episode104 最後の作戦
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数度、軽くその場でジャンプし、足場の感触を確認すると、レオはゾーウモス目掛けて駆け出す。
見えているのは、必死に戦う仲間達と、ゾーウモスのみ。
ゾーウモスが、レオに気づいて束ねた体毛を振り下ろすが、レオはそれに目もくれずに地面を力強く踏み込む。
「【風よ 我が願いを叶えろ 形は大盾 受け止めろ暴風 激しく荒れ狂う風】」
高速で走るレオを追い越して後ろから発射されるロゼの魔術。
風で出来た盾は、きちんとゾーウモスの束ねた体毛を受け止め、レオの進路を確保する。
「ウムブラ、全員に撤退命令を出せ。」
「ッ…!?リ、了解!!」
そして、後方でロゼの変わりに支援を務めていたウムブラとのすれ違いざまに、伝達を頼むレオ。
ウムブラは、一瞬、驚いた様子だったが、すぐ様戦場を駆け回る。
「ロゼ、助かった。メンバー全員を連れて、ここから出来るだけ離れろ。」
「で、でも!」
「頼む。仲間のために。信じて時間を稼いでくれたアイツらの期待に応えるために必要なんだ。」
「…分かりました。気をつけて、レオくん」
「帰ったらもう一回な。」
「今回だけです」
レオは、背後のロゼの気配が無くなったのを確認すると、トップスピードまで加速する。
「撤退までにもう少し時間が必要だな。【踊れ 舞え 麗しく華麗な姫達よ 血塗れた姫よ 影に潜む姫よ 残虐なる姫よ 彼の者を滅せよ 血影の姫君達の乱舞】。」
血と影で出来た姫達が、途中で倒れているメンバー達を抱えて、無事なメンバー達と共に避難していく。
「ネーザ、最後頼むぞ。」
『ほんとご主人は、ネーザちゃんがいないと駄目駄目ですねー』
「ああ。貴様が頼りだ。」
『仕方ないですね。ネーザちゃんの本当の力、見せちゃいますか』
「任せたぞ『相棒』」
ゾーウモスに近づくにつれ、レオへの攻撃の手は増していく。
それを横ステップで躱し、ネーザを使っていなすことですり抜けていく。
(これが、感覚で動くという事か。)
頭で考える前に、体が反射的に反応し、ゾーウモスの攻撃を防いでいる。
今までにない自分の動きに、戸惑いながらも、その動きを再び体に覚えこますように意識をする。
「撤退完了…。」
レオは、ミラから通信系の魔術で連絡を受けると、最後の作戦のために動きを始まる。
☆
(最初は自分の考えを俺自身が信じられなかったが、流石は神獣。上級神と肩を並べるだけはある。)
レオは、ゾーウモスとの戦いの中、一つの仮説に辿り着いた。
ゾーウモスは、周りの生物を補足するために、目に見えない程の細い毛を森の外まで張り巡らせている。
という仮説だ。
実在、その説を考えついてから、【魔眼】を使って目を凝らした結果、ほんの僅かに細い毛を見ることができたレオ。
空気中の魔素と変わりないほどの魔力を纏った、極細の体毛は、森の外まで伸びており、肌に触れても気づくことは無いレベルのものだ。
「作戦を開始する前から、俺達の行動は把握されていた訳だ…。最近、俺の作戦が上手くいかないことが多すぎて、自信を無くすところだったぞ。」
最初、レオ達を舐めきっていたゾーウモスは、その細い体毛に頼ることは無かったが、ゾーウモスは、ロゼの【君臨せし女王の剣】を喰らって本気を出したのだろう。
仲間達の消耗の激しさと、連携が上手くいかなったこと。
体毛をレオ達へ放った際の異常なまでの捕捉能力。
空中で体毛がレオへ向けて進行方向を変えたこと。
全てが、目に見えない細い体毛の仕業だったのだ。
ゾーウモスは、細い体毛を使って、レオ達の細かい動きを把握し、それに合わせて攻撃をする事で連携をさせず、前衛部隊の機能を停止させた。
体毛を放った際も同じで、目に見えない細い毛使ってレオ達の位置を把握。動いた場合、それに合わせて細い毛で、飛ばした体毛を絡め取り、進行方向を無理矢理変えていた。
全ての謎が解けたレオは、次に、この解決策を考えた。
一度ネーザを使って斬ろうとも考えたレオは、実行に移したのだが、暖簾に腕押しの如くゆらりゆらりと剣の表面をなぞるだけで一本たりとも斬ることは出来なかった。
気を失い、目が覚めた後に状況を整理し、思いついた策は、ゾーウモスへ向かって走っている際に試したレオ。
だが、その途中にレオの脳裏にある光景が浮かんだ。
これならいける。そう直感的に確信したレオは、ウムブラとのすれ違いざまに撤退命令を。ロゼに、出来るだけここから離れろと命令をした。
博打要素が無いと言ったら嘘になる。
だが、やるしかない。
これで失敗すれば、士気が大きく下がり、もう一度挑むことは厳しい。
ここで決める。
そう、強い覚悟を決めたレオは、空に向かって大地を踏みしめる。
☆
「今回ばかりは、あのミラに感謝しないとな。」
レオは、魔術陣を足場に、空に燃え盛る炎を通り越し、闇夜を照らす月に向かって空を上っていた。
「まだだ。もっと、高く。」
足場を変えながら、物凄い勢いで駆け上がっていくレオを放っておくゾーウモスではない。
ゾーウモスには、レオも気づいているが、自在に体毛を伸び縮みすることができるため、ゾーウモスはこれでもかという勢いでレオを追いかけるように背中の体毛を伸ばす。
「貴様には追いつけない。」
レオは、足首を絡め取ろうとするゾーウモスの体毛を一回転しながらネーザで切ると、更に加速して駆け上がっていく。
「ようやく止まったか。」
約二分間、魔術陣を足場にして空へ駆け上がってきたレオと、それを追いかけて体毛を伸ばし続けていたゾーウモスの追いかけっこが終わりを迎える。
ゾーウモスの体毛が、これ以上伸びなくなったのだ。
魔術陣を足場にして、スレスレのところで仁王立ちするレオを捕まえようと、毛先がウヨウヨと動くが、空を切って終わる。
「【発雷】」
そして、急造で作り出されたレオの初級魔術。
アーステリオースの雷の玉にに似た、三角錐の形をした雷の塊が、レオの周りを浮遊する。
「いけ。」
そして、レオの声に反応するように、三角錐の雷の塊は、体毛の届く範囲ギリギリをゆっくりと飛んでいく。
すると、どうしたことか。ゾーウモスの体毛全てがそれに引き寄せられるように逆立ち、一本に纏めあがられていく。
前日にミラがヒカルから教えて貰ったと言っていた静電気を使った遊び。
それを思い出したレオは、厄介なゾーウモスの体毛を全て引き付け、生身の体を最大威力で叩く。それがレオが取った最後の作戦だった。
だからと言って、レオは静電気の仕組みを詳しくは知らない。
勇者召喚で異界から来たヒカルの知識が大分浸透しており、ヒカルの祝福の【レシピ】で複雑なものも浸透しているが、中身の構造以外の科学的な部分はヒカルも知らないため、『それが当たり前』で浸透している。
手詰まり。
普通ならば…
だが、レオは魔術の天才。静電気の仕組みは分からなくとも、魔術でそれに近い現象を作り出すことは容易い。
「ま、俺の髪まで引っ張られるのは面倒だがな。」
魔術陣の上で、心底嫌そうに自分の髪を抑えながら呟くレオ。
「敵討ち…なんてのは柄では無いのだがな。いや、最近はそうでも無いか。死んでいった仲間達のために…!」
次で終わります(終わらない)




