天才の可能性

「遅かったな、今日はもう来ないかと思ったぞ」

「離して貰えなかったんだ…。」

「むむ…あまり深くは追求しないでおこう」

「そうしてもらえると助かる。」


 昼過ぎ、ヴィデレの待つ第八訓練場に訪れたレオは、大変疲れた様子だった。

 ニーツとあのまま、寝たのは良かったのだが、「お昼の金がなるまでは朝なので、お昼の金が鳴ったら起きましょう」とずっと話してくれず、トイレにも行けない状態だったレオ。朝からどっと疲れたようだ。


「それで、今日は私に何か頼みか?」

「ああ。昨日の模擬戦の事でな。」

「確かに、あれは完全に小僧の負けだな。技量云々が通じないほどスペックに差が出ている」

「それは俺が一番自覚している。だが、それを受け切るほど俺は懐は大きくない。教えろ、俺の可能性を。」


 男子三日会わざれば刮目して見よ。

 かつて、レオが自身で言っていた言葉だが、まさに今のレオはその言葉が相応しい。

 まだ一日しか経ってはいないが、ヴィデレには、今日のレオは昨日とは別人に見えた。


 普段から周りに見せないよう、一番上の立場として恥ずかしいところは見せれないと、何事にも興味を示さずに淡々とこなしているように見えるレオだが、その腹の中は全く違う。

 レオの本質は、かなりの戦闘狂で、根っからの負けず嫌いだ。


「大人になったな小僧」

「俺は元々大人びている方だと思うが?」

「いや、大人になったよ本当に」


 今のレオからは、カーリに負けたくないという気持ちがひしひしと伝わってくる。

 だが、それを受け入れ、自分の中で完結させ、上を向いている。

 前までのレオだったら、表に出さなくとも、「何故だ。」と自問し続け、最後は相手に原因があるのだと結論を出していた。

 何故なら、自分には非があるはずがない。そういう生き方を自分はしていると確信していたからだ。


 どうやらレオは、この一晩のうちに、相手を肯定し、その上で自分がどうするか、自分が負けた原因は周りにあるのでは無い。自分にあるのだと気づいたようだ。

 自分には、上に行ける可能性が、圧倒的な才能を前にしても勝てる可能性があることを。


「どれだけ大きな壁を見ても諦めない。小僧が憧れ、その姿を体現しようとしていたその生き方。これは、小僧にはよく合っていたようだ。不屈の向上心…あのカーリよりも、小僧の方が向上心に関しては才能が上のようだ」

「フッ…そうかもな。俺はアイツよりも負けず嫌いだ。負けることが心底嫌いで、自分よりも優れた存在が妬ましくて仕方ない。それを俺は、口では認めていても、心の中では認められ無かった。」

「それは仕方ない事だ。誰にでもその気持ちはある…だが、小僧の辿り着いた『|自分の可能性を信じること|《答え》』は、小僧を更に強くするだろう。」


 慢心。自画自賛。そんな言葉で否定することもできるだろう。

 だが、ヴィデレの前に立っているのは誰か。

 十歳でフィエルダー家を継ぎ、十二歳で国を変えるために全てを投げ捨てた。

 限界を超え、人間をやめ、不可能を打ち破る。


(レオ)は、『天才』だ。」


 自信満々に、口角を上げて笑うレオ。


「だから、俺には絶対にアイツに負けない可能性が絶対にある。その可能性を教えろ。」

「そこは他力本願なんだな」

「弟子が師匠を頼るのは間違いか?」

「いや、あっている。間違っていない。だから、この世の全てを知っているこの私が小僧の可能性を教えよう」


 弟子の成長が嬉しいヴィデレは、鋭い牙を見せつけて笑う。


「小僧の可能性は二つ。一つは、小僧の胸に秘められた眠れる龍を解放すること」

「…だが、」

「知っている。その龍を解放するのは、今ではない。今解放すれば、小僧の計画が狂うのだろう?」

「ああ。あのクソジジイを解放すれば、アイツに勝てるかもしれないが…ここでなりふり構わずに解放すれば、王国を変えることは出来ない。」

「故に私は、もう一つの可能性を提示しよう」


 人差し指をたて、ゆっくりとレオの方へ歩みを進めるヴィデレ。

 その人差し指が、レオの唇に触れる瞬間、ヴィデレは静かに微笑む。


「小僧のもう一つの可能性は…【深淵(アビス)】をその身に取り込むこと」

「【深淵】を?」


 龍を解放することは、ある程度予想のついていたレオ。だが、【深淵】の事は予想していなかったレオは、驚いた様子でヴィデレを見る。


「【深淵】とは、この世の全ての負の感情が集まった場所及び、その黒い塊の事をいう。その力は、神の身を傷つけるほど強力で、人間ならば触れただけで自我を保てず狂ってしまう」

「だが俺は、自我を保ったまま【深淵】を使いこなせる可能性があると?」

「イティネラートルの一族がそうであったように、不死身であり、【深淵】との親和性が高ければば、自我は失おうと、その肉体は残る」

「なるほど…。俺は、【深淵】との親和性が高い。確かに【深淵】を自由自在に使えれば、制御するのは骨が折れそうだが、かなりの戦力になる。不死者相手にも効果的だな。」


 思い当たる節がいくつかあるのか、納得するように頷くレオ。

 メリットとデメリットの換算をしているのだろうか、ぶつぶつと小さく呟き、自分の世界に入り込んでいる。


「ただ一点問題がある」

「なんだ?」

「これはあくまで可能性であって確実では無い。下手をすれば死ぬぞ…?」

「問題無い。可能性があるのなら、俺は確実にそれを掴む。俺は天才だからな。」

「ククッ、心配した私の杞憂だったようだな。じゃあ行こうか、前に約束したデートも兼ねて」


 ヴィデレは、レオの腕にしがみつくと、レオの顔を見つめて二ヘラと顔をほころばせる。


「ちなみに、【深淵】を体内に取り込めば、身体能力上昇どころの話ではないから覚悟しておけよ?恐らく、カーリの壁を壊したのとは比にならない」

「上等だな。むしろそれが手に入るのなら万々歳だ。今ならあいつを負かす未来が見える。」




 ─────待っていろ、すぐに追い抜かしてやる。

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