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魔の創立記念日。

「ふぅ〜う。なんでこーなったかなー」


朝10時、ようやく気絶から解放された。

部屋にこもり始めて(目が覚めて)から、1時間くらいが経った頃、猛烈な尿意に襲われていた。

トイレに向かおうとしたのだが、部屋を出た瞬間、上から刃物が降ってきた。


…!?


そりゃもう戦慄したよ。「死」よりも、これを設置した歩乃華のこれからが思いやられた。

もちろん俺のこの先も。

なぜ歩乃華が設置したのかわかったのかというと、まぁ、察したよね、うん。

いつ何時、俺の命が狙われているかと思うと、軽い気持ちで部屋を出ようなどとは思わなくなった。

それでもトイレに行きたい。

高3にしてお漏らしは避けたい。

俺の部屋には1つしか扉がないが、妹たちの部屋とを隔てる壁(クローゼットが置いてある裏)には、実は、扉が付いていたのを思いだした。


――よし、と。クローゼットを動かすと、一見、壁にしか見えないが、長方形の縁に沿って違和感を感じた。

これを、角を持って、ビリビリビリッ。剥がれた。

簡素な作りだが、扉が現れた。


「よーし!これでトイレに行け…」


扉を開け、ようやくトイレでスッキリできると思った。

でも、そんな…まさか…今日が…


パーーーーンチッ!!


効果音をつけるとしたら、まさにこの音が似合うような殴りが瑛太の右頰を捉えた。


「腰の入れ方が甘いわよ!そんなじゃ変態を世に晒してしまうわ!もっと、こう!こう!こう!よ!」


「うん!わ、わかった!もう1回やってみる!」


師弟のように教え、教えられている妹の姿が。

ん?待てよ、おかしい。なんでいるんだ?俺を差し置いて、学校に行ったんじゃないの?


「いや、ちょちょちょ、ま、ままま、待てよ!!待てって!危ない!当たる当たる…」


「えーーーーい!!」


ひ弱な体格と声からは到底予測できないくらいに、重く、痛々しい拳が飛んできた。

今度は右頬ではなく、真正面に。

鼻の骨が折れたのは間違いないな。

うん、あの時の諭吉返してもらって病院行こ。

冷静に見えるが、痛い、痛すぎる。すごく、痛い。

なにがって、物理的なダメージはもちろんだが、歩乃華な、あの歩乃華ちゃんが殴るなんて…心も痛い…。

吹き飛ばされた勢いでベッドで腰を強打した。打ち所が悪く、立ち上がることができない。


「いてて、いてーよ、いてーんだけど!?歩乃華さん!?どうしてこんなことするの!?反抗期きたの!?ねぇ、ねぇ!…あ、な、泣かないで、ください。ご、ごめんなさい…」


叫ぶと腰に響くのに、ついムキになって怒鳴ってしまった、いてて…。


「ちょ、ちょっと!なに泣かせてんのよ。女心の一つもわからないなんて、ほんっとに救いようがないわね!救うつもりとかないけど」


かわいいエンジェル歩乃華ちゃんを泣かせてしまった。

歩乃華は、ある一時を境に、押しに弱く、怒鳴り声のように、大きい音とかが嫌い、というか、体が拒否反応を出すようになった。

そんなことも忘れてたのか俺は…。自分を心底恨んだ。


「ご、ごめん、歩乃華。俺に何かあるなら拳じゃなくて、口で、言葉で抵抗してきてくれ。相談に乗るからさ。てか、こんなに強かったっけか…?」


歩乃華の隣に腕を組んで、仁王立ちしている飛鳥が、赤面しながらドヤっていた。あ、かわいいな。


「まぁ、大体察するよ。俺みたいなクズ人間を外に出したくないんだろ?その気持ちは、うん、100歩譲ってわかったつもりにしよう」


飛鳥が腰を低くした。臨戦体制だ…!やばい。まずいことは言えないぞ。


「コホン…。で、なんで2人は家にいるんだ?学校に行ってないのか?」


「ばかね。カレンダー見るくらい家畜にでもできるわよ」


すげー家畜だな。普通、外にいるからカレンダー見ないぞ。しかも、知らないはずだし。予定に忠実な家畜なのか。なんか考えれば考えるほど虚しくなってきた…。

カレンダー、カレンダーっと。

今日は11月11日。あ、ポッキーの日!そっか!妹たちは俺とポッキーゲームやりたいがために俺を休ませたりまでして?


「おい!調子のんなよ…」


ヒエェ〜。怖い、怖すぎる!思考までお見通しってわけか。サイコだなまじで。

んん〜、なんだ?中学、2人とも家にいる、同じ学校、私立…あっ!頭の上で電球が光った!


「さては、創立記念日だな?」


飛鳥がゆっくり臨戦態勢を崩し、腕を組んだ。

どうやらた当てれたらしい、2人が休みの理由を。


「ご、ごめんって、歩乃華…。悪気はなかったんだよ。つい、血が上っちゃって…」


「………」


「何でもするから!許してくれ!この通りだ!」


誠心誠意込めたジャパニーズ土下座をしてみせた。反応がない。最悪だ。頭をあげるのが怖い。


「ねぇ、今、何でもすr…モゴモゴ…」


「そ、それは言っちゃいけない、気がするぞ?俺も軽率すぎたが…」


なにかやばい気がして、慌てて歩乃華の口を押さえた。体が勝手に動いている…!これが…!兄妹愛…!?


「キモい…」


心を読まれていることをすっかり忘れていた。いや、でも、腰痛くないし、どうしたんだ。ほんとに。鼻は折れてる気しかしないけど、ズキズキするし、痛い。


「…っと、もうこんな時間か…。そろそろ飯にすっか。チャーハンでいっか?」


「う、うん…」


飛鳥は黙って頷いた。何だか嬉しそうだった。

2人の承諾をもらったのでキッチンで作業を始める。あ、やっぱ腰いてぇわ。

それに、若干だけど、匂いがおかしくなった気がする。気づけば血がたらーっと。

チャーハンにはもちろんケチャップは入れないので、自分の血を食わせるというサイコ的なことはできなかった、というかやりたくない!やりたくないからね!さっちゃんの血は欲しいし、さっちゃんには飲んでほしい気もするけど…。


「キモい…キモすぎる…」


何回目だろう。もう慣れたなぁ。慣れちゃダメな言葉だけど。飛鳥も引き気味だし、元々引いてたけど、前より勢い無くなってきてる。俺が末期になったってことかぁ…。まぁ、好きなんだから仕方ない!多少の犠牲は必要!

背後から2つの殺気を感じたので、秒でチャーハンを盛り付け、美味しくいただきました。

何か忘れてましたが、トイレですよね。殴られた時に勢いで体内に引っ込みました。これで体に異変があったら、まぁ大変。長生きしたいです…。


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