episode166 さむらい
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「それにしてもヒカルの野郎がワシに手紙だなんて珍しいこともあったもんだなぁおい」
「あ、レオからのも」
「レオ?あぁ、リベリオンとかいうのを率いてる奴か。生憎だが興味はねぇ、どのみちこの国はヒカルの一言で動くんだ。こんなもん無くてもヒカルが言えば老若男女問わず戦うぞ」
カーリが手渡した手紙をシキデンはビリビリに破いて中を面倒くさそうに見る。
「なるほどな、お前さんは和国に自分だけの刀を作ってもらい、刀ついて教えて貰おうと思ってこっちにきたと」
「はい!」
カーリが和国に足を運んだ目的。それは『愛刀』を作ること。
カーリは長らく自分だけの専用の剣をもたなかった。
レオならネーザ、ヒカルなら五光のように、カーリもそろそろ自分だけの武器を持ってもいいと考えたヒカルが提案したことだ。
「それでまたなんで刀なんだ?武器なら他にも沢山あんだろ」
「学園長が『男っていう生き物はねぇ!刀にロマンとドキドキが隠せないんですよぉ!』って。それで学園長の刀を見せてもらったんですけど、超格好良くて!俺も使いたいって思ったんですよ!」
「なるほどな…お前さんの刀を欲しがる理由が根っからの純粋な気持ちってことは伝わった。だがよぉ、それじゃあ刀は渡せねぇぞ?」
「え…」
「お前さんは今まで絶対的な信頼を寄せたことはあるか?」
「あります」
「なんでそいつを信頼した?」
「俺より頭が良くて、なんでもできるけど努力家で、負けず嫌いで、その生き方が俺の中で一番格好良くて、いつも正しい道を歩んでいるからです」
「それなりの理由があってお前さんは信頼できると、ソイツを選んだわけだ」
「はい」
シキデンは、自らの後ろに飾ってある一振の刀を手に取ると、刀身を半分ほど出してカーリに見せつける。
「それと同じでな、刀ってのは人を選ぶんだ。人が刀を選ぶんじゃねぇ、刀がワシたちを選ぶんだ」
「刀が、選ぶ…」
「渾然一体。人と刀は魂で結ばれる。ワシとこの刀『竜胆』も結ばれている。刀は剣であり、自分の写鏡。今のお前さんじゃ、刀はお前さんを選んでくれねぇよ」
シキデンは刀身を鞘に仕舞い、おもむろに立ち上がる。
「刀は女と一緒だ。構ってやらねぇと拗ねる。喜怒哀楽がしっかりあって、丁寧に扱わないとすぐに嫌われちまう」
シキデンは刀を抜刀すると、カーリに【竜胆】の美しさを自慢するように見せつける。
「面倒だが、その分優しく扱ってやれば、それだけ俺の想いに応えてくれる。こいつは俺にとって第二の嫁さんだ」
シキデンは、刀の棟の方を肩に置くと照れ笑いする。
「ヒカルの持っている【五光】は、誰が見たも世界で五本の指に入る剣だ。だが、それを俺が使ったところで鈍同然。だがな、一流の技術を持つヒカルが俺の【竜胆】を使っても鈍になっちまった。俺の【竜胆】は、剣の完成度だけなら【五光】に劣るのにも関わらずな。刀は俺達の言葉を理解している。不思議だろ?」
「凄く不思議です…」
「剣を扱う奴を人は剣士と呼ぶが、ワシ達は剣に選ばれた者。だからワシ達は自分たちのことをこう呼ぶのさ『武士』とな…それとさっきも言ったが刀は女と一緒だ。別の女の話をすると…殺されかねない」
シキデンは刀を鞘へ仕舞おうとすると、偶然か必然か、切先が鞘から逸れて横腹を掠める。
「覚えとけよ…カーリ…」
「血出てます!なんで笑ってるんですか!」
「ははっ、こんなのよくある事だ。女の嫉妬を受け入れられる男になれ…よ…」
「シキデンさーん!!」
☆
「ワシの話を聞いて刀についての考え方も変わっただろうから、取り敢えずここにいけ。ワシのマブダチがやってる店だ」
と地図を渡されたカーリは、城を後にして和国の中を歩き回る。通称『城下町』と呼ばれるここは、商工業の店が多く、人の往来がとても多い。
「えーっと、地図だとここら辺かな?」
カーリはシキデンから渡された手描きの地図を頼りに目的地に向かう。
最近ようやく地図の読み方を理解したのはカーリの密かな秘密だったりする。
「『刀の店』!これか!」
カーリがある一軒の少し大きな家の前で立ち止まる。
名前から分かるように刀の店だ。何故この名前にしたのか。そこにいささか疑問が残るが、カーリは特に気にした様子もなく、むしろ「分かりやすくていいな…」と思っている。
「すみませーん!シキデンさんに紹介されて来たんですけ…うおっ!」
「帰れ」
「いや…そう、言われてッ、もっ!困り、ま、す!!」
入口の暖簾をくぐった瞬間、カーリに投擲される短剣。
カーリはそれをなんとも器用にそれをキャッチして、丁寧に地面に置いて並べていく。
「シキデンからの紹介だぁ!?あの野郎の知り合いなんか信じられっか!!あのクソ野郎!二度と顔を見せるなと言っただろうに!」
「あれ…マブダチじゃ…」
カーリの頭の中に思い浮かべられたのは、ヒカルと同じく舌を少し出して、誤魔化そうとしているシキデンの姿。
なんとなく事情を察したカーリは、手を合わせて一礼すると暖簾をくぐって戻っていく。
なんとも素早い撤退。面倒事に巻き込まれないための一連の行動は、完璧だった。
「ぱっと作ってもらって、修行して帰るつもりだったんだけどなぁ」
最近ようやく地図を読めるようになったと同時に、レオの苦労を知ったカーリだった。
妖刀に憧れるお年頃。




