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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第二章 覚悟
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episode18 それぞれの師

誤字脱字報告、ブックマーク、レビュー、感想等いただけると幸いです。

「来たか…」


 第八訓練場の真ん中で天井を見つめていたヴィデレは、訓練場に入ってきたレオに気づくと視線をレオへと移す。

 ヴィデレの一挙一動は、貴族として育ってきたレオが見ても洗練された美しく、気を抜けば目を奪われるほどだ。


「貴様が呼びつけたんだろうが。」

「ククッ…違いないな。さて、修行の内容はどうしようか」

「決めても無いのに人を呼びつけるとは、随分と無計画だな。」

「そう焦るな小僧。小僧自身が、一番自分が特殊な事を理解しているだろう?(われ)もこういった相手は初めてでな。どうするのが正解か悩んでおるのだよ」


 顎に手を付き、レオの体を頭の先からつま先までじっくりと眺めるヴィデレ。


「ふむ、二十秒と言ったところか」

「は?」


 ヴィデレから唐突に告げられた数字にレオの口から素っ頓狂な声が漏れる。


「小僧が私の本気に耐えられる時間だよ」


 ヴィデレは顎を突き出し、ヒカルがよくレオに見せるニヤニヤとした人を小馬鹿にする笑みでレオを見下す。

 わかりやすい挑発だが、レオは敢えてそれに乗る。


「面白い。全知と呼ばれるの貴様が知らないことを俺が教えてやる。【ギアス】」


 レオは【ギアス】を展開すると、一気に四つの魔術陣を握り潰す。

 潰したと同時にレオの体から黒い靄が立ち昇り、レオを中心に訓練場の空気が張り詰めたものに変わる。


「一、二、三…」


 ヴィデレがゆっくりと数を数えていく。

 数をカウントする度にヴィデレから放たれる殺意が増していく。


「【|雷鳥肘貫】」

「ほう?」


 まさに雷速。

 入学式で見せたよりも桁違いの速さでヴィデレとの距離を詰める。

 レオはこれまで、ただ力強く地面を蹴り、ポテンシャルに任せて素早く飛び出していたに過ぎない。

 だが、今のレオは足運びから体の使い方まで、この短い間で動きの無駄を削いだ。

 歩法の真髄を理解し、極めたからこそできる技。

 音は無く、そこに残るは静寂のみ。

 歩法の極み【静地】。

 経った一週間でこの域まで辿り着くレオの才能に、ヴィデレも感嘆の声をあげる。


「だが小僧、貴様の弱点はその速さを捉えられたら何もできないことだよ」


 ヴィデレの深みのある鮮やかな深紅の瞳が、時間の経った血のような朱殷(しゅあん)色の瞳へと色を変える。朱殷色へと変化した瞳の奥には金色に輝く六芒星が刻まれており、不気味に輝いている。


「───疾ッ!」


 レオはヴィデレの懐へと侵入し、肘に浮かぶ魔術陣をヴィデレの鳩尾へと打ち込む。


「決まったと思ったか?」

「なっ…!?」


 レオがヴィデレの鳩尾に肘を打ち込んだ瞬間、ヴィデレの姿が消え、逆にレオの鳩尾にヴィデレの膝がめり込んでいた。


「私はただ膝を置いただけ。小僧自身が私の膝に飛び込んできたんだぞ?」


 ヴィデレはレオの襟首を掴み、引っ張ることでヴィデレの膝は更にレオの鳩尾へと深く突き刺さる。


 ヴィデレの言った通り、ヴィデレはレオの鳩尾の場所に膝を置いただけ。

 ただそれだけで、レオは雷速でヴィデレの膝に自ら飛び込んだ形になる。


「がはっ…ごほっ、ごほっ…」


 急所を抉られ、その場で膝から崩れるレオ。

 胃液が喉を逆流し、必死に飲み込むも、肺の酸素が足らずに上手く飲み込めず噦くレオ。


「まだ意識があるか」


 感心した声をあげるヴィデレの顔をレオは霞む視界で見上げる。

 ヒカルが新しい玩具を与えられたように喜ぶのなら、ヴィデレは乱暴に扱った玩具がまだ壊れていないことを喜ぶように笑う。

 実際に肌で感じた実力差にレオの全身の毛は逆立ち、その身は恐怖で染まる。


「おっと、ウカウカとしていたら二十秒を過ぎていたな。確かに私の知らないことを教えてくれたようだ」

「っ…。」


 瞳の色を元に戻し、レオに視線を合わせてしゃがむヴィデレ。

 レオはそこで初めて二十秒が過ぎたことを実感するが、その喜びはどこにも無い。全身に痛みが常に走り、呼吸をする度に肋骨が痛む。

 

「ほれ、立てるか?」

「…必要ない。」


 ヴィデレの差し出した手を払い除け、ふらつきながら立ち上がるレオ。


「私相手に三分耐えられるようになれば侯爵くらいまでは倒せるだろうよ」

「三分か…。」


 経った二十秒で、一撃足りとも与えることができずに地を舐めさせられたレオ。

 ヴィデレの三分は、逃げ切って三分では無く、自分と対等に戦った状態での三分を示している。

 今では想像もできない高い壁にレオは実感の湧かないまま、自分の手を見つめて、握ったり、開いたりを繰り返す。


(若者の心を折るのは良くないが、これも事実。これくらいで折れているようじゃ先は無いぞ小僧?)

「ハッ…!面白い。」


 心の中で心配をしていたヴィデレを他所に心底楽しそうに笑ったレオはヴィデレに自分に、右手の手のひらを広げ、突きつける。


「五日だ。五日以内にクリアしてやる。」

 

 そうレオが強く言い放った時、ヴィデレの心は大きく高鳴った。

 ヴィデレは、半年以内に三分をクリアすれば問題ないと思っており、少しずつ教えながら成長していけばいいと考えていた。

 だがレオは、自らその期限を短くした。

 ヤケになった訳ではない。先の見えないはずの大きな壁を前にしても、折れるどころかその先の先を見据えている。

 自身の成長と闘争に飢えた獣のような目をするレオは、まさに餓狼と呼ぶのが相応しかった。


 自分の予想を越えるレオに改めてヴィデレはレオを自分の手で育てたいと心から思った。


「戯言をほざくなら、まずは『気』を使うことからだな小僧」


 レオに対して厳しい言葉を吐くヴィデレ。

 だがその顔には隠せぬ笑みが浮かんでおり、その笑顔は見た目相応の少女のような可憐なものだった。



「時間通りだなカーリ」

「はい師匠!」


 学園の裏手、トロールの現れた例の森の山頂付近にある少し開けた場所にビスティアとカーリは来ていた。


「いきなりだが、戦いで勝つのに必要なものって何か分かるか?」


 ビスティアは足元に転がっていた石を手に取り、手の中で転がしながらカーリに問う。


「レオは頭を使うことって言ってたような…レックス先生は筋肉だって言ってました」

「確かに戦闘で頭を使うことや、基礎の筋肉は必要だ。だけどよカーリ、俺が言ってるのはもっと根本的なものだぜ」

「根本的…強い心とか?」


 カーリの答えを聞いてビスティアは面白そうに破顔する。

 それを見て不思議そうな顔を浮かべてビスティアの顔色を伺うカーリ。


「馬鹿野郎!」

「ぶべしっ!?」


 ビスティアは持っていた石を持って振りかぶると、カーリの眉間目掛けて思い切り投げる。

 弾丸のようにビスティアの手から放たれた石はカーリの眉間を狙い通り撃ち抜き、カーリはその衝撃で空中でニ回転ほどした後に間抜け声を出しながら地面に倒れる。


「心で勝てたら誰でも勝てるわボケ!!!」

「え、えー…」


 滅茶苦茶な物言いで怒鳴るビスティアに、流石のカーリでも微妙な顔を浮かべながらおでこを抑えている。


「『初撃一撃(しょげきいちげき)』。相手が攻撃するよりも早く、必殺の一撃を相手にぶつけろ。相手がどんなに強くても、一撃で決めちまえば関係ねぇ!自分の全てを一撃に込めて最速の攻撃を一番最初にぶつける!出し惜しみなんてしてたらこの世界は生きていけねぇぞ?」


 特にお前は弱いしなと付け加えて、ビスティアは高笑いする。


「初撃一撃…一撃で相手を倒す…」

「カーリ。本当は俺だって戦い方の基礎や、心構えとか教えてやりてぇんだが、時間が無ぇんだよ。」

「時間…」


 ビスティアはカーリの視線に合わせてしゃがむ。

 カーリの目の前には、今まで見た事の無いほど真面目な顔したビスティアに、カーリも気を引き締めてビスティアの目を見つめる。


「あと半年。あと半年でお前はあの貴族の坊主と同じ舞台に立たないといけねぇことを理解しろ。」

「レオと同じ舞台に俺が…?」

「これから始まるのは確実に歴史に刻まれる大偉業だ。お前程度の実力じゃ途中で死ぬのがオチだな」


 残酷だが、ビスティアに言ったことは全て事実。

 カーリは金色のオーラを使いこなし、入学当初とは別人のように強くなった。

 だが、それでもレオが【ギアス】二つ解放したのと同等かそれ以下。

 平民出身でこれほどの実力は年齢に比べると破格と言えるが、これからレオがしようとしている事は年齢が言い訳になるようなぬるい事ではない。

 カーリがレオと一緒に戦うには最低でも【ギアス】四つと同じ位の力は必要なのだ。


「俺がこの半年でお前に教えるのは立合術。最速最強の一撃で敵を斬れ!」

「はい師匠!!」

「本来なら学園長が使う『カタナ』みたいな片刃がいいんだが、お前は両刃の剣で練習しろ。早速抜剣、千本!」

「はい!」


 お互い顔を合わせて笑い合うビスティアとカーリ。

 「馬鹿(カーリ)馬鹿(ビスティア)を重なればいい感じになるんですよねー!」と言っていたヒカルは間違いではなく、二人の相性は最高と言えるだろう。


 結局、予定の五倍の量を抜剣したカーリと、それを見ていて我慢出来なくなり自分も訓練を始めたビスティア。

 歯止めが効かなくなった二人が帰ったのは次の日の朝だった…。


今回はちょっと短めです。

久しぶりに五千字以内で話を書いたと思います。

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