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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第三章 タキオン
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episode42 勇者試練【三】

「【加速(アッケレラーティオ)】」


 剣を慣らすように軽く振ること三回。次のモーションに入る瞬間、カーリは加速を使って爆発的に加速する。

 完全に不意をついた動き。


 (間合いは四歩半…!)


 初撃一撃の、特攻バージョン。普通ならば、カウンター技なのを、加速を使い、最大威力の攻撃技へと変える。


「【初撃一撃】」

「『システム︰オートガード』」


 カーリの剣が振るわれる瞬間、青年が小さく呟く。

 青年が呟いたと同時に、青年の後から、浮遊する二枚の黒と白の盾が飛び出し、カーリの剣を受け止める。


「『システム︰カウンターアタック・レディ』」


 最大威力の初撃一撃を受け止められ、一瞬怯んだカーリ。

 それを見逃さず、青年は追撃を入れる。


 先程の盾と同じように、青年の後から飛び出した三角錐状の五つの物体が、カーリを取り囲むように地面に配置される。

 配置が完了した瞬間、三角錐状の物体が赤い光をカーリに放つ。


「くっ…!あれ…?」


 カーリは、いきなりの事で衝撃に備えるが、いつまで待っても何も起こらない事を不思議に思い、辺りを見渡す。


「『システム︰カウンターアタック・スタート』」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」


 青年が、開始の合図を出した瞬間、体の内部から外部へと破裂するかのような痛みをカーリを襲う。

 経験した事の無い、初めて味わう痛みにカーリは絶叫をあげる。


「はぁ…はぁ…」

「『システム︰プラスアタック』」

「あぁぁぁぁああ!!!!」


 痛みが治まり、肩で息をするカーリ。安息の時は束の間、再び同じ痛みが体を襲う。


「ぁ……」


 カーリは、事切れたかのように、地面に倒れ込む。


「『システム︰ディテェクター』…上か」


 青年は、地面に倒れたカーリをじっと見つめると、先程とは一変して低い落ち着いた声で次のシステムを起動する。

 おそらく、魔術を看破、見破る系統のシステムを使った青年は、静かに上を向く。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「『システム︰オートガード』」


 上から、青年目掛けて剣を振り下ろすカーリだったが、またもや黒と白の浮遊盾に阻まれる。


「くそっ!」

「作戦的には良かった思います」


 悔しそに悪態をつくカーリに、青年は、煽るように仮面の下で笑ってみせる。


 カーリは、追撃が来る瞬間、レオが頻繁に使用する【身代わり】を使って隙をついたつもりだったのだが、すぐに見破られてしまったのだ。


「まだまだーー!!!」

「『システム︰ビームアタック』」

「っ…!」


 カーリが、再び青年に向かって走り出そうとした瞬間、青年の肩から赤い色のレーザービームが飛び出す。

 予備動作で危険を感じたカーリは、危機一髪で、体を大きくひねってギリギリに交わす。


「武器は奪いました」

「け、剣が…」


 青年は、最初からカーリを狙っているのではなく、カーリの剣を狙っていたのだ。

 半ばから折れた剣は、高熱のビームに焼かれ、残っている刃の部分も溶けている状態で、これ以上使うのは厳しいだろう。


「こうなったら…【加速】」

「『システム︰オートガード』」


 カーリは、一瞬で青年との距離を縮めるも、白と黒の盾に邪魔をされて上手く近づくことはできない。


「たった一撃が遠いだろ?」

「らぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 カーリは、自分を奮い立たせるように拳を強く握り、叫びながら白と黒の盾に向かって拳を振るう。


「【一点集中】」


 カーリの身を包んでいた白金色のオーラが拳だけに集中する。

 ズドンッという音が真っ白な空間に響くと、続いて金属の割れるバキッという嫌な音が青年の耳に届く。


「なっ…!」

「つらぬけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 盾が割れ、驚愕に染まった声をあげる青年。

 そのままの勢いで、青年の体に拳を当てようと疾走するカーリ。


「『システム︰アブソリュートガード』」


 だが、その拳が青年に届く前に、透明な膜に止められてしまう。


「私にこれを使わせるとは…合格ですよ」

「…ぇ…」

「ん?」

「おわってねぇぇぇぇ!!!!」


 カーリには、ここで青年に勝つ強い理由は無い。

 勇者として認められるためなら、これが終わったあとに別の勝負に変えて、もっと勝率の高いものに変えるのが最良だろう。


 だが、カーリは直感的に分かってしまった。


 この人は、自分が今、越えなければならない存在だと。

 背中は見えない。遠い遠い、天上の存在だと実感している。


 だが、そこで諦めるのは自分じゃない。


「ここで諦めたら、アイツに次どう顔合わせればいいんだよ!!!」


 爆発的に膨れ上がる白金色のオーラ。

 カーリの体から湧き上がるその全てが、流動しながら、拳のただ一点に集中する。


 歯を食いしばり、全身の痛みを我慢し、ただ一点に全てを込める。


「【一点集中・双連】」


 カーリは、左の拳を振り上げると、左の拳にもオーラが集まりはじめる。


 そして、撃ち込まれる追撃の拳。


 ビキリという音をたてながら、青年を守る膜に亀裂が入る。


「【一点集中・連撃】」

「まずい…!」


 カーリは、一度右の拳を膜から手を離すと、再び膜にその拳を振り下ろす。


 左、右、左、右、左、右。


 繰り返し膜に撃ち込まれる拳。その拳は、数を増やす度に速く、重く、鋭く、磨かれていく。


 光速の成長。


 撃ち込まれる度に進化していく、カーリの拳に、青年は焦りの声をあげる。


 膜の亀裂は徐々に広がり…


「これで最後だァァァァァァ!!!!」


 血の滲んだ拳が、最大の一撃が膜を貫く。

 ひび割れ、砕ける青年を守る膜は、天に召されるかのように霧散していく。


「らぁ!」

「一撃当てられたな…僕も予想してなかったよ」


 ポコんと力なく自分の腹に当てられた拳を見て意外そうに呟く青年。


「……」

「どうかしたのか?もっと喜べばいいのに」


 拳を当てたのにも関わらず、下を向いてワナワナと肩を震わせるカーリ。

 そんなカーリを見て、不思議そうに首を傾げる青年。


「手加減されてたんですね…」


 小さく呟かれたカーリの台詞に、青年は静かに頷く。


 カーリは、青年の体を殴った瞬間、全身に悪漢が走り、全身から汗が吹き出した。


 そして悟った。


 手を抜かれている。


 学園に入学してからの一年と少しで培った戦闘経験が無ければ、漠然と強いだけだと感じていただろう。

 だが、中途半端に『強者』の世界に足を突っ込んだカーリだからこそ分かってしまった。


 この人は、その気になれば自分など一瞬で殺せるのだとと。


「何はともあれ、試練は終わった。最高神の待つところに行くといい。その時君は、私の背中が見えるくらい強くなってるだろうよ」

「え?」

「神の力ってやつさ」


 仮面の下で茶目っ気たっぷりにウインクするをする青年。


「さぁ、くぐるといい。最後の扉を」

「あの、最後に名前を教えて貰ってもいいですか?」

「いいよ、僕はハセガワ。異界より召喚された君と同じ勇者だ」

「ありがとうございます」


 名残り惜しそうに、ハセガワに頭を下げるカーリ。


「いつか、越えますから」

「楽しみにしてるよ」


 最後の扉をくぐるカーリ。


 その瞳は、激しい屈辱と、絶対にリベンジするという力強さが残っていた。


「ふぅ…彼の成長スピードは、この世界の誰よりも上だね」


 カーリが扉をくぐるのを見送ったハセガワは、疲れたように一息漏らすと、次代の勇者のバカバカしいほどの才能に呆れたように肩をすくめる。


「彼も、今頃負けないくらい成長してるんだろうな」


 真っ白な空間で、見えるはずのない遠くを見つめるハセガワ。






 その瞳は、憎悪に溢れていた。

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