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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第一章 決意
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episode1 ロゼ【前編】

誤字脱字等の報告をいただけると作者が喜びながら訂正します。

感想、ブックマーク、レビュー等をいただけますと、更に作者が喜びながら一人で踊ります。


◇ ─────── ◇


 勇者記念魔術学園には毎年多くの入学希望者が集まる。

 人気の理由は創立者であり、現学園長のヒカルが世界を救った英雄ある事も確かだが、ヒカル自らがスカウトした優秀な教師達、そして他の学園にはない実践的な授業があげられる。

 

 この学園の授業は、午前中に座学。午後に実習と分かれている。

 実習は選択制で、【総合戦闘】【魔術理論基礎】【生物医学】の三つを毎日自由に選び、学ぶことができる。

 毎日選べる理由としては、今自分に何が足りないかを自ら考え、見極め、選択することを習慣付けるためだ。

 ここの生徒の大半が国が保有する軍に入り、前線へと送られるため、今から必要なことだ。



◇ 勇者記念魔術学園 第九訓練場 ◇【王国歴1044年種月(四月)7日】


 今日は実習で初めてテストが行われる日。

 これはレイオスがロゼの秘密を知った日の話。


「事前に説明した通り、今日はテストを行うぞ。テストの内容は今配った紙を参考にしてくれ」


 訓練場の中心で整列した生徒達に紙を配布する教師。

 生徒達の顔は初めてのテストだけあって強ばっており、ピリリとした緊張感が訓練場に張り詰めている。


 【第九訓練場】。

 中等部と高等部が存在する六年制のこの学園では、それぞれの学年に専用の訓練場が存在する。

 高等部は一学年につき、二つの訓練場。中等部は一学年につき、一つの訓練場。つまり、この学園には九つの訓練場が存在している。


 レイオス達中等部一年生は、訓練場の中でも一番小さな第九訓練場が割り当てられている。

 一番小さいと言っても【総合戦闘】を選択した百人を越える生徒が入っても充分な余裕がある。

 小学校の運動場に屋根が付き、二階に観戦席が備え付けられているイメージだ。


「一応読み上げるぞ」


 今回のテストは学園を取り囲む森を使ったタイムレース。

 スタートは学園の裏門。

 ゴールは森の裏手にある一番高い木で、距離的には十五キャロ(キロメートル)ほど。

 途中には学園側が配置した低級の魔獣が現れるため、闘うか逃げるかは各自の判断に委ねると記載されている。

 注意書きで中級以上の魔獣は事前に排除してあるとのことと、タイムの早さがそのまま成績に直結する小細工なしの実力勝負だという事が書かれている。


「魔術の使用は可。武器に関しては訓練場外の武器庫にある木製の武器を使用してくれ。低級の魔獣相手ならば木製のものでも充分だからな。では解散」


 解散の合図で生徒達は各自動き出し、武器庫に向かう者や、体を伸ばしたりとウォーミングアップをする者も見受けられる。

 第九訓練場は学園でも一番裏手にあるため、裏門には近く、慌てて移動する必要は無い。


「いきなりテストとかついてないな~」

「もうっ、文句ばっかり言ってないで早く行くよ、カーリ!」

「あーあー!聞こえなーい!」


 頭の後ろで腕を組んで文句を垂れるカーリに、ロゼが口うるさく注意している。

 ロゼとカーリは同じ村の出身で、入学当初から一緒に行動していた。


 一方レイオスは…


「チッ…ロクな武器が無いな。」


 一人だった。


 貴族としてのプライドが高く、生まれてからずっと父親から厳しい指導を受けていたレイオス。

 パーティーや披露宴などへの参加は最低限で、貴族の知り合いも少ない。

 未だに廊下ですれ違っても挨拶するよな知人どころか、名前を知っている生徒すらいなかった。



◇ 学園裏の森 ◇【王国歴1044年種月(四月)7日】


「全員揃ったな。一応言っておくが、低級の魔獣だからと言っても決して油断するなよ?」


 この世界には【魔獣】と呼ばれる魔術を使用する獣が存在する。

 全ての魔力の元であり、空気中に存在する魔素が異常に溜まった【魔素溜(まそだま)り】と呼ばれる場所から自然に生み出されたものが【魔獣】。

 魔獣には、その個体別で名前が付いており、その強さで低級や中級といった階級分けがされている。

 低級の魔獣は小型のものが多いが、見た目は禍々しい。

 だが、自衛のために幼い頃から戦闘を親から教育されるこの世界では低級の魔獣一匹くらいならば、八歳くらいの子が素手で一人で倒してしまう。

 なので、脅威と認識しれることはないが、低級の魔獣も複数集まれば少なからず危険はあるため、油断はできない。


「それでは、全員位置について…よーい、スタート!」


 教師のスタートの合図と同時にレイオスが、耳を塞ぎたくなるような轟音と共に飛び出す。

 その姿は他の生徒にはもう見えておらず、あまりの衝撃に全員が驚き、スタートを忘れている。


「負けてられるか!」

「す、凄いね」


 レイオスに感化を受け、意気込んでスタートするカーリ。


 カーリも、中等部にしてはかなり足が速いほうなのだが、レイオスと比べるのは(いささ)(こく)だろう。


 カーリのスタートでテストを思い出した生徒達がワンテンポ遅れてスタートし始める。

 全員の顔がかなり引きつっているのは気のせいだろうか。


「一位は予想通り、フィエルダー家のレイオスか」

「二位は…カーリくんですね」

「レイオスに関しては問題ないだろう。カーリは心配だな…」


 生徒達の後を気配を隠しつつ、追いかけながら今年の新入生を見定める教師陣。


  その頃、レイオスは…


「他愛ない。普段のランニングの方がよっぽどハードだな。」


 現れる低級魔獣に次々と剣を叩き込み、倒していた。

 もちろん、走るスピードは減速するどころか、加速している。


「レイオス=フィエルダー。タイム、二十分三秒」


 ゴール地点の木の下にいた測定係の教師がレイオスのタイムを読み上げ、持っていた帳簿に書き込む。


「レイオスくん、まだ時間はあるがどうする?」

「そこら辺をぶらついておく。」

「わかった、あまり奥にはいかないようにね」

「ああ。」


 そう言い残して、その場でフワリとジャンプすると、木の枝の上に着地するレイオス。

 少し辺りを少し見渡してからどこかへと、木の枝から枝へと飛んで移動するレイオス。

 十五キャロをとんでもないタイムで走ったのにも関わらず、息をきらすどころが、汗一つかいていない人離れした子供らしくない生徒に記録係の教師はため息を一つこぼした。



「次から次へとキリがないな!」


 レイオスがゴールしていた頃、カーリは低級魔獣である黒狼(ルプス・アーテル)に囲まれていた。

 黒狼は通常の狼より一回り小さく、中型犬のような大きさだが、特徴的な長い牙と、二本の尻尾が厄介で、群れで動くため一人で対処するには時間がかかる。


「らぁ…!」


 黒狼の特徴であり、弱点でもある二つの尻尾を、上手く後ろに回り込んで切り落としていくカーリ。


「よし、これで全部だな」


 最後の一匹を倒すと、カーリはスキップでもするかのように足取り軽くゴールへと再び走り出した。


「あいつには負けただろうけど、この調子なら二番取れるぞ!」


 鼻歌交じりにそう呟くと同時に、カーリの足元に大きな魔術陣が現れる。


「な、なんだこれ!」


 慌てて魔術陣から距離を取るカーリ。

 次の瞬間、魔術陣から耳をふせぎたくなるような地響きと共に、大きなゴーレムが姿を現す。

 ゴーレムは目の前のカーリには目もくれず、丸太のような大きな腕で周りの木々をなぎ倒していく。


「なんかよくわかんないけど、倒しておいた方がいいよな?」


 カーリは持っていた木剣を強く握りしめ、ゴーレムに向かって駆け出した。



「なんだこれは…!」


 教師達が見たのは、森の中にいくつもの巨大な魔術陣が現れ、そこから多くの魔獣が出現したという信じ難い光景だった。

 魔術陣から現れた魔獣のほとんどが中級だが、中には上級の魔獣が見受けられる。


「このままだとまずいぞ!生徒の安全を第一に、上級を優先して倒すぞ!」

「「「はい!」」」


 リーダーである教師の指示に従い、散開する教師達。その顔には焦りが浮かんでいた。



「何事だ?」


 森全体が急に騒がしい雰囲気になったのに気づいたレイオスは、ゴールでもある一番高い木の上へと向かう。


「トロールの亜種と、土竜が一体に、サンダーバードが二体か…場所がかなり離れてるな。」


 広大な森にバラバラに現れた上級の魔獣に心の中でボヤきながら、既に動き出していた教師達動きを元に、冷静に判断していく。


「トロールの亜種だな。」


 優先的に倒すべき魔獣はトロールの亜種だと判断したレイオスは木を飛び降り、トロール亜種の方へと走り出した。



「…っ!らっ!」


 カーリが相手しているのは中級魔獣のストーンゴーレム。

 ストーンゴーレムはその名の通り、石でできた大型の人型魔獣で、その巨体は周りの木々と遜色ないほどの大きさで、歩く度に地面が地響きをおこす。


 ゴーレムが大きな右腕を勢いよくカーリ振り下ろす。


「あぶねっ!…ぐぅ!」


 カーリは後ろに大きく飛び、ゴーレムの振り下ろしをかわす。

 だが、ゴーレムの振り下ろした衝撃で地面が砕かれ、衝撃波と共に石や土片がカーリを襲う。

 

「いっ…!よくもやりやがったな!」


 カーリは反撃とばかりにゴーレムの振り下ろした右腕に飛び乗ると、そのまま腕を足場に、ゴーレムの巨体を駆け上がる。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ゴーレムの不意をついて、振り下ろされたカーリの木剣は鈍い音と共にゴーレムに弾かれてしまう。


「っぅ…硬すぎだろこいつ!」


 ゴーレムに弾かれた反動で痺れる手を振りながら、次の手を考えるカーリ。

 だが、ゴーレムも考える隙を与えるほど馬鹿ではない。


 魔獣は人間と同じように魔術を使うことができる。つまり、魔術を使うだけの頭を持っているということだ。


「うおっ!」


 ゴーレムは自分の頭の上にいるカーリを振り払うために、体を大きく揺らす。

 揺れる巨体に必死にしがみつくも、咄嗟にしがみついたため、上手く掴めずに振り落とされるカーリ。


「っ…いってぇ!この年で腰痛になったらどうしてくれんだ!」


 受け身も取れず振り落とされたカーリは腰をさすりながら、ゴーレムに文句を言う。


「このままだと勝てないな…さて、どうしようか」


 再び振り下ろされるゴーレムの腕を避けながら、考えるカーリだが、連続で振り下ろされる腕を避けながらだとまともに考えることは出来ず、徐々に追い詰められていく。


「っ…!」


 ゴーレムの腕が振り下ろされた場所にあった岩が砕け、その破片がカーリの太ももに深々と刺さる。

 カーリは苦痛に顔を歪め、悲鳴にならない叫びをあげる。


「無様だな。」


 太ももの痛みにカーリが膝をついたろその時、不意にカーリの後ろから声がかけられる。


「…レイオス!」

「こんな雑魚に一方的にやられるとは、滑稽だな。」

「なんだと!」


 カーリが振り返ると、そこには木剣を片手に握りしめ、自分を見下しながら嘲笑を浮かべるレイオスの姿があった。


「この程度で手こずるようじゃまだまだだな。」


 カーリは以前、レイオスに模擬戦でやられて以来、レイオスを一方的にライバル視している。

 レイオスにその気は無いが、少しばかし意識はしているようだ。


「俺は急いでいる。貴様はさっさと学園に戻るんだな。」

「あっ…おい!まてよ!」


 レイオスはカーリの制止を無視して、ゴーレムに向かって走り出す。

 レイオスはゴーレムに向かって手のひらを向けると、手のひらから魔術陣が浮かび上がる


「邪魔だ。土人形如きが調子に乗るなよ。【放雷(サンダーボルト)】」

 

 レイオスが魔術名を唱えると、魔術陣から数本の細い雷が飛び出し、その巨体を粉砕する。


「初級魔術にも耐えられないとはな。今度からその脆さを売りにすることを勧めてやろう。」


 粉々になるゴーレムに向かってそう言い残すと、レイオスはそのまま森の中へと走り去った。

 カーリはその光景をぼうと見ることしかできなかった。


ストックを確認したらまだあったので連日投稿です。

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