episode138 巫女
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「スピーリトゥス様ー!どこですかー!はぁ…本当にここにいるのかな…」
濃霧の中、手がかりも無しにロゼは森の中をスピーリトゥスの名前を呼びながら歩き続ける。
かれこれ二日。ロゼとしても、心身共に疲れてきた頃合だ。
レオたちがエルフ国を立った後、ロゼは一人、エルフ国に残っていた。
目的は皆と同じ、強くなるため。
晩餐会の時にフィンフネルに個別に声をかせられたロゼは、もしかしたらスピーリトゥス様なら貴方の力を引き出してくれるかもと言われ、スピーリトゥスが普段生活していると言われている【アインツベルツ】近くの濃霧に包まれた森へと足を運んだいたというわけだ。
「我を呼ぶ声がすると思って来てみれば…混血のハイエルフか」
威厳のある声が風に運ばれ、ロゼの耳に届く。
「何用だ」
「!?…あの、お願いがあって来ました」
ロゼが声に反応して辺りを見渡すと、ロゼの目の前の霧が歪み、スピーリトゥスが現れる。
気配も、魔力も無くいきなり現れたスピーリトゥスにロゼは驚くが、すぐに用を思い出し、本題を切り出す。
「我に願いだと?」
「はい、私を《巫女》にしてください」
「《巫女》か…その名を聞くのも久しいな。よく知っていたものだ」
スピーリトゥスは《巫女》という名前を本当に久しく聞いたのか、懐かしそうにうなづく。
《巫女》。この世界における役職の一つで、エルフ国と神国のみ存在する。
エルフ国では、《巫女》。神国では、《巫女》と呼び、同じ字を書くが、それぞれの国によって前提条件が違ってくる。
神国での《巫女》は、神に仕える者。神職と呼ばれる、神に奉仕し祭儀や社務を行う者の補佐として確立された役職だ。
そして、エルフ国での《巫女》は、エルフ国を守る、守護者としての役割が強い。まだ魔術が発展していなかった時代に女性でも戦えるように特殊な修行をした者だけがなれる役職。
神国では未だに《巫女》が神殿で働く一方、魔術が発展した今、女性でも容易く強くなれるため、エルフ国で《巫女》という役職は数千年前に無くなった。
「確かに《巫女》になるための修行を積み、《巫女》になれば、主は今よりも格段に強くなるだろう。だが、何故、力を欲する?」
「死ねないからです」
「我と似たハイエルフならば、主の生は人に比べて果てしなく長い。強大な敵に遭遇したとしても、潜在能力で如何様にもできるだろう。何故、死を恐れる?」
「死ぬのは怖くありません」
「死が怖くないのであれば、何故死ねないなどと言う」
ロゼの答えに不思議そうに首を傾げるスピーリトゥス。
「大切な人がいるから。私が死ぬと、あの人は絶対に悲しんで泣いちゃうんです…だから、私は死ねません」
「……生物とは、時折面白い事を思う。主の力を欲する理由、しかと伝わった。良いだろう、我が主を《巫女》として育てよう」
堂々と言い放つロゼの答えに対し、スピーリトゥスは少しばかし目を見張って驚いた様子を見せると、初めて口元に笑みを浮かべ、ロゼの願いを受け入れる。
「だかまあ、しなければならないことは他にもあるようだがな…」
☆
《巫女》の仕事と言っても、その仕事は幅広い。『占い』、『口寄せ』、『寄絃』の三つが主な役目で、神国ではこの三つに加えて、神に奉納するため奏される歌舞の『神遊』がある。
まず、『占い』。魔力などの自然エネルギーの流れを読み、天候や、人の将来、今後起こる大きな事を予測する事で、レオの魔眼の役割に近い事を自力で行う方法だ。的中率は、人によって異なる。
二つ目に、『口寄せ』。これは、神国とエルフ国で少し異なる。神国では、死者の残留思念を体に取り込み、死者との会話を可能にするというもので、エルフ国では、魔獣と契約を結び、いつでも好きな時に呼び出せる召喚魔術に似たものだ。
そして《巫女》の最大の役目、『寄絃』。
魔や悪など、負のものを払うことが出来るもので、最初は魔除け程度だったが、時代の流れにより、役割が変わったそうだ。
世界樹の枝で作った弓と、世界樹の実の種を半分に砕き、矢じりとした矢を《巫女》特有の固有魔術で強化し、破魔の矢を作り出して射ることがで魔や負を払う。
魔獣に対して絶対なる力を持つカーリの【勇者の魂】に近い。
そして、強化を施す固有魔術には幾つかあり、弓で射った相手を大幅に強化する支援系のものもあり、まさに後方支援を得意とするロゼにピッタリだろう。
「それで《巫女》になるためには、具体的に何をすれば?」
「『占い』、『口寄せ』、『寄絃』、その三つは、それぞれ修行のやり方が大きく違い、得意不得意が存在する。主が望むのは、『寄絃』であろう?ならば、魔獣を倒し続けるしか無かろう。弓と矢、それと固有魔術が載った教本だ、これくらいは、自分でやってみるがいい」
「え、教えてくれるとかじゃないんですか…?」
「他の二つ目なら教えることもあるが、『寄絃』は、実践感覚で掴むのが一番早い。なに、安心するといい。命の危険があれば、助けに入ってやる」
スピーリトゥスは、どこからともなく世界樹の枝で出来た弓と、世界樹の実の種を割って矢じりにした矢を数十本入った矢筒、古ぼけた分厚い本をロゼに手渡すと、現れた時とは逆に、スーッと消えていく。
「ニーツ師匠のところに帰ろうかな…」
思っていた修行とのギャップに、ホームシックならぬマスターシックなロゼは、とぼとぼと濃霧の森の中を歩き出す。
このまま全員の修行の初めを書き、書き終わったら個々に焦点を当てて集中的に書きたいと思います。




