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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第二章 覚悟
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episode19 反乱

誤字脱字報告、ブックマーク、レビュー、感想等いただけると幸いです。

「どれーしょー?」

「奴隷商。奴隷の売買を目的に活動してる店のことだ。」


 カーリがビスティアと朝帰りをした小鐘二つ後、カーリはレオに呼ばれ、学園長室へと足を運んでいた。


「先日、シムルさん他、奴隷として買われた方々にお話を聞いて奴隷商の場所を割り出しました。」


 ヒカルの後ろに控えていたニーツが王都の地図を取り出し、机に広げる。

 簡略化された大雑把なものだが、見る分には問題無い。


「情報から場所が正確に絞り込めたのは王都の西にあるスラム街と、王都北の路地裏にある奴隷商二つです」


 ニーツは地図上を指差し、奴隷商のある場所を指し示す。

 カーリはニーツの指先を追いながら、机に前のめりになりながら地図を覗き込む。


「今からここを俺と貴様の二人で潰しに行く。」

「学園長とニーツさん、師匠や、レオの師匠は?」

「別件を任せてある。」

「でもたった二人でやれるのか?」

「問題ない。貴様が俺の支持に従えば昼には終わるだろう。」


 今、レオに必要とされているのは三つ。

 力。これは、ヴィデレとの修行で追々身につけることができるだろう。

 資金。ある程度はヒカルがなんとかすると言っているが、将来的にはこういった少人数での作戦はなく、大軍を動かして王国を攻めることになる。そのためには莫大な資金が必要なため、集めなければならない。

 そして最後に人手。レオがこれから想定している王国への反乱は多くの人手を必要とする。

 そのため、今回は奴隷商を潰して王国への宣戦布告と共に奴隷を解放し、学園で雇うことで人手を増やそうという考えだ。


「聞いた話では獣人族や亜人族も多く、二つを潰せばざっと三百ほど人手を確保できるかと」

「うん、いいね。私達はレオくんに頼まれた事をパパッとすませてくるよ」

「ああ、任せた。いくぞド平民。」

「え?え?状況がまだ…」

「貴様は理解しなくていい。俺の言った通り動けばいいんだ。」


 頭の上にハテナを沢山浮かべたカーリの背中を蹴っ飛ばし、学園長室から叩き出すレオ。

 頭上をハテナからヒヨコに変えたカーリの襟首を掴み、引き摺りながら学園長を後にするレオとカーリ。


「さて、私達もやるこをやりますか!」



「なぁレオ。学園長に何を頼んだんだ?」


 学園から王都までレオとカーリの足で小鐘三つ程。

 レオとカーリは馬車通りの多い整備された道を避け、人気の少ない道を走っていた。


「主に連れてきた奴隷の受け入れと、学園の学科分けだな。」


 今回、学園へ連れてくる奴隷の数は予想では三百。

 その全ての奴隷の衣食住の確保が必要となる。

 衣類に関しては既に前々から準備済みで、住居の方も学園街の方で撤去していった店の土地を使ってヴィデレが土属性の魔術を使って即興の家を急ピッチで作り上げている。

 ゆっくりと体を休めるほどのスペースは全員に確保できるだろう。

 食事もビスティア(朝帰りのため途中参加)とシムル、そして辞めなかった食堂の職員で多めに四百人分程の食事を早朝から作っている。


 学園の学科分けは前々からレオがヒカルに提案していた事で、奴隷が多く来るということで、慌てて実行している。

 王国では、既に学園が王国に喧嘩を売ったことが知れ渡っており、先日ヒカルからも学園の生徒全員へ転校を勧め、他の学園へと七割が移り、教師や学園街の人々も多くがそれぞれの場所へと散った。

 なので学園に残っている三割の生徒はレオの反乱にカーリと同じく協力しようとしているのだ。

 もちろん、他の学園や、王国からリベリオンへの参加を希望するものも少なからずおり、プラスマイナスではマイナスだが、想定していたよりもずっと人は多い。


 そして、戦争では様々な役職が必要となるのは当たり前で、通常の学園で学ぶものとは違う教養が必要となる。

 なのでレオは、将来的に王国との戦争で必要な兵を育てる『兵科』。

 傷ついた兵士を癒す回復系の魔術を学ぶ『救護科』。

 王国内の情報を集めたりなど裏で活動するための隠密行動などを学ぶ『諜報科』。

 あまり増やしすぎても手が回らないため、今のところこの三つに希望者を振り分けて訓練を受けることになる。

 と言っても八割方は兵科に入るだろうとレオは予想しているが。


「へ~、なるほどな」


 レオの説明を聞いて何度も満足そうに頷くカーリ。

 ちなみに説明は四回繰り返してやっと理解した。


「貴様と話す方が疲れるな。」

「俺は楽しいけどな~」


 疲れ果ててゲンナリしているレオを見て嬉しそうに笑うカーリ。


「そう言えば連れてきた奴隷の人達ってどうやって学園まで運ぶんだ?」

「この先の集合地点で馬車と合流し、旅団(キャラバン)を装って王都の中に侵入する。その後、俺と貴様で二手に分かれて奴隷商に各八台の馬車で突撃する。その後は時間との勝負だ。」


 厳しい顔つきで話すレオを見て、カーリも忘れないよう気を引き締める。


「奴隷商に乗り込んだ後、奴隷商人及び、護衛の排除。牢屋の鍵を盗み、全員を馬車に乗せて速やかに同じ関所から脱出だ。」

「かなり無茶な作戦じゃないのか…?」

「作戦と呼べるほどのものじゃない。王都に侵入してからは、力のゴリ押しだ。だが、これが一番分かりやすくて手っ取り早いだろ?」


 レオは横を走るカーリに顔を向けると、口角を上げて楽しそうに笑う。

 それに釣られてカーリも破顔する。


「作戦開始は次の小鐘と同時に開始、もし、失敗したら馬車は放って、貴様だけでも脱出してこっちと合流しろ。」

「分かった!!」



 レオとカーリが奴隷商を襲うために移動していた頃、ヒカル達は…


「遂にこの時が来てしまったようだな……。」

「ええ、これは緊急事態です。」

「フッ…あいつにはそろそろ必要だろうからな…。」


 暗く薄暗い部屋に円卓を囲んだヒカル、ニーツ、ヴィデレ、ビスティア、そしてレックスの姿があった。

 各々は険しい表情を浮かべている。


「『第一回!レオくんの役職名を決めようの会!!』」

「フッ…あいつにはそろそろ必要だからな…」

「ノースリーブ小僧。それ二回目だ。不慣れならやめておけ。」

「あの…皆さんなにしてるんですか…?」


 部屋に入るなり、薄暗い部屋で不気味な笑みを浮かべる集団に戸惑いつつも、灯りを付けて中のヒカル達に確認するシムル。


「今回の反乱軍の首謀者はレオくんです。つまり組織のリーダーです。なので、リーダーにはそれなりの格好良い呼び方を付けるべきだと私は思うんですよね!!!」

「あの、それよりもレオ様に頼まれたものを…」

「そんなもの遠の昔に全部終わりましたよ!それよりも、レオくんのいないこのチャンスを逃す私ではありません!!!」

「はぁ…そうですね?」


 バンと机を強く叩いて立ち上がるヒカル。流石にハイテンションのヒカルに付いていけないシムルは、取り敢えず返事をしておく。


「やっぱり反乱軍の長なので『大将』とかどうだ?」

「レオ大将…悪くないですね。」

「個人的には『提督』とか『司令官』もオススメですよ!!!」

「それは私情を挟みすぎでは?」

「『総帥』なんてのもいいと(われ)はいいと思うが?」


 あーだこーだと言い合うヒカル達。完全に置いてきぼりなシムルは、部屋の灯りを消して、そっとドアを閉じた。



「散々な目にあったな。」

「うぅ…ごめんなレオ?」

「問題ない。結果は上手く行ったんだ。」


 レオとカーリの奴隷商を襲って奴隷達を解放する作戦は結果的には成功に終わった。

 途中、カーリのやらかしが多々あったが、レオが上手くフォローしたことで無事に合計三百十一名を馬車に乗せ、学園に戻ることができた。

 今は奴隷達を順番に水浴びさせ、着替えさせた後に裏庭炊き出しを配っている。


「お帰りなさい二人共」

「あ、ニーツさん」

「戻りました。」

「無事で何よりです」


 いつの間にか横に立っていたニーツが二人に話しかけ、無事を確認すると頬を緩める。

 資料の束を抱えているのを見ると、仕事の途中だったらしい。

 それよりも、気配を感じさせずに自分の横に立っていたニーツの存在に冷や汗を流していたレオは、それどころでは無かったが…。


「そのままで結構です!話を聞いてください!」


 手でメガホンの形を作り、ヒカルが真ん中で大声で叫ぶ。


「皆さんも勘づいてると思いますが、ここは『元』勇者記念魔術学園です!私はここで学園長をしていました、ヒカルです!」


 ヒカルの言葉に奴隷達の中に少なからずどよめきが起きる。

 興味のあるもの。疑いを拭えないもの。様々な反応があるが、まずまずと言える反応だ。


「レオくん、君が挨拶をしてください」

「貴様だけで充分だろ?」


 レオだけに聞こえるように、ヒカルの分身体がレオの背後に静かに立つ。


「この反乱は私の反乱ではありません。"君"の反乱です。ここのトップは君ですよ?」

「……分かった。」


 レオは真剣な面持ちで、本体のヒカルがいる中心へとゆっくり一歩を踏み出す。


「では、ここの一番上である、レオ総督から話しがありますので、ご清聴お願いします!」


 呼ばれなれない巫山戯た呼び方に、一瞬、目が鋭くなりヒカルを睨むものの、すぐに元に戻る。

 だが、ヒカルにだけ向けられただだ漏れの殺気にヒカルは苦笑いを浮かべる。


「じゃあお願いしますよ、『総督』?」

「残り四発。」

「っ…全力で逃げさせてもらいます……」


 すれ違いざまに、レオは小声で話しかけてきたヒカルに周りにバレないようにボディブローを食らわせると静かにこちらを見守る人々に語りかける。


「貴様らのような奴隷を始め、人身売買、賭博、賄賂や横領。あげたらキリが無いほどの闇がこの王国にはある。それは根を深く張り、更に大きくなっていく。これを止めるには根を元から引っこ抜く必要がある。」


 多くのものがレオに注目する中、レオは淡々と演説を行う。


「だが、今の王国にそれをできる者はいない。いや、できたとしてもそれを見て見ぬ振りをして放置していた。はるか昔に撤廃された奴隷制度。だが、それは未だに多くの人間を苦しめている。貴様らが何よりもそれを知っているだろう!」


 徐々に熱が入っていくレオの演説。

 人々はレオの言葉に耳を傾けながら、奴隷として過ごしてきた長年の忌まわしい記憶を鮮明に思い浮かべる。

 あの記憶が繰り返されるかもしれない。

 その不安から下を向くもの。

 悔しさから唇を噛み締めるもの。

 何も出来ない自分を悔やみ、強く拳を握るもの。


「だから俺は…この王国を変える!……顔を上げろ!前を向け!」


 力強いレオの言葉に人々はハッと視線をレオに集める。

 まだ、少年と呼ぶのが相応しいほど幼いその体。

 だが、ここにいる誰よりも、その背中は大きく、何よりも強い決意が現れていた。

 

 一人、また一人と絶望に染まった多くの瞳に光が刺す。


「家族の元に帰りたい奴もいるだろう。だから強制はしない。だが、俺に力を貸してくれるという奴がいるのなら、特等席で見せてやろう!この王国が変わるところを!」


 高々と掲げられるレオの右腕。


「────歴史に刻まれる反乱(リベリオン)を!」


 一瞬の静寂。


「うおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 一人の男がレオと同じように右腕を高らかに掲げて叫ぶ。


 それを引き金に、次々と人々が叫び、喜びの声を上げ、思い思いにレオへの賛同を示す。


 空気が大きく震え、裏庭が熱気で包まれる。


「あれで十三歳だと思うと、末恐ろしいものがありますね…」

「王の器ってやつですかね?」

「さぁ、それはこれが終わらないと分からないかな?」

「で、このレオきゅんの役職名候補、全八千六十七を書き留めたこの資料どうします?」

「一応保存しておこうか。それと本人の前でその呼び方はやめてあげてね、ニーツくん」

「善処します。」


 鳴り止まぬレオコールを聞きながら、ヒカルとニーツは…いや、二人だけではないだろう。

 この演説を聞いた多くの者が、これから起こる全てを想像し、心踊らせた。


 

活動報告にも載せましたが、昨日からTwitterを始めました。

是非フォローお願いします。

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