episode117 理想の完成系
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「現在敵の数は、六万を超えた。こちらはリベリオンから五十七人、獣人国から千二百人。約五十倍の差がある。しかも、敵は未だに増え続け、こちらに援軍は無い。」
「絶望的な状況と言えるだろう、だが、国民を守るため、我々は立ち上がらなければならない。それが力を持つものの義務だからだ」
レオと獣王が並び、皆の前に立って決起を行う。
模擬戦とは違い、自分達の命に加え、何千万という命がかかった防衛戦だ。自然とその場の空気は緊張感の張り詰めた重いものに変わる。
【アシュミルン】から歩いて小鐘一つほどの川を渡った少し開けた場所に、レオ達は本陣を構えていた。
敵の第一陣は、あと十分もしないうちに、目の前の山を下り、姿を見せるだろう。
「臆することは無い。確かに今は、絶望という名の暗闇の中だ。だが、俺にとって暗闇は庭みたいなものだ。俺の背中だけを見て着いてこれば間違い無く希望の光へ辿り着ける。安心しろ、貴様達の先陣を切るのは、リベリオンが総督…レオだからな。」
「これは演習では無い、想定外の事があっても臨機応変に対応してくれ」
「総員、突撃…!!」
各々が、事前に伝えられた作戦に従って動き始める。
最初に勢いよく飛び出したのは、レオとヴィデレ。第一陣と第二陣の低級、中級の混合部隊を倒すために、走りながら詠唱を始める。
「「【朱殷の宝石が闇夜に輝く 血の契約は交わされた 混ざりあった血は二人を映す 真実を視せ 真実を知る 煌めく真実の鏡】」」
詠唱を終えた二人の左目に変化が生まれる。
レオの左目には六芒星が、ヴィデレの左目には正三角形が浮かび上がる。
吸血鬼として互いの血を飲み、契約を交わしたレオとヴィデレだから出来る芸当。互いの魔眼を片目だけ入れ替える魔術。世界の裏に魔眼ありとも言われるほどの魔眼を二つ保有する事は、強くなるなんて一言で済まされるような次元を超え、強さの次元を二つ、三つ上げることができるほどだ。
「見えた。」
山を下り、見えてきたのは大きな芋虫のような魔獣。数はざっと百と少し。全てが低級の魔獣だ。
「【雷鳥よ】。」
魔獣の群れに向かって凄まじいスピードで向かっていく一匹の雷鳥。
だが、群れに近づく度に雷鳥の数は増えていく。
その数は、魔獣数の倍程になり、視界を埋めつくしていく。
「【雷同・連爆】。」
魔獣の群れに雷鳥の群れが接触する。雷鳥に刻まれた【雷同】の魔術陣が、レオの合図で光り輝き、爆発を始める。
次々と誘発されて爆発を大きくしながら火柱を上げる雷鳥。
一瞬にして低級魔獣の群れを塵へと変える。
「おい小僧、私にとっては、久しぶりに暴れられる場所なんだ。少しは残しておけよ?」
「貴様の魔術詠唱のスピードが遅いのが悪いんだろうが。」
「ほう?言ってくれるでは無いか」
「後は全て俺が倒す。年寄りは、隠居してろ。」
「ほざけ。私はまだ若い」
「第二陣が見えてきたぞ。」
目を見張るスピードで山を駆け上がっていくレオとヴィデレ。
その奥に、第二陣の魔獣の群れが見える。
「【鎖よ】」
先程のが相当悔しかったのか、ヴィデレは、魔力を込めればどこまでも伸びる鎖を使ってレオより先に攻撃を仕掛ける。
魔獣の外殻をいとも簡単に貫く鎖。意思を持ったかのように、正確に魔獣の急所だけを貫いていく。
「今度は私の勝ちのようだな?」
「チッ…だが、ここから俺達の仕事は別になる。覚えているな?」
「無論。第一陣、第二陣を含めた魔獣の統率を行っている超級を倒す」
「ああ。この群れ達の行動は、あまりにも統率が取れすぎている。今も魔眼で上からの視点を見たが、第二陣を倒されてからの陣形のフォローが早すぎる。」
「流石に厄介だな」
☆
「【勇者の魂】」
カーリの胸に、白金色の炎が灯る。
「【流れろ】」
レオに、敵の右翼の討滅を任されたカーリ。
数は少ないものの、不意をつくために置かれた群れのため、個体は全て上級以上だ。
今のカーリにとって、上級の魔獣など、魔獣に対して絶対な力を発揮する【勇者の魂】の前に相手にもならないが、油断は出来ない。
上級以上になると、気配を消したり、姿を消したりなどといった厄介な行動を取る魔獣が増えるため、不意をつかれかねない。
「フッ…!!」
鋭いカーリの剣が、魔獣を真っ二つに切り裂く。
カーリの剣の腕は、入学当初とは比べ物にならないはど上達し、既に一流の域に達していた。
常人までならここで充分。むしろ、出来好きな程だ。
だが、カーリは違う。数多の天才達に認められた、カーリの至高の才能は、こんなものでは終わらない。
カーリの遺伝子に刻まれた才能は、一流のその先、誰もが目指す完璧を知っている。
そして、その完璧を越え、誰も追いつけないスピードで成長していく。
【理想の完成系】。
開いていたはずのレオとカーリの差がまた、この魔獣討伐をきっかけに、縮み始める。
やっと始まる…。