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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第九章 強さを求めて【前編】
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episode135 スピーリトゥス=サンクトゥス

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

「わ、分かりました。そちらの要求を飲みます。ですので、我が里への危害は…」

「ご安心を。そちらが約束を破らない限り、こちらはエルフ国に手出しはしません。『世界樹に誓って』。」

「その言葉の意味を分かって使っているのですか?」

「もちろん。世界樹への誓いは、エルフ国において神に誓うよりも重い約束を意味する。私は、一度口にしたことは守ります。」

「信じます」


 この少しの会話の中に、レオとフィンフェネルの表には見えない激しい攻防が繰り広げられた。

 どちらかと言えば揺さぶっていたのは、レオの方だが、フィンフェネルもそれに負けじと食らいついていた。

 この攻防を理解できるのは、レオとフィンフェネル、そしてずっと笑みを浮かべて我関せず状態のヒカルだけだ。

 意味深長な顔を浮かべて腕を組むヴィデレは理解していないし、全て分かっていますと言ったふうに前髪を掻揚げているベッルスも一つも分かっていない。ロゼに関しては、可愛く小首を傾げている。

 

「それでは、詳しい話はまた後ほど。今日のところは、言質が取れただけで十分です。」

「待たれよ」

「っぅ…!!」


 立ち去ろうとするレオ達を不意に呼び止める声。


(気配を感じなった…?ヴィデレとクソ勇者、二人の様子を見る限り、二人とも気づいていなかった。)


 その声から距離を取るように、レオ、ヴィデレ、ヒカルの三名は、一気に部屋の隅へと飛び退き、警戒を強める。

 レオを初め、ヴィデレやヒカルも気づいていないというだけで、この声の主は『やばい』。普通では無いことは、明らかだ。


「スピーリトゥス=サンクトゥス、それが我の名だ」

「第四の魔眼、《万物》の魔眼の所有者…か。」

「いかにも。我こそは、世界樹に選ばれ、愛された者なり」


 レオとは反対側の部屋の隅から姿を見せたのは、美しい翠色の髪に、長く尖った耳、威厳ある声とは裏腹に、置物のように整った顔立ち。


「ハイエルフ…。」

「見覚えがあるようだ。だが、それは似ているようで似ていない。混じっている(・・・・・・)。悪いほうではない。いい混じり方をしている」

「どういうことだ?」

「いずれ分かることだ」


 それを言い残すと、空気に溶け込むように消えていくスピーリトゥス。

 目の前で消えたのにも関わらず、姿を見失う三人。


「うーむ、私でも分かりません」

(われ)の眼を持ってしても、知りえなかった。小僧は?」

「消えたわけでも、姿を隠したわけでもない。"消滅した"。」


 レオの魔眼は、全てを視ることができる。

 魔力、気力、気配、生命力、この眼に例外は無い。だが、レオの眼に映ったのは、『無』。

 本当に、有が無になったのだ。


「なるほど。これは、一杯食わされたな。」

「すまない総督、何がどうなっているんだい?」

「俺たち三人は、この国に脅しをかけた。念の為にな。だが、エルフ国も、こちらに脅しをかけたんだ。『タダでやれるとは思うなよ』とな。」


 レオがここに長居しずに、すぐに帰ろうとした理由の一つが、終始会話のマウントを取って交渉を終わらせること。

 交渉自体は、互いの意見が合致したように見えるが、実はそうではない。レオが脅しをかけたことで、リベリオンとエルフ国の関係は、リベリオンの方が上になった。

 だが、最後にスピーリトゥスが現れ、その力の一片を見せたことで、五分まではいかないものの、リベリオンの優位性はかなり下がった。


「はぁ…予定通りとはいかないか。」

「交渉は上手くいったんですし、帰りましょう!」

「まずは腹ごしらえだな」

「エルフ国の花も見てみたいものだッ」

「あの、フィンフェネル様はよろしいのですか…?完全に置き去りですけど…」

「いい。スピーリトゥスというフィンフェネルよりも上の存在が出てきた以上、どれだけ取り繕っても全て筒抜けになる。無駄な事はしなくていい。」


 そう言い残して、扉から出ていくレオ達。最初の礼儀正しい姿勢は何処へやら。


「む、無駄…無駄…」


 布の向こうに、一人取り残されたフィンフェネルからは、王としての威厳は少しも感じられなかった。



「結局、上手くいったってことでいいんですよね?」

「ああ。昨日の晩餐会でも問題は無かった。今日の昼には経つぞ。」

「ええー、ミラちゃんもっとゆっくりしたいー!」

「その事だが、各自好きにしていい。これから約半年間は、何もすることが無い。正確には、俺を含め、貴様らには半年間役割が無いと言った方がいいな。」

「つまり?」

「長期休暇だ。一部を除いて、好きにするといい。観光していくのも一つの手だな。」


 フィンフェネルとの謁見が終わった次の日の朝。宿屋の中の食事場で、レオ、ミラ、ウムブラは、三人で今後について話し合っていた。


「ウムブラ、全員叩き起して伝えてこい。」

「了解。総督ハ?」

「俺は……、少し修行にな。」

「ヴィデレさんとです?」

「いや、別の人だ。半年間丸々俺はいなくなるからな。次会った時、弱くなっていたら殺す。」


 レオはそう言い残して立ち上がると、宿屋から出ていく。

 その背中からは、不安が感じ取れた。

本日より、週一連載の新作を投稿しました。よければ見てください。

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