第5話 怒涛の反撃
デスドラゴン。それはトラオの世界に存在するレベル1000のカンストレイドボスだ。
その特徴は色々あるが、一番の特徴は体力が一定以上減ると体の色が変化し、ステータスがかなり上がることにある。
最初は黒。HPが残り7割になったら赤。そして、残り3割になると白くなる。
つまり、時也たちの目の前にいる今のデスドラゴンのHPは、3割以下になっているということだ。
「お兄さん、デスドラゴンが白くなりました! 私はヘイトを溜めることに専念しますので、やっちゃってください!!」
少女のジョブは後衛職。普段ならヘイトを溜めるどころかヘイトなど微塵もなくていい職業である。
そんな彼女が何故ヘイトを溜めると言っているのか。その理由は、時也が使おうとしているスキルにある。
少女の防御系ステータスはかなり高いらしいので、そうそう死なないだろう。だから時也はヘイトを溜めると言った少女の心配はしていない。
時也が使おうとしているスキルは発動してから効果が出るまで5秒必要だ。デスドラゴンは自身の体が完全に変色するまで動かないので、今が発動チャンスだと言えよう。
「トランス・カタストロフィ!!」
時也はスキルの名を叫ぶ。時也に出来ることはこの5秒の間にデスドラゴンの硬直が終わらないことを祈るのみ。
「……きたああああ!!」
見事、時也の最強強化スキルであるトランス・カタストロフィの発動に成功した。このスキルは発動までの5秒に攻撃食らうと失敗する為、それなりにリスクがある。まあ他にも無視できないリスクはあるが。
トランス・カタストロフィ。それはゲームのバランスブレイカーと呼ばれている伝説級アイテムや最上級ジョブとは比較にならないほどのチートスキル。
その効果は――発動を解除しない限りHPの最大値が1になり、防御、魔防、回避のステータスが0になるというもの。
ちなみに、スキル発動中は強化スキルを無効化してしまうので、0になったステータスは上がらない。さらに、発動を解けばHPはたったの1しか残っていない状態だし、MPは0になる。
その代わり、攻撃、魔力、速さ、命中の計4種類のステータスが5倍になり、MPが無限になる。ハイリスクハイリターンなスキルと言えよう。
時也がこのスキルを始めて使った時、あまりに強すぎたので運営が調整を間違ってしまったのかと考えた。なので時也はスキルを使ったすぐ後に運営へメールを送ったのだが、それで正しいと言われたのだ。
その後、時也はトランス・カタストロフィがどれほどヤバいスキルなのかを彼の所属するギルドのメンバーに説明したが、イマイチ理解してもらえなかった。だから時也はそのままメンバーたちとクエストに行き、メンバーの前でトランス・カタストロフィを使った。百聞は一見に如かずという奴である。
その結果は、無言。沈黙であった。
「このスキルが使えるようになればこっちのもんじゃあああ!!」
時也はそのままデスドラゴンの元へ走り、その右腕を駆けあがって近接攻撃スキルを叩き込む。
「ハイベルトスラッシュ!!」
時也の攻撃はデスドラゴンの右腕の付け根、丁度肩の部分にクリーンヒットした。それにより――
「グオオオオオ!!」
デスドラゴンの右腕を斬り落とすことに成功した。
普通なら絶対に実現不可能な結果である。何故なら、デスドラゴンを始めとするレイドボスモンスターの部位の耐久値はかなり高いからだ。
しかし、今の時也の攻撃ステータスでスキルを使えば一撃で壊せる。
その理由は今の時也の強化された攻撃ステータスにあった。どれくらい上がったのかと言うと、攻撃、魔力、速さ、命中がそれぞれ5倍になってるから、
1000(元のステータス)+500(バーサークによる強化)=1500、その1500×5で7500。
このゲームのカンストした場合のステータスは1000だが、今の時也の攻撃、魔力、速さ、命中は全て7500。つまり――
「部位破壊とか一撃で可能なんだよおおおお!!」
デスドラゴンの体が完全に変色してしまう前にデスドラゴンを倒してしまわなければならない。今の時也は攻撃がほんの少しかすっただけでも死ぬ脆弱な存在。攻撃してこない今がチャンスという訳だ。
時也は7500になった速さを駆使してそのままデスドラゴンの肩から飛び降りると同時に、デスドラゴンの右脚を斬った。
「レイドスラッシュ!!」
勿論、今の時也が破壊可能な部位を攻撃すれば一撃で壊せるので、デスドラゴンの右腕と右脚は一瞬で破壊できる。
時也は少女が今何をしているのかが気になったので、周囲を見渡し始める。その少女は時也と違ってあまり動き回らずに、先程までいた地点に静かに立っていた。
ゲームではMPはアイテムで回復しなくとも自動回復する。自動回復のスピードはかなり遅いためにボス戦ではアイテムを使うのが一般的ではあるが。
しかし、彼女も時也と同じように回復アイテムを持っていないのだろう。だからああやって自動回復に頼っているのだ。
動いていないのは自動回復のスピードを速めるためだと想像出来る。何故なら、動いてる時より動いていない時の方が早く回復するからだ。
少女の様子を確認した時也はそのままデスドラゴンの左腕と左脚を同時に破壊するべく、狙いを付けて魔法を放つ。
「ジャスティスクルセイダー!!」
デスドラゴンの真上に現れた魔法陣から落ちる剣は見事に狙った箇所に落ち、左腕と左脚を同時に斬り裂いた。
時也はそのままデスドラゴンの体を昇り、頭の上に到達したところで魔法を放つ。
「ホーリーロードジャベリン!!」
時也の魔法により現れた無数の光の槍はデスドラゴンの唯一残った部位である角を破壊した。
「ギャルウウアアア!!!」
「これで終わりにしてやる!!」
時也はデスドラゴンの頭から飛び降りると同時に、胸の宝石を狙いやすくするために胸の骨を壊す。
「トイズインパクト!!」
それにより胸の骨がなくなり、弱点である胸の宝石が露わになる。
「おい、宝石を出した! 一気に決めるぞ!!」
時也は着地と同時に少女の方を向いて叫んだ。
「え、もうそこまでやったんですか!? わ、分かりました!!」
経過時間を考えれば、少女のリキャストタイムは全部終了しただろう。つまり、今の少女も時也同様にスキルを5種類使えるということだ。
「用意はいいな! 絶対に外すんじゃねぇぞ!!」
「はい!」
時也と少女はデスドラゴンの宝石に狙いをつけ、時也は自身が使える最上級の光属性魔法の名を叫ぶ。そして少女も時也に続いて彼女が使える最上級レベルの光属性魔法を放った。
計10種類の魔法はデスドラゴンの弱点部位である胸の宝石にクリーンヒットし、胸の宝石は砕け散る。
それによりデスドラゴンは絶叫してもがき苦しんだ後、ピクリとも動かなくなった。
「やった……倒したああああああ!!!」
敵が動かなくなり、敵の死体が気体となって消える。それはつまり、そのモンスターを倒したということだ。
「やったぜ! まさか倒せるとは思ってなかったけど、やったぜ!」
スタミナが切れた時に時也は一度死を覚悟した。そこからここまで来れたのはもはや奇跡に近い。
「お兄さーん! やりましたねー!!」
少女が時也の元へと走る。
「おう、やったな!」
時也は手の平を掲げ、少女に向ける。少女は時也の意図を掴んだようで、そのまま彼の手の平に少女の手の平を重ね、勢いよくハイタッチをした。