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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第二章 覚悟
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episode23 国王

誤字脱字報告、レビュー、ブックマーク、感想等いただけると幸いです。

 時は遡り一週間前。

 ヒカルが国王を訪ね、王都の王城に来た時の話だ。


「じゃあ私の話は受け入れてくれないと?」

「いえ、ですからまず、こちらの要件の方をですね…」


 王城に入るなり、どう見ても国賓との対談に使いそうな煌びやかな一室に招かれたヒカル。部屋のなで真ん中にデカデカと置かれた長机を囲む形で配置されている椅子に、大臣七人とヒカルの計八人が向き合う形で座っており、ヒカルは大臣達の一向に前に進まない話にイライラしていた。


「ん~…じゃあ、私が反乱軍(リベリオン)を代表して王国に『宣戦布告』をします」

「なっ!?」

「ロゼくんの話は受け入れてくれましたが、他の要求が全部通らないようなので。元々そうするつもりでしたし」


 コツコツとリズミカルに机をノックするように鳴らし、露骨に機嫌の悪そうなヒカル。

 大臣たちも冷や汗を流し、焦っている。


「そ、そんな…!」


 ヒカルから宣戦布告と聞いて、慌てざわめく大臣達。

 世界を救った英雄との敵対。

 それだけで国にかかる負担は大きく、どれだけの損害が出るか分かったものじゃない。


「それじゃあ、私帰りますから」


 大臣達の静止に聞く耳を持たず、軽く手を振って部屋から出ていくヒカル。

 取り残された大臣達は、顔を青ざめていた。



 時は戻り、現在。


「困ったね~…非常に困った。ねぇ、君達?」


 国王の間。

 王城の一番上の階に存在するドーム状の部屋で、中は主に金色の装飾が施してあり、大理石の円柱や、天井にはキラキラと美しく輝くシャンデリアが釣り下がっている。いかにもお金持ちが好きそうな、黄金に輝く部屋という印象だ。

 そして、その部屋の奥に成人男性の身長よりも大きい椅子が一つ。玉座と言われる、国王専用の座具だ。


「い、いえ…」

「僕、言い訳は聞きたくないんだよね~。どうする~?死ぬ~?」


 自分の目の前で頭を垂れる大臣達を王座に腰掛け、蔑む目で見下ろす男こそ、このシルフォード王国の三十八代目国王、ソリトゥス=レークス=シルフォードだ。

 今年三十二歳で、前国王譲りの青紫色を主体に、王妃譲りの淡い桃色のメッシュが入った髪。吸い込まれるような朱殷色の瞳と、浅黒い肌。

 語尾が間延びした喋り方が特徴的で、面倒くさがりな性格をしている。

 そのため、大臣達からは裏で『愚王』と呼ばれることが多々あるが、レオが警戒を欠かさない程の要注意人物である。


「ほんと厄介な事してくれたよね~…昨日の奴隷商の件といい、レオ坊(あいつ)の演説。今、流れはあっちに向かってるからねぇ…」


 ソリトゥスは、昨日起こった出来事を思い返す…



 レオが演説を行った事実は、王国中の人間が知っていることで、帝国や教国まで知れ渡っていた。

 何故昨日起きたことがここまで広がっているのかというと、案の定、ヒカルのせいである。


 先日のレオの演説は、ヴィデレの魔術を通して鏡を始め、コップや小さな水溜りに至るまで中継という形で王国中に流れていた。

 その光景は、ヒカルの実況付きで、今まで王してきた裏の顔を明らかにするもので、ヒカルのブランドと相まってかなりの王国民の不安と疑念を焚き付けた。

 それを見た多くの王都の人々は、王宮へと詰めかけたが、門前払い。未だに説明の無いことに多くの不安と疑念を懐いている。

 

 先日の奴隷商の襲撃もそうだ。

 レオは、作戦とも呼べないお粗末なものだと言っていたが、実際はそうではない。

 長引いていた小国との戦争に付けるために、王族や貴族の三男などを中心に作られた王の懐刀であり、王国の最大戦力の《フォルティッシムス》の不在。衛兵の交代のタイミング。帝国からの使者の迎い入れなど、時間的にも、戦力的にも最高のタイミングを突いた奇襲となった。

 そして、レオの正面突破の強硬手段は、逆に王国民に王国の警備の脆弱さを感じさせられるものとなり、たった一週間でレオ派は大きく勢力を拡大していた。



「ほんとに忌々しいよ~…グランの奴も失敗したまま帰ってこないし~……」


 イライラが募り、体から禍々しいオーラを放つソリトゥス。

 その圧倒的な国王のオーラに、大臣達はその身を震わせる。


「宣戦布告からどれだけ引き伸ばしても最高でも三年だからね~…今すぐ仕掛けて来る事は無いとは思うけど、取り敢えず先に国民達を落ち着かせないと始まらないよね~」

「い、今すぐに!」


 この場に耐えられなくなった大臣達が、我先にと、王の間を後にして王宮へ押しかける国民たちの対処にあたった。


「…そろそろ引退しようかな~」


 気怠そうに背もたれに身を任せて呟くソリトゥス。そこには王の威厳は微塵も感じられないが、どこか不穏なオーラを纏っていた。



 この世界では共通して戦争に於いて、ルールがいくつか存在する。

 その中に、宣戦布告に関するものが存在する。

 一、宣戦布告をしてから最大三年以内に両国は戦争をしなければならない。

 二、戦争をする時期に関しては宣戦布告をした側の国が決めることができる。ただし、戦争を行う三ヵ月前に相手に告知すること。

 三、戦争を行う場所は、宣戦布告を受けた側の国が指定することができる。

 他にも色々と細かな規定はあるが、今必要なのは、一と二なので割愛する。


 つまり、レオには残り三年の猶予がある。

 だが、残り三年で、王国に対抗するレベルの軍勢を作り上げないといけないのだ。

 たった三年。されど三年。

 たったこれだけで、三千人を超すレオの反乱軍のメンバーが三年でどれだけ増えるか。そして一人一人の練度がどこまで上がるかが問題だ。


「だと言うのに、何故休みなんだ…。」


 現在レオの《リベリオン》であり、元勇者記念魔術学園の校舎裏にある木に身を預けながら、小さく呟いた。

 種月(四月)の終わりだけあって、涼やかな風がレオの頬を撫でる。

 ふと下を見ると葉の隙間から見える太陽の木漏れ日が小さな虫を照らす。


「平和だ…。」


 今日はヴィデレとヒカルから、休養を取るようにと言われ、強制的に剣を取り上げられた上に、事務仕事すら触らせて貰えない始末。

 読書をしようにも、図書館を含め、自分の趣味だった本を資金のために売り払ったレオ。


 そして、レオから戦闘と仕事と本を取り除いた時、レオの時間を潰すものは何も無くなったに等しい。


「【癒せ 全てを包て ヒール】…あぅ…また失敗しちゃった…」

「魔術の練習か…?」


 目を瞑り、感覚を研ぎ澄ませて色々と風の音や遠くで聞こえる水の音を聞いていたレオ。

 その時、レオの耳が不意に魔術の詠唱を捉える。

 他にやることも無いからと、声の方へと向かうレオ。


「何をしている?」

「れ、レオ総督!?」

「貴様は…ルルアだったな。シルフォード王国立第二魔術学園から転校してきた。」

「は、はい!」


 ルルアはレオを見るなり、ビシッと敬礼を決めて緊張した様子でレオの次の言葉を待っている。


 ルルアは、レオやロゼ達とは違う第二魔術学園の青を基調とした制服を身につけている。

 肩甲骨あたりまで伸びたブロンズヘアーは先端の方がカールしており、深い茶色の瞳と相まってか、レオから見てもかなり可愛い印象を受ける。

 身長はレオよりも低く、ロゼよりかは高いというあたりだ。


「ヒールの練習か?」

「はい!自分は、救護科に所属しているので、ヒールは絶対必要だと先生方に言われたので!」

「確かにヒールは重要だな。俺も重宝している。練習は順調なのか?」

「いえ、それが…」

「魔力量的には……問題無いな。イメージの問題か。」

「イメージですか…?」

「ふむ…。」


 どうせここでルルアと別れても、特にやることの無いレオ。

 自分が実践する訳でも無いし、リベリオンが強化されるのならプラスしか無いと決論に至ったレオは、ルルアにヒールを教えることにした。


「貴様は、ヒールにどんなイメージを持っている?」

「えーっと、通常ではもっと時間がかかる怪我を、魔力を使うことで治すことですかね…?」

「確かにそれであってるが、ヒールの魔術陣を紐解くとそうでもない。」


 ヒールは回復系魔術の中でも初級のもので、比較的簡単なものだ。

 だが、ヒールのような回復系魔術のイメージを持つことは難しい。

 ヒールを扱う者は、イメージをほとんど使わずに、魔術陣に大量の魔力を注ぎ込む力業な事が多い。


「ヒールは、怪我を治すのではなく、怪我の治りを爆発的に促進する魔術だ。頭の中でその怪我が治っていくのをイメージするんだ。」

「治っていくのをイメージ…レオ総督もそうやって?」

「いや、俺がヒールの練習をした時は、自分で自分の指を切って、それを治るまで一週間、目をそらすこと無く見続けたな。一週間くらいなら食わず飲まずで、寝なくても大丈夫だからな。いつもヒールを使う時はその時の光景を頭の中で早送りしてイメージ変わりにしている。」

「……あはは」


 レオの異常さを聞いて若干どころか、ガッツリ引きいているルルア。

 本人は愛想笑いのつもりのつもりだろうが、ルルアの口角はヒクヒクと引き攣っている。


「だが、今はお手本がある。俺が自分の指を切った後ヒールをかけるから、それを見たままイメージしろ。いくぞ。」

「えっ!?え!?」


 レイオスは、最近ずっと帯刀している剣を抜剣し、先端の方で人差し指を切り付ける。

 レイオスの人差し指から、少し深く切ったためか、血が湯水のようにドクドクと湧き出る。


「【ヒール】」


 レイオスがヒールを唱えると、あれよあれよと傷口が閉じ、傷跡すら残らず元の状態に戻る。


「じゃあ次は貴様がやってみろ。」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」

「なんだ?」

「なんだ?じゃないですよ!なんで自分の指切ってるんですか!」


 慌てた様子でレオが切った指を両手で包み、傷跡が無いか何度も確かめるルルア。


「傷跡残ってないよね…?大丈夫かな…?」

「問題ない。俺の魔術は完璧だ。」

「そ、そうなんですね」


 小声で心配そうにレオの指を見るルルアにレオは、得意気に自分の魔術を褒める。

 そんなレオを見てルルアはドン引きしながら、一応愛想笑いを浮かべている。

 ルルアは早くもレオの所々ある残念な部分に気がついたようだ。


「とにかく、魔術はただ単に反復練習するだけではだめだ。魔術そのものの中身を把握しなければ、初級ができても、中級や上級を扱うことはできない。上を目指す気があるなら、もう一度最初からヒールを学び直すことだな。」

「は、はい!ご教授ありがとうございます!」

「いや、これも俺の仕事の一つだ。できるまで付き合おう。」


 こうしてレオは今日一日、ルルアに付き合ってヒールの練習を続けた。

 だが、ルルアの魔術のダメさはレオの想像以上で、まだまだ練習が必要そうだったようだ。


知り合いにアドバイスを貰い、毎日0時に投稿することになりました。

把握よろしくお願いします。

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