また旅立ちの時
夢なら覚めて…頭をかかえたフィオル。勇者の剣を見て、両親はまた、旅立ちを進めた。
「フィオルー頑張ってー!!」村の人達も二度目の声援。また泣いてしまうフィオル。そして、今日、二度目の旅立ちの時。
「せーの」
ズパン
思い切り降り下ろした剣が地面に向かって落ちる。よろめいた少女、フィオルは手をはなしてしまい
「あっ…」
吐息ととも横にたおれこんだ。
プヨンっ
揺れたのは、少女の育ちきった胸ではない。その剣の下で、スライムが汁となってじわじわと染み込んでいく。
「うう……汁……」
フィオルは気味の悪いものを見た……とばかりに後ずさった。フィオルは、昨日まで、毛虫も殺せない女の子だった。
かわいそう……
そんな感想をもらす女の子だったのだ。
優しい心で、モテない男の子にも優しかったフィオルは、村中の男の子から大切にされていた。ストーカーした男は村中の男にボコボコにされて、フィオルの平和は保たれるぐらいだった。
女子もフィオルには優しかった。かわいいのに、少し抜けていて、完璧ではなく、誰かの手を借りて、「いつも、助けてくれるんだね。ありがとう…」と、はにかみながら彼女に言われると母性をやたらくすぐられるのか、ほっておけないのだ。回りの女の子達は助けた事を心地よく思うのだ。
そんなフィオルが、今、スライムと対峙していた。
かわいそう…
剣重い…
でもスライム、怖い…
そんなフィオルに、スライムは触手を伸ばし、転ばせてから、やらしく絡もうとしたものだから、フィオルは誰もいない森の中で、やっと戦おうかと思ったのだ。
「こんなんで大丈夫なのかな…」
そう呟いたとたん
『魔王を倒せばいいんですよ』
声が聞こえた。
フィオルは命一杯ほっぺたを膨らまし、
「神、見てたの?」
スライムに転ばされて困っていたのに見て見ぬふり。もっと早く話しかけてくれればいいのに。
さびしかった。
そうやっていても、全然怒って見えないのは、元来の目元のトローンとしてるせいだろう。
『そろそろ、私は助言をやめなくてはなりません。本来、勇者に剣を与えるまでが私の任務。このままの道はあってます。進みなさい』
昨日はHP1で、ラストに、神が精神攻撃で決めてきたのだ。フィオルのご機嫌は斜めのようだ。
しかし、
「もう会えなくなっちゃうの…」
ふいに、フィオルはそう言って目を伏せた。そこにはもう、さっきまでの膨れっ面の少女はいなかった。
『仕方ないことです』
フィオルは
「このまま…私一人…?」
フィオルは家族に愛され、友達に愛されて育ってきた。そして、一人など、考えられぬくらい、フィオルもまた、愛をくれる人達を愛していたのだ。なのに、それは奪われてしまった。勇者という使命によって…
それでも、フィオルは今日、スライムを倒したのだ。勇者としての一歩を歩き始めた。そのフィオルにできた新しいつながりが切れてしまう。
『そうですね。もう少しいましょう』
あっさりと意見がくつがえった。フィオルの嬉しそうな顔。さっきまで、別れのさびしさを滲ませていた瞳がパアァと華やぐ。
「一緒にいてくれるの?ありがとう」
フィオルは嬉しそうだった。
『しかし、私は男だ。それでもいいのか?』
フィオルは傷付いた顔をした。声からして、女だと思っていた神は男だった。
「あーん。話がちがうー」
フィオルは泣きながら剣を引きずって走り出した。
(神が男ならあの寝室に現れた時、ちょっと太もも見られた)
女だと思っていたからスルーしてた問題が一気に浮上して、フィオルは瞳が潤んでほほが赤くなった。そして、その後、ぷくーっと膨れた。
南の町に向けて進んでいたフィオルだったが、時々スライムにも出くわす。フィオルは、剣をひきずったまま、ブチュンとスライムをその剣で轢くのだ。
フィオルのレベルが上がった。
フィオルは
「神のエッチ。着替えもみたんでしょ」
空に向かって言葉を投げかける。しかし、気まずさからか、言葉は返ってこない。
「…神?」
フィオルは不安になった顔をした。
「神…。ねぇ、神ったら」
フィオルは、あれが最後かと思うと、涙すら浮かんでしまう。だって、フィオルは、神が男だからといって、プイッとそっぽ向いたのだ。本当はそこまで怒っていなかった。だって太ももを見られたぐらい、ちょっと、『見る気はなかったんだよ』って言ってくれるだけでもいい。
最後になるなら、あんな態度、取るべきではなかった…
フィオルは落ち込んで
「嫌いになっちゃったかな」
そう言った。
それでも返事がないので、フィオルは空に向かって
「神ー。ありがとー。私本当は怒ってないよー。男の神も好きだよーちゃんと見ていてね……」
叫んだら、
『はいはい。じゃあ、ここで私の出番は終わり。頑張って下さいね。』
「神!」
フィオルは嬉しそうな顔をして、空に向かって手をふった。別れはさびしいけれど、きっと大丈夫。だってきっと空から見守っててくれる。
フィオルは再び剣を引きずりながら町を目指すのだった。
神と別れ、立派な勇者になると誓うフィオル。フィオルは突き進む。スライムを地味に轢きながら。