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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第十一章 強さを求めて【後編】
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episode177 一振入魂

誤字脱字、ブックマーク、感想、レビュー、文書ストーリー評価等いただけると幸いです。

「【魔斬撃】」


 カーリは【八咫烏】を大きく上に振りかぶると、魔力を乗せて思い切り振り抜く。


「お前の正義はその程度か!」


 マールムは、自らの背後から無数に伸びる黒い腕を使い、魔力の乗った斬撃を受け止めにかかる。

 多くの人の命を守るため、その正義を振りかざしたカーリの力は底知れず。対軍級魔術を発動するのに必要な魔力と同等の魔力を込めた【魔斬撃】はマールムの黒い腕を次々斬り裂いていく。

 だが、斬れば斬るほど白金色の斬撃に群がる黒い腕。

 マールムまで後少しというところで、完全に勢いを殺されてしまう。


「【巻き上がれ 砂霧(アレーナ・ネブラ)】」

「ちっ、小賢しい!!【吹き荒れろ 突風インぺトゥス・ヴェンティ】」


 マールムの黒い腕が、カーリの【魔斬撃】を受け止めているほんの数瞬の間にカーリは次なる手を打つ。

 中級魔術の【砂霧】はその名の通り、砂を巻き上げ、視界を塞ぐと共に相手の目を潰す役割がある。少しでも油断して目を開ければ、砂に混じった大量の石片が襲いかかる。

 マールムは目を瞑り、魔術によって突風を起こすことでカーリの魔術を回避するが、カーリの姿を見失う。


「こっちだ」

「ッ!!」


 気配を探っている途中に後ろから掛けられるカーリの声に咄嗟(とっさ)に振り向くマールム。

 だがそこにカーリはいない。

 初級魔術である【そよ風ヴェントゥス・レーニス】の応用で、自らの声の通り道を作り、あたかも後ろから声がかかったように偽装したカーリ。これは、グラン戦でレオが使っていたものをカーリなりに真似たものだ。


(貰った…!!)


 一瞬の隙を見逃さず、マールムの死角から飛び出すカーリ。

 マールムの首目掛けて【八咫烏】を振り抜く。

 今のカーリは【勇者の魂】を最大限に引き出した状態。常に【加速(アッケレラーティオ)】を発動させ、その攻撃一つ一つが【一点集中】、今のカーリならばネーザに傷をつけた【極点集中】に近い状態にある。

 普通の人間ならば知覚することなく死ぬ。

 だが…


「間一髪…って訳でも無いか…」


 カーリの全力で振り抜かれた刀は、マールムの首を浅く斬っただけで終わる。

 マールムの首につけられた切り口からスーッと垂れる赤い鮮血。

 そして【八咫烏】を掴む何十本という黒い腕。


「後ろ、気をつけた方がいいんじゃないか?」

「…ぁがッ…」


 マールムは必死に刀を黒い腕から引き剥がそうとするカーリの死角へ一本の黒い腕を伸ばし、わざと見えるようにしてカーリの注意をそちらに集める。

 その瞬間、マールムの底掌(ていしょう)がフック気味にカーリの|顎に突き刺さる。

 ダメージはそこまででは無いのにも関わらず、視界が反転し、頭が上手く回らなくなったカーリは地面に膝を付く。


「お返しだ…オラッ!」

「ガハッ…!」


 (うずくま)ろうとするカーリの腹を心底楽しそうな笑顔を浮かべて思い切り蹴り上げるマールム。


「そうだ!その顔だよ!俺に怯えろ!何が起きたか分からない、未知との恐怖に心を折れ!!どうだ、俺は最高に狂ってるだろ!?」

「なに…が…」

「本当にこの世界の連中は馬鹿ばかりで困るぜ」

「ぅ…」

「戦いってのはより合理的に動いた方の勝ちだ。最小の動きで最大のダメージを生み出す。それを可能にするのは技術でも才能でも、経験でもない。知識だ。対人戦をやるなら相手をよく知るよりも先に人の構造についてよく知ることだな!」


 倒れたカーリに近づき、追い打ちとばかりに腹に蹴りを再び入れたマールムは、カーリの髪を無理やり黒い腕で掴んで立たせ、饒舌に語り始める。


 この世界の医学は、はっきり言って(つたな)い。

 時代の流れと共に進歩していかなければならない医学は、この世界では逆に廃れていく。

 それは回復魔術の発達に理由がある。

 腕の欠損だろうと、高位の回復魔術を使えば治る。大掛かりな準備と、多くの時間、成功率の低い医学が廃っていくのはそう不自然なことではない。

 例外があるとすれば、薬学に置いては回復魔術で病は治せないため、発達をしている。


「この世界の医学は酷いものだ。一流の医者なんてこの世界に両手で足りるくらいしかいない…医学がこの世界から無くなるのは時間の問題だな」

「それが…どうした…」

「分かってないな。医学ってのは戦いにおいて最も必要なものだ…お前ら『ただの』一流戦士は目や首、鳩尾(みぞおち)と股間の四箇所くらいしか急所を知らない。首を跳ねないと、心臓を刺さないと人は死なないと思っている…ほんと笑っちまうぜ」


 医学が発達していないということは、人体の構造について理解が及んでいないということ。

 故に、カーリは知らない。顎に強い衝撃を与えられると、テコの原理によって脳が強く揺らされて情報処理速度、注意力・集中力の低下が起こることを。

 カーリは知らない。人とは想像より遥かに(もろ)いものだと。

 だからこそマールムは戦闘において一番必要なのは『知識』だと言った。例え巨漢の男だろうと、知識さえれば針一本で小さな子供が殺してしまう。それが人間だから。


「もっと俺に恐怖しろ!畏怖の目で俺を見ろ!!そして俺をもっと狂わせてくれ!!」

「ぁぁぁぁぁあああああ!!!」

「チッ…!いいところなんだけどな」


 己の美学に心酔し、カーリから目を離した一瞬。カーリはフラフラの足で立ち上がり、マールムにタックルを食らわせる。

 マールムは舌打ちをしてそれを躱すと、一度カーリから距離を取る。


「へぇ…それが噂の…」


 カーリは、手に握っていた【八咫烏】を鞘へと仕舞うと、今一度構えを取る。

 マールムは、カーリの行動を見てすぐに察する。


 【初撃一撃】。


 カーリが誇る最強のカウンター攻撃。

 間合いを詰めたら終わり。一撃で全てを屠る。


「だが、その技は知っている。俺が易々とお前の領域に踏み込むと思ったか?お得意の【自迎(じげい)の型】も俺相手じゃ分が悪い。なぜか、それを俺は知っているから…結局、お前の間合いから距離を取って行動すればその一撃は俺には当たらない」


 『知識』があれば、初見など存在しない。

 遠距離攻撃をされれば終わり。

 距離を取られた終わり。


 だがカーリには、この三ヶ月間に生み出した新しい技がある。

 師であるビスティアから受け継いだ技。


 全ての力を一撃に込める絶対に避けられない『不避』の一撃。最強のカウンター【初撃一撃】。


 最強のカウンター【初撃一撃】を攻撃手段として応用した自ら間合いを詰めるカウンター【自迎の型 初撃一撃】


 圧倒的な再生能力を誇る魔獣すら葬る。最速にして最多の連撃。最強の攻撃【一気刀千】。


 そして、【初撃一撃】の上を行く一撃。最悪、体を壊しかねない諸刃の(つるぎ)



 カーリは駆け出した。


 

 残像を残すほど素早い動きでマールムに向かって走り出す。

 足は前に。だが体は相手に背を向けるという立合ではありえない体の捻り。

 手首、肘、肩、背筋、腰、膝、足首の捻りを加え、一瞬のうちに爆発的に加速するその体から遠心力を使って更に加速した刃が相手を襲う。

 


「【一振入魂(いっしんにゅうこん)】」



久しぶりの戦闘シーンは、筆が走ります。

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