表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第八章 オムニブス
130/286

episode129 それぞれの場所で

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

 超級魔獣、【災いの戦士(メルム・ミーレス)】。

 その名の通り、災いをもたらす甲冑姿の巨人。特殊な技を使わず、魔術の使用も極端に少ないが、巨体から繰り出される純粋な破壊力を持つ攻撃は、個体系に部類されるほど厄介だ。


『あと少しだ!食らいつけ!!』


 【獣化】した獣王たち、獣人国の戦士は、【災いの戦士】に対して、一匹の獲物を狩る獅子のように連携して攻撃していく。

 硬い甲冑に身を包んでいるとはいえ、獣王の鋭い牙は、それすらも容易く貫通してしまう。


『む?』


 獣王たち、獣人国の戦士たちは、戦線の最後方を押し上げ、敵の群れを圧倒していた。

 レオが【レクス】を倒し、ヒカルがマサシ=タナベを殺したことで、統率者がいなくなり、群れの統率がお粗末なものへと変わっていく。

 ようやく、獣王たちのいる最後方にもその効果が表れ、崩しやすくなった敵陣系をこれでもかと崩していく。

 だが、統率が取れなくなったということは、低級や中級の魔獣が蜘蛛の子を散らすようにバラけていく。それを始末するために、超級だけにとらわれずに、逃げていく魔獣を囲み、内側へ追い込むように陣形を作っていく。


『やってくれたか…』


 【災いの戦士】の肩の上から魔獣たちの動きを見て、全てを察した獣王。レオに最大級の感謝を心の中で浮かべ、まだ終わりではないと気持ちを入れ直す。

 どんな状況でも戦が終わらない限り、勝ちも負けもない。戦が終わる前に勝ちを宣下すれば、気持ちが緩み、もし、押し返された時、士気の下がり方は、何も言わない時の比ではない。


『いい風が吹いている…宴は盛り上がるだろうな』


 目を閉じ、風を全身で感じる獣王。

 鬣がなびき、亡き戦友(とも)が背中を押してくれたような、そんな事を風から感じ取った獣王。


 獣王は、レオと同じ、友を大切にし、家族を愛す。そんな王だ。

 命を奪い合ったのだからどちらかに死は訪れる。

 だが、それでも獣王は、心から込み上げる痛みに耐えることはできなかった。


 グルゥガァァァァ!!


 戦場に響く獣王の雄叫(おたけ)び。

 それはまるで、獣王の悲しみを表しているような、酷く悲痛なものだった。



「レオ様」

「あまり大きな声を出すな。」

「いいんですか?」

「何がだ。」

「久しぶりに二人一緒に戦わなくて。私は二人のコンビ、すごい好きですよ」

「あれはアイツの戦いだからな。邪魔するわけにはいかん。」


 木の影から【スクッラ】とカーリの戦いを見守るのは、【レクス】を討伐し、最後方の様子を確認しに来たレオ。

 そこに、ここに来る途中のレオを見かけ、あとを追いかけてきたロゼが声をかける。


「俺とアイツの関係は変わった。いや、俺が変えたという方が正しいな…確かに俺はアイツの事をライバルだと思っているし、あの才能や、愚直なまでの素直さは尊敬している。【深淵(アビス)】を体内に取り込んだのだってそうだ、アイツの目標として前にいたいから、その一心だった。」


 真剣にカーリの戦いを見ながら話していたレオが、戦いから目を逸らし、下を向く。


「少し前ならばアイツの存在を気にする余裕があった。だが、今の俺は、一瞬足りともレオとして生きることはできない。俺の我儘で仲間の命を奪ってしまうわけにはいかないからな。正義が大人になって世界を知れば知るほど揺らぐように、立場や責任が重くなればなるほど子供のように振る舞うことはできない。」


 レオは、顔を上げてロゼの方を振り向くと、悲しそうに笑う。


「今、ド平民と共に戦えば俺は、子供の俺を抑える自信が無いんだ。」

「全部終わったら、私がレオ様の我儘を全部叶えてあげますよ」

「そうだな…俺のプロポーズでも受け入れてもらうか。」

「っ…!?」


 最後に冗談めかしく笑ったレオは、顔を真っ赤にするロゼを置いて、戦場へと戻っていく。


「わ、私も戻らないと…きゃっ!」


 我に返り、レオの後を追って戦場に戻ろうとさるロゼ。だが、動揺が隠せておらず、木の根に足をひっかけて転んでしまう。


「昔から本当にずるい人…」



「やあ、レオくん」

「なんだ生きていたのか。」

「人を勝手に殺すのは良くないと思いますけど?」

「それにしても随分苦戦したみたいだな。」


 戦場へと戻り、上級魔獣の大きな群れの相手をしていたレオの元にヒカルが現れる。

 ヒカルは、全身ボロボロ(・・・・・・)で、今なお傷を再生している状況で、一目見れば誰でも死闘だったということが分かる。


「これだけの魔獣を召喚できるほどの実力者ですからね」

「そろそろ隠居を考えた方がいいんじゃないか?」

「ハッハッハ!私はまだまだ現役ですよ!!」

「ならば、俺は他に行くから、この上級魔獣の相手頼んだぞ。」

「えっ、ちょ、まって、この傷でこれだけはさすがに無理かなーなんて、あっ、ごめんレオくん、待って!死んじゃう!死んじゃうから!押し付けないでー!!!」

「こうして英雄が戦場で死んでいくのか…。」


 涙を流しながら必死に泣き叫ぶヒカルを置いて、ほかの群れを探しに行くレオ。

 その後、泣きながら上級魔獣を相手するヒカルが目撃されたそうだ。

次話より、カーリvs【スクッラ】のクライマックスをお届けさせていただきます。

前後編の二話編成の予定です。それが終わりましたら、日常回を挟んで八章完結にしたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ