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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第二章 覚悟
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episode24 レイナス=フィエルダー

誤字脱字報告、ブックマーク、レビュー、感想等頂けると幸いです。


「あれ、レオ?」

「なんだド平民か。」

「修行は?」

「ヴィデレが今日は用事があるとかでな。これから自主練に行くところだ。」

「俺の師匠も学園長先生とどこか出掛けたから、俺も今日は自主練の予定だったんだけど…久しぶりに模擬戦でもどうだ?」

「フッ…それだけ言うのなら自信はあるのだろうな?」

「当たり前だろ?」


 第八訓練場へ向かう途中、レオとカーリは偶然顔を合わせ、久しぶりに模擬戦をしようという話になった。

 お互い、自分がどれだけ強くなったかを手頃な相手で試したいらしく、カーリとレオはかなり好戦的だ。


「ん…?」

「どうした?」


 互いに修行の内容や、最近身近で起きたことなどを話しながら、第八訓練場への道を歩いていると、カーリが何やら校門から続く道の奥を見つめて立ち止まった。


「いや、あの子見たことない顔だな~っと」

「…っ!ド平民、今すぐ抜剣しろ!」

「なんだよ、こんなところに女の子一人で乗り込んで来るわけないだろ?」

「それが現実であるから焦っているんだ!早くしろ!」


 カーリがじっと見つめる方をレオが向いた瞬間、レオは人が変わったかのように焦った様子でカーリに戦闘態勢に入るように指示する。


「そうですよ、レイオス兄様。」

「…!?」


 レオに似て、抑揚のない淡々とした声音の少女の声がカーリとレオの耳に届く。

 まだ顔が見えるか見えないかの距離。だが何故か、耳元で囁かれたかのように、ゆっくりと歩く少女の声らしきものが確かに聞こえる。


「【ギアス】【魔闘気】」

「おい、レオ!あの子、お前の事を兄様って!」

「あと三歩。あと三歩であいつの間合いだ。早くしろ、ド平民…!」


 ギアスを早くも三つ解放し、魔闘気を身に纏うレオ。既に抜剣しており、剣には魔術的付与が付けられている。

 状況を飲み込めず、自分の見たことの無い力を使うレオにすら反応できていないカーリ。


「どうして貴様がここにいる。検問があったはずだ。」

「レイオス兄様の妹だと言ったら通してくれました。今一度、警備を見直した方がいいですよ?それとレナは、お爺様の命令でレイオス兄様を連れ戻しに来ただけです。」

「今すぐ帰れ。」

「嫌です。なので力尽くでいかせてもらいます。」

「ド平民!」


 レオの宣言通り、レナと名乗る少女が三歩、歩みを進めた瞬間、レナが腕を振るう。

 レオは、隣で未だに自分と、レナを交互に見つめているカーリを勢いよく押し倒す。


「っぅ…」

「レオ!」

「問題ない。利き腕は避けた。」


 苦痛の声を漏らすレオ。

 レオの左腕は深く斬り傷が刻まれており、血が次々と溢れ出る。


「いいから剣を抜け。次が来るぞ。」

「お、おう!」


 自分が攻撃され、ようやく状況をある程度飲み飲んだカーリ。素早く抜剣すると、未だ距離がかなり離れたレナに向かって剣を向け、金色のオーラを身に纏う。


「まずは距離を詰める。この間合いじゃ不利だ。」

「分かった!」

「あいつの一挙一動に注意しろ。次が来るぞ…!」


 二人同時に、なるべく姿勢を低く保ちながら駆け出すレオとカーリ。

 二人の行動に合わせて、再びレナが腕を振るう。


「避けろ!」


 レオの忠告で、その場から横っ飛びして攻撃を避けるレオとカーリ。

 カーリが後ろを振り返ると、舗装された道には、深々と斬撃の跡が残されている。


「前だけ見ていろ!本気を出すぞ!」

「【ギアス】」


 レナがレオと同じく【ギアス】を発動させると、五枚の魔術陣のうち、二枚を砕く。


「なぁレオ!あの子ってやっぱり!」

「今はそんな事を気にしている場合じゃない!何も考えずにひたすら走れ!」


 【ギアス】を解放したレナは、金色のオーラを纏ったカーリの目でも、ギリギリ目で追えるか追えないかの速度で、次々とレナの腕が振るわれる。


「チッ…。厄介極まりない!だが、ここからは俺の間合いだ!」

「俺達だけどな!」


 ようやくカーリは、レナの全身像を目で捉える。

 レオと同じ艶のある黒色の髪を腰まで伸ばし、ハイライトの薄い、つり上がった瑠璃色の瞳に整った容姿。

 フリフリの多めな黒ゴシックワンピースに身を纏い、腰には二振りの短剣が帯剣されている。

 そして何よりも、門外不出の固有魔術である【ギアス】を使っている。どこからどう見てもレオと兄妹と判断できる風貌に、カーリは攻撃の手を一瞬止めるも、レナに剣を振るう。


「遅い。」

「貴様もな。」


 レナはカーリの剣を悠々と躱しながら、まるで獣が鉤爪で攻撃するように二本の短剣でカーリに攻撃するも、レオがレナとカーリの間に入り、自らの剣でレナの短剣の受け止める。

 レナの攻撃を受け止めたレオはす、かさず初級魔術を無詠唱で唱え、死角からレナに攻撃するが魔力を感知されてレナに反魔術で防がれる。


「くっ…!」


 お互いに浅い傷を作りながら高速戦闘を続ける三人。

 (まばた)きをすれば致命傷を受ける。

 一瞬でも集中を切らせば殺される。

 極限の命のやり取りの中で、三人は更に剣戟のスピードを上げる。


「チッ…!」


 中々決定打の決まらない戦いにレオは舌打ちをする。


「はぁぁぁぁ!!!」


 レオとカーリが同時にが振るった剣を、レナがそれぞれの攻撃を短剣で受け止めるが、カーリが、レナの腹に蹴りを打ち込むことで三人の距離が開く。


「レオ!傷は大丈夫か!?」

「問題ない。大分回復している。」

「ですが、本当に問題ありませんか?【ギアス】」


 レナが再び【ギアス】を発動すると、もう一枚、魔術陣を砕く。


「問題ない。俺の言葉に虚言は存在しない。【ギアス】。」


 レナに対抗するように、レオも四枚目の魔術陣を砕く。

 二人の体から黒い靄が立ち昇り、互いを睨み合う。


「レイオス兄様は、何故家に帰ることを拒むのです?」

「俺は既に死んだ人間だ。フィエルダー家とは関係無いし、今じゃ貴様ら貴族は、リベリオンの敵だ。敵の家にわざわざ入るような奴がいる訳がないだろう。」

「そうですか、レナはとても寂しいです。例え弱くてもレイオス兄様はレナの兄様ですから。」

「ハッ、貴様に寂しいという感情なんて存在するのか。」

「もちろん。最近、人間の感情的な部分を補う回路をインストールしました。」

「薄気味悪い化け物が。」

「レイオス兄様もさほど変わらないでしょう。」


 互いに牽制を交えながら、相手の腹の中を探る二人。

 話の途中でそれぞれへの嫌味を忘れないあたり、よく似ていると言える。


「なぁレオ、あの子って本当にレオの妹なのか?」

「…妹ということになる。」

「?」


 含みのある言い方をするレオに小首をかしげるカーリ。

 だが、レオの言ったことは間違いではない。


 レナと名乗った少女の本名はレイナス=フィエルダー。

 レオの祖父にあたるレドウス=フィエルダーに、レオの父であるレクサスの血を使って作られた【人造人間(ホムンクルス)】。

 レクサスの血を引いているため、レオから見たら妹ということになるが、人間ではないため妹と呼んでいいかは曖昧だ。

 そして、ただの人造人間ではない。体の四肢を始め、一部の器官が機械仕掛になっている。

 フィエルダー家特有の自分の潜在能力を全て引き出す特性と、人間では不可能に近いとてつもない力を出すことが出来る機械仕掛を応用したハイブリッド。

 レオは、レドウスに付き合わされレナと何度も剣を交えたが、ただの一度も(・・・・・・)勝利していない《・・・・・・・》。 


「男子三日会わざれば刮目して見よ。三日あれば、人は変われるし、更に強くなれる。俺と貴様が最後に剣を交えてから何日経ったと思う?」

「正確には四百三十二日と七時間ぐらいでしょうか。」

「なら今の俺はあの頃の俺よりも、百四十四回以上強くなった。俺に負ける要素は無い。」


 レオの戦闘に関しての無茶苦茶理論に、あのカーリですら引き気味だ。


「…上下関係を分からせてあげます。」

「それはこっちの台詞だ。」


 その言葉を最後に、レオとレナ。そしてカーリの三人が再び動き出す。

 レオの左腕も随時発動していた回復魔術により、大分回復したようで、これまで片手だった剣を両手で握っている。


「ド平民、上下だ。」

「おう!」


 カーリが先行してレナの肩あたりを一閃。鋭い横薙ぎがレナを襲う。

 そして同タイミングに、レオの限界まで姿勢を低くし、レナの踝あたりを狙ってカーリとは逆方向へ横薙ぎを繰り出す。


「「なっ!?」」


 二人の驚きの声が重なる。

 カーリの横薙ぎは、見事にレナに受け止められ、レオの横薙ぎも、レナに剣の腹を踏まれて途中で止まってしまう。


「剣を手放せ!」


 レオの迅速な判断で、カーリとレオは持っていた剣を手放してレナとの距離を取る。

 刹那、先程までいたレオとカーリの頭の位置に斬撃が飛ぶ。


「な、なんだあれ」

「薄気味悪いな。」


 レオとカーリが見たのは、レナの長い艶のある黒髪が自立して動いているなんとも気味の悪い光景だった。

 風で(なび)いている様な自然な動きではない。禍々しく、それでいて触手の様に大きくうねっており、その毛先で掴まれた八本の短剣。それはレナが両手に持っている短剣と同じものだった。


「──────」


 レナの髪をじっと見つめるカーリとレオ。

 一時の静寂が刹那、終わりを迎える。


 同時に振るわれる十本の短剣による斬撃の嵐。


「くっ…ここは一旦離れて!」

「逆だ!離れれば、俺達が不利になるぞ!」


 飛んでくる音速を超える斬撃を、予備で持っていた剣で受け止めるレオとカーリ。

 だが、先程よりも何倍も激しい猛攻に二人は耐えるのがやっとで、ジリジリと押され始める。


「【雷の障壁】」


 レオが一瞬で、目の前に雷の障壁を広げるも、すぐに大量の斬撃により破壊される。


「だが、充分だ。」


 【静地】により、レナの不意を付いて後ろに回り込むレオ。


(今日はいつもより調子がいい。)


 レオは内心で今日の自分のコンディションが高いこと、そしていつもより体が軽く、頭がクリアに動くことを実感していた。


(腕の回復に一割。魔術に二割。あいつの行動に二割。剣術に五割。まるで俺という存在を四人で別々に操っているようだ。)


「【雷同鳥剣貫らいどうちょうけんかん】」


 レナの背中に大量に小さく連なった魔術陣を刻み、その魔術陣の中心を剣で貫く。

 どういう原理か分からないが、レナの短剣を操っているためか、レオの剣は髪を貫くことは無かった。だが、魔術はきちんと発動しており、レナの体を雷が迸り、雷鳥がレナの腹から飛び出す。

 雷の衝撃でその身を仰け反らせ、膝から崩れ落ちるレナ。


「まだだ。雷鳥よ……【雷同連爆】」


 隙を逃すほどレオは甘くない。

 雷鳥がその数を一瞬にして何百倍にも数を増やすと、雷鳥の背中に魔術陣が出現する。

 いつかヴィデレとの戦いで使ったように一匹の雷鳥をレオが斬ると、連鎖的に大爆発を起こす。


「うおっ!?」

「怯むな。追撃だ。」


 レオの大連鎖爆発に驚くカーリだったが、レオの言葉を信じ、未だに爆発を大きく繰り返す爆炎の中に二人で突っ込んでいく。


「気配が消えた…!?」

「どこだ!」


 二人で突っ込んだものの、爆煙の中にレナの姿はおらず、先程まであった禍々しい気配はどこにも感じられなかった。


「疾ッ!」

「あぶっ…!」


 唐突に上から降り注ぐ短剣の連続刺突に逸早く反応したのはカーリ。

 野生児特有の第六感と言うべきか、驚くべき反応速度でレナの攻撃を身を転がすことで避ける。


「───────まだ終わりませんよ?」


 振り返るレオ。

 その光景を少し離れた場所から見上げるカーリ。

 レオに向かって短剣を振りかぶり、不敵に笑うレナ。


「レオォォォォォ!!!!!」


 悲痛なカーリの叫びが学園内に響く…。

妹登場

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