神のため息
キラキラと星が降る音が聞こえる。フィオルは紫色の空を見上げた。ふわふわのピンクの雲。ここは神の世界……
フィオルはそこにいるジークに話しかけた。
「神ー。久しぶり」
嬉しそうな顔。
ジークは少し気まずい顔をしていたが、フィオルの笑顔を見て、少しほほを綻ばせた。
「やぁ。久しぶりだね。」
そう、前あったのは最後の試練の前だった。だからあれを最後に会うことなんてないだろうって思った。なのに用もなく呼んでしまった。ジークには話すことはない。なのに呼んでしまった……
フィオルは
「あれからずっと会えなかったから、もう会えないのかなって思ってたんだ」
そう言ったので、ジークは
「いや……そうだね。それでも、どうかなって思って。仲間も加えて大分たつけど、どう?」
そんな事を聞いてしまった。不自然なくらいだ。『どう?』なんて。ジークは自分で気づいたけど、口からでた物はどうすることもできない。
フィオルは
「うん。順調に仲良くなってるよ。それにみんなで前に進めてるって思う」
そう言った。
ジークもそう思う。見守ってきて、なんら問題ない。仲間達もそれぞれの持ち味を生かしてよくやっている。それはよく分かる。
問題はブラッドだ。あいつの事はどう思ってる?
そんな言葉が口から出そうになって、ジークは口をつぐむ。
いやいや、そんな事を聞くために呼んだ訳ではない。そんな私情全開でそんな事……
ただ、どうしているか気にかけるのは神としても自然な事。そう、未熟な勇者なのだから、その任命をした自分は気にかける。それは普通。
大分長く考え込んだジークにフィオルは
「?」
不思議そうな顔だ。
ジークは
「……いや、うまくいっているのならいいんだ」
よくない。
ブラッドとかいう男とはうまくいかなくていい。むしろうまくいってない。そう、うまくいってない。
心の声が溢れてくる。するとフィオルは
「ジークは元気?ちゃんとグルメツアー行ってた子帰って来た?」
ふいに言われたので、ジークは
「……ああ。そうだね。帰って来たよ」
そんな心配をしてくれる。フィオルはなんとなく浮かない顔で
「そっか……」
そう言った。
フィオルはお菓子買ってくるグルメ好きの女の子を想像して気持ちがふさぐ。
フィオルは
「お菓子おいしかった?」
なぜかそんな事を聞いてしまう。
ジークはなぜそんな事を聞かれたかはわからない。
「まぁ、食べなかったよ。それより真面目にやれって。お菓子は本人が全部食べたかな。どうせ自分のために買ってきたような奴だから気にしなくていい」
フィオルは、それも、なんかすごく距離感が近い気がする。お菓子好きな彼女のためにわざといらないふりしたのかも。フィオルの表情も曇っていく。そして、
「そっか。なんだか、賑やかで楽しそうだな。いいなぁ」
フィオルは苦笑いしてしまう。
ジークは
「賑やかじゃないよ。すぐサボるし、パソコンでゲームしてる。仕事は真面目にやってない奴だから。」
それが楽しそうだ。神はそんなちょっと小悪魔な子に振り回されて楽しくすごしているらしい。かわいい子なんだろうな。そんな奴とか言われてる。少しうらやましい。
フィオルは
「そっか。ここもなかなか楽しそうな所だね。ジークは退屈しないでしょ。そんな楽しい子がいたら」
ジークは何か不自然に気づく。楽しい子……子?
「……そいつはおっさんだ。子って年齢じゃない」
ジークはなんとなくやっと気づいた。
フィオルは
「え?女の子じゃないの?」
桜色の髪をゆらしてキョトンとしてる。
ジークは
「私より年が上のおっさんだ。年がいもなく遊び回ってる。そんな奴だから」
ため息まじりだ。あのおっさんが女の子な訳はない。
フィオルは
「なんだ。そっか……」
なんだかホッとした顔をする。
それを見てジークは気づく。女の子じゃなく、おっさんだったら?そしたらホッとする?
フィオルは
「ふふ。そっか。なんだ」
しきりにそう繰り返す彼女を見ながら、ジークはなんだか軽く嫉妬してたようなフィオルに気づく。
ジークはブラッドの事を聞こう……そして、自分の事を聞いてみよう……などと思いかけて、やはり聞けない。
「はは……女の子だったらまだ可愛いげがあったんだろうけどね」
そう軽口を叩いたら
……女の子がよかったんだ。そう思えてきて、
「ううん。いいと思うよ。年上の男の人って。ほら、すごくアクティブでグルメなんてオシャレじゃない」
なんか全力で弁護してしまった。
ジークは
「……」
あのおっさん、仕事増やそう。
ジークの嫉妬は元神へも向いた。ジークは
「まぁ、あいつの事はいいんだ。フィオル。君は少し隙が多いから気をつけて。敵と仲良くしちゃいけないよ。特に男は危ないから。次からはきちんと倒すか、殴って気絶させておかないとダメだよ?」
私情剥き出しにした。
フィオルは
「みんなみたいな事いうんだね」
よくある意見なのだろうか?
ジークはにこっとして
「そうだよ。みんなの意見だよ」
みんなと共に言いたい。男と二人っきりはダメだ。
フィオルは
「みんな心配性だね」
等と、あまり聞き入れなさそうな気配がした。
ジークは
「……心配するよ。君は…君は……」
言いかけて、気づく。君は……僕にとって……
フィオルは
「……」
黙ってその宝石のような瞳がジークを見つめ、その瞳は驚いたように揺れる。
そしてジークは気づく。自分は神で、フィオルは勇者。それ以上の気持ちが必要だろうか……?
ジークは
「君は大切な勇者だから……」
その言葉を聞いたフィオルも切なく瞳が揺れて、静かにうつむいた。




