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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第十一章 強さを求めて【後編】
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episode173 ギスギス

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

「なるほどな、それはこっちにも非があるが…カーリ、お前さん嘘はいけねぇな」

「ごめんなさい…」


 カーリから全ての事情を聞いたシキデンは、肘掛に体重をあずけて目の前に正座して座るカーリの目をじっと見つめる。


「元を辿ればお前さんに嘘を付かせた原因はワシだ。『桜宮の変』はワシの楽しみで毎月の恒例とは言え、他所様に迷惑をかけるのは良くねぇ…俺が確認してなかったのも悪い…が、分かるよな?」

「はい、報告するべきでした」

「まあいい。できちまったもんはどうしようも無い。結果的に誰も損はしてない…だが、アイツには何て言うかなぁ」


 『刀の店』の店主は、マツナギのお爺さんで、娘には刀鍛冶という仕事をさせたくないと願い、マツナギの店である『刀屋さん』に客が行かないように根回ししていた。

 シキデンもそれを知っており、それを承諾していたため、マツナギが刀を打ったとなると何て説明すればいいのか悩むところだ。


「女の子らしいことをして欲しいってのは分かるんですけど、なんで本人の意志を無視するんですか?」

「親心って言えばそれだけだが、アイツは一人娘に刀鍛冶を教えている途中に、不慮の事故で娘が亡くなっているんだよ。その娘の弟の娘がマツナギってわけでな、アイツは娘にもっと幸せな女の子らしいことをして欲しいと心から願ってんだよ」

「そうだったんですか…」

「俺も戦争で息子を亡くしてるからよ、子供失う痛みってのは分かるんだ。本当ならこんなことするべきじゃねぇこは分かってるんだけどよ…」


 声のトーンを落として顔を伏せるシキデン。

 カーリは和国に来て初めてシキデンの沈んだ顔を見た。


「……」

「今日あたりにでもアイツに説明しに行くか…カーリ、お前さんも着いてこい」

「一ついいですか?」

「なんだ?」

「確かに嘘を付いたのは本当に俺が悪いです、けど…俺、この刀が好きです。この刀を、マツナギさんが作った刀をもっと色んな人に認めて欲しい…それに、マツナギさんは心の底から刀が好きです。お爺さんが好きです…だから、俺はシキデンさんに嘘をついたことは謝りますが、そのお店の人には謝りません」

「何?」


 カーリの言葉を聞いてシキデンの雰囲気が明らかに刺々しいものに変わる。

 肌を突き刺す威圧感。「これ以上ふざけたことを言ってみろ。殺すぞ。」といった言葉が鋭い眼光から伺える。


「俺はマツナギさんの味方をします。俺も多くの仲間を失ってきました。人を亡くす痛みがどれだけ辛いか分かっています…ですが、その人に何があったとしても、たとえ親心だとしても、誰かの夢を、誰かの決めたことを曲げるのは絶対に間違っていると思います」


 だが、カーリは一歩も譲らない。


「これは俺の勝手で、破茶滅茶で、理不尽で、我儘です」


 そんなことはカーリも百の承知だ。

 実際問題、マツナギの刀鍛冶についてはカーリが口の出すような問題では無い。完全な部外者だ。

 だが、カーリは譲れない。生き生きと楽しそうに刀を作るマツナギの姿を見てしまったから。


「でもそうやって誰かのやりたいことを誰かが禁止するのは、勝手で、破茶滅茶で、理不尽で、我儘だと思います。例え親友だろうが、親だろうが、国王様や神様にだって誰かの夢を閉ざす真似はしちゃいけないんです」


 カーリには夢がある。


 レオを越えること。

 ロゼと幸せになること。

 師匠のために王国を変えること。

 勇者として一人前にになること。


 それらも全部カーリの夢の一つ。だが、カーリは大きな夢がある。


 『多くの人を笑顔にすること』


 マツナギが幸せそうに笑顔で刀を作っているのを見てしまったから。カーリは、マツナギの笑顔を守るために我儘(正義)を貫き通し、神をも敵に回す。

 見知らぬ誰かのために全てを捨てることが出来る。それがカーリという人間だ。


「だから俺は謝りません。むしろ、マツナギさんにもっと刀を作れるようお願いします」

「ワシと殺り合ってもか?」

「はい。例え俺が死んだとしても、この正義(我儘)は死んでも突き通します」


 カーリの真剣な目に、シキデンがこれ以上何も言うことは無かった。



「離して!」

「聞き分けろ!お前の為を思って言っているんだ!」

「この声は…」


 結局睨み合ったまま、時間になって無言でカーリとシキデンの二人は酒場へと足を運んでいた。

 だが、酒場の中に入るなり、言い争う声が聞こえ、カーリは酒場の奥の方を見る。


「マツナギさん」

「お兄さん…」

「何をしておる」

「シキデンじゃねぇか…」


 言い争っていたのは、マツナギとその祖父のオマツ。

 二人の間に割って入ったカーリとシキデンは、二人から事情を聞く。


「お兄さんに刀を作ったのをお爺ちゃんにバレて…」

「二度と槌を握るなと言ったはずだ」

「お爺ちゃんはいつもそればっかり!私の気持なんてどうでもいいんでしょ!」

「儂はお前のことを思って!」

「違う!自分が傷つきたくないだけ!」


 事情を説明してすぐにヒートアップしていく二人の言い争い。


「取り敢えず落ち着け、ここは酒場であって身内揉めをする場所じゃない」


 マツナギとオマツはハッとして周りを見渡すと、気まずそうに酒を飲む他の客や、店員を見て申し訳なさそうに顔を伏せる。


「取り敢えず二人とも座って落ち着きな」

「「……」」

「はぁ…今日は怒られに来たつもりなんだが…」

「おい、シキデン」

「なんだ」

「その小僧が、マツナギが作った【八咫烏】の所有者か?」

「そうだ」

「おい小僧…あんまり調子に乗ると潰すぞ…」

「そうやってすぐ若い男に脅しをかける。そういうところ嫌い」

「これも悪い虫が付かんようにだ!」

「そうやってまたお前のためだって言うんでしょ!ほんとやめて!!」

「なんだと!!」

「だから二人とも落ち着けって…カーリ、お前さんはマツナギを連れて別の場所に行け、二人一緒だと埒が明かない」

「分かりました」


 すぐに言い争いになる二人に呆れたため息を付くシキデン。カーリにマツナギを店から連れ出すように言うと、オマツを宥めるために酒を準備する。


「マツナギさん…」

「もう知らない!」


 店から足早に立ち去るマツナギを追いかけてカーリも店を後にする。


 こうしてギスギスしたまま夜が更けていく。

祝3万pv突破!皆様のおかけです!ありがとうございます!

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