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勇者少女のチートがすぎます。  作者: フローラルカオル
武道家と共に
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決戦

フィオルは親子丼の中に、チクワがあることに気づいた。大胆なアレンジ。リーズナブル。アイラはきっといいお嫁さんになる。

そして、久しぶりに食べたご飯に大満足だった。

しかし、何かを忘れてる気がする…

すっかり空になったお椀を水につけながら、フィオルはその洗い物をかって出た。フィオルの細い指先を泡が包んでいく。


フィオルは

「ねぇ、アイラ。私覚えてないの。どうしてここにいたのかを…」


そしたら、アイラはギクッとした。ヤンキーばりに、肩をいからせて歩いていたら、うつ向いてるフィオルに肩がぶつかり、アイラはびくともしなかったのに、フィオルは壁まで転がって頭を打ったのだ。


アイラは目をそらしながら

「ああ…まぁ、倒れてたんでしょ?」


フィオルは

「もー。ドジでやだ。はずかしい…」

穴でもあったら、入りそうだ。


まったく…毒気を抜かれる…

アイラはポリポリと頭をかいた。

そして、フィオルの後ろ姿を見ながら、スッと伸びた体のラインがやたら壊れ物のように見えた。アイラのタックルを食らっても、生きていたのだから、大丈夫だろうが、触れれば折れてしまいそうだ。


アイラは

「ねーえー、あんた何であんな剣もってたの?」

ふとした疑問だった。


フィオルは振り返り、

「そう、剣は…⁉あの剣は大切な物なのに‼」


そういって、探し始めた。そのあまりの慌てように、アイラは

「あんな剣運べなかったから外にあるけど、あんた、ほんとにあんなの運べるの?」


アイラには信じられなかった。だって、あの剣…この街で一番強いアイラでさえ持ち上がらなかったのだから。

レンガ作りの道の先、街の入り口から間もない広場に、それは落ちていた。刀身、二メートルはあるだろうか。とても分厚くて、鉄さえ切り裂いてしまいそうな剣は、サヤに入っていても、誰も手がだせない。試しに移動しようと、みんなで持ち上げた人達も、首をひねりながら、帰る事になった。


それに、フィオルは駆け寄って

「よかった。神の剣」

そう言って、少し斜めに持ち上げて抱き締めるとスリスリとほうずりをした。


アイラは

「神の剣…そんな…」

たじろいだ。


フィオルは

「はい。貰い物なんです」


なんて事はない顔をしたのだ。

この突き飛ばしただけで壁まで転がるような女が。だって、現に今、目の前で剣を少し持ち上げている。


アイラは

「かして」


その剣に手をかけた。フィオルがはなそうとしたとたん、その尋常ではない重みがその腕にのしかかって、とても持っていられるものではなかった。


アイラは

「あんた、勇者様?」


さっきまで、打ち解けた瞳をしていたアイラが、今はキッとフィオルを睨み付けた。フィオルは身を縮ませなから

「はい。そうです。見えないですね」

力なく言った。


この女がそうだとしたら、アイラは伝承に従わないといけない。はぁ。と重い息を吐いた。さっきまでの和気あいあいとした空気が嘘のようにアイラは

「あんたに決闘を申し込む。明日、正午にこの広場。遅刻は許さない」

そう言ってフィオルの脇を抜けた。


そしたら、フィオルは

「まっ…まって。わ…私、ここで投げたされてしまうんですか?捨てないでください…」


涙目で、剣を抱き締めながら言った。その姿はあまりにも勇者とはかけはなれ、膝をおり、ピンクの髪すら広場の地面に着き、痛々しい目で見上げた。ただの宿無しの15歳だった。


アイラは

「…」

どこの宿もしまってるんだったと気づいた。だから、

「しょうがないなぁ。その剣も持ってきて」


背中を向けて歩き始めたアイラに続いて歩き出したのだった。

ズ…ズ…


アイラは

「その、引きずるのやめてくれない?レンガ痛むんだけど」


そしたらフィオルは、

「す…すいません。重くて…なんとか頑張ります。」


わずか、プルプルしながら持ち上げたそれを持っているフィオルの顔に、初めて苦悶の表情が浮かんだ。





ー翌朝ー

アイラが街のスピーカーから、呼び掛けた。


「やろーども‼勇者のお出ましだー。正午から、このアイラ様と一騎討ち。見たいやつは遅刻すんなよー‼」


アイラは朝一で呼び掛けた。しかし…しかしだ。アイラは男のヤンキーが着るような赤い竜の刺繍が入ったスカジャンのポケットに手を入れながら、


「はぁ…気が進まんねぇ」


そう言った。

だって、弱そうな女を、強そうな女がボコボコにする。これは、アイラの武道の道から外れていた。つい昨日、肩がぶつかっただけで何回も回転して吹っ飛ぶのだ。そんな女をこの拳で痛め付けるのは、肩がぶつかるのとは訳がちがう…

アイラはギュッと拳を握りしめた。アイラは弱い者いじめが嫌いなのだ。弱い心に負けた時点でもう、負けているのに、勝ったと思い上がるのも嫌だった。そんな心の弱さが、拳を鈍らせ、間違った方向に向かってしまう。

アイラは常に心を強くありたいと思い生きてきた。


アイラは

「きっと、これが最後だ…そして、勝って、あんたはうちに帰るんだからね」

そう、呟いた。


アイラが帰ってくると、フィオルが

「おかえりなさい。アイラ!」

なぜか鍋をかき混ぜていた。部屋をいい臭いが漂っていて、鍋に白いシチューが満たされ、アイラは優しくお玉で一すくい。それを口に運び

「うーん。アイラのお口に合うといいんだけど。」


そしたらアイラは

「もーうまいでしょ。これは‼」


フィオルはクスクス笑っていて、

「じゃあ、パンと一緒にいただきましょう?」


アイラは

「いいじゃん。いいじゃん」

そこまでのせられて気づいた。しまった。馴れ合ってる場合でもない。アイラは

「けど、勝負は勝負」


フィオルは

「そう…だね」

アイラの赤い瞳が少し潤んだのだった。


フィオルには迷いがあった。剣…使った方がいいの?当たったら、アイラが大変なことになっちゃう…けど、勇者の戦いならきっとこの剣を…でも、あの重さで、アイラにぶつかったら真っ二つではなないだろうか。フィオルは違う意味でも怖かった。





正午を回る頃、広場に着いたフィオルが見たのは街中騒動員したかのようなプロレスのリングだった。そしたら、アイラは

「ふっ、あたしは武道家だっつーの。たく、まぁ、いい。あんたのケガ軽くなるじゃん。よかったね」


それを聞いたフィオルはゾッとして、

「あ…あの…私も素手で戦った方がいいですか?」


アイラは

「あー、それじゃダメ。お互いベストな状態で戦わないとダメ。あんたは勇者なんだから、まぁ、その剣じゃ使えるかどうかもわからないしね」


フィオルは、

「はい…」


やはり、気が進まない。それがわかったアイラは

「まぁ、そんなに使うの嫌なら、サヤに入れたままでいいんじゃない?」


そしたらフィオルは

「そしたらアイラ傷つかないよね。よかった」


まるで自分が殴られる事の方より、こっちの事を心配してるなんて。優しいのか、バカなのか。アイラは頭の悪い優しい子が、一発で終わるように、この一撃にかけようと、グッと拳を握りこんだ。


ワチャワチャとした人々の賑わいに捕まって、やっとフィオルが勇者だと気づいた人達は、大きな剣を持ったフィオルの道をあけ、驚きと、そのかわいさでアイドルのようだった。フィオルがあの凶暴なアイラにボコボコになる事をかわいそうに思って、やや、みんな同情的に、頑張ってーと応援してくれた。


リングのコーナーで先に待ち構えていたアイラがヒール役のようだ。アイラはすでに赤コーナーでふてぶてしく座り込む。ヤンキーのようなスカジャンに短パンから伸びる足。その健康的な脚線美やなんかは、鍛えられていたからだとフィオルは気づいて、ここで少し怖じけ付く。


しかし、そうも言ってられない。フィオルは旅立ってまだわずかな期間だ。もう負けました。私無理です。帰ります。じゃあ、勇者に指名された意味がない。フィオルは胸の辺りくしゃっと握り混み、天を仰ぎ見た。

(神…見ていて。私頑張るから)


そして、ロープをあげてくれた青コーナーから入っていく。


フィオルは考えた。アイラはすばしっこそう。あの手のチャキチャキしたタイプは手足の動きで懐に入り込むはずだ。フィオルが勝つには、一撃で、気絶させなければ、永遠殴られそうだ。


フィオルは

「よし、きっと大丈夫」


フィオルは

剣を持ち上げて、両手で持つ。広場から運ぶ時気づいたのだ。これは鈍器だとおもって、サヤを持てばいい。そしたら、両手で持てる分、うまく持ち上がるのだ。


アイラが

「あんた、ここで負けたら勇者の資格剥奪されるよ。あたしはここで勇者何人も潰して来たんだ。フィオルだって、負かしてくれてありがとうって言って、すごすご家に帰ってくんだ。嬉しいだろ?」


街最強になった時から、アイラは戦い続けてきた。その時はこんなゴツい剣ではなく、大きくても、一メートルくらい。


しかし、でかければいいってもんじゃない。乳もまたしかり。アイラはフィオルの悲壮感の漂う表情より、胸元でくしゃりと握られた服を見た。鎧やなんかを着てこなかったフィオルを包む布の服という装備はピタッとして、谷間のきつそうに浮いた布が悲鳴をあげているようだ。その服を貸してあげたアイラには、そんな掴んで見せつけるぐらいにはない。


あたしが着た時そんなデザインだったか⁉


リングの外にいる放送席から、

「まもなく太陽は真上に鎮座し、灼熱の一戦が今、まさにここに」

フィオルはビクっとした。


フィオルは勇者をやりたいか考えた。重い剣をたずさえ、ここまでやって来た。一度は迷い混んだ森。潰して行ったスライム。だけど、神は剣を与えるまでと言いながら助けてくれた。業務時間も伸びただろう。神なんて職業に対しサービス残業のような状況だっただろう。

北の森で声をかけてきて、ダメージ1与えて、家に帰してくれた。それに、あの時はふくれてしまった気持ちになったけど、神の優しい気づかいに気づいたのだ。あのままなら北の山まで登山ルートからの、餓死で家に転送コースだ。


だから、手間をかけさせた事も、その優しさに報いるためにも、全力で戦わないといけないんだ。



「レリーファイ‼」



ゴングが鳴った。


フィオルは剣をあわてて構えようとして、力が入りすぎた。アイラがその隙をついて、懐に入り込む。

その瞬間




ブンッ‼




でかすぎる剣を構えようとしたようだった。それだけの動きだった。




ゴッ‼




アイラの飛び込もうとしたそのままの力を受け、剣は重い鈍器と化し、アイラのアゴにクリティカルヒット


遠く宙を舞うアイラ


フィオルが

「アイラー!」


遠く、叫んでいた。構えた時に飛び込んでくるから…


アイラは

「完敗だ…」


リングに叩きつけられて、バウンドした。今日リングが必要だったのはアイラの方だったのだ。フィオルはアイラの元にかけより、

「アイラ、しっかりして、目をあけてよ?あたし…あたしが悪かったわ…目を開けて…」

その体に、すがり付いて泣いた。レフリーがアイラの状態を確認して

「HP0。よってフィオルの勝ちー‼」


街中から歓声。手を叩いてヒューヒュー言って、紙吹雪。フィオルは思った

(え?ここの人達、鬼なの?)


そしたら、レフリーのおじさんが

「大丈夫だよ。アイラも神の戦士。ほら、今セーブポイントに転送されるから」

アイラの体はシュワーと光りに溶け込んで消えてしまった。


フィオルの罪悪感も薄らぐ。すごくラッキーだった。フィオルはどよめく歓声を聞きながら、少しはにかんで肩をすくめたのだった。

アイラを鈍器でぶっ飛ばしたフィオル。弧を描いて飛んでいくとはこういう事…ダメージはオーバーキル。

アイラが神の戦士?よくわからないけど、死んでないの?よかった。

その辺ドライなフィオルだった。

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