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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第十二章 雪辱戦
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episode188 マードック・ドローング間の戦い【四】

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

「これで七日…残り半分…」


 ニスルは遂に七日の足止めに成功していた。

 二週間のうちの七日。短く、そして長い折り返し。

 ニスルの作戦は今のところ全て成功し、通常ならば四日で辿り着ける【マードックの深谷(ふかや)】に帝国軍は一週間かけてようやく辿り着いた。


 実際、ニスルがやろうと思えば一週間程【ドローング山】で足止めが可能だった。だが、ニスルは敢えてその作戦を実行しなかった。

 それは何故か。

 援軍の到着の関係である。帝国軍が進めば進むほど援軍が到着する時間は早くなる。だが、進軍を許しすぎればマードック領内に被害が出てしまう。マードック領までギリギリまで近づけ、帝国軍を二週間足止めする。

 賭けな要素も出てくるため難易度は高く、失敗のリスクは大きい。だが、帝国軍に勝つためにはそれが必要となってくる。その駆け引きを完璧に調整するのもニスルの才能、そして実力だろう。


「敵は谷の下に一つ…上に左右に一つずつ軍を展開しています…」


 帝国軍は現在、王国から人為的な足止めの介入があると察知していつでも対応出来るように軍を三つに分けている。

 谷の上は左右が森に挟まれており、足場が不安定で大人数が通るには適しておらず、自然と谷の底を通ることになる。だが、谷の上から弓矢で攻撃されてしまえば一網打尽。谷の底はそこそこの広さがあるとはいえ、動けるのは前後のみ。挟まれでもすれば、一巻の終わりだ。

 故に帝国軍は上からの攻撃に備え、谷の上の左右に軍を回し、警戒を強めていた。


「臆することはありません…作戦開始です」


 ニスルの合図と共に谷の上に存在する左右の森からそれぞれ五百人が飛び出す。

 ニスルの合図で飛び出した千人は全員が体を草木でカモフラージュをしており、体に森の土を刷り込んで体臭を消している。


 ニスルが万全の体制である帝国軍に取った新たな作戦は『間引き』。

 谷の上に配置された帝国軍は約二千ずつ。その二千人を五百人で奇襲をかける。

 敵の奇襲から相手が立て直すまでの時間は、約三分と言われている。なのでニスルは三分間、敵兵を倒せるだけ倒し、一気に撤退をする。

 相手を一気に全滅させるのが目的では無く、少しずつ少しずつ着実に敵兵を減らしていく。

 谷の上ならば、谷下からの援護はない。存分に奇襲がだきる。


「て、敵襲ー!!」


 いち早く気がついた帝国兵が叫ぶが、ロングソードで鎧ごと吹き飛ばされ、短剣で鎧の隙間から喉を掻き切られる。

 ニスル達は完全に勢い付いている士気の上がっているメンバー。対して帝国軍は寝不足に過度なストレスで判断力が鈍っている。

 その差は明らかで、帝国軍が一秒反応が遅れただけで、ニスル達は帝国兵を一気に刈り取っていく。


「撤退…」

「撤退ー!撤退ー!!殿(しんがり)は俺が務める!急げ急げ!」


 森の中に隠れ、奇襲の様子を見ていたニスルは、近くにいた兵に撤退命令を出す。


「思ったよりも立て直しが早かった…流石の帝国兵も一枚岩とはいきませんか…」


 撤退しながらニスルは手元の懐中時計を見つめて呟く。

 二分三十九秒。これは今回奇襲をかけられた時間だ。

 ここから奇襲を重ねていくうちにこの時間は短くなっていき、危険度が増す。


「それでは待っている千人に作戦を…」

「はっ!」


 そしてニスルは、この奇襲を交代制にした。まず千人が奇襲をかけ撤退をしたら食事、睡眠を取り、次のポイントへ向かう。

 その間に残りの千人が奇襲をかけ、同じく撤退をして休養を取るといった形だ。

 そして奇襲のやり方も複数用意しており、ニスルは今日一日で後最低でも三回は奇襲をかけるつもりだ。


(明日は恐らく貴族が出てくる…)


 ニスルは伝達役の兵の背中を見送りながら、険しい顔を見せる。

 ニスルの予想では明日には帝国軍お抱えの貴族兵が登場し、こちらにも少なくない被害が出る。

 それを防ぐためには同じ貴族であるニスルが出る必要があるのだが、ニスルは伯爵だが、頭の良さは公爵級で、戦いの方は子爵級だ。ニスルがどれだけ足掻いても子爵を一人、男爵を三人が限界だろう。


(貴族はプライドの高い生き物…そこを活かせば…)


 帝国軍の中には公爵級が三人、侯爵級が五人、伯爵級が三人、子爵級が十人、男爵級が十七人といったところだ。

 これを上手く封じ込められれば、被害が少なく、ニスルとしても笑顔で事を運べる。


「さて…秘策といきましょうか…」



 全てはニスルの予定通り進み、帝国軍に奇襲を四回かけたところでこの日の作戦は終了。


「来てくれましたか…」

「今、王国軍がこちらに向かっていル。あと五日もすれば着くだろウ」

「予想では六日だったのですがね…」

「こちらもかなり急いだからナ」


 そして夜が明けて早朝。一人の男がニスルの元を訪ねる。

 語尾がやたら強調された特徴的な喋り方をする三十代位のこの男、サラサラとした男性にしては長めの金髪に緋色の瞳。名はハールディア=マールス。マールス公爵家の当主だ。

 ハールディアはニスルと昔から交流があり、兄弟のような関係性で、ニスルが出した早馬に乗った兵から帝国軍の襲撃の事を聞き、逸早く戦場へと駆けつけたわけだ。


「それで俺はどうすればいイ?」

「今日…帝国軍の貴族が動きます…なので全員の相手を…」

「おいおイ、全員だト?」

「貴族には誇りがあり…面子を保つ必要がある…相手が同じ貴族で爵位が上でも勝たなければ意味が無い…だからこそ帝国軍は貴族の大半を導入するはずです…」

「公爵級もいるだロ?」

「います…。ですが…勝てます…」

「…弟分にそう自信満々に言われちゃやらないわけにはいかないナ」


 背中に背負っていた長細い袋を取り出したハールディアは、袋を取り、中から一本の槍を取り出す。


「【魔槍】…」

「格好いいだロ?」


 ハールディアは黒い槍を掲げると、ニスルに向かって笑顔を向ける。


「作戦は今から一時間後…お願いします」

「任せておケ」


 サムズアップをして子供のような笑顔を見せるハールディア。

 その笑顔はとても頼もしかった。

すみません、まだ続きそうです

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