episode32 ナーブス=ルーナティック【五】
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「おい、ド平民。」
「なんだ?」
「敵の命のストックはあと二。俺と貴様で一つずつでどうだ?」
「…かなり厳しいかな」
「フッ…その割には、顔が笑ってるぞ?」
膝は既に酷使したことで壊れ、自分でも立ち上がっていることが不思議な程なレオとカーリ。
軽口を叩いているが、満身創痍。
血を流し、全身が悲鳴をあげ、仲間が死んだことで精神的にもダメージを受けている。いつ倒れておかしく無い状況だ。
「………」
「アイツに合わせて、俺達も動く。俺自身、腕がもう上がらない。剣を振るえるのもあと一回だろう。」
「…分かった。俺の全力で、アイツを殺す」
お互い、覚悟の決まった様子で次の動きへと備える。
レオは、剣を、上がらない腕で持ち、もう片方に魔術陣を展開する。
一方カーリは、一旦剣を鞘へとしまい、目を閉じて集中力を高める。
「動くぞ…。」
ナーブスの体が、フラリと横へユラユラと動き始める。
ゆったりと初動から一変、ナーブスも最後の攻撃を仕掛けに来たようで、今までで一番早い動きでレオとカーリに突進してくる。
「【ギアス】」
レオは、【ギアス】の魔術陣を展開すると、その全ての魔術陣を砕く。
「【飛雷】」
レオは、展開していた魔術を発動させる。
中級の、雷属性魔術の【飛雷】は、高出力の雷の束を上空に打ち出す放出系の魔術だ。
【飛雷】を、自分の後ろに放ち、ジェットエンジンの変わりにすることで、レオは動かない足の変わりに、反動を使って体を無理矢理加速させる。幸いにも、後ろはナーブスの開けた穴があるので、二次災害は無い。
レオは、体を捻るように、【ギアス】で解放した本来の残り少ない腕力を剣に乗せてナーブスに袈裟斬りを放つ。
レオの剣は、吸い込まれるようにナーブスの首に当たり、ナーブスの首を弾き飛ばす。
レオは、それを確認すると、体が本当に動かなくなり、そのままの勢いで地面に勢いよくぶつかる。
「後は…任せた…。」
ナーブスの首が再生する中、カーリの思考が加速する。
(師匠が言っていたことを思い出すんだ!)
カーリは、ビスティアの言葉を思い出しながら、ナーブスの動きをじっくり観察する。
(一つ、相手との間合いは四歩半)
ナーブスの首が完全に復活する。
ナーブスはそのまま、カーリに向かって突進する。
(一つ、敵の重心を見極める。相手の出された足が、地面に着く瞬間が一番のチャンス。相手はもう向きを変えることができない)
「【初撃一撃】」
(三つ、己の全てを剣に乗せ、最速最強の一撃を相手に叩き込む!!!)
抜剣されるカーリの剣。
これまで、ビスティアとの修行で何千、何万と振るってきた剣。
今、カーリの全てが篭った一撃が振るわれる。
全身が悲鳴をあげている。
血管が破れ、皮膚が裂き、全身から血が吹き出す。
限界は遠の昔に超え、振るえるのはこの一撃のみ。
(痛い…。苦しい…。やめたい…。)
だが、止まることはできない。
自分の決めた覚悟を偽らないために。
有言実行を果たしたライバルのために。
なによりも、死んでいった仲間のために。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ナーブスの心臓に突き刺さるカーリの剣。
「零…。」
同時に地面に倒れ込むナーブスとカーリ。
ナーブスの体に刻まれた傷は消えることはなく、胸に突き刺さった剣が、二人の勝利を象徴している。
「ははっ、やったよみんな」
仰向けになりながら、天井に向かって掲げられるカーリの拳。
汚れきった処刑場で最後に殺されたのは、処刑人であったナーブス自身だった。
「やったようだな。」
「うん」
「お互い生きてるなんて、悪運が強いもんだ。」
「暫くは立てそうにないな」
「……今はいいだろう。だが、回復したらちゃんと連れて帰ろう。」
「だな」
自分達と同じように横たわる仲間達を横目で見つめるレオとカーリ。
「「仇、ちゃんと取ったぜ。」」
レオは静かに目を瞑り、カーリは腕で目を覆う。
呟かれた二人の言葉は、微かに震え、今にも泣き出しそうだった。
☆
「死者四十七名。負傷者三名。うち一人は、腕を切断される重症ですか…。」
「まさかあの中に生存者がいるなんてな。」
「気絶していたらしく、助かったのも奇跡です」
「そうか。」
元学園の裏の森の中、白い可愛らしい花々が咲き誇る少し開けた場所に、人の三倍ほどの大きさの墓石が立っている。
今回の死者の名前が刻まれた墓石の前で、レオとヒカルは手を合わせる。
レオの全身には包帯が巻かれており、未だ傷が完全に治っていないことから、ナーブスとの死闘がどれほどのものかを物語っている。
事故から一週間。レオはこうして毎日、ここに足を運んでいた。
「すまない…。」
「……」
手を合わせたまま、動こうとしないレオの背中に、そっとヒカルが手を添える。
「話は聞きましたか?」
「ああ。ちゃんとな。」
☆
レオは、唯一の生存者である少年、ドラから詳しい話を聞いた。
その中には、ルルアに関する話もあった。
「彼女は、連れ去られた僕達を励ましながら、怪我をした皆に対して必死に【ヒール】をかけてくれました…」
「そうか。」
「それが気に入らなかったのか、一番最初に………ですけど、彼女は最後まで絶対に諦めないって小さく呟いていました。僕にもっと力があれば皆を……みんなを………」
「それは俺も同じだ。これから、あいつらのためにも、強くならないとな。」
「はい!絶対、王国を変えましょう!」
涙ながら話してくれたドラの頭を、自分の胸に押し当て、キツく抱きしめるレオ。
当事者のドラが一番トラウマを背負っているはずなのに、こうしてまたリベリオンの一員として戦ってくれることに、ルルアの最後を見ていてくれたことに、最大の感謝を込めて、レオはドラに一言…
「ありがとう。」
ドラがレオの小さく呟やかれた一言に顔をあげようとするが、レオは、さらに強く抱きしめて顔をあげさせないようにする。
(こんな顔、見せれるわけが無いだろう…。)
「……」
ドラは、自分の首筋に落ちる水滴を感じると、黙ってレオの胸に頭を預ける。
二人が顔をあげることは、暫く無かった。
☆
「レオ様~!」
「シムルか。」
「またここだったんですね」
「ああ。夕飯か?」
「はい」
「今行く。」
レオはやっと、重い腰をあげると、最後に墓石に一礼すると踵を返し、寄宿の方へと足を進める。
「おや、そのネックレス。シムルさんとお揃いですか?」
「ああ。」
「よく似合ってますね」
ヒカルは、ふと、シムルとレオが同じ銀色の指輪がついたネックレスをしていることに気づく。
「当たり前だろ?」
レオは、嬉しそうに微笑む。
だが、その瞳の奥には、深い悲しみが見て取れた。
【R】の刻まれた指輪が付いたネックレスを、レオはギュッと手のひらで握る。
嬉しさ、悲しさ、苦しみ、色々な感情が詰まった顔で、レオは、茜色に染まる空を見上げる。
この時、レオが何を思っていたのか、それはレオにしか分からない。
二部完結です!
二部の最後は、カーリがメインで進行されて行きましたが、どうだったでしょうか。
是非とも、感想などで教えてくれると嬉しいです




