episode14 入学式【後編】
誤字脱字、感想、レビュー、ブックマーク等いただけると幸いです。
数日ぶりに訪れた訓練場。
いつも訓練をしている場所とはいえ、今は派手な紅白幕や造花など、綺麗に飾り付けしてあるためか、別の場所のように見える。
目の前に突きつけられた赤紙を前にレイオスは、先程まで悩んでいたいたことを思い出した。
貴族としての自分の使命を果たすのか。
今、大きな壁に向かって立ち向かうのか。
だが先程まで悩んでいた過去の自分はもういない。
「俺はもう迷わない。」
レイオスはグランの持っていた赤紙を木剣で斬り裂く。
「てめェ…こんなことして許されると思ってんのかァッ!!!」
「許されないだろうな。俺が貴族だったら。」
レイオスは制服の内ポケットから一枚の白い紙を取り出す。
貴族の当主が次へと譲られる方法は三つ。
現当主と決闘をして倒す。
老衰、もしくは怪我なので当主を続行できない場合に次の当主を指名する。
そして、現当主が死亡した場合。
「『レイオス=フィエルダーは死亡。次期フィエルダー家当主の座を我が父、レクサス=フィエルダーに譲る。』」
「テメェ!それは!」
「貴族の当主が死ぬ前に、死んだ後の揉め事を防ぐために次期当主を指定するための紙。新貴族のお前が知っていたのは驚きだがな。」
レイオスの持っていた紙に魔術陣が浮き上がると、鳥の形に折りたたまれ、訓練場の外へと飛んでいく。
「これで俺は死んだ人間だ。」
レイオスは右胸にある貴族の証であるワッペンを握りしめる。
一切の迷いなく、これまでの自分の誇りと全ての象徴であるそれを強引に引きはがす。
「今の俺は貴族じゃない。」
引きはがしたワッペンを地面に捨てると、レイオスは木剣を両手で握る。
「俺はまだ子供だった。簡単な話だったんだよ。誰かを守るのに、理由や地位なんかいらねぇ…俺はロゼをお前から…この国から守る!」
「このガキィ…テメェは今ここで殺す!」
「やれるもんならやってみろよ」
「名のある貴族の当主とか、神童やら言われてるがオメェは所詮はガキなんだよ!俺が見せてやるよ、圧倒的な力ってやつをなァ!さァ、殺ろうぜェ!!」
「笑わせんな、これから始まるのは一方的な処刑だ」
レイオスは貴族としての自分を捨てた事の表しか、レイオスの口調がいつもの堅いものとは違い、砕けた荒々しいものに変わる。
ギラギラと野性的な目を向け、獰猛に笑うレイオス。
それを見て、グランは楽しそうに身の丈ほどある大剣を片手で振り回したあと、レイオスに向けて構える。
「おい!レイオス!」
「なんだド平民」
いつの間にか、レイオスの後ろにいたカーリ。
黒装束の男達を数人、倒したようだが、カーリの体はボロボロで、肩を大きく上下させて息を荒らげていた。
「よく分からねぇけど、今のお前は俺の味方って事でいいんだよな?」
「ああ、このデカブツは俺に任せろ、お前はそっちの男達をやれ」
「無茶言うなよ…今でも限界なのに」
「なら今すぐ、自分の限界を越えて見せろ。後ろは任せたぞ…カーリ!」
「……!おう!」
レイオスは、木剣の腹を指でなぞると、いくつもの小さな魔術陣が浮かび上がり、木剣が輝き出す。
カーリは魔術陣の浮かび上がる木剣を見ると、驚きの声を上げる。
「なんだよそれ!?」
「魔術による剣の強化ってところだな、これで真剣と変わらなくなる」
「負けてられねぇな!」
嬉しそうに顔を破顔させたカーリは、ボロボロの体に力を込めると、全身から金色のオーラを出す。
「自分のものにしたのか」
「当たり前だろ」
「ハッ!負けたら殺すからな!」
「そっちこそ!」
レイオスとカーリは同時に飛び出すと、それぞれの敵に向かって一直線に走り出す。
後ろは振り返らない。
後ろには頼れる好敵手がいるから。
レイオスは走り出すと同時に、グランの周りを囲むに魔術陣を複数展開する。
「『雷の障壁』」
「中級の結界障壁か…」
グランは特に慌てた様子も無く、自分を囲むように現れた雷の壁を一瞥すると、大剣を振るって破壊する。
グランが雷の壁を破壊したと同時に、後ろから爆音が鳴り響く。
静かに事を見ていた新入生達も、いきなりの出来事にざわめき始める。
レイオスは雷の障壁を出すと同時に、無詠唱で訓練場の壁に魔術を仕掛け、グランの隙を付いて爆発したのだ。
「そこから出ろ、気が散って仕方ない!」
レイオスは、訓練場に響き渡るほどの大きな声を出し、新入生達に逃げるように促す。
新入生達も、パニックになりながらもレイオスの声を聞き、従う一部の新入生に付いていくように、ゾロゾロと訓練場の外へと走っていく。
傍にいたロゼに視線を送り、誘導して自分も避難するようにアイコンタクトを送る。
「目、逸らしていいのか?」
「逸らすわけないだろ?」
グランは一瞬でレイオスとの距離を詰め、大剣を横に振るう。
レイオスはそれに合わせるように、木剣を大剣にぶつけると、大剣の刃をなぞるように大剣の威力を全て後ろに受け流す。
「ヘェ…」
グランは面白そうに目を細めると、受け流された大剣の流れに逆らわず、むしろ自分の力を利用して剣先のスピードを上げる。
その場で大きく一回転すると、グランの体より一拍遅れてグランの大剣がレイオスを襲う。
「フッ!」
レイオスは先程と同じように、木剣を大剣をぶつけると、大剣の刃に沿うように、自分の木剣を動かすことで後ろに受け流す。
後ろに受け流すと同時に、レイオスは先程と違う変化を付けた。
大剣の刃の腹を沿うように流した木剣を、大剣から離れる瞬間、下向きに流したのだ。
グランの大剣は木剣の動きに合わせるように地面に深々と剣先を沈める。
「無様だな、グラン」
レイオスは、グランに向けて嘲笑し、憐れむようにグランを見つめる。
「クソ野郎ォ…!」
グランが恨めしそうにレイオスを見た瞬間、レイオスの握っていた木剣がピシリと音をあげる。
「いくら魔術で強化しようと、所詮は木。限界が来たようだなァ!」
恨めしそうな顔が一瞬にして、嬉々とした顔に変わるグラン。
「表情がよく変わるやつだ、国の真ん中で顔芸でもして稼いだ方がよっぽど稼げたかもな」
「テメェ…」
「また変わったな。いい顔芸だと俺は思うがな!」
「四肢を切り落としてから、じっくりと殺してやる!!」
グランは額に血管を浮かばせ、明らかに怒っているが、冷静さを欠けてはいない。
(短気だが、判断力や理性は見た目よりもあるな)
レイオスは心の中で感心しつつ、次の手を頭の中でじっくりと考える。
☆
「くぅ…!」
カーリは四方八方から迫る敵を紙一重でやり過ごしていた。
「次から次へとッ!」
カーリが金色のオーラを纏ったとは言え、この黒装束の男達は王国が派遣したエリート。
カーリは体の至る所に傷をつくる。
カーリがやられるのは時間の問題だろう。
上から、下から、横から、次々と男達の攻撃がカーリを襲う。
「諦めてたまるか!」
カーリの金色のオーラはカーリの想いに答えるように更に濃く輝き出す。
瞬間、爆音が訓練場を轟音が包む。
レイオスの魔術によって訓練場の壁が破壊された音だ。
「今だ!」
周りの黒装束の男達が、全員轟音の鳴った方を見ていた隙をカーリは見逃さない。
一番近くにいた黒装束の男に近づき、剣の柄頭で鳩尾を思い切り突く。
鳩尾を攻撃された男は、膝から崩れ落ち、そのまま地面に倒れ込む。
「レイオスが初めて俺の名前を呼んだんだ…負けるわけにはいかないだろ!」
カーリの想いに答えるように金色のオーラは更に強く輝き出す。
カーリの動きは止まらない。
男が握っていた剣を強引に奪い取ると、次なる相手へと走り出すカーリ。
次の黒装束の男はカーリの突進に合わせ、冷静に剣を振り下ろす。が、カーリはそれを無理矢理踵でブレーキをかけることで体を減速させ、回避する。
黒装束の男が振り下ろした腕を支えとし、くるりと相手の頭上を一回転して背後に回り込む。
「ふッ!!」
カーリは、再び柄頭で背中を思い切り突き、相手の体勢を崩す。そして、崩れた相手の足首に自分の足を重ね、刈り取るように足を斜め上へと振り抜く。
黒装束の男は、受け身も取れず顔を地面に激突させてそのまま気を失う。
そして呆気に取られている黒装束の男達を横目に、カーリは詠唱を始める。
「【光は 収縮と 凝縮を 繰り返し 小さな光は 拡散する】」
カーリの手の中に現れた人の顔ほどある光の玉は、どんどん小さくなり、光を濃くしていく。
黒装束の男達はカーリの行動に気づき、後ろに下がりながら、目を覆うように腕を動かすが、時すでに遅し。
カーリの手のひらの光は、親指の第一関節ほどの大きさまで小さくなる。
「【弾ける光!】」
カーリが、魔術名を唱えると同時に小さくなった光の塊は弾け、空気に溶けるように浸透していく。
白い光は、黒装束の男達をも飲み込み、訓練場全体を白く染める。
カーリは、魔術を放つ前に確認した相手の位置を頼りに、目を閉じたことで真っ暗の視界の中、標的の黒装束の男へと走り出す。
標的となった黒装束の男はカーリの気配を察知して、剣を乱暴に振り回す。
カーリは剣の動きを空を切る音から見極め、剣が目の前を通り過ぎたと同時に、相手の剣を握っている腕に剣の腹…刃のない平らな部分で思い切り叩き、衝撃を与える。
「ぐぅ!!」
右腕に激しい衝撃を感じた黒装束の男は、剣を手放してしまう。
その隙に、先ほどと同じように鳩尾に柄頭をぶつけるカーリ。
「あと、五人!」
訓練場を包み込んでいる白い光が、薄れ始める。
カーリは、少しでも多くの敵を倒そうと、更にスピードを上げて次の男へと移動しようとした時、
「はッ!!」
(思ったよりも光の消えるスピードが早い!)
カーリが慌て始めた途端、金色のオーラが揺らぐ。
(冷静になれ…頭を使えうんだ!周りをよく見ろ!)
次の瞬間、はじけるような音と共に上から、数十の雷が降り注ぐ。
カーリの魔術の光とは違う光が視界を塗りつぶす。
「危なっ…!」
カーリは横っ飛びをし、地面を転げることでギリギリのタイミングで雷を躱す。
カーリは薄目を開けると、周りには雷が直撃した残りの黒装束の男達が、纏っていた黒装束を焦がしながら倒れていた。
「レイオス!」
カーリは雷を放ったであろう人物の方を振り返り、その名前を叫ぶ。
☆
二つの影が交差する。
常人の目では捕えられないほどのスピードで次々と剣と剣が、体と体がぶつかり合う。
(避難は完了…何人か怪我人として残っているが、時間の問題だな。後は捕まった教師をどうにか…)
「おい、筋肉だるま」
「あァ!?」
「お前、もっと本気出してこいよ。これじゃあ肩慣らしにもならねぇ」
「調子に乗るなよ糞ガキ」
二人の動きが止まり、訓練場の真ん中で対峙する。
「後悔すんなよ」
グランの体から無色の魔力が溢れ出す。
グランの持っていた大剣が、グランの体から溢れ出す魔力を内部に取り込むように吸い込んでいく。
魔力を吸う度に、一回り、二回りと大きくなっていくグランの大剣。
その大きさはグランの倍ほどの大きさになっていた。
「まるで剣の『食事』だな」
「間違っちゃいねェよ。この魔力喰いは俺の魔力を食うことで、その力を増す」
大剣は、更に大きく、太く、硬く、魔力を吸い込む度に剣本来の強さを増していく。
「見せてやるよ糞ガキ。これが圧倒的な力の差だ」
「そうか…だったらお前にも見せてやるよ」
レイオスが【ギアス】を発動すると、目の前に大きめの二枚の魔術陣が現れる。
「絶望的な力の差を」
レイオスはもう一枚の魔術陣を砕くと、消えかかっていた黒い靄が、その色を再び濃く染め上げる。
レイオスに身の丈の三倍ほどある大剣の切先を向けるグラン。
その顔は自信に満ち溢れている。
グランに対抗するように、レイオスもニヤリと口角をあげる。
この時、レイオスはグランや自分の魔力とは別に、他の魔力の反応を感知していた。
「"正々堂々真正面から相手をしてやる"」
かかってこいと、レイオスは片手を数回自分の方にクイクイと曲げ、グランを挑発する。
「敢えてその挑発に乗ってやるとするかァ!」
レイオスは、グランが自分の方へと一歩、歩みを進めた瞬間、レイオスは自分の目を覆い隠すように両腕をクロスする。
刹那、訓練場の中を眩い白い光が包む。
カーリの放った魔術がグランの両目を襲ったのだ。
「グゥ!?!!」
グランが驚きの声と共に、苦痛の叫びをあげる。
恐らく直接光を浴びたことで、目がやられたのだ。
「【雷同】」
瞬間的にレイオスはグランとの距離を詰め、グランの心臓。胸の間のところに触れ、魔術陣を展開させる。
「疾っ!」
レイオスは、魔術陣を展開させた手とは逆の手で、グランの体に展開された魔術陣目掛けて拳を振るう。
レイオスの拳が、グランの体をくの字に曲げる。
その瞬間、グランに展開された魔術陣が起動し、グランの体中に雷が走る。
「がはッ…」
追撃を加えるレイオス。
次は、自分の右肘の部分に魔術陣を展開する。
「【雷鳥肘貫】」
グランの腹を抉るレイオスの右肘。
レイオスが魔術を発動すると、グランの腹を貫通したかのように、グランの背中から雷鳥が飛び出す。
「がはっ…」
「本当に貫通したわけじゃないから安心しろ」
「てめっ!」
流石に目が回復したのか、グランはレイオスに向けて大剣を振るう。
「な、どこだ!」
グランの大剣がレイオスに当たる直前、レイオスの姿は蜃気楼のように消えた。
「【身代わり】なんて初級魔術に引っかかるとはな…右だ」
グランは耳元で囁かれた声に反射的に右側を振り向く。
「わざわざ自分の居場所を教える馬鹿がいるか」
後頭部から襲う衝撃。
グランの体は大きく揺られる。
振り返るグラン。そこには誰もおらず、ただただ穴のあいた壁が見えただけだった。
「残念、また右だ」
グランはニヤリと笑って逆の左を見る。
「そう何度も引っかかるか!」
そこにいるはずであろうレイオスに向かって大剣を振るう。
だが、その剣は空を切り裂くだけで終わる。
「馬鹿が」
次にグランを襲った衝撃は上。
鈍い痛みがグランの頭の中を駆け巡る。
「ぐァッ!」
グランが上を見ると、そこにレイオスはおらず、自分を襲ったであろう魔術の魔術陣だけが空中に展開されていた。
「どこだァ!どこにいやがるゥ!!」
「実感しているか?これが絶対的な力の差だ」
突如、グランは腹に鋭い痛みと熱さを感じた。
レイオスがグランの背後から強化された木剣で刺したのだ。
「痛いか?」
グランの耳元で囁かれる少年の声。
だが、グランにはその声は悪魔の囁きに聴こえていた。
「怖いか?」
グランは振り返りざまに大剣を振るう。
「俺が、恐ろしいか?」
未だ、グランはレイオスの姿を捕えられていない。
「グァァァァァァ!!!!!」
グランは気が狂ったように大剣を振りまわす。
その一太刀、一太刀は空気を切り裂くほどの速さであり、刃が地面に振り下ろされれば、訓練場の地面にヒビが入るほどの一撃。
が、当たらなければ意味は無い。
「俺が迷っていたのは、この王国に対して刃を向けることであって…」
四方八方から脳内に響くように聞こえるレイオスの声。
「お前のような雑魚を相手にする事じゃねぇんだよ」
グランの顔が青ざめていく。
「爵位の差は絶対なる力の差」
グランは大剣を手放し、膝から崩れ落ちる。
「お前は俺を敵に回した時点で既に負けてるんだよ」
両手の爪をたて、狂ったように頬を掻き毟るグラン。
「終わりだ」
「やめろォ!やめてくれェ!」
グランの目の前に姿を現すレイオス。
レイオスは頬を掻き毟るグランの手を強引に止めさせると、グランの瞳をじっと見つめこう言った。
「俺は迷わない。俺は決めた。貴様が決めさせた。俺は俺が守りたいと思ったもののためなら、一切の容赦をしない。」
レイオスの口調がいつものように、抑揚の無い淡々としたものに戻る。
それが少年のした覚悟。
万人を救う英雄ではなく、自分の守りたいものを守る薄汚れた正義。
「俺は守りたいもののために、この腐った王国を変える。その不安要素であるお前はここで…」
レイオスはグランの顎を蹴りあげる。
レイオスの蹴りによって訓練場の天井近くまで飛ばされるグラン。それに合わせてレイオスは地面を蹴り、落ちてくるグランの真下へとジャンプする。
「グァッ!」
レイオスの膝がグランの腹へと直撃する。
グランの口から、血と胃液が混ざったものがこぼれる。
「退場だ。」
レイオスは落下していくグランに向けて魔術陣を発動させる。
「【雷の雨】」
魔術陣からゴロゴロという音を鳴らし、数十の雷が放たれると、グランの体を貫き、訓練場の地面へと突き刺さる。
「レイオス!」
下からかかる自分を呼ぶ声。
「貴様も終わったのか。」
レイオスは空中に魔術陣を展開させ、階段の要領で降りていく。
「俺の人生も終わりそうになったけどな!」
どうやら、レイオスの雷の雨によって殺されかけたことを根に持っているようだ。
「?…何の事かはわからんが、取り敢えず終わったようだな。」
「早く学園長達を助け出さないと!」
「!」
カーリの言葉に、ここでレイオスは気づく。
(クソッ、完全に気が抜けていた!)
自分の魔術でやられたであろう、黒装束の男の他、レイオスが倒した黒装束の男達が一斉に学園長に向かって走り出したのだ。
「【拘束】」
敵の黒装束の男の一人がレイオスとカーリに向けて拘束系の魔術を放つ。
「こっちは四枚目を使って限界だと言うのにクソッタレ!」
「うわぁ!?」
走り出そうとしたレイオスとカーリの足を、植物の蔦が巻き付き、固定する。
「クッ!」
拘束できたの一瞬。レイオスは無理矢理、その蔦を引きちぎり、黒装束の男達を追いかける。
「間に合わない!」
だが、黒装束の男達は既にヒカルの目の前におり、剣を振りかぶっている。
ヒカルは結界の中で目をまん丸と開け、咄嗟の事に追いついていないようだ。
(こうなったら!)
レイオスは走るのを諦め、速攻性の高い雷の魔術を発動するため、黒装束の男達の方へ手のひらを向け、魔術陣を発動しようとする。
その瞬間、ヒカルを取り囲んでいた結界が甲高い音をあげ、割れる。
「少し驚きましたが、」
学園長は剣を振りかぶっている黒装束の男の顔面に拳を叩きつける。
「なんとか、結界の解除が間に合いましたね!」
次々と襲いかかる黒装束の男達を素手で倒していくヒカル。
「自由になった私を止められる人はいませんよ!アハハハハ!!」
「心配するだけ無駄だったな。」
「いつも通りだな~」
馬鹿丸出しのヒカルに、お互い顔を合わせて苦笑いする二人。
「なぁド平民。」
「なんだ?」
「俺はこれからこの国を変えようと思う。」
「そっか…」
「無理にとは言わん。お前もその気があるならいつでも声をかけろ。」
「うん」
「まあ、今日限りでこの学園にはいられ無くなる…いや、この王国に居場所が無くなるがな。」
「……」
「あ、それなら大丈夫ですよ!レイオスくんはこれからも同じように学園に通ってもらいますから!」
いつの間にか二人の横にいたヒカル。
いつものようにニコやかな笑顔を浮かべ、感傷的な空気をぶち壊していく。
「…貴様にも色々考えがあるんだろう。取り敢えず今日の事は、全て貴様に任せよう。」
「入学式もやり直さないといけませんしね。それに、格好つけようとしたレイオスくんの邪魔もしてしまったので、それもやり直してもいいんですよ?」
挑発するようにいつもの笑みを浮かべるヒカル。
それにのせられ、ヒカルを追いかけるレイオス。
二人を見て、腹を抱えて笑うカーリ。
長いようで短い三十分間の訓練場での戦い。
この三十分がレイオスの未来を決めた。
レイオスはこれから、王国を変えるために反乱を始める。
九州の方からさっき帰宅したため、更新が遅くなりました。すみません。
これで一部完結です。
これからはなるべく毎日投稿で行こうと思ってますが、二日に一回くらいのペースだと思います。