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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第二章 覚悟
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episode20 ニーツとロゼ

誤字脱字報告、ブックマーク、レビュー、感想等いただけると幸いです。

 レオの演説次の日、ヴィデレの修行を始めてから三日目の朝。


「小僧、『気』は使えるな?」

「ある程度はな。」


 この世界には、魔力とは違い、気力と呼ばれる力がある。

 気力は、大きくいえばその人の精神的エネルギーを肉体的エネルギーに変える事を言い、気力を操れる者は、この世界には少なくない。自己の精神状態が直結するこの力は魔術を不得意とする獣人によく使われ、レオも使うことができる。

『やる気』、『負けん気』、『根気』など、比喩としても使われる『気』は、上げればキリが無いほど種類がある。

 その中で、最も戦闘に特化した『気』は、闘うという闘争心を肉体的エネルギーに変えた『闘気』。

 『闘気』を使うことで、個人差はあれど、飛躍的な身体能力の向上が望め、気力はその人の精神的な想いに比例して大きくなるため、魔力とは違い無尽蔵だ。


 だが、『気』には大きなメリットがある代わりに、完全に扱うためにはかなりの修練が必要だ。

 特に『闘気』のような純粋な戦闘欲からくるものは、戦闘中の精神状態の揺らぎによって、その効果も薄くなり、最悪乱れて霧散する事もある。

 戦闘という目まぐるしく情報が変わる中で、気持ちを真っ直ぐ同じ状態で保たないといけないため、気力を扱えるものは多いが、『闘気』を扱えるものは少ない。


「そして、外部的から取り入れて使う魔力と、内部的から発生させて使う気力じゃ水と油のように反発しあう」

「ああ。だから魔術を主として使う俺は、気を使うことはまずない。」

「だが、それを合わせることが出来たら?」


 ニヤリと笑って鋭く尖った牙を見せるヴィデレ。


 そして『気力』のデメリットは、魔力との併用が出来ない事。

 魔力と対極的にあるこの力は、互いを混ぜようとすると反発し、暴走する。

 なので、レオを始め、魔術が日常にまで浸透したこの世界で、『気力』を使うものは少ない。


「本当にできるのか?」

「できる。だが、繊細な魔力のコントロールと、何があっても揺らぐことのない精神力を常に保つ事が絶対だ。二つの力を均衡に保たないと成功しない難しい技だが…小僧ならできるだろう?」

「誰にものを言っている。一日あれば充分だ。」


 挑発的な笑みを浮かべるヴィデレに、レオも同じく挑発的な笑みを返す。

 案外似たもの同士の二人はいい師弟(コンビ)なのかもしれない。



 レオがヴィデレと魔闘気の練習をしているのと同時刻。

 レオ達の上…第八訓練場の二階にある観客席でロゼは一人ポツンと、まるで置物のように、膝の上に手を置いて座っていた。

 王国に宣戦布告をして以来、フードを被らなくなったロゼは、ハイエルフ特有の美しい容姿を惜しげなく晒しているため、ただそこにいるだけで目を奪われてしまう。

 

「それは彼へのお弁当ですか?」

「あ、えっと…」

「ニーツです。現在は元学園長であるヒカルの秘書的な事をしています。」


 二階の入口から顔を覗かせて中へと入ってきたニーツは、一人座っていたロゼに後ろから声をかける。

 自己紹介を一通り済ませると、ロゼの隣に座るニーツ。


「わざわざ手作りを?」

「はい…学園の頃はよく作っていたので……」

「なるほど。ですが、今は必要ないですね」


 現在、レオの朝食と夕食はシムルが作っており、昼食は食堂で取ることが多いレオ。最近では、修行に夢中で昼食を取ることすら忘れている。

 ロゼが弁当を届けても、レオはそっちのけで修行を続けるだろう。ニーツの言う通り、レオには今、必要ないものと言えるだろう。


「今、どんな気分ですか?彼は否定しますが、国に反乱を起こそうとしている理由や、きっかけは、少なからず貴方にあるでしょう。見たところ戦いは苦手ですね?だから他のところで力になろうとして、学園の頃のようにお弁当を作っても、あの頃とは違って変わりがいます。」

「……」

「そんなものを用意して、どれだけ自分を誤魔化しても無駄ですよ?そこで足踏みしている貴方では彼の隣に立つどころか足枷にしかなりません。」

「分かってます…」


 ニーツに厳しい言葉を投げかけられるロゼ。

 ロゼは言い返すどころか、それを肯定するように俯いて顔を曇らせる。


 ロゼ自身、ずっと分かっていたことだった。

 レオが自分のために動いてくれていることも、毎日お弁当を作って自己満足に浸っていることも、このままでレオの足を引っ張るだけでしかないこと、何もかもロゼは分かっていたのだ。


「分かっているんです。分かっていても、私には何も…何もできない…」

「そうですか?私には、貴方が彼と同じように優れた才能を持っているように思えますが」

「え…?」

「補助魔術、付与魔術、回復魔術など貴方には『他強化』の属性の魔術に長けた才能を持っていると私は確信しています。」


 学園での成績は、ロゼが努力家ということもあり、成績は上位だが、才能に関しては自他共に認める平凡。

 魔術でも、ハイエルフ特有の大きすぎる魔力をコントロールできずに暴発ばかりで、初級魔術もままならないロゼ。

 

 そんなロゼを、ロゼの才能を、ハッキリと言い切るニーツの言葉に、ロゼは戸惑いを隠せないでいた。


「ずっとずっと先にいる(レオ)に追いつくために、貴方の隣にいた少年(カーリ)は一歩を踏み出しました。残された貴方はどうしますか?」

「まだ、ニーツさんの言う私の才能に実感はありません」

「それは仕方の無いことでしょう。ですが、事実です。」

「あの、一つ質問してもいいですか?」


 これまで曇っていたロゼの表情が、大空に旅たとうとする雛鳥のような決意の篭ったものに変わる。


「はい。どうぞ?」

「私もカーリやレオ様の隣に立てますか?」

「立てます。私が保証しましょう。」

「私でも…できる…」

「はい。ということで、私達も修行をしましょう。」

「え…?」

「大丈夫です。私は人に教えた事はありませんが、一緒に頑張りましょうね、ロゼさん?」

「えぇ…ええええええ!?」


 ロゼの絶叫が訓練場の中に響き渡る。

 これには、レオやヴィデレも流石に修行を止め、何事だとばかりに、二階の方を見る。

 そこには、楽しげな表情を浮かべるニーツと、放心したロゼの姿があった。



「これも読み通りですか?」

「まさか。偶然ですよ?ニーツくんがロゼくんを引き入れるとは思っていませんでしたから」

「でも、この展開は学園長先生好みでしょう?」

「それは否定しませんよ、アハハハハ!」


 疑いの目を向けるニーツに対して、今日も今日とて通常運転のヒカルだった。


すみません、今回はかなり短めです。

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