episode34 新メンバー
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「やぁレオくん。」
「…ん、どうしたこんな夜遅くに。」
「いやいや、もう朝だよ?」
第八訓練場でいつも通りヴィデレと手合わせをしていたレオの元を訪ねたヒカル。
手合わせが一通り終わった頃合を見計らってレオに声をかけたヒカルだったが、レオはタオルで汗を拭きながら、「なんだこいつ、常識が無いのか?」と言った風な、嫌そうな表情を浮かべるレオ。
どうやら、訓練に没頭しすぎて、時間感覚が狂っているようだ。
「今日はそんなに大勢引き連れてどうした。そんな少数で王城に潜入しようとするならやめておけ。」
「そんな馬鹿な事しませんよ。潜入なんてしなくても、私なら正面から堂々入れます」
レオの皮肉に、的外れな回答をするヒカル。英雄の考えることは常人には理解し難いものだ。
ヴィデレも、後ろで呆れ顔を浮かべている。
「それで本題なのですが、彼らが君の直属の部下になる子達です。これからは、外部任務も増えますからね。少数精鋭で揃えました」
「ほう、前みたいな不安な事にならないことを願うとするか。」
以前、ヴィデレや、ビスティアを紹介された時に散々な思いをしたレオ。
嫌そうな顔を浮かべながら、レオは後ろの黒のフードを被った複数人に顔を向ける。
「何故、フードを被っているんだ。」
「演出です」
レオの真っ当な疑問に、ふざけた回答を真剣に答えるヒカル。
レオは、頭を抑え、ため息を一つ零す。
「まずは一人目!」
「この世の美を追求する、永遠の美の探求者ベッルスとは僕の事だっ!」
ローブを勢いよく脱いで現れたのは、手に赤い薔薇の花を一輪持ち、薔薇の匂いを嗅ぎながら、痛々しいポーズを決めた十六、七の青年だった。
元勇者記念魔術学園の高等部の制服に身を包み、持っている赤い薔薇と同じ、真紅の髪に、緑色の瞳。
目に少しかかった前髪をいちいち掻き上げる仕草は、自分はナルシストだと自己紹介しているような青年だ。
「ベッルス=エクスプローラートル男爵令息…。」
「その名はもう捨てたものさっ!最近の王国のやり方は美しくないっ!この世の全ては美しくないといけない…ならば、僕がこの世界を変えないといけないと思ってねっ!」
キランと本当に光ったと錯覚するほどの真っ白な歯を見せつけて笑うベッルス。
彼は、王国軍の最高幹部であるエクスプローラートル男爵家の嫡男だった男で、今年で十七歳。
昔から美しいものだけを追求し、探求する、ナルシスト基質の男で、【自然属性】というエクスプローラートル家の固有魔術属性を扱う戦闘を得意としており、学園の頃にあった【個人戦闘ランキング】で高等部一年生ながら常に上位にいた程の実力者だ。
ちなみに【個人戦闘ランキング】は、学園内で開催されていた模擬戦の戦績をレート化したもので、上位に行けば行くほど、ヒカルから特典が貰える仕組みになっている。
「レオ総督、貴方と戦えることを光栄に思うよっ!」
「ああ、助かる。」
ベッルスの差し出した手を、握り返すレオ。
レオも、彼が貴族の爵位を捨て、学園に残った事は知っていたが、顔を合わせるのはこれが初めて。
かなりの強烈な個性を持つベッルスに、レオも引き気味だ。
「さてさて、どんどん行こう!」
「…。」
心の中で「残りはどうか、もともでありますように。」と心底願うレオ。
「じゃっじゃーん!ミラちゃんだゾ☆」
「……チェンジだ。」
「な、なんでですか!」
次に出てきたミラと名乗る少女を見て、レオはすかさず交代を言い放つ。
「私、優秀ですよ!?超天才なんですよ!?」
「自分の事を天才と言う奴を信用出来るわけないだろ。」
自分で天才と名乗る少女に、厳しく言い放つレオ。
だが、その横でお前が言うなと、ヒカルは内心でツッコミを入れている。
「彼女は平民ながらも、【万能】。全ての属性に適性がある、本人の言う通り天才です」
「ほう。」
ここで初めてレオは、ミラと名乗った少女に感心を向ける。
レオが名前を知らなかったことを見ると、最近入ってきたか、もしくは本能的に視界から除外していたのだろう。
水色の長い前髪を、ピンク色の髪留めで止め、チョコンと小さく頭の横で小さくツインテールにしている。
中等部なのだろうが、シムルとそう対して変わらない小さい体を跳ねさせる度に可愛らしく揺れるツインテール。レオは何故かそれを異常に引っこ抜きたい気分になったのをグッと我慢する。
「そうです、私は万能なのですゾ!」
「…チェンジで。」
両の人差し指を頬に当てて、あざとく笑うミラ。
すかさず、チェンジを言い放つレオ。
だが、【万能】と呼ばれる才能は、かなり貴重なものだ。
自称初代天才であるレオも、様々な属性に適性があるものの、それは中級止まりなものが多い。
人それぞれ、イメージしやすいものと、しにくいものがあるので、魔術の得意不得意は、属性の数だけ、かなり個人差が出てくる。
しかし、ミラの【万能】は、全ての属性を上級以上使える適性を持っている証であり、名誉の称号だ。
だとしてもレオは、ミラを変更することを望んだようだ。
「まぁまぁ、私もミラくんの事は苦手ですが、頑張りましょう。周りと歩幅を合わせることも重要な事ですよ」
「ふむ、確かにそうだな。」
「そこの二人、なんていいました!?」
ミラの事をまるで気にした様子もなく、進行していくヒカルとレオに、はしたなく叫ぶミラ。
「そして最後が」
「ワタシ」
「今度こそ、本当に記憶に無いな。」
「私はあったってことですか!?あったのに覚えてない振りをしてたんですか!?」
「黙れ。」
最後にローブをいそいそと脱いで現れたのは、紫色の髪に、大きなピンクのリボンで髪を後ろで纏めてポニーテイルにした、ロゼと変わらないほどの身長な少女だった。
顔が全体的にトロンとしており、目が少し垂れ、常に眠そうな顔を浮かべている。
ちなみに、レオの横でピョンピョンと跳ねていたミラは、小さなツインテールを掴まれて横で「痛い痛い!ギブです!ギブです!調子のってごめんなさい!あ、ほんとに抜けちゃうぅぅぅぅ!」と元気に叫んでいた。
「ワタシは、ウムブラ」
「ウムブラくんは昨日、【諜報科】の方に入った子なんだけど、最初の軽いテストの時にかなりの成績を収めてね。たまたま見ていた私が引き連れてきたってわけさ」
「なるほどな。まぁ、ちゃんと働いてくれたら問題ない。」
「私の目に狂いは無いので安心してください」
そういって微笑むヒカル。
その、キザったらしい笑みに青筋を浮かべるヒカル。
「そして最後ですね」
「ばあ」
「…何をしてるんですか、ニーツ姉さん。」
「演出だよ」
最後にローブを勢いよく脱ぎ捨て現れたのは、大きく手を開いて両手を顔の横につける…言うところの「いないいないばあ」のポーズを取って無表情のまま、レオを見つめるニーツ。
昨日、帰ってきてからレオに会えてないので「レオきゅんエネルギーが足りません、今すぐ会いに行かなければ」と、夜中に言っていたのをヒカルが無理矢理止めたのだった。
「元気そうで何よりです。で、何してるんですか?」
「栄養補給です」
ニーツは、レオの体を後ろからギュッと抱きしめると、レオの頭に顎を置き、スリスリと動かす。
「あの、俺にも総督としての威厳が…。」
「大丈夫です」
「何が大丈夫なんですか。」
「お姉ちゃんに不可能はありません」
キリッとした表情で自信満々に言うニーツ。
レオは呆れ半分、諦め半分で、ニーツの謎の栄養補給が終わるまで待つことにした。
開放されたのは、半日後だったそうだ。
友人のTくんに、この作品で誰が一番好きかと聞いたところ、意外にも「ニーツ」と言われました。
確かにあのレオに困った顔をさせる唯一の存在的に、自分もお気に入りです(笑)
ちなみに、友人のNくんに一番好きなのは誰かと聞いたら即答で「モジャッコリー」と言われました。