episode33 肉
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「【兵科】の連中の練度はどうだ?」
「久しいなレオ学生…いや、レオ総督だったな」
「貴様の中では、俺はまだ学生なんだろうな。好きに呼べばいいさ。ただし、周りの連中がいる時はやめてくれ。示しがつかん。」
「ハッハッハ!それくらいは心得ているぞ!」
元々の第一訓練場から第三訓練場が立ち並んでいたのを活かして、文体祭の時に、突き抜けの大きな『多目的訓練場』に改造したヒカル。
その訓練場の二階の観客席に腰を下ろしながら、訓練場の中を走り回すリベリオンの仲間達を見ていたレオ。
そこに、レックスが顔を出したので、一緒に見ていたところだ。
「練度はまずまずと言ったところだな」
「一年後には使い物になりそうか?」
「半年後までには何とかしてみせるぞ!」
「フッ…期待しないで待っておこう。」
レックスは現在、レオの頼みで【兵科】の教官をしている。
冒険者として活躍していたレックスは、昔、冒険者になる前に、国に徴兵されて軍人として働いていた時期がある。
大雑把ながらも人に教える才能があるレックスは、レオも一番適任だと感じ、ヒカルと共に頼み込んだ。
レックスもその頼みを、少し時間をくれと悩んだものの承諾。
奥さんと、二人の子供と共に元学園街の中にある家に住んでいる。
ちなみに、サラは子供がまだ幼いこともあり、リベリオンには入らなかった。
「背負う重さは違えど、ここにいる連中全員が何かを背負っているんだな。」
「唐突にどうしたんだレオ学生?」
「いや、何でも無い。最近、色々と考え事が多いんだ。」
「多忙のようだからな」
「さて、ヒカルに呼ばれているから、俺はここで失礼する。」
「ああ、また見に来るといい!」
レオは、そう言って椅子から腰をあげると、軽く手をレックスに振って多目的訓練場を後にする。
レオ自身、何となく感じていたこともある。
レオは、前々から王国の汚い闇の部分を知っていたし、それを見て見ぬ振りをしていた。
だが、周りから見たら、グランの一件で王国に反乱を起こしたように見えるだろう。
それは、軽く叩かれたからナイフを取り出して脅しているのと同じくらい過剰な反応に見えるだろう。
それでもこうして多くの人々がレオの元に集まってきている。
それは、ヒカルの人脈や、レオのリーダー性も少なからずあるが、ここにいる誰もが今の王国に対して不満。もしくは、闇の部分で被害を受けて王国を恨んでいるのだろう。
それだけ多くの人々が実害を受け、リベリオンに参加するほど恨むほどの王国を実感したレオは、更に失敗できないと胸に強く刻んだ。
☆
「よし、誰もいないな。」
レオは、辺りに誰もいないことを確認すると、いつもの三割増しで素早い動きで、着席する。
食堂。
学園の頃からレオが愛用している場所で、平民向けの安いものから、王国シェフが作る貴族用の高級料理まで、《何でも作ります》をモットーに掲げている素晴らしい食堂だ。
十年ほど前に、一人の貴族が、入手は不可能と合われている幻の食材を使った料理を頼んだ事があったそうだ。
だが、食堂はその無理難題を『十分ほどお待ちください』と言うと、なんとも見事な料理が出たそうだ。
それからこの食堂は、絶対裏で何かと繋がっていると色々と噂が飛び交っている。
「気配もしない。よし…。」
レオは、再び周りをキョロキョロと忙しく見渡している。
わざわざ、他のリベリオンの仲間達が訓練中の時を狙って食堂に足を運んでいたのだ。
レオがこういう行動に出るのも無理は無い。
今からレオは、普段、自分が絶対にしないことをしようとしているのだ。
万が一にでも見つかれば、レオの人望とイメージは崩れ去ってしまうだろう。
以前、レオとカーリが一緒に食事をしていた時、カーリに言われた一言が、引き金だった……。
☆
「レオって、そんな食い方して美味しいのか?」
「汚い。口の中にものを入れて喋るな馬鹿が。」
まだ学園だった頃、たまたまロゼが熱で休んだため、レオとカーリは食堂で昼食を取っていた。
レオは比較的栄養バランスを考えてか、野菜が多めの定食をナイフとフォークを使って、食べていた。
流石貴族と言った感じで、手慣れており、一つ一つの動作に優雅を感じるほどだ。
だが、一方のカーリは、手当りしだいにスプーンで書き込んで、頬をいっぱいに膨らませてガツガツと食べていた。
「そんな食べ方じゃ、満足できないんだよなー」
「たとえ満足できないとしても、俺がそんな下品な食い方をする訳ないだろう。」
鼻を軽く鳴らして、未だに頬をリスのように膨らませるカーリを見下すレオ。
その様子は、どこか落ち着きが無かった。
☆
「【一キャロステーキ定食】か。フッ、申し分無い。」
レオは、成人男性でも食べられるか分からないほどの大きなステーキを前に、笑みを零す。
ジュージューと熱しられた鉄板の上で肉が焼ける本能的に体が反応する音が鼓膜を通して、脳に伝わる。
レオは、スパイスの香りを鼻で味わうと、豪快にフォークを肉に突き刺す。
「ふぅ…。」
レオは、肉を軽く持ち上げると、一息呼吸を置く。ズッシリとした肉の重みが、手に伝わる。朝飯を抜いてきたことで、見ているだけで胃が肉を欲しようと音を鳴らす。
「……うまい。」
レオは、肉を自分の口元に持っていくのではなく、自分から肉にかぶりつくと、大きく一口肉を頬張る。
焼き加減もさることながら、口の中に広がる肉の旨みと、旨みが凝縮された肉汁がレオの口の中を染める。
更に、柑橘系の風味のするソースが、肉の凶暴な旨みを飽きさせない味へと変える。
「………。」
レオは次に、横に添えられてあったモジャッコリーのソテーを口に頬ると、それがスタートの合図のように、レオは同じく肉にどんどんかぶりついていく。
頬にいっぱい肉を貯め、幸せそうに顔をとろけさせるレオ。
「レオ様…?」
「うぐっ…ぐふ…ごほっごほっ……ふぅ……なんだ、貴様か。」
「いや、あの、大丈夫ですか?」
幸せそうに肉を食べていたレオに声をかけたのは、昨日、ニーツとの山篭りの修行を終えたロゼ。
肉に集中していたとは言え、レオの背後に立っても気配を感じさせないあたり、修行の成果が目に見える。
そんなロゼに声をかけられ、頬いっぱいに貯めた肉を咀嚼していたレオは、突然のことに驚き、慌てて飲み込んだ肉を喉に詰まらせてしまった。
すかさず、ロゼが水を手渡し、レオもそれを受け取って水を一気に飲み干して一息つくと、何食わぬ顔で、今々、ロゼに気づいたように振る舞うレオ。
らしくもないレオを見て、レオの身を案じるロゼ。
熱でもあるのかと心配しているようだった。
「こんな時間に昼食ですか?」
「ああ。少しガッツリ食べたくてな。」
「で、あんな食べ方を」
「……。」
「安心してください。誰にも言いませんから」
「本当だろうな?特にド平民に言ったら…。」
疑い深いレオに呆れつつ、興奮気味のレオを宥めるロゼ。
「あの、その事なんですけど…」
「なんだ?」
「カーリもいます……。」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、プルプルと小刻みに体を震わせるレオから視線を外して斜め下を見るロゼ。
実は、ロゼが食堂に入っていくのを見たカーリが、久しぶりということもあり、その後ろを追いかけていたのだ。
つまり、ロゼが後ろに立ってた時、カーリは食堂にちょうど入ってきた所で、一部始終を目撃していたのだった。
「っ~~~!!!!」
声にならないレオの悲鳴が、食堂に響く。
☆
「俺、昨日に食堂に入ったはずなんだけど…記憶が無いんだよな~」
「っ…老化が既に始まってるんじゃないのか?貴様は救いようのない馬鹿たがらな。」
カーリが、あの後にどんな事をされたのかは想像にお任せしよう。
三章スタートです!
三章の題は、『タキオン』。
この作品のタイトルにも含まれる『タキオン』の伏線回収が主で、更なる新メンバーと、レオとカーリという二人の主人公、ロゼやその他のヒロインの更なる強化をお楽しみください!!