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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第二章 覚悟
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episode26 卵焼き

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー等いただけると幸いです。

「戻った。」

「お帰りなさいレオ様…あれ?」

「なんだ、どうかしたのか?」

「いえ、制服が乱れていたので……」


 レオの顔をじっと見つめ、思いつめたように顔が強ばっているレオを心配するシムル。

 レナとの一件の後、寄宿へと戻ったレオを包丁片手にいつも通りの可愛らしいメイド服で出迎えたシムルが、不思議そうに小首をかしげる。

 レナに傷つけられた制服や、返り血などは自分で縫ったり洗ったりと誤魔化したつもりだったレオだったが、シムルには一発で見透かされたようだ。


「いや、何も無い。」

「それならいいんですが…でも…」

「飯はできてるか?」

「あっ!」


 細かなレオの変化を見つけたのか、遠慮がちに心配するシムル。

 レオの言葉に、料理中だったのを思い出したのか慌てて中へと戻るシムルにホッと胸を撫で下ろすレオ。


「先に風呂でも入るか…。」



「ふぅ……。」


 ヒカルの伝えた文化が浸透しているこの世界では、湯に浸かる習慣が存在する。

 基本的に水浴びが主流だが、最近はレオも温かい湯に浸かるのがマイブームだ。

 一日の疲れを癒すように、大人でも余裕のある浴槽に足を伸ばし、タオルを顔を被せて一息するレオ。


「……。」


 ボーッとタオルから透ける天井を見つめるレオ。

 視界の中が真っ白だが、頭の中はゴチャゴチャだ。


「あれくらい言わないと、あいつも引かないだろうからな。」


 レオは、カーリに辛辣な言葉を浴びせた事を思い出し、自分に言い聞かせるように呟く。


「俺は間違ってはない。ただの価値観の違いなのだから。」


 レオは顔にのせたタオルを剥ぎ取り、湯気の立ち込める浴室で、自分好みの少し熱めな湯加減を全身で感じ、香ばしく焼ける卵焼きの匂いが鼻腔をくすぐる。


「こんな時に、何故かどうでもいいことが気になる。」


 普段、湯の温度など気にしない。

 食事の匂いなども気にしたことは無い。


「こんな所にもか。」


 レオは浴室を出て、タオルを取り出すと綺麗に折りたたまれ、穂のかに柑橘系の匂いが香るバスタオルを手に取る。


 履きやすいように順番に上から置いてある着替え。


 床が濡れないようにと、いつのまにか敷かれている大きなタオル。


 埃一つ無い清潔な部屋。


「余計な事が気になって仕方ないな。」


 レオは早々に脱衣場を出ると、首にタオルをかけながら呟く。


「食事できてますよ」

「ああ。」

「今日は卵焼き尽くしです!」


 脱衣場から戻ったレオをシムルが笑顔で出迎えて、食卓に乗った料理をレオに披露する。

 卵焼きのせ丼、卵焼き入りスープ、卵焼き、卵焼きの薄切りサラダ、卵焼きのムニエル、卵焼き、卵焼きのステーキ、卵焼き、卵焼きのおひたし、卵焼き、卵焼き。

 と、卵焼き尽くしの食卓を見てレオも若干引き気味だが、シムルの得意気な表情に少し笑みがこぼれる。


「……えいっ」


 可愛らしい声と共に、レオのおでこのあたりにシムルの手がべチッとのせられる。


「なんのつもりだ?」

「ニーツ様が、自分のいない間にレオ様が元気を無くした時、こうしろと言われましたので」


 よしよしとレオのおでこのあたりを撫でるシムル。本当なら頭を撫でるつもりだったが、背伸びしてもおでこがやっとだった。


 ちなみに、ニーツとロゼは昨日から山篭りすると言って出て行ってしまった。


「話したくないなら話さなくても大丈夫です。でも、笑顔は崩しちゃだめですよ?辛い時ほど無理矢理笑顔を浮かべると心も笑顔になるってお母さんが言ってましたから」

「むっ…」


 そう言って、レオの口角を両の人差し指を上げて、無理矢理笑顔を作らせるシムル。


「えへへ」


 レオの不器用な笑顔を見て、天使のような笑顔を浮かべるシムル。


「フッ…確かにそうかもな。…夕飯を頂こうか。今日は貴様も俺と一緒に食え。今日は二人で食べた方が飯が旨そうだ。」

「えっ…このレオ様しか食べれないような卵焼き尽くしを私も…?」

「貴様、俺をそんな目で見てたのか。」

「い、いえ!そんなことは…!」

「罰として半分食え。そしたら許してやる。」

「そんなぁ……」


 意地悪をする小さな子のような顔浮かべてレオはシムルを席に付かせる。

 未だに「死なないかなぁ…」と呟いているシムルを見て、レオは今日一番の笑顔を見せた。



 一週間後。


「また休養か。」

「休むのも大事だぞ。小僧は自分を酷使しすぎだ。」

「だが…」

「強制的に眠りたいか?」

「……チッ。」


 休めと言われてごねるレオに、鎖をジャラジャラと見せつけて脅すヴィデレ。

 数秒の沈黙の後、無理矢理納得した形でレオは踵を返して訓練場を後にする。


「働きすぎの【理性】を休ませるのも楽じゃないな」


 意固地なレオを見てヴィデレは、薄く笑って呟いた。



「【結界(オービスン)】」

「ヒールはもういいのか?」


 レオとルルアが出会ってから約一週間。

 レオは毎日ルルアの元へ足を運んでいた。

 気まぐれ的な部分が大きいが、毎日早朝から【救護科】の訓練が始まるまで修練しているルルアに好感的な印象を持っていたというのもある。


「うん、ちょうど昨日終わったの。レオくんのおかげでね」

「そうか。」


 心から嬉しそうに笑顔を浮かべるルルアに、レオも小さく笑顔を浮かべる。


「んー?レオくん何か思いつめた顔してるねー?」

「気のせいだろ?」


 レオの顔を不思議そうに覗き込むルルア。

 パッチリとした深い茶色の瞳が、レオをジッと見つめている。


「この頼れるルルアちゃんに話してごらん?」

「はぁ…ルルアは何故いつも人の心に土足で踏み込むんだ。」

「にゃはは、こうしないとレオくんは何にも話してくれないからさ」


 そう呟いて、木陰に腰を降ろすルルア。ポンポンと数回自分の隣を叩いて、レオにこっちに来いと誘導する。

 レオも致し方ないといった顔で、ルルアの言う通りに隣に腰を降ろす。


 二人はまるで長年の友人のようにお互いを信頼しているように見える。

 四日ほど前にレオが気まぐれで、「全員に堅苦しい言葉を使われては気が滅入る。貴様は普通にしていろ。」と言ったことが要因となり、ルルアも最初はぎこちなかったものの暫く話していると慣れたのか、元々の性格なのか、堅物のレオを手懐けて見せた。


 レオにとって、カーリはライバル。ロゼは守りたい相手、ヒカルは憎い、ヴィデレは師匠、シムルは面倒のかかる妹のようで、ニーツは姉のような存在だったため、ルルアがなんだかんだで初めての友達らしい友達と言える。

 最初は距離感に戸惑っていたレオも、今ではすっかり慣れ、心を開いている。



「そっか~、カーリくんと喧嘩したのか~」

「喧嘩じゃない。」

「もう、意地はらないの」


 レオから全部話を聞いたルルアは、困ったように笑うと、一向に喧嘩を認めないレオの頬を人差し指でつつく。


「むっ…意地などはってない。」

「はいはい、わかりましたよ~」


 不機嫌そうなレオをのらりくらりと受け流すルルア。完全にレオの扱いに慣れている。


「多分全部それって思いやりなんだと思うよ」

「思いやり?」

「そ。レオくんがカーリくんに言った言葉も思いやり。シムルちゃんがレオくんのためにしていることも全部思いやり。ニーツさんがシムルちゃんにレオくんの事をお願いしたのも思いやり。私がレオくんの話をこうやって聞いてるのも思いやりかな?」

「思いやり…。」

「あ、思いやりって言うのは相手の事を考えて行動するって意味でね」

「それくらい理解している。馬鹿にするな。」

「えー、レオくんが思いやりなんて使ってるの想像すると…ふふっ…」

「ふん…。」

「ごめんごめん、冗談だって!」


 レオが思いやりを持つ事を想像して笑いをこらえきれなくなったルルアをレオが拗ねた様子を見て慌てて手を合わせて謝る。


「本当に反省しているのか?」

「もちもち!」

「三日以内に【結界】をマスターしたら考えてやる。」

「そんなの無理だよ!レオくんの鬼!悪魔!」

「何とでも言うがいい。」

「む~…」


 反撃とばかりにルルアに無茶難題をふっかけるレオ、次はルルアが少し怒った様子でレオの頭をポカポカ叩いている。

 だが、二人共どこか浮ついていて、楽しそうだ。


「あ、そろそろ行かないと」

「もうそんな時間か。」

「レオくんといると時間が経つのが早く感じるよ、また明日ね~!」


 ルルアは立ち上がって、スカートを数回叩いて土を落とすと、手を振って校舎に向かって走り出す。

 レオはそれに軽く手を挙げて返すと、上を見上げる。


「思いやりか…。そんなこと考えたことも無かったな。」


 レオは目を瞑り、ルルアに言われたことをゆっくりと振り返る。


「確かにアイツには覚悟が足らなかった。それは事実だが、それでアイツとの縁が切れる訳でも無いしな。次会った時にでも模擬戦誘ってやるか…。」


 レオはそのまま地面に寝転がると、四肢を大の字に広げ、風に揺られて葉が揺れる音や、遠くから聞こえる楽しげなリベリオンの仲間の声を耳にしながら少しの間眠ることにした。


「あぁ、それと…」



「あれ?灯りがついてる…」


 昼過ぎ。

 シムルが学園街で買い物を済ましてレオの部屋に戻ると、何故か灯りが点いていた。


「レオ様~?お戻りになられたんですか~?」


 シムルは玄関を抜け、リビングである部屋まで重い買い物袋を両手で持って、中を確認する。


「置き手紙?それに卵焼き…?」


 リビングに入ると、机の上には何故かまだほのかに温かい卵焼きが一つと、置き手紙が残されていた。


「なんだろう……」


 シムルが頭にハテナを浮かべながら、置き手紙を手に取ると…


「…不器用な人だなぁ」


 『食え』と簡潔に二文字だけが書かれていた。


 シムルはその置き手紙を大事そうに胸に抱えると、嬉しそうに笑う。

 置き手紙には、何回も書き直した筆跡が残っており、「ありがとう。いや、俺らしくないな。感謝する…礼を言うには些か高圧的か?だが…」などと頭を掻きながら、悩むレオの姿がシムル目に浮かぶ。

 最終的に一番、感謝から遠いことになったが、レオにとって最大限の事なんだろう。


「いただきます」


 シムルは椅子に座り、卵焼きを口いっぱいに頬張る。

 

「これ、人が食べるものじゃない…」


 シムルは最後にそう言い残して机に顔を突っ伏したという。

 後日、シムルからレオに料理禁止命令が出たのは言うまでもない。

レオきゅんが、一番のヒロイン。

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