episode101 犠牲者
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ゾーウモスの体毛の一部を氷漬けにし、再び距離を詰めにかかる前衛部隊。
レオは、敢えてゾーウモスの正面に回り込み、単独行動を図る。
「【我が血潮は黒く染まり 漆黒の血は全てを喰らう暴食 深淵に生を狂わされた者の末路をなぞれ 暴血の王】」
レオは、ネーザで左の人差し指を浅く切ると、魔術を発動させる。
人差し指から滲み出る血が、魔術の発動と同時に黒く染まる。
「"正々堂々真正面から相手してやる"」
普通に【深淵】を使えば、その瘴気で仲間の体調を崩せ、意識を惑わす可能性がある。
そこでレオは、【支配】や【雷同・深淵】のように魔術に折り込み、周りに影響が無いほど少ない【深淵】を魔術に乗せ、威力を底上げした魔術を中心的に開発していた。
「─────疾ッ!!」
体毛を使って相手の居場所を感知するゾーウモスに、【幻歩】は通じない。
レオは、自分の持てる全速力で、ゾーウモス目掛けて駆け抜ける。
振り下ろされる束ねられた体毛を避け、それを足場に駆け上がり、迫り来る細い体毛を体を捻らせ、時にネーザで切り裂き、ゾーウモスの中へ中へ侵入していく。
「神をも傷つける【深淵】の力。身をもって味わえ。」
レオは、唯一剥き出しになっているゾーウモスの眼球に、先程の漆黒の血を一滴落とす。
レオは、血を垂らされたことでゾーウモスが反射的に目を閉じた事を確認すると、閉じられた瞼を足場に、大きく後ろに飛んで後退する。
───ンガアアアアアアアアア
「ゾーウモスが叫んだッ!?」
空を劈くように響くゾーウモスの叫び。
ゾーウモスが初めて上げた叫びは、苦しみに満ちていた。
【深淵】は、生物にとって劇薬だ。
思考を狂わせ、自我を殺し、その者を死ぬまで乗っ取り、破壊を続ける。
一滴でも体内に取り込めば、血管はズタズタに切り裂かれ、器官はその機能を失う。
まさに世界一の毒。
その効果を何倍にも膨れ上がらせたのが、【暴血の王】。
深淵によって黒く染められたレオの血は、暴君の如く体内を暴れ周り、体の内側から全てを食らったように飲み込み、消していく。
さらに、吸血鬼のレオは、自分の血を自由に操作できる。目から侵入させた血を脳まで操作し、ゾーウモスの脳を破壊する。
「全員、気を抜くな!『神』の名を持つ獣だ!再生能力が無いはずがない!手を休めるな!!」
実際、切り落としたはずの体毛が再生するどころか、どんどん数が増えている。
「デカい上に、タフにも程がある…。」
戦闘において体の大きさは、大きなアドバンテージになる。
レオやヴィデレのような圧倒的な力を持っていない常人で考えれば、身長が十センチ、体重が十キロも違えば、その差は歴然。覆すのは難しい。格闘技が階級分けされているのは、このためだ。
たった十という数が、勝ち負けを分けるにも関わらず、ゾーウモスはどうだろうか。
レオの何倍どころの話ではない。何千倍、何万倍の話だ。
一撃一撃の威力、重みが桁違い。さらに、ゾーウモスの巨体を持ってすれば、リベリオンのメンバーが必死に付けた傷も、蟻に噛まれた程度のチクリとした痛みだろう。
それだけ、大きさというものは、戦いにおいて重要。
ゾーウモスを倒すには、あの巨体を深く傷つける程の大技を放つか、レオの取った作戦のようにじわじわと削るしか無い。
「だが、想定よりも消耗が早すぎる…!」
ヴィデレやフォルスとみっちり訓練し、ゾーウモスを想定して何度も訓練してきた。
確かに想定外の事も多かったが、訓練を積んできたメンバー達ならば、対処出来ないほどでは無い。
なのにも関わらず、連携が上手く取れず、負傷者が増えていく。
「何が原因だ…何が…。」
レオは、ゾーウモスの攻撃を避けながら、並列的に思考を巡らせる。
「…ッ!!アーレル!!」
そして、最悪の自体が起きてしまった。
【兵科】に所属している元スラム街出身の青年、アーレルが、ゾーウモスの束ねられた体毛に直撃。あの質量に潰されては、治す暇もなく即死。
(まずいぞ。連携が崩れる…。)
仲間の死。それは、爆発的に、連鎖的に不安を伝達させる。
死んだ者が身近であればあるほど、その死は、自分に置き換えやすくなる。
それが人間に存在する『情』の怖さ。
「事前に、誰が欠けた時の指示は細かく出しているが…アイツらに取って戦場での仲間の死は初めてに等しい…。」
戦場において、一番求められるのは『心の強さ』。
不利な状況でもリスクを負って大将の指示に従えるか。
戦友が死んでも、取り乱さずにその穴を埋められるか。
長引けば何ヶ月とかかる戦。いつ終わるか分からない戦場の中、集中力を切らさずにいられるか。
戦場において、最も死傷者が出るのは、敗北が決した時。
敗北というのは、戦士にとって、何よりも心を折る二文字。
敗北が脳裏をよぎった時、同時に死がその者の心を支配する。
未だ勝利の兆しが見えない中、アーレルの死は、リベリオンの中でゾーウモスへの敗北がチラつくには充分。
誰もが、普段通りの動きが出来なくなる。
「前衛部隊撤退!体勢を立て直すぞ!!」
レオの声にいち早く反応したのは、戦場を経験しているエドラスやベッルス。
やはり、経験者の気持ちの切り替えは早い。
だが、他の者の反応は鈍い。
「ネーザ!」
『今回ばっかりはふざけてられないようなので、全力全開ですよ!!』
「【野性解放】、【魔力解放】、【気力解放】…【凝縮せよ】」
レオは、ネーザを【君臨せし女王の剣】に匹敵するほどの大きさに変え、野性の解放、それに加えて溜め込んでいた余剰魔力と気力を解放し、【魔闘気】へと凝縮させる。
「ハァァァァァァァァァァァァ!!!」
レオは、反応が遅れ、逃げ遅れたメンバーと、振り下ろされる束ねられた体毛の間に割って入り、剣の腹でそれを受け止める。
空中に魔術陣を展開して足場にし、奥歯を必死に噛み締めて耐える。
「ッゥ…!!」
だが、レオの必死の防御も虚しく、剣の横をすり抜けて振り下ろされた体毛に、何人ものメンバーが犠牲になる。
「レオ学生!!前衛部隊、退却完了!!」
「【雷同…連爆】!!」
後方から、レックスの退却完了の合図を聞くと、レオは置き土産とばかりに、雷鳥を飛ばし、範囲連鎖攻撃の【雷同連爆】を発動して、自分も退却する。
状況は最悪。
何故消耗が激しいのかも分からず、仲間も失ったレオ達。
そこに、さらなる絶望が襲いかかる。
戦闘シーンもクライマックス近い!!




