episode15 レオ
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入学式から二日後。
彼はヒカルに呼ばれ、学園長室へ足を運んでいた。
「急に呼び出してなんだ。」
「悪いね」
「こっちはギアを四つまで使ったおかげでまだ体が自由に動かないんだ。早くしろ。」
「じゃあ本題…というよりかは、細かい話をしよう」
学園があり、学園長がいるのなら当然学園長室は存在している。
味わい深いレンガ造りの本校舎の四階。
中は素朴なもので、個人の自室としては広い方だが、凄く広いというわけではない。
真ん中に縦長の低い机を挟むようにソファが二つ。
両脇の壁は本棚になっており、様々な書類や参考書類などが置いてある。
部屋の一番奥には、先ほどとは違う個人用の机と、肘掛のある高級感のある椅子。
机の上には乱雑と書類らしきものが散らばっており、羽ペンがそのまま転がっているためインクが書類に付きそうになっている。
入学式の一件から事故処理などで未だに色々とやらなければいけない要件が沢山あると見受けられる。
「昨日、王様のところに行ってきたよ」
「ああ、知ってる。」
「王様とは直接話せなかったけど、ロゼくんの身は安心してもらって構わない」
「貴様は?」
「まさか、私のこと暗殺しようとしましたよね?なんて聞けないでしょ?」
「…そうか。」
「まあ、聞けないは聞けなかったけど、喧嘩はちゃんと売ってきたから」
「…」
一時の静寂。
ヒカルはニコニコとしたまま机に肘を置き、頬杖を付いている。
「昨日から、退学したいって生徒や、退職したいって教師が増えていてね…。入学取り消しを希望する人もいて大変だよ」
ハハッと自嘲気味に笑うヒカル。
「王国に喧嘩を売ったんだ当たり前と言えば当たり前だな。」
「生徒は今までの約半分以下。教師は圧力でもかけられたのか、さらに少なくなってしまってね」
「補充の宛はあるのか?」
「まあね、週末あたりには纏めてみんなくるんじゃないかな?」
昔の弟子達を呼んだんだと、自慢げに微笑むヒカルに彼は呆れたような顔を見せる。
「そうそう、あの子達はどうする?」
「奴隷達か…解放するのが普通だが、解放したところで衣食住がしっかりしているわけではないしな。」
「やっぱり、ここの職員として働いてもらうのが一番かな」
「確かにそうだな。いや、何人か別の雇い方をしてくれ。あの中には戦闘経験者もいたはずだからな。」
「君にも考えがあるんだろう。わかった、そうさせてもらうよ」
「それと、俺の身の回りを世話をする小間使いが欲しい。」
「確かに、これから君も忙しくなるだろうからね。わかったよ。あとは…」
何だっけなと、机にある書類を手当り次第に調べるヒカル。目の下にクマを大きく作ってるものの、どこか楽しそうな表情を浮かべている。
「ああ、あったあった。君の今後の学園生活についてだ」
「迷惑がかかることは重々承知だ。貴様が言うのなら、学園を辞めさせられても文句は言わん。」
「前も言ったでしょ?止める必要は無いから安心して欲しい。今回のグランの件は私も怒りを覚えていてね…お仕置きも兼ねて君が国を変えるのには賛成だよ」
「国を変えることがお仕置きレベルか…。」
「これでも世界を救った英雄だからね。世界を救うのに比べたら、国を一つ変えるなんて簡単さ」
フッという短い笑い声が学園長室で重なる。
「取り敢えず、ここら辺の書類にサインをよろしくね」
「ああ。」
「それで、今回の件。君はどう思う?」
先程までのおおらかな雰囲気はどこえやら、学園長室をピリリと緊迫した雰囲気が包む。
「明らかに布石だろうな。戦力が足りなさすぎる。それに、あの森での件、そして文体祭の件とも繋がりがあるだろう。」
「私も同意見だ」
「あいつは愚王と呼ばれることが多いが、あれで頭が妙にきれる。そして、どんな行動にも保険をかけるタイプだ。」
「もし、君が仲間に加わることを過程しても、私を含め、職員たち全員を相手にしてロゼくんを連れ去り、本命である私の暗殺は確実性に欠けているね」
「あの魔術結界によっぽど自信があったと考えれば、それまでだがな…。今年の新入生の中…いや、もっと前から伯爵以上の貴族が紛れ込んでいると考えるのが妥当だろうな」
「そこら辺はこっちで用心しよう」
「助かる。」
「君からお礼の言葉を聞く日が来るとは思っていませんでした」
「俺だって礼くらい言う。」
少し拗ねた様子の彼。
そんな彼を見て楽しそうな顔をするヒカル。
「そういえば、新しい名前は決まったかい?やはり、これまで通りの名前だと不便だからね」
「ああ、俺はこれからレイオス=フィエルダーではなく…ただのレオだ。」
「いい名前ですね。わかりました。これからよろしくお願いしますレオくん」
「いずれ王国を変えた男として貴様のようにこの名を未来永劫この世界に残すだろうな。」
「それは面白い!今から楽しみだよ!君が国を変える英雄となるか、国を転覆させようとした犯罪者となるか…!」
「ハッ!笑わせるな。俺は英雄にも犯罪者になる気もない…俺はただ、守るだけだ。守りたいやつをな。」
人はそれを英雄と呼ぶんだよと学園長が言い切る前に学園長室を後にするレオ。
「いや~三百年ぶりに血が滾る!いや、四百年ぶりかな?どちらにせよ、楽しみだ!未来ある若人の英雄譚!!これほど心躍るものはないね!」
アハハハハ!とヒカルの高笑い学園長室を超え、外にまで笑い声が響き渡る。
「これでカーリくんが、レオくんに協力してくれれば一番楽しそうなんですけど、生徒に無理を強いるのはよくないですからね~…うーん、悩ましい!」
ヒカルは体重を後ろにかけ、椅子を傾けたり、直したりを繰り返す。
☆
レオが出ていってから少したった頃、学園長室のドアがノックされる。
「はいどうぞ」
「あの、失礼しま~す…」
「おや、カーリくん、ロゼくん、どうしたんだい?」
学園長室へ訪れたのは、先日の痛々しい傷を残したカーリと、いつもとは違ってフードを被らずに素顔を晒しているロゼの姿だった。
「あの、あいつってどうしてますか?」
「ああ、レオ君ね。さっきまでここにいたけど」
「レオ…?」
「彼の新しい名前。レイオスって名前は捨てたみたいだよ」
「レイオス…」
「レイオ…レオ様は、やっぱりこれから国を…?」
「そのつもりみたいだね」
「そう…ですか……」
自分に非があると感じているのか、申し訳なさそうな顔を浮かべるロゼ。
「ロゼくんが気にすることではないよ。これはレオくんが決めたことだからね」
「で、でも!」
「心配しなくてもいい。レオくんには、私が全面的にバックアップすると約束しよう」
安心してくれたまえと、微笑むヒカル。
「今後、レオくんは、この王国を変えるために動く。前のように手合わせはできなくなるだろうけどね」
「そのことなんですけど!俺も…俺も、そのメンバーに入れてくれませんか?」
「カーリくんが?」
「はい!」
「うーん…私的には生徒の自主的行動を尊重したいですが、この話は学園内に留まる話ではない。」
「わかっています!」
「本当ですか…?今回の件、本当に君は全てを、彼の気持ちを、彼のやろうとしていることを理解できていますか?少々厳しい言い方になりますが、彼がやろうとしていることは君が想像しているよりも遥かに大変です。」
「……」
いつになく真面目なヒカル。カーリに対して厳しい言葉を投げかける。
だが、それを目をそらすことなく、ヒカルの話を聴くカーリ。
既にカーリの中で覚悟は決まっているのだろう。
「君は、レオくんのために命をかけられますか?」
「はい!」
「私もかなり圧をかけながら問いた気がするのですが…命をかけられるかと聞いて笑顔で答えられたのは初めてです。」
少々呆れながら、諦めたような顔をした学園長は、すぐに真剣な顔に戻る。
「カーリくん!」
「はい!」
「私は大いに君にも期待をしています。一緒に頑張りましょう」
ヒカルの表情が崩れ、いつものにこやかな笑顔になる。
「頑張ります!」
ヒカルと固く握手を交わすカーリ。
その顔は覚悟と、これからもレオと一緒にいられる嬉しさで溢れていた。
「それでロゼくんはどうしますか?」
「え?」
ヒカルとカーリとのやりとりを後ろで静かに見ていたロゼだが、急に話を振られて戸惑いの声をあげる。
「ロゼくんは、カーリーくんのように彼と一緒に茨の道を歩みますか?」
「わ、私は…まだ…決められてません……」
「そうですか。ですが、それも大切な選択の一つです。決して強制はしないので安心してください」
「はい…」
申し訳なさそうな顔を浮かべるロゼの頭に手を置き、慰めるヒカル。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
少し和やかな雰囲気に戻った学園長室。
先ほどまでの切り詰めた雰囲気は無くなったようだ。
「そろそろ昼食が出る時間だね」
「あ、ほんとだ!」
「うん、カーリくんは明日の朝に第八訓練場に顔を出してね」
「はい!」
「失礼しました」
「気をつけて行くんだよ」
学園長室を去るカーリとロゼを見送ると、ヒカルはイスへと腰掛ける。
「さて、カーリくんも参戦か…なかなか私好みの展開になってきたかな?」
新しい玩具を買ってもらった子供のように嬉しそうに笑うヒカル。
「今日の夜あたりには、あの子達もこっちに着くだろうし、明日から楽しみな毎日だ」
始まりした二章!二章は一章よりも長めで、色々と新キャラも出る予定です!
これからも、タキリベを宜しくお願いします!