episode147 最悪の思い出と未来
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「これは家族を守るためなんだ」
平民よりも男尊女卑の激しい貴族。
貴族で嫡男がいないということは代々受け継がれてきた家を終わらせることに等しい。
「お前に女の子としての幸せを与えてやれない父さんを許してくれ」
ウムブラの父、ブルー二=ニブルは、同じ男爵家の女性を妻に迎え、第一子を儲けた。
その子は母に似てとても可愛らしい女の子だった。
貴族の当主の役目として後継ぎを作るのは最優先事項。第一子が女の子のため、第二子、第三子と男の子が産まれるまで続けなければならない。
だが、ブルー二に悲劇が起こった。病により、第二子が産まれる前に子供を作ることが出来ない体になってしまったのだ。
ニブル男爵家は、王族の護衛が主のため、血筋を引き継いでいない才能が無い養子を取るわけにもいかなかった。
そこでブルー二は第一子である長女を男として育てた。
それがウムブラ=ニブルの人生だ。
☆
姿形を変えて、他者から自分の姿を別のものの姿へ見せる変身魔術を使い、ウムブラは長男としてニブル男爵家で育った。
八歳の頃にはラティスの護衛に付き、一部の人間には真実を打ち明けて何事も無く過ごしていたウムブラに悲劇が起きた。
「王国を欺くとは何事か!」
ウムブラが十二歳のとき、リベリオンに加担する前のときだ。
ウムブラが女であることが大臣たちにバレてしまった。理由は分からない。裏切られたのか、どこかで見ていたのか。だが、一番の問題はこではない。ニブル男爵家が王国にウムブラの性別を偽っていたことが問題だった。
これは偽証罪、それも国家反逆罪に取られかねないほどだった。
「これには責任が必要だな?」
「待ってください!」
「これはこれはラティス殿下。せっかく私を訪ねてくれたのは嬉しいのですが、今は取り込み中です。お引き取り願います」
本来ならばここでラティスが止めに入り、得意の人理掌握術で大臣たちを説得することに成功するはずだった。
「ニブル男爵家はこれをもって爵位を剥奪。ブルー二は死刑。妻と娘は奴隷にでも流しておけ」
【死と狂気の安息地】。
この魔術が見せるのは、自分の最悪の思い出。そして、作り出された『最悪』。
この世界はラティスが大臣たちを説得できず、爵位を剥奪された未来。
そして、リベリオンが存在しない世界。もし、リベリオンが存在すれば、ウムブラは家族ともにリベリオンに逃げ込むことが出来ただろう。だが、この幻覚には、リベリオンは存在しない。
『イイノ?コノママデ』
(ダメ…デモ…)
ウムブラは、ラティスのことが好きだった。唯一とも呼べる同年代の理解者。自分が自分になれる安息地。
ウムブラは、母のことが好きだった。優しく、お淑やかで、将来は母のようになれなくても憧れとしてウムブラの瞳の奥に映っていた。
ウムブラは、父のことが好きだった。厳しく、少し短気なところは直してほしいが、時折見せる自分を娘として大切にしてくれると感じられることに、ウムブラは女としての喜びを捨てさせられた恨みよりも、命をかけて王族を守る父のことが誇らしかった。
だが、今このウムブラの大切なものたちが目の前で引き裂かれそうになっている。
『皆デ生キ残ル為ニハ、一ツ。殺シチャエ』
「失イタクナイ…」
『ソウ、ラティス様ヤ、父母ヨリモ大切ナモノナンテ無イダロ?』
「デモ…デモ…」
『壊レル前ニ壊スンダ。仕方無インダ』
「仕方無イ…」
『ソウ、仕方無イ。ソレ以外ニ方法ガ無インダカラ』
「ソッカ仕方無インダ…」
「早くこの者を連れ出せ!」
「ハーブス大臣!待ってください!」
「殿下もしつこいですぞ!」
ウムブラの心は、闇に侵食されている。
綺麗な水面に、墨汁を垂らしたかのように徐々に徐々に甘い言葉と共に広がっていく。
最も悪と書いて『最悪』。
その状況下に、この『最悪』を跳ね除ける酷く歪んだ打開策を与える。これほどすがりつきたくなるものは無い。
どんな人間だってそうだ。自分が苦しい時に簡単にその場を打開することができるのであれば、その方法を取る。
それがどんなに非人道的だとしても。
「私ガ守ル…!!」
「【目覚めよ】…今度は間に合ったようだな」
「ァァ…ッゥ…」
「全く、私ながら恐ろしい。この魔術は生物にとって本当に最悪の魔術だ」
☆
「一つ、人質を取りまして~♪」
薄暗い部屋の中、この場に似つかわしくない独特のリズムにのせた少年の声が響き渡る。
(ここは…そうか、あの時連れ去られて…)
朦朧とする意識の中、ドラは意識を取り戻す。
まずドラを襲ったのは、むせ返るような悪臭。そして、胃液が登ってくる感触。
そして、左肩に電撃が走ったかのような強烈な熱。今すぐのたうち回って叫びをあげたいほどの熱さと、何かがジュクジュクと溢れだしている感触。
ここで声をあげなかったドラの判断は正しく、ここで声をあげていたら殺されていただろう。
(あの女の子は…)
少年に殺されるまで最後まで抵抗を続け、ドラたちを励まし続けた一人の少女を横目に見るドラ。
力無く横たわり、あたり一帯が血の海と化しているので少女のものかどうか分からないが、腹に大穴が空いており、あれではもう助からないだろう。
(なんでこんなことになったんだろう…)
再び意識のかすれゆく中、ドラの耳が悲鳴を拾う。
ボヤけた視界で見たのは、八つ裂きにされていく同じ制服に身を包んだ生徒達。
血と臓物を撒き散らして死んでいく仲間たちの姿だった。
☆
(体が冷たい…)
再びドラが意識を取り戻した時、部屋の中に人の形をしたものは、ドラと少年の二つだけ。
「あれ、君…生きてなーい?」
ぐるりと梟の様に首を真反対に曲げた少年は、壁に寄りかかるドラに話しかける。
そしてこの世界は、ナーブス=ルーナティックに誘拐され、助かったはずのドラが助からない世界。カーリとレオが助けに来ない世界だ。
(あぁ、殺されるんだな…)
『痛いのは嫌だよな?』
(嫌だよ…好きな奴なんていない…)
『最後の標的だ。拷問して生きてることを後悔するような酷いことをしてくるに違いない』
(嫌だ…)
『アイツに殺される前に自分で死ぬんだ』
(それも痛いような…)
『ずっと痛いのと、少し痛いのどっちがマシだ?どちみち助からないんだよ』
(でも、もしかしたら助けが…)
『諦めろ。楽になれ』
(そうだよね、少し我慢すれば楽になれるんだ…楽に…楽になれる…)
ミラやウムブラのように精神を狂わせて人を殺させるのでは無く、生きるのを諦めさせる。
「ねぇ、聞こえてるんでしょ?いい声で鳴いてよね!」
(舌を…噛みちぎ…)
「【目覚めよ】…ドラに関してはほかの二人に比べて深すぎる。一番の課題はコイツかもな…」
薄暗い部屋の中。少女の悲しき声が響く。
久しぶりにシリアスを書いて気持ちがナーブス(ナーバス)…はい、ごめんなさい。




