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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第九章 強さを求めて【前編】
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episode143 魔蟻塚【前編】

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

 馬車に揺られること四日。レオとレナは、目的である【魔蟻塚(ダンジョン)】へと足を運んでいた。


「【魔蟻塚(ダンジョン)】に来るのは初めてか?」

「はい。知識としてはありますが、実際に足を運ぶのは初めてです。」

「ふむ…位置が悪いな。入口が帝国領にもあるとなると、騒動が起きやすくなるな。」


 レオは、すぐに【魔蟻塚】に入らず、ぐるりとその周りを観察する。


 魔蟻は、巣を作る時に人が余裕で通れるほどの入口を無数に作る習性がある。

 この【魔蟻塚】は、王国領の【マードック】と帝国領の【ドローング】の狭間にある深い谷に作られている。この谷は一段あたり数メートルの階段状になっており、何十キャロメートルと続いている。


「大分柔らかな表現をするのですね。」

「なんのことだか俺には分からんな。」


 敵対する国同士の国境を(また)いで存在する【魔蟻塚】。そしてこの【魔蟻塚】は自然発生のため、どちらの国にも所有権があり、独占権は無い。

 つまり、敵対する両国の人々が好き勝手に入ることができる。


「これが【魔蟻塚】で無ければ話は別なんだがな…。」


 レクサスの話では、この【魔蟻塚】は相当深い。

 【魔蟻塚】は深くなればなるほど相対的に魔獣が強くなり、希少性が上がる。滅多にお目にかかれない魔獣の高級素材が集まりやすく、それは、国家規模の場合もある。【宝石の雫】と呼ばれる体全体が希少金属で出来た魔獣が出た時がいい例だろう。

 だが、問題は魔獣の素材だけではない。【魔蟻塚】が深くなればなるほど、人の目は減り、例え魔獣に殺されても、死体が確認(・・・・・)できない(・・・・)

 すなわち、魔獣じゃない別の何かに殺されても死体が無い限り、その人が何に殺されたのかも分からない。


「王国や帝国には、戦争に参加させれば一個小隊を潰せるほどの冒険者や、探索者、傭兵を専属で雇っていたりする。それに、国家直属の兵も、休日に俺たちと同じく腕試しで来ることも珍しくない。」

「それを分かっていても、【魔蟻塚】を国が規制することは無い。」

「奴らに取って、目の上のたんこぶを簡単に処理できる素晴らしい場所だろうな。」


 レオは王国全体を、この世界を笑うように鼻で笑うと、一番手近にあった穴の中を覗き込む。


「今回は剣術がどれだけ成長したかの腕試しだ。【ギアス】も使わない。いいな?」

「はい。レナも短剣だけでいきます。」

「むっ…。人だ。」


 【魔蟻塚】の中の人の気配は複数拾っていたレオ。だが、ここに来て初めて【魔蟻塚】の外で数人の気配を捉える。


「おぉ!穴がいっぱいあるな!」

「どの穴から入るから迷いますね~」

「…ここがいいと思う」

「冒険者か。」


 谷の一番下、王国側から来たことを見ると王国の冒険者のようだ。

 軽装を纏った剣士の少年と、黒のローブに身を包んだ魔術使いの少女が二人。


「等級は銀か。中堅手前くらいの実力だな。」


 冒険者。未開拓地域の探索及び、危険区域の魔獣討伐、【魔蟻塚】とは違う、過去の宝が眠る【遺跡】の攻略など戦場の何でも屋が傭兵ならば、民間人や国の何でも屋が冒険者。

 冒険者は、国が管轄している冒険者組合に登録すれば、冒険者になることができる。十五歳以上の種族、性別関係なく登録することができ、ここ百年で出来た制度なので、平均年齢は若めだ。


「浅いところならばいいが、少し深いところだと危ないな。」


 冒険者には、冒険者ギルドへの貢献具合や、その人の冒険者としての実力に合わせて等級が付けられる。

 屑、銅、銀、金、白銀、白金の順にグレードが上がっていき、その色に合わせたバンダナが冒険者には渡される。


「どうしますか?」

「というより、巻き込まれそうだぞ。」

「おーい!そこの二人!」

「ほらな?」


 谷の下の方にいたレオ達に、上から先程の少年が声をかける。

 やれやれと言った感じで、手を挙げて少年の声に応えるレオ。


「俺は、カリー!こっちの魔術使いの二人は、白髪の方がミミで、藍色の髪をした方がアナムル!そっちは兄妹か?見たところ冒険者じゃなさそうだけど」

「俺はレオ。こっちは妹のレナだ。俺達は冒険者じゃなくて流れものの傭兵をしていてな、今日は腕試しで来たんだ。」

「やっぱり傭兵だったんだな、通りで俺たちと同じくらいの歳なのに強そうなわけだ!」


 レオは現在、王国では賞金首扱い。当然素顔も出回っている。

 なのでレオは、口元を包帯で隠し、服装も冒険者のカリーと変わらぬ安物の軽装を身につけている。

 作戦は成功したようで、後ろにいる二人も初めての相手で警戒はしているものの、問題はなさそうだ。


「それで俺たちに何の用だ?」

「そうそう、俺たち【魔蟻塚】くるの初めてでさ、よければ一緒にパーティーを組まないか?」

「パーティーか。取り分や、優先順位はどうする?」

「取り分は半分で、優先はアナムルで頼む。どうしてもって時は大丈夫だ」

「五等分じゃなくていいのか?半分だと、そっちの分け前が少なくなるが。」

「いいよいいよ、こっちから頼んでるやつだから」


 冒険者や傭兵といった者が協力して何かをする時に決めることが二つある。

 個々、もしくは身内の取り分。そして、魔獣と遭遇した時に誰を優先的に守るかだ。

 基本的に、回復系の魔術を使える者が優先として選ばれるのがセオリーで、カリーたちは銀級の冒険者。そこら辺もしっかり分かって言っているのだろう。


「心得た。俺とレナは、魔術は人並みにしか使えないが、剣の腕には自信がある。前衛は任せてくれ。」

「俺はこの中だと魔術はまだまだだけど、【火属性】の魔術に自信はあるんだ、剣も使えるから俺は中衛を担当するよ、魔術使あの二人はいつも通り後衛で頼む」


 見た目と名前からしてカーリのように頭が弱そうに見えるカリーだが、リーダーとしてはそこその素質があり、経験もあるようでテキパキと役割分担をこなしていく。


「さっきも言ったんだけど、俺たち初めてでさ…申し訳ないんだけど、トライアンドエラーの方法になると思う。取り分を半分にしたのもそのためなんだ」

「問題無い。一度街に戻って準備するか?」

「いや、そっちが問題無いなら大丈夫だぜ」

「こちらも大丈夫だ。」

「それじゃあ、【魔蟻塚】探索しゅっぱーつ!!」 



「レオ兄様、なぜあの人たちと手を組んだのですか?」

「気分だ。何となくこうした方がいい気がしてな。」

「珍しいですね。」

「たまには頭を使わず、その場の流れに身を任せるのも悪くないものだ。」


 【魔蟻塚】の中は、簡単に言えば迷路のような縦長に広がった洞窟。中は薄暗く、中に入れば入るほど暗くなる。

 そのため、灯りを魔術で確保するのだが、レオのように普通の魔術使いは魔力が無尽蔵ではないので、松明などを利用する。

 松明を持つのは、先頭のレオと、真ん中のカリー、そして最後方のミミの三人だ。


「そう言えばレオって何で口元を隠してるんだ?」

「半年ほど前に傷を負ってな。治ってはいるんだが、人に見せられるようなものでも無いからな。」

「そっか、ごめん」

「謝る程のことでもない。この世界ではよくあることだ。」


 魔獣に遭遇しても低級の魔獣ばかりで、特に何事もなく進んでいくレオ達。途中途中で互いの自己紹介をしたり、世間話をしたりして距離を縮めていた。


「ここから中層だな。」

「分かるのか?」

「今までが多数の入口から成る高層。それが集結して多くの小部屋が集まっているのが中層。この先でかなりの数の穴が合流している。魔獣の強さが上がるから気をつけろ。」

「おう!」

「気配を捕捉。中級魔獣が二体。特に問題はありません。」


 レオ達の話を遮るように、レナが正面をじっと見つめて呟く。


「俺が行こう。連携の確認はさっきしたからな。これくらいなら問題無い。」


 レオは、一人駆け出すと人ほどのキノコの魔獣を二体瞬殺すると、素材になる部分を剥ぎ取ってバッグに詰め、すぐに帰っくる。


「レオは本当に強いんだな!」

「大したことは無い。」


 実は目の前の自分と変わらないほどの年の少年が、本当は対王国勢力のトップで、超級魔獣すらも余裕で倒せるほどの実力を持っているとは思いもしないカリー。目を輝かせ、レオを尊敬の眼差しで見ている。


「気を引き締めていくぞ。」


 レオ達は中層を難なく突破し、遂には下層まで辿り着く。


「今日はここで一度夕食を取って交代で寝た方がいい。」


 レオの腹時計は正確で、日の差さない穴の中でも時間を正確に把握している。

 夕時になったのを確認したレオは、カリーに提案する。


「このまま何事も無ければいいのだがな。」


 夕食の準備をしながら、レオは不安そうに呟く。

 レオの不安はだいたい杞憂で終わらないことが多い。

次回、何かが起こる。

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