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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第二章 覚悟
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episode31 ナーブス=ルーナティック【四】

誤字脱字報告、ブックマーク、レビュー、感想等いただけると幸いです。


「小僧は理性に頼りすぎだな」

「なんだ唐突に。」

「貴様は言うならば、理性の化け物と言ったところか?戦闘において人間の持つ野性的な部分が一切存在しない」


 いつもの第八訓練場。

 新しい魔術の開発をしていた時に、唐突にヴィデレから横やりが入る。


 戦闘において野性的と言えば、真っ先に思い浮かべるのは、カーリだろう。

 直感と、自身の持つ戦闘的センスに全てを委ねる戦い方を主としている。

 逆に理性的と言えば、レオだろう。

 分析と、自身の持つ戦闘的経験を使った戦い方を主としている。


「小僧には、不意打ちは通じない。相手の一挙一動を見てから、次の行動を決めているからな。家柄的な戦い方のせいもあるのだろう。だがそれは、小僧の可能性を押しとどめているのと同じだ」

「俺の可能性だと?」

「小僧が戦闘で使っている経験は、頭だけでしか使ってない。前に、小僧が「自分を別々の四人が操作しているような感覚になった」と言っていたが、それは違う。貴様の並行的な思考の容量が上がっただけで、何も変わっていない」

「つまりはどういうことだ。」


 なかなか答えを言わずに遠回しに話を進めるヴィデレに、イライラを隠せないレオ。


「こういうことだよ」


 ヴィデレが、ニヤリと笑うと、レオの顔面に蹴りが飛ぶ。

 唐突な出来事に、【魔闘気】どころか【ギアス】すらも解放していないレオは、よけられずにモロに蹴りを食らってしまう。


「貴様…!」

「今、小僧の体はしっかりとこの蹴りが放たれるの感知していたし、よけられるはずだった」


 不意に蹴られたことで、地面に手を付きながら、声を荒らげるレオ。


「だが、小僧は蹴りをくらった。なぜだか分かるか?」

「……。」

「まず、私の蹴りのモーションから不意打ちかどうかを確かめた。そしてその後、蹴りの当たる位置、角度、威力を見極めてから避けるモーションに入ったが、角度を計算しているあたりで、小僧の顔に私の蹴りが入った。ここまで言ったらわかるな?」

「俺は、理性的に考えすぎているから、もっと野性的な戦闘勘に身を任せろと?」

「そうだ。だが、野性を解放しすぎてもダメだ。小僧のいい所が無くなるからな。そのバランスを調整しないとな」


 理性と野性のバランス。

 それは人が普段から無意識に取っているものだろう。

 「これがやりたい!」と自分の野性的な部分が思っても、「人に迷惑がかかるからやめておこう。」と理性的な部分がそれを止める。

 逆に、「もっと体を鍛えるために追い込むぞ!」と理性的に思っても、「これ以上は体が壊れる」と野性的な部分がそれを止める。


 だがレオは、幼い頃から野性的な部分を封印し、理性的な思考による戦い方をしてきた。

 相手の全てを観察し、見たものだけを信じ、相手に合わせて防ぎ、攻撃する。

 それが間違いだとは言えないが、野性的な自分に任せれば、反射的に防げるほどの経験をしているのにも関わらず、それをしないとのは無駄だとヴィデレは言いたいのだ。


「小僧、今までの人生で、一番調子がいい時はどんな時だった?」

「初めて戦争に参加した時…それから、入学式の時だな。」

「その二つに共通しているのは?」

「……口調がいつもと変わることだな。他は何も変わらん。」

「それが小僧が無意識に野性を解放した瞬間なのだろうよ」


 入学式の時にレオが見せた、いつもの淡々とした抑揚の少ない声とは違う、好戦的で、感情的な声。

 それは今まで抑えてきた野性的な部分が表に出た反動だと、ヴィデレは考えている。


「生まれてからずっと抑えてきた感情だ。ずっと理性的な考えをしてきた小僧には、別人格のように感じるんじゃないか?」

「確かに、口調が荒々しくなった時、俺は別の視点から自分を見ている感覚だった。」

「それは野性的な部分を解放しすぎたせいだな。もっと、理性的な部分で手綱が引けるくらいが丁度いいだろう。」

「ふむ…。と言っても、何をすればいい?」


 いきなり、野性を解放しろと言われても出来る人間などいない。

 レオがどれだけビックリ超人天才人間でも、ずっと切り離していた感情を探るなど無理だ。

 レオも自身も、困った顔を浮かべている。


「簡単な話だ。もっと野性的な部分の声に耳を傾ければいいんだ。まず小僧は働きすぎだ。休むことから始めろ」


 そう言ってレオから剣を奪い取るヴィデレ。


「あ、おい!」

「休養も大事だぞ?」


 文句を言おうとしたレオの背中をヴィデレは、蹴っ飛ばして訓練場から追い出す。


 こうしてレオは、休養をしている時の暇な時間にルルアにあったという訳だ。



「何でだろうね、痛くないんだ!」


 レオの膝をモロに顔に食らったナーブスだったが、体に雷を迸らせながら、レオに向かって拳を振るう。


「お前の頭が遠の昔にイカれたからだろうよ!」


 レオは、その拳を剣の腹で軽くいなすと、そのまま柄を手の中で回転させて、ナーブスの足の甲に剣を突き刺す。 


「俺を忘れるなよ!」


 白金色のオーラを纏ったカーリが、ナーブスの背後を取り、その背中に一閃。

 深い傷跡がナーブスに刻まれる。


「か、いかっっっっっん!!!!あはっ、あはは!!!」

「よけろド平民!」

「あぶっ…」


 痛みを感じた様子の無いナーブスは、突き刺さったレオの剣を、自分の足を犠牲に無理矢理引きはがす。

 その足で、そのままカーリの横顔に回し蹴りを放つ。

 カーリは、ブリッジをするように腰を後ろに曲げてそれをかわす。


「フッ…!」


 レオは、剣を使っても、隙は作れないと感じ、ナーブスの足首に水平蹴りを入れる。

 ナーブスは、カーリに回し蹴りをしたことで、片足立ちになっていたため、足首を蹴られたことで大きく体勢を崩す。


「五!」


 カーリが、体制を崩したナーブスの首を掻き斬る。

 命のストックを減らしたことで、ナーブスの体から痛々しい傷跡が跡形もなく消える。


「また殺されちゃった…あはっ!」

「レオ!」

「チッ、小賢しい!」


 薄暗い部屋の中、足元には大量の血が溜まり、少しでも気を抜けば足を取られる。

 だが、足元ばかりに気を取られていては、ナーブスの拳や蹴りがすかさず飛んでくる。

 痛みを感じず、常に攻撃してくる人間兵器(ナーブス)。殺気や威圧での精神的な攻撃は、今のナーブスに通じないため、本当に機械仕掛け(オートマタ)と戦っている感覚だ。


「もっと!もっと!もっともっともっともっともっともっと僕に快感を!快感を僕に!快感!快感!!」

「聞き飽きたんだよクソッタレ!」


 ぶつかり合う(けん)(けん)

 まるで三人でダンスを踊るように立ち位置を変え、攻撃を放ち、攻撃を受け、互いの命を削り合う。


 次々と復活するナーブスに比べ、レオとカーリの体は怪我が徐々に増えていく。

 細かい傷は、すぐさま【ヒール】で回復できるが、レオの肋骨は既に数本折れ、呼吸をする度に肺が圧迫されて痛む。

 カーリも、白金色のオーラを纏っているとはいえ、普段よりも何倍のスピードで体を酷使しているため、動く度にミシミシと骨が悲鳴をあげる。


「四…!」


 最初に展開しておいた魔術が布石となり、隙を作ることで、ナーブスの命をまた一つ奪い取るレオとカーリ。


「はぁ…はぁ……」

「思ったよりも面倒だな」

「また最初からあの快感を味わえるだなんて!僕は幸せ者だなぁ…!!」


 息を切らし、苦痛の表情を浮かべるレオとカーリに対して、恍惚とした表情で自分の体を抱きしめて未だ体に残る快感の余韻に浸るナーブス。


(こんな密室じゃ【雷同連爆】のような高火力の範囲攻撃はできない。かと言って、このまま続けても後二つくらいは削れるだろうが、ド平民の体がもたない。俺の体も、【ギアス】の乱用で既に限界だ。)


 レオは、戦闘を野性的な部分にほとんど丸投げし、理性的な部分で場の状況を的確に把握していく。


「【拡散する衝撃のナム・インパルス】」


 未だに、自分の世界に入ったままのナーブスに、レオは、殺傷能力は低いが、確実性の高い拡散性の微弱な雷でナーブスの体を一時的に麻痺させる。


「ド平民!」

「おう!」


 レオとカーリは同時攻撃をナーブスに仕掛ける。

 レオは魔術陣を足場に、ナーブスの頭上から首めがけて剣を振り下ろす。

 カーリは、レオに攻撃のタイミングを合わせて、アキレス腱を剣で傷つける。


「押し込め!」

「ああああああああ!!!」

「ぅう…」


 未だに体の自由が奪われ、傷ついたナーブスに、レオとカーリは、追撃を加える。


「三!」


(連続で、削れたのは大きい。このまま押し切る!)


 ナーブスの体に刻まれた傷が再生しているのを見ながらレオは、自分達の勝機が濃厚になってきたのを感じ、最後とばかりに自分の体にムチを入れる。


 カーリも同じく、レオの顔つきが変わったのを見て、悲鳴をあげ、軋む体をもうひと踏ん張りだと自分に言い聞かせ、酷使する。


「【静地】」

「【加速】!【加速】!【加速】!!」

「………」


 部屋の真ん中で、佇むナーブスの周りをチャンスの時を模索しながら、レオとカーリは徐々に離れた距離を縮めていく。


「………」


(動く気配が無い…?何か罠を…いや、考えている余裕は無い。一気に攻める!)


「やる気が無ぇならとっとと退場しな!」

「はぁ!!」


 カーリが、【加速】を使って、ナーブスの横を通り過ぎる際に腕を切り裂く。


 レオも、ここがチャンスとばかりにナーブスの胸に剣を突き刺す。


「これであと二!…なっ!?」


 何も抵抗しなくなったナーブスに対して、勝利を確信したレオだったが、レオの口から驚きの声が漏れる。

 ストックを四に減らしてから、まるで喋らず、動かなくなったナーブスが、レオの剣を素手で掴んだからだ。

 レオは、剣を強引に引き抜こうとするが、ナーブスの怪力に剣は、ナーブスの体に刺さったままピクリとも動かない。


 本来なら、レオはここで剣を離していたのだろう。

 だが、勝利を焦った事により、野性を解放しすぎたため、野性の手綱を握るのが難しくなっていた。


「うぐっ…」


 一瞬遅れた反応。

 ナーブスの、頭突きがレオの額に炸裂する。

 額が割れ、レオの顔から地面へと血が滴る。

 レオは、脳が揺られ、体も限界になっていたこともあり、膝から地面へと額を抑えながら崩れる。


「……」


 レオは、自分を上から見下ろすナーブスに視線を移す。

 目の焦点はどこかへ飛んでおり、顔からは生気を感じることはできず、笑っていないのにも関わらず、表情筋が壊れているのか、口角がヒクヒクと動いている。


「………いひっ」


 ナーブスは、自分を見つめるレオの肩へ踵落としを放つ。


「【加速】…危ないレオ!」


 間一髪のところでカーリが、レオにタックルする形で、ナーブスの踵を回避する。


「あとニ…だが、壁は厳しいな。」


 ギアスを三つまで戻し、【野性解放】をやめたレオ。

 体が悲鳴をあげ、今のレオではこの状況で魔闘気を保つことは出来ず、既にガス欠状態だ。


 カーリも、今の【加速】で、遂に体に限界が訪れ、オーラを解除している。


「…あはっ…」


 白目を向きながら、微かに笑みを零すナーブス。


 絶望的な状況の、レオとカーリ。


「万事休すか…。」

「流石に出し切ったな」


 弱音を吐きながらも、フラフラと立ちがあり、剣を構える二人。



 自分達の勝利を迷いなく信じる四つの瞳。




 まだ心は折れてはいない。





二部完結まであと一話!

そろそろストックがやばくなってきた作者は、寝る間も惜しんで書いてます!

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