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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第十一章 強さを求めて【後編】
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episode166 刀屋さん

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

「どうしたもんか…」


 面倒事を避けるために店から避難したカーリは、『城下町』を歩きながら腕を組んで悩んでいた。


「シキデンさんのところに戻るにも、二人の仲が悪いんじゃ相談したところで…って感じあるしなぁ」

「兄ちゃん兄ちゃん、そこの格好いい兄ちゃん」

「呼んだか?」

「格好いいに瞬時に判断するあたり、性格は格好良くないな兄ちゃん」

「師匠に格好いい兄ちゃんと呼ばれたら自分だと思えって教えがあったからな」

「随分ピンポイントな教えだな」


 悩んでいたカーリに声をかけたのは、道端に露店を構えていた一人の中年の男性。

 シキデンの着ていた鮮やかな着物とは違い、鼠色の着物を着流し、白い十字模様の入った藍色の羽織りを着ている。


「先に言っておくけど、俺はそんなに金無いですからね」

「おっといけねぇ、声をかける相手を間違えたかね。ここじゃあ軍服なんて珍しいでしょ?どっかの国のお偉いさんかと思ったんだがね」


 カーリはいつも通りヒカル手製の軍服を身につけている。

 レオの『普段から周りの目を意識しろ』という方針で、外に出る時は必ず軍服を着用する決まりになっており、何よりも一国の長であるシキデンと面会とするとあっては軍服を着ない訳にはいかないだろう。

 そのおかげで目立っているが、この軍服は下手な鎧よりも強靭で、機能性にも優れているため普段から慣れておくのが吉だろう。


「王国反乱軍リベリオン、遊撃部隊『ファトゥウス』が頭、カーリとは俺のことだぜ」

「てことは、ヒカル様の直々の部下ってことかい?」

「部下とは違うけど、一応俺の師匠の師匠が学園長…ヒカル様だよ」

「孫弟子ってことか!さっきは声のかける相手を間違えた、時間を無駄にしたなと思ったが、俺の人を見る目は確かだったようだな!」

「それを本人を目の前にしていうことじゃないってのは、馬鹿な俺でも分かるぞ」

「悪ぃな、俺はガキの頃からこの仕事してるんで、学がねぇんだわ。人あたりの良さでなんとかしてきたからな」

「初対面で罵倒する人を人あたりがいいとは言わないと思う」

「確かにそうだ」


 カーリの言葉に純粋に笑ってみせる男性。カーリと同じく人懐っこいその笑みは、確かに自然と人が集まりそうな雰囲気だ。


「それで兄ちゃん、さっき『刀の店』から出てきたけど、なんか用だったのか?」

「シキデンさんの紹介で刀を作ってもらおうと思ったんだけど、どういう訳か仲が悪いみたいで」

「あー、この前『桜宮の変』があったからな」

「『桜宮の変』?」


 聞きなれない単語が男性の口から出てきたので、小首を傾げるカーリ。


「あぁ、『桜宮』っていうのは酒場の名前で、そこで二人がしょっちゅう飲み比べしてんだけど、そこで負けた方の機嫌が一ヶ月悪いから大『変』周りが困るから『桜宮の変』。この前はあそこの店主が負けたから後三週間は店をまともに運営しないだろうな」

「まじかよ…はぁ…」


 本当にどうでもいい、しょうもない理由にカーリは呆れ果てて、遂にはため息がこぼれる。


「ちなみにシキデン様が負けると一ヶ月国の運営を放ったらかしにする」

「それでよく殿様できるよな!?」

「まあ何十年も前からのことだから皆、慣れてんだよ」

「慣れって怖いな…でも、どうしようかな」


 困り果てたカーリは、頭をガシガシと乱暴に掻く。


「あー、うーん、どうしたもんかねー」

「ん?」

「兄ちゃんなら…でもなぁ…」


 突然、何か含みのある悩み方をする男性に、カーリは不思議がって聞いてみる。


「そこの真っ暗な細道があるだろ?あそこを抜けた先に、そこの『刀の店』と同じくらい腕の立つ刀鍛冶がいるんだよ」

「もっと早く言ってくれれば良かったのに!水臭いなぁ!」

「その店は、『刀の店』の店主の孫娘がやってんだけどよ、店主が孫には女らしく生きて欲しいらしく刀鍛冶にずっと反対してたんだが、最近その孫娘が店を出したんだ。店主はどうしても孫娘が刀鍛冶をやるのが反対らしくてな、周りに圧力をかけて店にいかないようにしてんだ」

「なるほどな」

「兄ちゃんなら余所者(よそもの)だし、大丈夫だとは思うんだけど…あとが怖いんだよなぁ」

「大丈夫大丈夫、絶対言わないからさ!」

「うーん、それならいいんだけどよ」


 中々渋る男性を説得してカーリは情報を聞き出す。

 男性の話から察するに、孫娘の方の店に行けば、『刀の店』よりも円滑に話が進められそうだと感じたカーリの心はもうそちらにしか興味が向いてない。


「そこに店の名前は『刀屋さん』だ」

「遺伝って怖いな…」


 シンプルで分かりやすく、カーリにとっては好都合なのだが、身内でここまで来るとネーミングセンスの無さを疑うレベルだ。


「取り敢えず行ってみるよ!ありがとな!あ、金が出来たらまた買いに来るよ」

「おう、ありがとな」


 細道の方へ走っていくカーリに向かって笑顔でひらひらと手を振る男性。


「さて…リベリオンがこっちでも動き出したってことは…いよいよだな」


 カーリの姿が見えなくなると男性の顔から笑顔が無くなり、険しい顔つきへと変わる。


「まあ、せいぜい楽しませてくれよ」


 ニヤリと口元を歪ませた男性は、露店を離れて別の細道へと消えていく。怪しい影を残しながら。

カーリだけで一章使うので進み方がいつもに比べて緩やかです。

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