episode156 ギアス
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「答えは決まったか?」
「はい。私に『占い』と『口寄せ』を教えてください」
「いいのか?」
「私に今必要なのは、まず手数ですから。レオ様のように極めていくのは後回しです。少しでも役に立てることを増やしたいので」
「心得た。まずは『占い』からだな」
一晩明けて、朝になったと同時にロゼの元へ現れたスピーリトゥス。
ロゼからの答えに、何一つ驚きも見せず、淡々と答えて早速修行に移るスピーリトゥス。
今更ながらだが、とてもマイペースのスピーリトゥスにロゼはもう溜息すら出なかった。
☆
《巫女》の扱う『占い』はかなり特殊だ。
一般的な占いというのは良くも悪くも経験則がものを言うところがある。過去の『データ』と実際に目にした今の『データ』を元に、自己の見解を織り交ぜて未来や人の相性を見る。言うなれば天気予報も一つの占いだろう。
だが《巫女》の行う占いは、魔力や気力、レオが魔眼で視るような、通常では見ることの出来ない自然エネルギーを感じ取り、その流れによって未来や、天候、人の相性を確定する。
言うなれば、レオの『万視』の魔眼の下位互換というのが分かりやすいだろう。
「まず自然エネルギーを感じるところから始めよう」
「はい」
「楽な体勢でいい。座って目を閉じろ」
スピーリトゥスの言う通り、地面の上にロゼにとって楽な体勢である正座し、目を閉じるロゼ。
「まず一番簡単なところから、空気の流れを感じるところから始める。ゆっくりと深呼吸を繰り返しながら、自分が吐いた空気がどのように空気中に拡散されていくのかを感じるんだ」
「はい…すぅ…はぁ…すぅー…」
スピーリトゥスは一番簡単と言うが、この空気の流れを感じられるか感じられないかが一番重要になってくる。
空気の流れとは、肌で感じられる風とは全くの別物。
ここで示す『流れ』とは動きではなく、心。
つまりは空気の心を読むこと。
空気に心があるのかと言われれば、大体の者は否定するだろう。だが、ある一定の修行を積んだものには分かるようになる。
獣王や生物にある『野生の勘』や『第六感』と呼ばれる言葉では説明できない超反応は、空気の流れを無意識に読んでいるためと言われる。
空気の流れを読むことができれば、空気の感じを見て『感覚』で次に起こることを察知したりできる。
これを完璧に使いこなすと、予知などに繋がってくる。
「どうだ?」
「いえ、全く…」
「まあすぐには無理だろうな。コツは、自然と一体になることを意識すること。そして、触覚だけに頼らないこと。五感全てを使うことが大切だ」
スピーリトゥスはそう言うと、ロゼの目の前で胡座をかいて座ると、目を閉じてロゼと同じく、いや、合わせるように深呼吸をする。
「瞼の裏を通して射し込む太陽の光を感じ、風によって擦れる葉の音を聞き、豊満な草の匂いを吸い、自然の味を吟味する。これぞ自然の流れを感じる極意なり」
「すぅ…はぁ…すぅ…」
「自分が自然の一部だと思うのではなく、自然が自分の一部だと思うのだ」
時折、スピーリトゥスのかけてくれるアドバイスを元に改善を重ね、自然の流れを感じようとするロゼ。
既に時間の感覚は無く、何十時間もこれをしているような、はたまたほんの数分しか経っていないような不思議な感覚に陥ってくる。
「すぅ…すぅ…」
「寝てしまっては意味が無いだろうに」
そしてリラックスしすぎて寝てしまったロゼを見て呆れ果てた様子のスピーリトゥス。
正座をしたままコクリコクリと首を上下するロゼの額を人差し指で軽く押して地面に寝かせると、どこからともなく取り出した人一人が包まれそうな大きな葉を取り出すと、ロゼにかけるスピーリトゥス。
「そういえば、何故こいつは呪いを受けたままなのだろうか。あの坊主のように解放すればもっと成長できると言うのに」
眠るロゼを見てスピーリトゥスは思い出したように小首を傾げながら、ロゼの腹に手を置く。
「【ギアス】…ふむふむ、なるほどな。体が壊れないように潜在能力を抑制するものか。だが、二枚くらい壊しても問題ないと思うがな。人族は全く不思議なものだ」
スピーリトゥスがおもむろに詠唱をすると、スピーリトゥスの手をかざした部分から複雑な魔術陣が五枚、ロゼから飛び出す。
スピーリトゥスは興味本位か、五枚の中で一番小さい魔術陣を握りつぶす。
これはレオと同じ【ギアス】。フィエルダー家にしか伝わらない門外不出の固有魔術。
なぜそれをロゼがもっているのか。
謎は深まるばかりだが、スピーリトゥスはそれ以上の興味は無いのかすぐに元に戻すと霧と共に消え去る。
「すぅ…」
最後に残ったのはロゼの寝息と、ロゼの体から立ち昇る黒い余剰魔力だけだった。
いきなりぶっこむ新事実。




