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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第二章 覚悟
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episode25 亀裂

誤字脱字報告、ブックマーク、レビュー、感想等頂けると幸いです。

「レオォォォォォ!!!!!」


 レナの髪がレオ目掛けて振り下ろされる。

 レオの背中を貫く短剣。


「がはっ…!!」


 レオの体から魔闘気が消え、力無く崩れ落ちる。

 レオの背中から溢れ出す多くの血。

 返り血を顔に浴びて不気味に微笑むレナ。


「レオ!レオ!!」

「殺してはいません。連れていかないといけないので。」

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 剣を強く握り、叫ぶカーリ。瞳には大粒の涙が溜まっている。

 カーリの叫びに反応するように纏っている金色のオーラが目を瞑りたくなるほど強い光を放つ。


「っ…!?」


 カーリの体がゆらりと、体を纏う金色のオーラのように揺れると、その姿が掻き消える。

 それを見たレナの鋭く尖った目が初めて大きく開かれる。


「ありえません。レナが目で追えないなんて…!」


 風切り音だけを残してレナの髪が宙を舞う。

 カランカランと音をたて、一本の短剣が地面で跳ねる。


「想定外です。貴方のような平民がいるとは。」


 次々に自分を襲う剣に、レナは九本の短剣を振り回し、カーリを寄せ付けないようにする。


「ですが、捉えました!」

「【加速(アッケレラーティオ)】」


 レナの耳に小さく聞こえた魔術詠唱。

 視界に捉えたはずのカーリが更にその姿を更に加速させる。


 【加速】。『自強化』属性に含まれるヒカル考案の金色のオーラを利用したオリジナルの魔術。

 金色のオーラを足の裏に多く集中させることで、爆発的な加速力を生むことができる魔術だ。

 足だけでなく、他の部位にも応用が効くため、かなり重宝することになる魔術になるだろう。


「【加速】【加速】【加速】【加速】【加速】」


 カーリは続けて【加速】を発動させ、レナの周りを縦横無尽に駆動する。


「これは…防戦一方になりますね。」


 これまで変わらなかったレナの表情が、苦虫を噛み潰したように歪む。

 レナは、必死に九本の短剣で、カーリの猛攻を辛うじて防いでいるものの、時間の問題だろう。

 レナの機械仕掛で出来た義眼が、カーリの動きを捉えられない以上、反撃の一手を打つことはできない。


「よくやったド平民。」


 金色のオーラで強化された動体視力でカーリは今起きた光景を全てを見ていた。


 レナの背後からから急に姿を表し、レナ目掛けて剣を突き出したレオ。


 レナの胸から突き出る血で染まったレオの剣。


 自分の胸あたりから突き出た剣を見ながら小さく吐血するレナ。


「かはっ…」

「必用に胸あたりの攻撃を嫌がったのが、悪手だったな。核が潰れた貴様など、ただの木偶人形だ。」


 レオの剣先には、拳大の透明な水晶玉のようなものが刺さっている。

 これは、レナの体を動かすにあたって必用なエンジンのような役割を持つ大事なもので、レナは、レオやカーリとの戦闘の中、胸への攻撃を嫌ったため、レオに核の場所がバレてしまったのだ。


 地面に膝をつき、手についた血を見つめるレナ。


「終わりだ。」



 レオは、強引にレナの背中から剣を抜く。そして再び、地で染まった剣を振るう。


 宙を舞うレナの首。


 風に煽られ、落ちてくる新緑の葉と共にゆっくりとレナの首が地面に転がる。


ヒカル(あいつ)の分身を見て、【身代わり(デコイ)】を改良したのが正解だったな。」


 レオは、剣を空振りして刃についた血を飛ばすと、鞘に剣を戻す。

 レオは、ヒカルの分身体の構造を分析し、消費する魔力はかなり大きいが、実体にほとんど近い【身代わり】を作ることに成功していた。


「貴様が注意を引き付けたからできたことだ。誇っていいぞ。」

「なんでだよ…」

「なんの事だ。」

「なんで殺したんだよ!仮とはいえ、妹だったんだろ!」


 カーリは、握っていた剣を後ろに放り投げると、レオのレナの血で染まった胸ぐらをつかみあげる。


「だからどうした。」

「え…?」

「こいつをここで殺さない理由がないだろう?」


 レオの言葉を聞いて呆気に取られるカーリ。

 手は小刻みに震え、更に強くレオの胸ぐらを強く締め上げる。


「こいつを生かしておけば、後々面倒なことになる。厄介事になる前に始末できて幸運だった。敵の戦力は少なければ少ないほどいい。」


 淡々と事実だけを告げるレオ。

 その瞳は揺らぐことなく、いつも通り瑠璃色に美しくカーリの瞳を見つめている。


「俺には…俺にはわからないよ、レオ…家族ってそういう風に命を奪ったりするもんじゃないだろ?家族ってもっと大切なもんじゃないのか?俺が間違ってるのかな…」

「さぁな。前にも言ったが身分の差は価値観の差と同じだ。俺にとってはこれが当たり前だ。それに、今はそんな『家族』や『友情』を優先できるほど余裕は無い。」

「……」

「正直言えば、貴様が俺と共にリベリオンとして活動すると聞いて、嬉しくはあった。だが、貴様のために言っておこう。」


 段々と力無くレオの胸ぐらを掴む拳を掴んで、レオは一言…


「命を奪う覚悟が無いなら、貴様はここでリベリオンをやめろ。貴様の覚悟は口先だけだ。」


 辛辣にそう言い放つと、カーリの手を振り払い、制服を正すと、踵を返して寄宿の方へと歩いていく。


「なんで…俺はただ…」


 顔をクシャクシャに歪め、目に大粒の涙を浮かべるカーリ。

 力無く膝から崩れ落ち、地面に拳を打ち込む。


「なんでなんだよ…」


 入学式でレオがした決意。

 経った鐘一つだけの時間だったが、レオの頭の中では多くの考えと想いが去来した。

 『守りたいと思ったものだけを守る』

 今のレオは、ロゼをきっかけにこれから守りたいものを増えていくだろう。

 だがそれは同時に、多くの者を敵に回すことになる。それが王国なら尚更だ。

 この世界は争いが絶えることの無い『命』の価値が低い世界だ。

 この世界で敵に回すということは、自分か相手の『命』が絶たれるのと同義に近い。

 敵を見逃せば後から何が起こるかわからない。

 躊躇ったら自分が死ぬ。

 家族だろうと、友人だろうと、愛する恋人だろうと、今レオが立たされている状況はそういう状況なのだ。


 カーリが学園長室で誓った、レオと一緒に戦う覚悟は、あまりにも無計画で、無頓着で、甘すぎたものだった。

 カーリは人の命を奪ったことは無い。カーリもいずれ奪うとは分かっていても、どこか実感の無いことに達観していた。

 奪うこと自体、日常生活では有り得ない事だ。

 カーリが特別なのではなく、兵士にならない限りそれが普通だ。


 幼少期から命を奪い、命を守り、命が消えるのを見てきたレオとカーリでは根本的な価値観が違う。

 

 カーリはひたすらに、レナの命を何のためらいもなく奪ったレオに対して怒りと恐れを覚えていた。


友人に、レオのイラストを描いてもらいました。

活動報告の方に載せてあるので、是非見てください!

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