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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第十章 強さを求めて【中編】
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episode155 弓絃

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

「……」


 ロゼは、茂みに隠れ息を殺す。

 目標は上級魔獣の【雷鹿(ケルウス・トニトルス)】。全身から常に雷を発しており、一瞬だけならレオの【雷化】と同じく雷となって移動することができる。


「【世界樹に我願う 魔を払う最古の弓 破魔の波動 魔を滅せよ】」


 【雷鹿】に気づかれないようゆっくりと立ち上がり、小さく詠唱を唱えながら足を軽く開き、弦に矢をつがえ、弓は垂直に、矢は並行になるように頭の上で構えて下に軽く落としながら弦を引くロゼ。

 修行を初めて三ヶ月。弓を構える一連の姿は様になっており、その容姿も相まって見惚れてしまうほどだ。


「【弓絃(よつら)】」


 軽く呼吸を落ち着かせてから、ロゼは矢を射る。

 ヒュンという風切り音と共にロゼの手から離れた矢は、張り詰められていた弦に押し出され、【雷鹿】目掛けて勢いよく飛び出す。


 繁殖期の雄の鹿の鳴き声は少女の悲鳴のように聞こえると言うが、ロゼの射った矢が刺さった【雷鹿】は、断末魔のような声をあげて勢いよくその場で飛び跳ねる。


 ロゼの弓と矢は世界樹の一部で作られたもの。そして、《巫女(ふじょ)》が『弓絃』で使う破魔の固有魔術。

 世界樹の枝で作られた弓は、下手な金属よりも頑丈な上にしなりがある。ロゼは一般的に見たら力はあまり強い方ではないが、それでも容易く引くことが出来るほど扱いやすい。

 そして、世界樹の実の種を半分に割って作られた矢じりは、素手で刺しても岩すらも貫くほどの硬さを誇っている。


「やっぱり凄い…」


 ロゼが何回使っても溜息が出るほどの強力な固有魔術。

 魔力を持つ存在ならばその魔力を矢を通して高速で空気中に散らし、相手を必ず殺す。まさに必殺の一撃。

 この矢を食らった【雷鹿】は見る見るうち弱っていき、最後に数度痙攣(けいれん)すると息絶える。


「矢の角度をもうちょっと上げて…」


 【雷鹿】を一撃で仕留めたというのに、ロゼの顔に喜びはない。

 修行と共に初めて弓。元々ロゼはカーリと同じ辺境に住んでおり、主な仕事が農業と狩猟だったため、弓の扱いには心得がある。

 だがそれは、動かない的を使って練習していただけなので、型にハマった形になっている。

 的に弓を百発百中当てるためには、同じ肩を繰り返し、正しい弓の使い方をしないといけない。

 このような狩猟、そして戦闘においては型は逆にタメが大きく、動きを読まれやすい。

 逆に崩した、「そんな風に矢を射ることができるのか!?」と相手を驚かせるくらいの方がいいのだ。

 ロゼもまだ、型にハマった形になっており、現在戦闘に合わせた形にするために試行錯誤をしている途中だ。


「私、全然だめだな…これじゃあ追いつけない…」


 遠すぎる背中に自暴自棄になりかけているロゼ。

 だがロゼは気づいていなかった。この時既にロゼは『強者の扉』を開け、ベッルスと同じく『武勇の扉』の前にいるほど成長していることを。

 スピーリトゥスが住んでいるこの濃霧の森は、エルフ国の中でも特に魔素が強く、強力な魔獣が多い。

 その中で一日中気を張りつめ、寝ている時すらも警戒して気配を察知すれば自然と目が覚め、その方向に矢を構えてしまうほどに条件反射が出来ている。

 弓や、矢、魔術を素晴らしい一級品だが、それを扱うロゼは日々メキメキと技量が上がり、魔力保有量も上がっている。

 ベッルス達と同じくそれを試す相手がいないのが、ロゼが自暴自棄になる理由だろう。


「主は何を悩んでいる?」

「…!?」

「我からして見れば相思相愛。こちらは混じりがあるが不老長寿のハイエルフに、向こうは不老不死の吸血鬼。人と吸血鬼ならばまだしも、何を悩む必要があるんだ」


 唐突に後ろから三ヶ月ぶりに耳にする人ならぬエルフの声にロゼはビクンと大きく体を跳ねさせる。


「ス、スピーリトゥス様…」

「久しいな」

「久しいなじゃないですよ…」


 後ろを振り返ると、片手を軽くあげて陽気に挨拶をしているつもりのスピーリトゥスがいた。これをカーリがやっていたら陽気にも見えたのだが、整った造形美と、眉一つ動かない表情に何とも言えない状況になっていた。

 相変わらずのマイペースにロゼは心の中でため息をこぼす。


「『弓絃(よつら)』は大分できるようになったようだな。どうする?まだ時間はある、『弓絃』をもっと敷き詰めるか、『占い』や『口寄せ』の修行をするか好きな方を選ぶがいい」

「えーっと…」

「時間はある。好きに選べ、決まったら教えろ」


 そう言い残して濃霧と共に綺麗さっぱり気配ごと消え去るスピーリトゥス。


「教えろと言われても、どうやって…」

「そういえば、あの吸血鬼の坊主。レオと言ったか、あれは中々いい。主が決めあぐねるのなら我の娘と結婚させるぞ。そろそろ娘の貰い手も欲しい頃であるし、世継ぎの顔も見たい」

「!?…だ、だめです!!」


 ロゼの疑問は濃霧の中へ消えていくと思われたが、ふと思い出したかのようにロゼの後ろに現れ、一言残してまた消えていくスピーリトゥス。


「もうっ!」


 その場には、顔を真っ赤にしたロゼが一人残っていた。

 この姿はきっちりスピーリトゥス経由でレオの魔眼と直結して見られていることをロゼはまだ知らない。

今回は日常ぽかったですが、次回から本格的にロゼの修行が始まります。

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