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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第十二章 雪辱戦
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episode191 小さな幸せ

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

「総督殿!」

「確か貴様は和国から来た…。」

「マツナミです!よろしゅう!」

「よろしゅう…?」


 レオを始め、多くの王国外で修行をしていたメンバーがリベリオンで再会してから六日後。

 予定していた選抜された千五百人との作戦の打ち合わせや動きの確認を終え、今日は身支度という名目で選抜メンバーに休みを与えているレオ。

 だが他のメンバーは休みでは無い。王国内とは言え、帝国と密接している端にいくため、それなりの準備が必要となるため、装備や食料の最終確認などやることは多い。

 レオも他のメンバーに任せては悪いと思い、手伝おうとしたのだが、ロゼとシムルに追い出されリベリオンの中をブラついていた時にマツナミと出会ったレオ。

 満面の人懐っこい笑みを浮かべ、大きめの灰色のツナギに同じく灰色のつば付き帽子を被ったマツナミは、ほぼ初対面のレオにも親しげだ。


「よろしくお願いしますって意味です!砕けた言い方で親しみを込めると子供らしさをアピール出来ますし、大人達がちやほやしてお菓子をくれるんですよ……お饅頭食べたい…」

「子供の割には打算的だが、理由は子供だな。良ければ今朝シムルが焼いたクッキー…ではなく、ラングドシャ?と呼ばれるビスケットだそうだ。」

「おぉ!マツナミはクッキーとビスケットの違いだとか横文字の格好良さ気な名前なんてどうでもいいです!美味しければなんでもいいんです!貰ってもいいんですか!?」


 レオが懐から出したのはピンク色の小袋に仕舞われた丸型のビスケット。

 正式にはラン・グ・ドシャ。ヒカルの世界のお菓子で口の中で溶けるようなしっとりとした食感が特徴だ。


「ああ。試作で貰ったものだ。校舎裏の木陰で食べるとするか。」

「はい!マツナミは食べ物をくれる人には簡単に着いていきます!そして凄く懐きます!マツナミ、総督殿大好きですー!」

「俺は貴様がお菓子一つで最重要機密を喋らないか不安で仕方ないがな。」


 もしマツナミに犬の尻尾でも生えていたら、今頃千切れる寸前まで左右にバタバタの振っているだろう光景に、レオはため息を吐く。

 今すぐレオの右手に持っているビスケットに飛びかかろうとするマツナミを左手で頭を抑えながらレオはマツナミを校舎裏に連れ込むレオ。

 面倒みの良さは日に日に増しているようだ。


「おおー!ここはいい感じの場所ですね!」

「昔から休日はここで過ごす事が多い。」

「そうなのですか?」

「ああ…昔はよくここで魔術を教えたりしたな。」


 レオは懐かしい顔を思い浮かべながら、胸のペンダントを軍服の上から握り締める。

 ここはレオが良くルルアと魔術を教え、雑談し、時に相談事をした思い出の場所だ。レオは未だに暇な時はついここに来てしまう。


「そんな深刻そうな顔されてもマツナミは慰め方が分からないのですが…」

「悪いな。そんなつもりは無かったんだ。」


 マツナミの頭を帽子の上からくしゃくしゃと撫で、くすぐったそうに目を細めるマツナミを見て小さく笑うレオ。


「あ、あの!総督殿!少し屈んでもらってもいいでしょうか!」

「こうか?」

「こんな感じでどうでしょうか!」


 マツナミに言われて不思議に思いながらも屈むレオ。

 そうすると、マツナミはおもむろにレオの艶のある黒髪を撫で始める。


「どうと言われても…急にどうした?」


 レオはほとんど初対面の少女相手に頭を撫でられ、困惑していた。

 和国では撫でられたら撫で返す風習でもあるのだろうか…そんなことを考えながら、レオはマツナミの黒いパッチリとした瞳を真っ直ぐ見つめるレオ。


「さっき総督殿に撫でられた時にマツナミは凄くポカポカした嬉しい気持ちになったのです!なのでマツナミも総督殿におすそ分けです!」

「…ふっ…そうか。じゃあこの気持ちもおすそ分けだ。」

「あー!おすそ分けをおすそ分けしても意味ないのですよ!ならマツナミはおすそ分けのおすそ分けのおすそ分けです!!」

「ややこしいな。」

「ややこしいがやややこしいです」


 レオとマツナミは終始笑顔で互いの頭を撫で、そしてシムル手製のビスケットを頬張った。


「美味しいです!」

「ああ。美味しいな。」


 明日からはまた慌ただしくなる。

 だが、今は今しか出来ない暇を過ごす。

 新たな仲間である少し変わった少女と過ごす些細な日常はレオにとってとても貴重なものだった。


「孤児院の方も顔を出さないと怒られそうだな…。それと、留守をしてくれたシムルへのお礼と、しばらく会えなかったロゼへのフォロー、修行を頑張った全員に褒美…やることは山積みだな。」

「総督殿はみんなから愛されているのですね!」

「愛されているか…そうだな。嬉しい限りだ。」

「マツナミは少し眠くなってきたのです…」

「ここは心地いいからな。膝を貸してやる。」

「ありがと…う…ございま…すぅ…」

「最後まで言い切ったのか微妙だな。まあ、カーリの【八咫烏】の手入れでこの頃まともに寝てないと報告にあったからな、今くらいはいいだろう。」


 レオの膝で眠るマツナミの帽子を取ると、レオはマツナミの黒髪を撫でながら自分も木に体重を預け眠ることにした。


 戦の前の小さな幸せ。

 

 この幸せを守るため、レオは剣を取る。

マツナミとレオの絡みを見たいと友人からの希望があって書きました。

明日からはまた戦闘シーンというより、戦争シーンが続きます。

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