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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 Prolog
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episode0 昼休み

初連載作品です。

感想、ブックマーク等いただけると嬉しいです。

誤字脱字等がありましたら、報告していただけると幸いです。

◇ 勇者記念魔術学園 第九訓練場 ── ◇【王国歴1045年種月(四月)1日】


 数日ぶりに訪れた訓練場。


 普段訓練で訪れている場所だが、今は派手な紅白幕や造花など、綺麗に飾り付けしてあり、別の場所のように思える。


 目の前に突きつけられた赤紙を前にレイオスは先程まで悩んでいたいたことを思い出す。


 貴族としての自分の使命を果たすのか。


 今、大きな壁に向かって立ち向かうのか。


 だが、先程まで悩んでいた過去の自分はもういない。


「俺はもう迷わない。」



◇ 勇者記念魔術学園 中等部 一年二組教室 ◇【王国歴1044年紅月(九月)16日】


 約八百年前、魔王ゼーナが世界の六割を手中に収め、全てが魔王ゼーナの物になるのは時間の問題だった。

 魔王ゼーナが侵略を開始する以前、この世界を統べていたシルフォーゼ王国は、王国の先鋭達を送り込むも、魔王軍の圧倒的な力の前に為す術もなく撤退を余儀なくされた。

 王国側は魔王軍の進行を食い止めるため、(いにしえ)から王国に伝わる【勇者召喚】を行い、賭けに出た。

 そして、異界より勇者として召喚された勇者ヒカルは、召喚されてから七年後に見事魔王ゼーナを倒し、この世界の英雄となった。

 魔王ゼーナを倒した勇者ヒカルは自分を召喚した王国側に自分の学園を持ちたいと願い、自分の魔術学園を王国領に開校した。

 これが勇者記念魔術学園の創立までの流れだ。


「ここまでのところで質問はあるか?」


 区切りのいいところまで読み終わった男性教師は、教科書から目を外して教室内を見渡す。

 教師の目に映るのは真剣に教科書を見つめる生徒達。

 だが、その中に一人だけ教科書を開くことなく、頬杖をついてぼうと空を見つめる少年がいた。


 少年の名はレイオス=フィエルダー。

 十二歳という若さにして既にフィエルダー家を継いだ立派な伯爵家の当主。

 窓から差し込む光りに反射してキラキラと光る黒髪に、切れ長の瑠璃色の瞳。

 この年で伯爵家を継ぎ、幼少の頃から英才教育を受けていたこともあり、周りの生徒よりもかなり大人びている。


 運動神経は当然ながら、頭脳明晰。全てにおいて他者よりもずば抜けている。

 教師間でも教えることがなく、なぜこの学園にいるのかと裏で言われるほどだ。

 そして学園では上位の成績さえ納めておけば、ある程度の行動は許容される。

 成績優秀のレイオスが授業を上の空で聞いていても男性教師に注意されることは無い。


「…じゃあ少し早いが今日はここまでにする。午後からの実習に遅れないように。解散」


 一瞬チラリと時計に目をやった男性教師は、少し考える素振りを見せた後、教科書を閉じて号令をかける。


 男性教師が教室から出ていくと同時に鐘が鳴る。

 すると、教室がワッと一気に騒がしくなる。

 昼休みは小鐘(こがね)二つ(小鐘一つで三十分)と、長めに時間が取られている。

 今日は裏庭で食べようとか、食堂に行こうなどと友人同士で相談している声も伺える。


 レイオスはいつも食堂で一人で食事を取っているため、鐘が鳴った時点で一人立ち上って、足早に廊下を歩く。


「よっ!」


 レイオスが廊下を歩いていると、四組の教室から出てきた茶髪の少年がレイオスに声をかける。

 少年の名はカーリ。

 レイオスよりも少し背が高く、少し癖のある茶髪と同色の瞳。人懐っこい笑みを浮かべた当たりの良さそうな少年だ。


 ちなみにレイオスは二組で、食堂は五組を通り過ぎた先の階段を降りることで行ける。


「……。」


 レイオスはカーリから声をかけられるも、歩みを止めることは無い。


「おーい!流石にもう慣れたけどさぁ、無視はよくないぞ?」

「うるさいド平民。そして馴れ馴れしい。」


 そんなレイオスの後ろを付いていくカーリ。

 しつこく話しかけるも、レイオスに全て一蹴される。


「俺の名前はカーリだって何回言えば覚えるんだ?」

「貴族は平民の名など覚えん。」

「それは偏見じゃ…」


 一向に止まる気配のないレイオスを見て、複雑そうな顔でレイオスの横に付いて歩くカーリ。


 カーリはシルフォーゼ大陸の外れの村から来た平民の中の平民。生まれてこの方貴族を実際に見たのがレイオスが初めてという自他ともに認めるド平民だ。


 レイオスに一度模擬戦で圧倒的差を見せつけられてやられてからというもの、レイオスに付きまとうようになり、今では毎日のように話しかけている。


「なぁ、レイオス!今日の実習も、模擬戦してくれよ!」

「礼儀を弁えろ。そろそろ貴族に対する口の聞き方を学ぶんだな。ここが学園じゃなければ不敬罪で殺しているところだ。」

「俺、敬語って苦手なんだよな~」


 レイオスは貴族で、カーリは平民。

 普通ならば横を歩くどころか、話しかけることすらもはばかられる。


 この勇者記念魔術学園は創立者であるヒカルの決めた学園内の校則で【人種、身分などで差別をすることを禁ずる】と定められている。

 学園内では平民のカーリが貴族のレイオスにタメ口を使っても、校則上は許される。

 だが、校則ありきでもここまで貴族のレイオスに馴れ馴れしく話しかけるのはカーリしかいない。

 レイオスもこの学園に入る時にその校則を了承して入学しているので、カーリに対して直接手を出すことは出来ない。

 

「あ、カーリ!」

「ん?あぁ、ロゼか」

「あぁ、ロゼか…じゃないでしょ!」

 

 カーリの名を呼び、カーリに続いて四組から出てきたのは麻色のローブを深く被った少女、ロゼだ。

 身長はレイオスよりも少し低く、鈴の音のような綺麗な透き通る声が印象的だ。

 とある事情で素顔を晒せないためローブを被っている。


 ロゼからの声掛けに立ち止まるカーリだが、その手はしっかりとレイオスの制服の袖を掴んでいる。


「今日は一緒にお昼食べる約束してたでしょ!」

「あ~…忘れてた」

「もうっ!あっ…レイオス様…こんにちは」


 カーリとの話に夢中だったロゼは、ここで初めてレイオスの存在に気づく。

 少しよそよそしいが、ロゼはレイオスに挨拶をすると頭を下げる。


「ああ。」

 

 ロゼの挨拶に素っ気なく返すレイオス。

 愛想が無いようにも見えるが、これでも周りから見たら異常と言える。


 貴族であり、周りと一歩置いた関係を築いているレイオス。

 そのレイオスが平民からの挨拶を返すということは前代未聞。実際に廊下ですれ違った生徒が、挨拶を返したレイオス達を二度見したほどだ。

 

 レイオスとロゼの面識は多い訳では無い。

 ロゼ以外なら挨拶をされても無視をするレイオス。だがレイオスにはロゼを無視できない理由があった。


 半年ほど前に実習中に起きた不幸な事故により、偶然ロゼの重大な秘密を知ってしまったレイオス。

 人に対してに厳しい口調で(主に平民)、すぐに人を見下す(主にド平民)レイオスも、秘密を知ってしまった罪悪感からか、ロゼとの接し方に大変困っており、ロゼからのアクションを無視できないレイオス。


「なぁ、ロゼ。レイオスとも一緒に飯食べようぜ!」

「え、えっと…」

「おい、勝手に決めるな。」


 隙を見て逃げようと試みるレイオスの逃げ場を無くすカーリ。

 レイオスはなんとも不服そうな顔を浮かべる。


「レイオス様がよければ…」

「……チッ。」


 恐る恐るカーリの提案に乗るロゼに、不機嫌そうに舌打ちをするレイオス。

 だが、これは「面倒くさいが行ってやる。」というレイオスの意思表示である。

 なんとも分かりにくいが、少し付き合いのある二人には分かったようで、顔を見合わせて小さく笑みを浮かべている。


「中庭にするか~」

「好きにしろ。」

「じゃ、じゃあ中庭で!」


 カーリの提案で中庭に移動する三人。

 途中、カーリがレイオスの脇腹を後ろか突っついた事で、頭を地面に埋められたこと以外は特に何事もなく中庭に着いた。


「カーリ大丈夫?」

「ペっ!ぺっ!うへぇ…土の味がまだ口の中に…」


 ゲンナリとした表情で、制服の袖口を使って口の周りをゴシゴシと擦るカーリ。


「自業自得だ。」

「もうちょっと手加減ってものをしろよ」

「余程、土の中が気に入ったと見える。」

「ごめんなさい、勘弁してください!」

「…ふん。」


 文句を言うカーリの顔に手を置いて、今すぐその顔を潰してやるぞとばかりに脅すレイオスに、命の危険を感じたカーリは全力で謝る。


「あぶねぇ、次やられたら絶対死んでたな…レイオス凶暴だからなぁぁぁぁあたまがうまるぅぅぅぅ!!!!」


 小さく呟かれた自分の悪口を聞き逃さないレイオス。

 カーリの額を地面に叩きつけた後、足でカーリの後頭部をグリグリと押しつぶすレイオス。

 その光景を静かに見守っていたロゼは、この人の事を下手に話題に出したら危ないと心の中で感じていた。



◇ 勇者記念魔術学園 中庭 ◇【王国歴1044年紅月(九月)16日】


 雲一つない澄み切った青空の下、中庭には学園長自らが趣味で世界各地から集められた花々が風に揺られながら咲き誇っている。

 その近くの小さな原っぱに貸し出し用のブルーシートを敷いていくカーリとロゼ。

 当然ながら、レイオスはそんな面倒くさいことをするはずも無く、近くにあった切り株に腰掛けて読書中だ。


「終わったか。」


 カーリとロゼの作業が終わると同時にレイオスは、読んでいた本を閉じて懐へとしまう。


「終わったか…じゃねぇよ!手伝えよ!」


 レイオスのモノマネをしつつ、ツッコミを入れるカーリ。

 モノマネはそこそこ似ていた。


「馬鹿か貴様は。貴族である俺がそんな雑務をするわけがないだろう?」

「ここでは差別禁止なんだろ!?」

「差別などしていない。だが、俺が貴族であることは事実だ。その事実の前に貴様は俺に労働を強制することはできん。」

「ぐぬぬ…難しい言葉ばっかり並べやがって!」

「あははは…」


 繰り広げられる二人の会話(漫才)を困り果てて見守るロゼ。

 どことなく、ロゼからは諦めの表情を感じる。


「あ、今日のお昼は私が作ってきたんです!」


 その後も二人のやり取りは続いたが、一段落付いたところでロゼが話に割って入る。


「ロゼの手料理って久しぶりに食べるな~」

「召し上がれ」


 レイオスとカーリも流石にブルーシートに腰を下ろし、ロゼの広げた弁当箱を見つめる。

 カーリの嬉しそうな声にロゼはふふっと優しく笑って、お弁当箱を広げていく。


 お弁当の中身はありふれたものだが、体長二mを超える鳥であるイーグァの卵焼きや、穴のあいた根菜であるアナコンの煮付け、黒狼の肉をミンチにして焼いたミンチーグに、色合いを気にして平民の中で人気の高い緑野菜であるモジャッコリーを茹でたもので飾り付けしてある。


「おぉ~!うまそ~!」


 弁当の中身を見た瞬間、フォークを手にガツガツと食べ始めるカーリ。

 口いっぱい詰め込んだので頬が、人間かと疑うほど膨らんでいる。


「まるでリスだな…。」

「…?」


 まだ口の中に詰め込みながら、レイオスの嫌味に小首を傾げるカーリに呆れたような表情を浮かべるレイオス。


「あ、あの…レイオス様もどうぞ…」

「…。」


 貴族の家に生まれ、貴族の家で育ったレイオスにとって平民の庶民的な料理を口にしたことは生まれてこのかた一度も無い。

 学園に入ってからも、食堂で貴族専用のところを利用して食べているためロゼの弁当はレイオスにとって手を出しにくいものであった。


「あの…」


 顔が見えないものの、声がかすかに震えているロゼ。

 ロゼも貴族のレイオスの口に合うか不安なのだろう。


「はぁ……。」


 レイオスは、ため息を一つつくと、おそるおそるとイーグァの卵焼きを摘み、口の中に放る。


「ん…まぁ、及第点だな。」


 もぐもぐと口を動かしながら、なんともレイオスらしいと言える何様目線で感想を言うレイオス。


「ほっ…」


 安心した様子で胸を撫で下ろすロゼ。

 その姿を見つつ、次の卵焼きを口にするレイオス。

 どうやら口ではああ言っているものの、かなり気に入っているようで、ほのかに口角が上がっている。

 それを感じとったロゼも嬉しそうに目を細めてその姿を見ている。ローブで顔は見えないが。


「むっ…」


 レイオスが三つ目の卵焼きに手を伸ばそうとすると…


「…ん?」


 弁当箱の中は空っぽで、代わりに横には更に頬を膨らましたカーリの姿が…


「…。」

「…とほしたんはれいほす?」


 未だに状況と弁当を飲み込めず、頬を膨らましたまま喋るカーリは、頭の上でハテナを大量に浮かべている。


「私、ちょっとお水を…」


 状況を察したロゼは逸早く立ち上がり、その場から逃げる。 


「くたばれド平民。」


 レイオスの怒りに触れたカーリのこの後は想像に任せよう…。


「楽しそうですね、皆さん。私も仲間に入れてくれませんか?」


 少ししてからレイオス達、三人に声をかけたのはレイオスよりも頭一つ高い黒髪黒目の青年だった。

 人を小馬鹿にしたような笑みを常に浮かべ、見た目に似合わぬ敬語がなんとも言えないギャップを生んでいる。


「学園長先生…!」

「どうも!学園長です!」


 驚きの声をあげたロゼに元気よく挨拶を返す学園長。


「なんでこんな所に…?」

「おや、私がここにいてはダメですか?ロゼくん?」

「いえ、そんなことは…」

「ここは私の学園ですからね、どこにいても自由なのですよ!アハハハハ!!」


 両手を広げ、高笑いする学園長。

 完全に危ない人だが、この学園の創立者であり、八百年間、学園長のポジションを我がものにしている初代勇者のヒカルだ。 


「八百年生きてようやく頭がイカれたか。」

「口が過ぎますよレイオスくん?」


 世界の英雄に対しても遠慮なく毒を吐くレイオス。

 レイオスはヒカルに対して天敵意識を持っており、この世で一番苦手としている相手だ。


 そもそも何故、ヒカルが今も生きているかと言うと、魔王を倒した際に、神様から一つだけ何でも願いを叶えると言われ、『自分はこの世界と共に命を終わらせたい』と神に願ったそうだ。

 そのためヒカルは、この世界が終わるまで死なない。それは永遠の命に等しく、今現在も老いること無く生きている。

 中々信じ難い話ではあるが、この世界では長命種だと何千年と生きるため、多少なり受けいれられいている。


「それと何気なく会話をしながら、私に向かって攻撃魔術を連発するのやめてくれませんか?」

「やめて欲しければ、今すぐ反魔術(レジスト)をやめることだな。」

「やめたら私、死んじゃうじゃないですか~!」

「もう充分余生を満喫しただろ。素直に死ね。」

「アハハハハ!」


 会話の途中途中で中級魔術を無詠唱で空中に展開し、不機嫌そうな顔をしつつヒカルに向けて放つレイオス。

 だが、発動と共に空中の魔法陣がガラスが割るような音と共に次々と破壊されていく。

 

 中庭に無数に広がる中級魔術はなんとも異様と言えるが、それを高笑いしながら正確に反魔術(レジスト)していくヒカルはもっと異様と言えるだろう。


「おや、そろそろ実習が始まりますね」

「…チッ、時間切れか。」


 レイオスとヒカルが楽しく(?)話している間に、ブルーシートを片付け、気絶しているカーリを膝枕で介抱をしているロゼがこの場においての癒しと言えようか。


「後で覚えていろ。」


 一言そう残し、その場を立ち去るレイオスを見てヒカルは「うわぁ…小物ぽい台詞だなぁ…」と思っていたのはレイオスには内緒である。


ストックがそこそこあるので、一部完結までは二日に一話ペースでいきたいと思います。

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