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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第十一章 強さを求めて【後編】
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episode168 裸のド付き合い

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

「あれ…?」


 マツナギの店を後にしたカーリは、先程の露店の男性に礼を言おうと通りに戻ってきたのだが、男性はおろか、露店まで跡形もなく無くなっていた。


「お礼言いそびれたなぁ、まぁ、また会えるか」


 カーリは和国に五ヶ月間滞在するつもりだ。そのうちどこかで会えるだろうとカーリは城に向かって歩き出す。


「それにしても、シキデンさんには何て言おうかな…」


 面倒事を避けるためにやった結果が刀の事もよく知れ、刀も作ってもらえるので万事解決だったが、シキデンの紹介を蹴ってしまったカーリ。


「素直に謝るべきか…それとも…うーん……」


 腕を組んで(うな)り上げて悩むカーリ。

 そんな時、レオのある言葉が頭に浮かぶ。


「『物事を円滑に進めるための嘘はあり!』」



「『桜宮の変』があったから貰ってくるのは三日後くらいになると思ってたが、お前さんの熱意が伝わったみたいだな!」

「はい!頑張って説得しました!」


 嘘である。


「どうだ、気難しい奴だろ」

「でも、とてもいい方でした!」


 嘘である。


「そうかそうか、アイツはワシの昔馴染みでな。根は良い奴なんだ。気に入ってもらえたようでなによりだな」

「はい!今から刀が出来るのが楽しみです!」


 これは嘘ではないが、頭の中に想像しているのはシキデンと異なっている。


「そんじゃあ、修行と行くか」

「はい!」


 終始笑顔を絶やさなかったカーリ。内心はドキドキであった。



「刃の方向が逆だ。刃の方を上にして抜刀するんだ。」


 そこからシキデンの厳しい修行が始まった。


「刀は剣だが、お前さんが今まで使ってきた剣術とは異なる。それはもう槍と弓くらい違う。今までのことは全部忘れろ」


「抜刀する時に鞘を手前に引くんだと何度言えば分かる!次は水平斬りだ!」


(たわ)け!鞘で角度を変えるな!切っ先をどれだけ鞘に残すかのその一瞬を見極めてやれ!鞘の角度を変えたら斬り上げの時に軸がブレるだろうが!!」


「抜刀した後に左手で鞘を体に引き付けろ!そうしないと次の動きの時に邪魔だろう!」


「柄を握り込むな!!右手を(つば)ギリギリに添えるだけでいいんだ!握る混むのは抜刀した瞬間だ!!!もう少し頭を使え阿呆!!」


 城の庭を使って行われているシキデンの修行。

 最初はゆっくり丁寧に教えてくれていたシキデンだったが、どんどん熱が入り、城全体にシキデンの声が響く。


「はぁ…はぁ…抜刀の基礎だけでもう十時間…」

「阿呆、刀において抜刀こそ始まりにして終わり。ヒカルからの書状に書いてあったが、お前さんは立合いのカウンターを使うのであろう?なおさら大切だ」

「確かに…」

「だがもう夜が更けたな…」


 既に時計の針はてっぺんを回っていた。


「腹…減ったな…」

「夢中で気づかなかったが、昼飯も夕飯もまだだったな」

「これじゃあ夜食ですけどね」

「厨房に用意してあるはずだ。冷たいが、味は保証するぞ」

「楽しみです」


 先程から鳴りっぱなしのお腹を抑えてはにかむカーリ。

 共鳴するようにシキデンの腹も鳴り、二人で厨房へと向かう。



「美味いか?」

「はい!」


 夕飯はカーリが想像していたものとは違い、かなり質素なものだった。

 ヒカルが好んで食べている白米に、大豆を発酵させた『ミソ』を使ったスープ、そして野菜の漬物。

 どれもリベリオンで見た事のあるようなものばかり。ここで目新しいものが出てきても、困るのでカーリ的にはありがたい限りだ。


「お代わりは沢山あるからどんどん食え、食事は心を癒してくれる」

「はい!じゃあ遠慮なく」


 茶碗に大盛りのご飯を木のしゃもじでよそうカーリ。漬物と一緒にかき込むようにしてどんどん食べている。


「そう言えばシキデンさんは、刀の扱いって誰から習ったんですか?」

「ん?あぁ、ヒカルだよ。ワシがまだお前さんくらいの時に教えて貰ったんだ」

「そうだったんですね」

「まあだが、刀術はワシが作ったと言ってもいい。ヒカルは刀に関する知識はあったが、他はさっぱりでな。掻い摘んだ知識しか無かった」

「…???」

「あぁ、刀術ってのはヒカルの元の国で発展したモノらしいんだが、ヒカルはそれを習ったことが無かったらしく、書物としての知識しかもってなかったんだよ」

「なるほど」

「だから滅茶苦茶苦労したぜ」


 懐かしむように口元に笑みを浮かべるシキデン。

 カーリは、意外な刀術の発展に興味津々だ。


「刀を合理的に扱うには…って考えてワシが作ったからな。異界の刀術とは大きく異なるかもしれん。一度でいいからこの目で見て、向こうの『さむらい』と手合わせしたいものだ」

「長年の夢ってやつですか?」

「そうだな、死ぬまでには叶えてぇな」

「異界の人ってどれくらい強いんでしょうね…」

「一般人のヒカルがあの実力だ。ワシ達の想像を越えた力を持っているんだろうよ」

「学園長レベルがあちこちにいるってちょっと怖いです」

「その割には顔がニヤけてるな」

「シキデンさんもニヤけてますよ」


 顔を見合わせた時から互いに直感していた互いが生粋の戦闘狂であること。

 ヴィデレ曰く、『扉を開ければ開けるほど戦闘狂に近づく』。

 扉を開けることが出来るのは才能と努力を兼ね備えた者。つまり、強くなるために必死で、その力を誇示したいものばかり。

 上を知れば、それを越えるために修行を繰り返し、負けたとしても死ぬまで挑み続ける、一言で言えば『阿呆』共。

 カーリとシキデンは顔を合わせた瞬間から二人の気持ちは一致していた『戦いたい』。


「うずうずして仕方ねぇ、明日早速戦うぞ」

「そう来なくっちゃ面白くない!!」

「今日は俺も機嫌がいい!!明日の戦いが楽しみだ!!」


 この光景をレオが見たとしたら、さぞ混ざりたかっただろう。


「よし、腹も膨れた。風呂入って寝るぞ!カーリ、背中流せ」

「はい!裸のド付き合いですね!」

「分かってるじゃねぇか、手加減はしてやるかかってこい」


 裸の付き合いじゃないのか。とかツッコミを入れたいとこれだが、生憎ツッコミ役は不在。

 阿呆が二人。肩を組んで大笑いしながら城の廊下を歩いていく。


最近ブックマークやPVが伸びてきているのでとても嬉しい限りです。少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします。

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