episode133 カーリの二つ名
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カーリは、【ホストクラブ タキオン】が営業終了した初日の夜、【スクッラ】を打ち倒した場所に再び足を運んでいた。
その場所は、【闘技場】が灰塵へと変わったのが見える位なので、小高い丘になっている。
「ほんの二日前までここで戦ってたんだな…」
色濃く残った戦いの爪痕を見ながら、カーリは表情を曇らせながら呟く。
民間人の死者は出なかったものの、リベリオンから二人、獣人国から十八人の合計二十人の死者を出した。
この規模の戦でこの死者の少なさは、例を見ないものだが、それでも大切な仲間が死んだのは悲しいことだ。
「全部を守れるくらい強くならないとな」
今回の戦で、この死者達の死因を誰かのせいにすることは出来ない。
だからこそ、自分を責めてしまう。自分がもっと強ければ、もっと上手く立ち回れたら結果は変わっていたのかもしれない。無性にそんな事を考えてしまうカーリ。
「あまり夜風にあたりすぎるのは体によくないですよ」
「学園長…」
一人、何をする訳でもなく、ただぼうと星空を見上げていたカーリの元へ、ヒカルが現れる。
「どうも。星空もいいですが、街の方も見てみては?」
「街…」
カーリは、ヒカルの言うがまま、【アシュミルン】の方を見る。
「綺麗…」
思わずカーリの口から漏れる声。
そこには、ペンキで隅々まで塗り広げたような夜を照らす街明かりが、星々と地平線の先で混ざり合い、空と地面が同化したかのように見えるほどの幻想的で綺麗な街並みがそこにはあった。
「ここは、君の師匠であり、私の弟子でもあるビスティアくんが一番大好きだった場所です。何か嫌なことがあると、卒業後はよくここに来ていたそうです」
「師匠の…」
「君は、闘技場が破壊された時、とても怒りました。師匠の思い出の地である【アシュミルン】を破壊されるよりも先に、全く知らない人々の命のために怒った。これは素晴らしい事です。人として、勇者として誇っていいことです」
ヒカルは、優しい笑みを浮かべ、カーリの頭を撫でる。
カーリはくすぐったそうに目を細めるが、それを嬉しそうに受け入れる。
「『全ての人のために』、それが君の二つ名です。ビスティアくんから、もし君が何か勇者として、人として成長したと感じた時、この二つ名を君に渡してほしいと言われていました。彼は学科の方の成績は乏しかったはずですが、必死に考えたのでしょう」
「全ての人のために…師匠がこれを俺のために」
「君にピッタリだと思います。」
「オムニブス…オムニブス…」
何度も小さく自分の二つ名を噛み締めるように繰り返し呟くカーリ。それほどまでに嬉しかったようだ。
「頑張れ若人。君の成長はまだ始まったばかりです」
☆
『まさか殺されるとは~な…だがまあ、問題な~い』
胸にぽっかりと風穴を開けた男、マサシ=タナベが、土の中からゆっくりと起き上がる。
唇を一切動かさず、妙に語尾の方が間延びした喋り方をするマサシ=タナベ。
目に正気は無く、既に体の一部が腐敗が始まっているのにも関わらず、くぐもった声を響かせるその姿は、誰かに操られているとしか考えられないような姿だった。
『扱いやすい駒だったんだが~な。いで~よ。【カルタイ・ウィクトリケス】』
マサシ=タナベの唇を無理矢理こじあけて出てきたのは、一匹の小さなトカゲ。
マサシ=タナベの体を伝って、森の中へチョロチョロと逃げていく。
『これでまた楽しめ~る』
最後に一言そう言い残し、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちるマサシ=タナベ。
この戦線は、まだ終わってはいない。
今日はまとめみたいな形でした。これにて八章完結です。
すみません、今日は用事があるため、この時間の投稿です。