episode109 真実
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「あ、あのレオ様…」
宿屋に戻り、ミラと一緒にシムルを部屋へ送り届けたレオ。
部屋から出ていこうとすると、シムルから呼び止められる。
「俺は、貴様に謝らないといけない事がある。おそらく今、貴様が打ち明けようとしている真実。それは、貴様を初めて見た時から気づいていた。」
「えっ…?」
レオを呼び止めたシムルの表情は暗く、何度も何かを言おうとしているが、その度に止まる。
その時、レオが口を開く。
まさか自分がひた隠しにしてきた真実を明かした時、レオに軽蔑されるのでは?と考えていたシムルにとって、レオのこの言葉は驚きでいっぱいだった。
「気づいていて尚、貴様を雇った。安心しろ、俺は、それくらいで怒りもしないし、クビにもしない。」
「本当…ですか?」
「不安にして悪かったな。」
「あの…ミラちゃん状況が全く掴めないんですけど…」
トントン拍子で事が進み、状況が理解できないミラ。
真剣な面持ちのレオと、不安が取り除かれ、張り詰めたものが無くなり、泣き始めたシムルを前に、申し訳ないと気持ちで、二人の会話の間に割って入ったミラ。
「シムル。それを明かしたところで、他の奴の態度は変わらん。何かあったら全て俺がなんとかしてやる。安心しろ。」
「…はい」
シムルは、レオに後押しされ、涙を拭いながら自分の髪を数度撫でる。
「っ!!」
そして、シムルの髪から間から勢いよくぴょこんと出てきた狐耳。
それを見たミラは、心底驚いている。
「シムルちゃんが…亜人?」
シムル、そしてシムルの両親は共に狐の亜人。
獣人国には亜人の姿は人族よりも割合が多く、珍しくない程度には住んでいる。
獣人国で宿屋を経営していたシムルの両親は、経営が悪化し、借金を繰り返して破産。
厳しい取り立てに限界だったシムルの両親は、自ら家族全員で奴隷落ちを選び、借金取りの目から逃げるために王国の奴隷となった。
だが、迫害の多い王国で、亜人の奴隷の扱いは、奴隷の中でも更に扱いが酷くなる。
それを危惧したシムルの両親は、シムルに耳と尻尾を隠す練習をさせ、自分たちも人族として生きることに決めた。
「シムルが奴隷としていた期間は二年と少し、その間隠し続けていたんだ。リベリオンでも隠すのが自然な流れだろう。対王国と言ってもシムルがいた頃は、人族がほとんどだったからな。」
シムルを落ち着かせるために、ベッドの隣に座ってシムルの背中をさするレオ。
「俺とクソ勇者は気づいていたが、わざわざ俺達から問い詰めるものでもないと判断し、何も言わなかったそう言うわけだ。」
「ようやく結びつきましたよ」
「黙っててごめんなさい…」
「謝るような事じゃない。今回は獣人や亜人も数人連れてきたが、アイツらは戦闘向きだ。買い物をする時、人族の俺たちじゃ結構値段を釣り上げられてな。貴様なら大丈夫だろう、任せたぞ。」
「…はい!」
レオは、シムルの頭を撫で、敢えて小さい事でもシムルがいると助かる。そういった例を出し、シムルに自分は必要なんだと思わせる。
精神状態が不安定な人は、自分の存在価値について自問自答してしまうことが多い。その人に存在価値があると思わせ、宥めるだけで、結構精神が安定したりするものだ。
実際シムルも、ぎこちないながらもいつも通りの笑顔を見せ、喜んでレオに撫でられている。
「クソ勇者も言っていたが、異界人からすれば動物の耳や尻尾が生えた方が、モテるということも耳にしたことがあるしな。」
「ほ、ほんとですか?レオ様も、耳や尻尾があった方がいいですか?」
「そうだな…撫で心地は良さそうだ。」
素直な感想を述べるレオだが、これは浅はかな判断だったようで、シムルは顔を真っ赤にし、そこにいたミラ、扉の奥で盗み聞きしていたニーツ、ロゼ、天井裏に潜んでいたウムブラ、気配を消してずっと部屋の中にいたヴィデレに聞かれ、後々大変な目にあったそうだ。
☆
「懐かしいですね」
「エドラスさんは、ここに来たことが?」
エドラスと一緒に獣人国を見て回っていたカーリ。『ファトゥウス』の頭として日が浅いカーリは、エドラスに大変世話になっており、懐いていた。
「ええ。私とビスティアが初めて出会った場所であり、『ファトゥウス』が結成された場所でもあるんですよ」
「え、そうなんですか!?」
エドラスの口から意外な事実を聞かされ、驚くカーリ。
「そうですね、今日は一日暇ですし、腹ごしらえでもしながら話しますか」
15000pv突破!皆様、ありがとうごさいます!