episode39 吸血鬼
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ナーブスとの戦い、イティネとの出会いを通してレオは実感していた。
『不死者』という力のアドバンテージの大きさ。
ナーブスは言った。「伯爵では勝てないくらいの大きな力」を手に入れたと。
それは大小異なるだろうが、強大な力だ。
これからぶつかるであろう貴族の中に、どれだけ『不死者』と呼ばれる者がいるかは分からない。ナーブスの家だけかもしれないし、他全員かもしれない。
どちらにしても元々、侯爵以上の貴族に対して伯爵家の生まれであるレオは、地の力で負けているのだ。
そして、カーリの勇者としての覚醒。
現在カーリは、ヒカルに連れられて〖神〗の元へと足を運んでいる。
ヒカルと同じ、本物の勇者として認められるために。
「それで私に頼みに来たのか…」
朝、修行我始まる前にレオは、ヴィデレに自分も不死者にしてれと頼み込んでいた。
「確かに私ならば、小僧を吸血鬼にすることが出来る」
原初の個体であり、吸血鬼でもあるヴィデレは、最上位の存在だ。
ヴィデレにかかれば、他種族の者を眷属に加え、吸血鬼にすることも容易い。
だが、ヴィデレは、レオの頼みをすぐ様了承することは出来なかった。
「小僧に、永遠を生きるという覚悟はあるのか?」
「無い。が、それが最優の選択ならば、俺はそれを選ぶ。」
ヴィデレの真剣な問いを一蹴して否定するレオ。
「そうか…」
ヴィデレは、レオの選択の意味を深く考える。
不死というものは、地獄に落ちるよりも辛い生き方だとヴィデレは考えている。
多くの知人との別れ。死にたくても死ねない苦しみ。全てに自分を置いていかれるような感覚。
「不死者同士の戦いは、普通には終わらない。どれだけ首を跳ねられても、どれだけ血を流しても、呼吸ができなくなっても、どちらかの不死という概念が壊れない限り続いていく」
話すうちに、だんだんと顔を曇らせていくヴィデレ。
その声音に込められた悲しさこそ、ヴィデレの生きてきた何億年という年月に起きた全てを物語っている。
「こんな苦しい生き方を可愛い弟子に背負わせたくない」。それがヴィデレの本音だ。
「俺は王国を変えた後の事を考えるほど今の俺には今の俺に余裕は無い。」
「そうだろうな」
どうせ偽って覚悟があると言っても、ヴィデレはすぐに見抜くだろう。
だからこそ、レオは自覚も、覚悟も、決意も無いことをヴィデレに素直に伝えた。
「王国を変えた後の事はわかない。だが、貴様と過ごす永遠ならば、退屈はしなさそうだ。」
「ぁ… 」
「だめか?」
「いや、その…」
レオの素直な気持ちを受け取り、少し頬を赤らめて口ごもるヴィデレ。
レオの気持ちは嬉しいが、気持ちだけで流されてもいいのか。ヴィデレは、その狭間で大きく揺れていた。
「彼女がためらう理由は、ただ一つ。彼女がまだしょ…ぶほっ!?」
「くたばれ」
どこからともなく現れたヒカルが、下卑た笑みを浮かべながら、ヴィデレのレオを眷属にすることを渋る理由を話そうとするも、途中でレオでも知覚できない程の速さでヒカルの腹にヴィデレの拳が撃ち込まれる。
腹を抑えて膝から崩れ落ちるヒカルを見て「ざまあみろ。」と内心スッキリしているレオ。
「さっきのクズの発言は忘れろ、いいな?」
呼吸を荒らげ、顔を真っ赤にしながらレオに迫るヴィデレ。
食い気味なヴィデレの行動に、ドン引きしているレオ。
「気にする事はない。体験しているかしてないかなど、些細なことだ。」
「慰められた!弟子に慰められた!!」
いつものミステリアスな雰囲気はどこへら、表情豊かにレオにツッコミを入れている。
「ちなみに、彼女は性交渉の経験もありませんが、吸血鬼としての経験もありません」
「ぬわー!!貴様、それは言わないと約束しただろう!?私の威厳が!」
喚きながら、ヒカルの肩を掴んで大きく揺らすヴィデレ。
原初の素体。最強の種族。地上の絶対なる覇者とも呼ばれたヴィデレの面影もない状態だ。
「おい、誰にも言うなよ小僧?」
「俺を吸血鬼にするなら、約束しよう。」
「ぬぅ…だが、しかし…あー!分かった!分かったから叫ぶ準備をするな!!!」
レオの提案を渋るヴィデレに対して、レオは口元に手でメガホンを作る。さらに、魔術も付与してあり、半径五キャロほどなら聴こえる魔術だ。
それを、慌てて止めるヴィデレ。
普段見れない師匠の姿にレオの悪い性格が出てしまう。悪者のような笑みを浮かべ、レオはほくそ笑む。
「何をニヤニヤしている…」
「いや、いいきょうは…脅しのネタができたなと思ってな。」
「いい直せてないからな!?」
「それで、早く俺を吸血鬼にしろ。」
「ん?あぁ… 」
ヴィデレは、観念したかのように、レオの体を巨大な魔術陣で包む。
「最悪死ぬが、頑張れ小僧」
「何を言って…んぐっ…。」
肩をガックリと落としながら、ボソボソと小さな声で、大事なことを言うヴィデレ。
よく聞き取れず、再度問い直したレオだったが、急激に体に激痛が走り、あまりの痛さに膝をつく。
「ぐあっ…あっ…ああぁあ…っ!!!」
胸を抑えて、もがき苦しむレオ。
体の内部が引き裂かれ、鈍器で頭を何度も殴れ、刃物で体全身を斬られ、体が焼けるように熱く、吐き気と気持ち悪さ。
全ての苦しみを合わせたような苦痛に、大きく叫びをあげるレオ。
「私の事を弄んだ罰だ」
「罰じゃなくても、あの痛みは変わらないけどね」
絶叫を上げ続けるレオを見て、ヒカルは懐かしそうにそれを見る。
以前、神にこの世界の終わりと共にこの命を終わらせるという約束をしたヒカル。
その時に、寿命を引き伸ばす代わりに、レオと同じ痛みを味わったいたのだ。
「種族が変わるんだ。当然、体が全部別物に変わる。痛いのは当然だろう?」
ようやく調子を取り戻したのか、饒舌に戻るヴィデレは、仕返しを成功した子供のように憎たらしい笑みを浮かべる。
「はぁ…はぁ…」
「ようやく収まったか?」
「これ…ほどの地獄を…味わったの…は初めてだ……。」
小鐘一つという長い間、ずっと苦しみ続けたレオ。体は土まみれになり、手を強く握りしめたためか、血がうっすらと滲んでいる。
ようやく痛みから解放され、肺を抑えて呼吸を荒らげるレオ。未だ、体に上手く力が入らず立とうとしてもら、バランスを崩して倒れてしまう。
「これで俺も、吸血鬼になったのか?」
「ええ。まだ実感は無いでしょうが、そのうち分かりますよ」
「だがまぁ、ただの吸血鬼になっただけだからスペックは上がっても、弱点は増えただろうな」
「どういうことだ?」
不思議そうに、ヴィデレを見つめるレオ。
「小僧は、私の力で吸血鬼になっただけで、私の眷属になったわけじゃないからな。体的にはそこら辺の吸血鬼と変わらん」
「なんだと?」
「言っておくが、私の眷属にはしないからな!」
確信を付かないヴィデレの話用に、怒気の含んだ声を出すレオ。
ヴィデレの言いたいことはこういうことだ。
吸血鬼とは、本でも良く見るように、ニンニク、銀、朝日、十字架などが弱点としてあげられる。
不老不死とも言われる再生力と、羽根から生成される高純度の魔力による高火力の魔術、吸血による大幅なパワーアップなど、色々と強みはあるものの、あれだけの弱点があれば、無意味とは言えないものの、相手も不死身と考えるとアドバンテージは少ない。
その点、神に作られた原初の個体であるヴィデレは、先程あげた弱点は無く、メリットしか無い。
そのヴィデレの眷属になれば、その恩恵を受けてデメリットを無くすことも容易いが、ヴィデレはそれを拒んでいる。
「何故拒む?弟子が強くなるのを、見過ごすのは師匠のすることではないだろ?」
事情を理解し、レオはヴィデレに、何故ダメなのかを問う。
「そ、それは…」
「さっきも言った通り、彼女は吸血の経験が無いからですよ」
再びニヤニヤとした笑みを浮かべなながら、レオの耳元で呟くヒカル。
ヒカルが言った通り、ヴィデレは、レオのように他種族を吸血鬼に変えて量産したのはしたのだが、吸血鬼としての最大の特徴である吸血行為をしたことがなかった。
吸血鬼において、吸血行為は食事にも等しものだが、ヴィデレは動物の血に特殊な血石と呼ばれるものを溶かして飲むことで吸血の代わりにしていた。
更に、眷属の契約を結ぶ時には、互いに血を吸う必要がある。
「未だに人間の血の味を知らない、自称知らないものはない吸血鬼とはこれいったい。アッハッハッハッハッ!」
「う、う、うるさいぞ!」
銀髪を振り回しながら、ヴィデレは喚き散らす。
「つまり、貴様が俺を眷属にしない限り、前よりも強くなることは無いと?」
「んー…そうですね、前の方が戦いやすかったと思います」
「おい、俺を今すぐ眷属にしろ。」
「ふっ、断る!」
この後も、ヴィデレは、子供が駄々をこねるように、レオの頼みを断るの一点張りを続け、最終的には、最強と名高い身体能力を使って訓練場から逃げ出した始末。
レオもそれを追って、訓練場の外に出たものの、照りつける朝日に自慢の体力を奪われ、途中で倒れてしまった。
「あちゃー…失敗だったかな?」
訓練場に一人残されたヒカルは、ヴィデレを煽った事を後悔したふうに見せながら後悔せず、次の面白そうな一手を考えていた。
iPhoneに慣れてなくて、誤字脱字が多いかも知れません。すみません。




