episode128 ヒカル
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残虐描写があります。苦手な方はお気をつけください。
「三秒経過しました。なので、私は君を殺します」
三日月のようにぱっくりと割れた笑みを浮かべたまま、ヒカルは淡々と告げる。まるで、握手を求めるように自然な流れで、恐ろしさを覚えるほど普通に。
「お前は元は俺と同じ世界の人間だろ!そんな簡単に人を殺すのか!!人の心を忘れるな!思い出せ、あの平和な世界を!」
一歩踏み出すヒカルに、マサシ=タナベは、ヒカルを説得するように、必死に叫ぶ。
「私は君とは違います」
叫ぶマサシ=タナベを無視して、ヒカルはまた一歩踏み出す。
「そして、僕と君は同じ」
そして再び一歩踏み出したヒカルは、マサシ=タナベの眼前に顔を近づける。
「最後に、俺とお前は似たもの同士だ」
マサシ=タナベの耳元で囁かれる低く、全身が凍りつきそうなほど冷たい声。
《怖い》。人間が感じる純粋で、自然的な感情が一瞬でマサシ=タナベの体を駆け巡る。
目の焦点が合わず、膝は笑い、奥歯がカチカチと音を鳴らす。血の気が一気に引き、冷汗が大量に吹き出す。
「ば、ばけもの…」
膝から崩れ落ちたマサシ=タナベの口からはそんな言葉が漏れる。
例え悪の道に進んでも、元は平和な世界を生きてきた同郷。説得すれば変わると思っていた。
だが、それはマサシ=タナベの思い違いだった。
目の前に存在するのは、同郷の人間なんかではなく、はたまた勇者でも、悪人ですら無かった。
【異端なる死神の使者】。
魔術によって保存されていた約三十年万年前の書物の中に記された、人族にとって最恐にして最狂の人間。
人を殺すことに躊躇いを覚えず、感情がままに人を殺す。そこに慈悲など無く、人情から遠く外れた、壊れた心の持ち主。
死神の使者にして、死へ誘う神そのもの。
人はその人間に畏怖し、安寧の時は存在しなかった。
その者の名は、【ヒカル】。
偶然か。必然か。
マサシ=タナベにとって、自分を見下ろすヒカルの姿は、まさに【異端なる死神の使者】であった。
「がふっ…」
そして、口から勢い良く血を地面に吐き散らし、倒れるマサシ=タナベ。
それを冷ややかな目で見下ろすヒカル。そこに感情は無く、吸い込まれそうなほど黒く塗りつぶされた艶やかな黒い瞳が微かに動いただけだった。
「間違った道は許されない。これが正しき道です」
ヒカルは、右手に握られている赤黒い柔らかな塊を握り潰す。
ヒカルの指の間から、原型を留めていない『何か』が赤い鮮血と共に飛び散る。
口元に飛び散ったそれを舌で舐めとったヒカルは、いつも通りの、他人を小馬鹿にしたような憎めない笑みを浮かべる。
「レオくんの方に戻りますか」
踵を返し、歩き出すヒカル。
まるで人を殺した後のようには見えないほど、軽やかなスキップを踏むヒカルは、書物に記されている通り、人情から外れた壊れた心の持ち主のように見えた。
大変短いですが、かなり重要な濃密な話です。ヒカルの印象が変わったのでは無いでしょうか。




