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トライ・ワールド・オンライン  作者: 山岡光太郎
第1章 メルバネード ―トーリアス・ウル―
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第3話 レイドボス

 時也がトラオをプレイし始めてから、もう5年も経った。

 レベルカンストの最強プレイヤーになる為に、何度も難しいクエストに行ったし、何度も死んだ。

 ネトゲのボスの攻略方法は何度も死んで、覚え、考えるのが普通である。一度も死んだことが無いプレイヤーなど1人もいないに違いない。

 時也がクエストに行くときはいつも誰かと一緒に行っていた。それはフレンドだったりギルドメンバーだったりその場で会った奴だったりと様々であった。

 彼は数えきれないほど多くのクエストをこなしたが、1人でクエストに行くことだけは一度としてなかったことを、誰も知らないだろう。

 1人で行かなかった理由は、1人だと大変だからとか、俺が前衛職だから後衛職のプレイヤーが必要だったからだとか、色々とある。

 けれど、一番の理由は別にあった。だって、時也は誰かと一緒に遊びたかったのだから。


「それなのにさ、今はレベル1000の最強モンスターと1人で戦わないといけないんだよな……」


 時也の目の前には、かつて自分が戦った最強のレイドボスの1体である、死龍王デスドラゴンがいる。黒い骨が集まった骸骨のような巨体を持つ、体長20メートルほどの二足歩行ドラゴンであり、戦闘中に大量のザコモンスターを召喚してくる難敵だ。

 過去にデスドラゴンを倒した時、時也は1人ではなかった。最初の一回は5人でパーティーを組み、何度も死んで、15回目でようやく倒すことが出来たボスモンスターだ。それ以降、時也は適当に出会った人と一緒に行ったり、複数のパーティーと協力したりしたこともある。

 だが今、彼はたった1人でデスドラゴンと戦わなくてはならない。デスドラゴンを倒さなければ先に進めないし、見つかってしまった以上、転送石を使わなくては追い掛けられ、いずれ捕まるのだから。

 

「つーか1人とかマジかよ……。前衛職で、しかも紙防御な俺が1人でレベルカンストのレイドボス倒せとか無理ゲーすぎんだろ……」


 時也は溜め息を吐いてぼやく。


(せめて誰かもう1人いれば楽なんだけど、無い物ねだりしても仕方がないか)


「ギャオオオオ!!」


 デスドラゴンが雄叫びをあげる。それによりスライムやゴブリンなどの大量のザコモンスターが地中より現れ、時也に向かってきた。

 時也がデスドラゴンと戦ったのはこれで4度目。だから彼はデスドラゴンの攻略パターンを大体理解している。

 その攻略パターンの第一段階は、ザコモンスターを優先して殲滅することだ。理由はザコモンスターを放っておくと厄介だから。

 デスドラゴンが召喚するザコモンスターはレベル800~900。ザコとはいえ、その攻撃力は侮れない。だが耐久力は総じて低いので、ザコモンスターは広域魔法で殲滅するのがセオリーである。


「という訳で、エンシェント・プロミネンス!!」


 時也は右腕を掲げ、上級の広域魔法の名前を叫ぶ。すると右手の前に巨大な魔法陣が出現し、そこから炎が放たれた。炎は扇状に広がり、すぐにフィールドの全体に広がっていく。炎に触れたザコモンスターは一気に燃え、灰と炭になった。

 しかし、これは最優先でやらなくてはならない最低限のことだ。けれど、召喚されたザコモンスターを全滅させるような攻撃を見たデスドラゴンは、いまだ動かずに時也を観察している。


(何だ? あいつ……攻撃してこない?)


 いつもなら、デスドラゴンはザコモンスターと一緒に攻撃して来るか、ザコモンスターが一掃される間に攻撃準備をしている筈だ。しかし、デスドラゴンはまだなにもしていない。

 

「どういうことだ……?」


 だが、攻撃してこないのなら今がチャンスである。時也は自分が頻繁に使う強化スキルの名を叫んだ。


「バーサーク!!」


 バーサークはバーサーカーのみが使える強化スキル。その効果は攻撃と魔力のステータスを極限まで上げ、防御と魔坊のステータスを極限まで下げること。

 このスキルは普通のスキルと違ってステータスの上限があろうとなかろうと関係ない。

 普通、強化スキルを使ってもカンストしたステータスは上がらないので、強化しようがしまいがステータスの最大値は1000になる。しかしバーサークにその制約はないので、今の時也の攻撃と魔力のステータスはそれぞれ1500だ。防御と魔坊は元々0だから今も0だけれど。

 

「いくぜ!!」


 時也はそのままデスドラゴンの後ろに回るべく、デスドラゴンを中心にして反時計回りに走り出した。

 ここで大事なのはどこを最初に狙うかだ。

 時也の経験上、尻尾が存在しているのといないのでは難易度が大きく変わる。何故なら、尻尾の長さは全長の半分もあるし、尻尾攻撃の威力は大きいからだ。なので尻尾を斬り落とせばその後の戦闘がかなり楽になる。


(ここで焦っちゃダメだな)


 トラオには移動の制限がないので、敵の攻撃パターンを知りつつ敵の行動を完全に読めるようなプレイヤーは、どんなにレベルが低くてもほとんどのモンスターに勝てる。

 楓がやっていたのはそれだ。敵の行動を完全に把握することでダメージを受けず、一瞬のスキにちょこちょこと攻撃することにより、時間は掛かるがどんな敵にも高確率で勝てる。ランダム行動などもあるから絶対に勝てる訳じゃないが。

 しかし、時也は敵の行動を読むことが得意ではない為、経験で戦うことが多い。適切なタイミングを経験から導き出し、その時に最適な行動をすること。それが時也のやり方だ。

 時也が近づくと、デスドラゴンは自分の尻尾を振って彼を攻撃する。避けることに専念すれば、回避ステータスが低くても速さのステータスがカンストしている時也に避けられない行動じゃない。だから時也は、デスドラゴンが大技の予備動作をするまで尻尾攻撃を避け続ける。

 すると、デスドラゴンが尻尾攻撃を止めて尻尾で∞の字を描き始めた。


「来た!!」


 時也はすぐさまデスドラゴンの尻尾に近付いた。

 普通ならデスドラゴンがこの動作をした時は防御コマンドを押して防御する。何故なら、今からデスドラゴンが使おうとしているのは魔防ステータスがカンストしていなければ即死するような広範囲攻撃だからだ。避けられるものではないから、魔防を強化して防御行動をとるのが正解である。

 しかし、その攻撃を止める方法がいくつか存在する。その内の1つが尻尾を切り落とすこと。

 普通は無理だと考える。何故なら、尻尾の耐久値はかなり高いし、失敗すればデスドラゴンの広範囲攻撃で一撃死するからだ。リスクが高い。

 だが今の時也はカンストすら超えたステータスを持つ前衛職のバーサーカー。尻尾の根元という一番防御ステータスが低い場所に、一番攻撃力の高い攻撃スキルを当てれば――


「一撃で、斬り落とせる!!」


 ここが第一の山場。ここで失敗すれば間違いなく一撃死だろう。なので失敗は出来ない。けれど、時也はあまり心配していなかった。

 時也は渾身の力を込めて剣をデスドラゴンの尻尾に振り下ろすと同時に、スキルの名を叫ぶ。


「ゲシュタルト・ツァファール!!」


 時也の最強の近接攻撃スキルの1つ、ゲシュタルト・ツァファール。剣で斬った個所の構成を破壊し、このスキルで破壊したモンスターの部位は回復できなくなるという強力なスキルである。

 破壊した部位を回復してしまうデスドラゴンには効果覿面だ。それに、このスキルにはボスモンスターに猛毒と麻痺の状態異常を与える効果もある。

 時也はスキルの恩恵を受けた2本の剣で、デスドラゴンの尻尾を斬った。


「いっけええええ!!」

「グギャオアア!!」


 時也の攻撃はクリーンヒットし、見事にデスドラゴンの尻尾を切り落とした。これによりデスドラゴンの尻尾はなくなり、この後の攻略が少しだけ楽になる。

 デスドラゴンはその場でジタバタと動き始めた。このままでは巻き込まれてしまうからと、時也は急いでその場から離れる。

 

(こうなるとなんだが駄々をこねる子供みたいだな。……いや、全然そんなことなかったわ。こんな骨しかない子供とか見たくねぇよ)


 数秒間デスドラゴンはジタバタしていたが、ゲシュタルト・ツァファールの麻痺が効いて来たのか、動きが止まった。

 

(ここだ。ここで攻撃を当てないといけない)


 時也はデスドラゴンの弱点である、人間と同じぐらいの大きさの宝石を狙うために場所を移動する。

 デスドラゴンは横向きに寝ているため、弱点の宝石がある胸を狙いやすい。時也は少し離れた場所で剣をしまい、デスドラゴンの胸に向けて右手を掲げる。

 闇属性のデスドラゴンには光属性の魔法が有効。だから時也は自身が使用出来る光属性魔法の名を4ほど叫んだ。それらはゲーム内において最上級と呼ばれた物ばかりであり、その威力は計り知れない。


「グルウアアアア!!!」


 時也の光属性魔法が効いているのか、デスドラゴンは叫ぶ。しかし、麻痺が効いているせいで体が動かせないようだ。

 時也は自分が使えるスキルのリキャストタイムを全部把握している。次にそれらの光属性魔法スキルを使えるのは、それぞれあと15、34、23、76秒。次に同じ魔法を使うにはまだ時間が掛かるため、彼は攻撃力の高い炎属性魔法を撃った。


「ヘルグランドフレア!!」 


 炎属性の魔法スキルを使ったのは、時也の持つ他の光属性魔法よりもこの炎の魔法の方が結果的に多くのダメージを与えれられるからだ。

 単純な攻撃力を考えるのなら炎の魔法よりも近接攻撃スキルを使った方がいいのだが、不用意に近付いてしまうと麻痺がきれた時に反撃を食らうかもしれない。

 もし反撃を食らえば時也は瀕死になるだろうし、下手すれば一撃死もありえる。いくら【不死の輪】があろうとも一撃死すれば意味がないし、回復アイテムも何もない今の時也では一撃食らえば死ぬと考えた方がいいだろう。

 だから時也は近付かずに魔法を使う。

 このゲームでは一度に使えるスキルの数は5個。この5個にはリキャストタイムに入っているスキルも含まれるため、今の時也はもうスキルを使えない。

 いつもなら後衛がいる為に時也はこのまま通常攻撃を当てるようと敵に突っ込むのだが、今はそうしない方がいいと考えている。


(何もせずにいなければならないってのは歯痒いな)


 そうしているとデスドラゴンの麻痺が切れたようで、デスドラゴンが起き上がった。先程まで黒かったデスドラゴンの体は今、赤くなっている。これはデスドラゴンのHPが残り7割になった証拠だ。

 赤くなったデスドラゴンは、先程とは別物と言えるモンスターとなる。以前、時也がこの状態のデスドラゴンの感想や対策をフレンドに聞いた時、その彼はこう言っていた。「デスドラゴンの体が赤くなったらステータスが2倍になったんじゃね? って思うよ、多分。そんぐらい強くなる」と。


「ま、こっからが本番だよな」


 そう。さっきまでは時也にとってもデスドラゴンにとってもただのウォーミングアップだ。デスドラゴンのこの状態までは最上級プレイヤーでなくとも、上級レベルのプレイヤーならば辿り着ける。だがここからは時也たち、最上級プレイヤーの領域だ。

 一般論で言えば、1人でデスドラゴンに勝てる勝率はかなり多く見積もって5%ぐらいである。相手は最大で30人のプレイヤーが強力して戦うレイドボスであり、それを1人でやろうというのは最初から無理がある話なのだ。

 しかし、それを可能にしてこそ最上級プレイヤーだと言えるだろう。


「お前の骨を砕いて、お前がかなりのカルシウム不足だって笑ってやるよ!!」


 時也は剣を抜いて魔法スキルを使う。


「ジャスティスクルセイダー!」


 時也が魔法の名前を叫ぶと、デスドラゴンの真上に魔法陣が現れる。その魔法陣から巨大な光の剣が現れ、デスドラゴンを刺そうと急速に真下へと落ちた。

 しかし、デスドラゴンは驚くべき速さでその剣を避ける。完全に避けられた訳ではなくかすりはしたようだが、かするだけでは意味がない。


「マジでバケモンだな、あれ……」


 デスドラゴンはその巨体らしからぬ速さで時也の元に走り、その爪で彼を攻撃する。

 このゲームでは攻撃を受け止めて防御しても少しダメージを受けてしまうため、時也はそれを避けた。


(つーか受け止めたら俺の動きが止まるしな。そんなことしたら死ぬわ)


 時也はひたすらデスドラゴンの攻撃を避け続け、攻撃できるスキを探す。


「ホーリーロードジャベリン!」


 時也は走りながら魔法スキルを放った。掲げた右手の剣の剣先から直径3メートルほどの魔法陣が現れ、そこから光の槍が無数に発射される。

 デスドラゴンはその場で大きくジャンプして直撃を躱す。時也はそのままデスドラゴンを追うようにして魔法陣を動かして光の槍を発射し続けるが、デスドラゴンは森の木を飛び移りながらすべての光の槍を躱した。

 

「サルかお前は!」


 時也はそれを見て、もう少し弱くてもいいのに、と思った。


(ドラゴンなんだからせめて飛んで欲しいっつの。まぁ飛んだら当たるだろうから頭はいいんだろうけど……腹立つな。つーかお前そんな大ジャンプできるのかよ)

 

 時也は止まらずに走り続け、デスドラゴンが口から放つ闇属性の魔法弾を躱し続ける。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 時也は小刻みに息を吐きながら走っており、今の時也の速さは先程よりも遅くなっていると感じた。


(ヤベエな。俺、かなり疲れてる)


 トラオというゲームにはスタミナや体力といったシステムはなかったので、ゲームをプレイしていた時に時也がスタミナを気にしたことはない。だが彼は今、生身の体でゲームの世界にいるのだ。体力に限界があるのは当然。


「あっははは。こりゃダメかなぁ……」


 時也は人並みにスポーツをしてるからそれなりに体力はあるが、流石にこの状況で体力がもつ訳がない。

 筋力や頑丈さはプレイヤーキャラ同様に強化されていても、こんなところは現実世界と同じだ。せめてゲーム通り、体力なんて概念は失くして欲しかった。

 デスドラゴンはそんな時也の様子に気付いていないのか、体が黒かった時とは比べ物にならない速さで攻撃を繰り出してくる。時也はそれをギリギリのところで避け続けたが、最初と違って完全には避けきれなくなり、少しだけかすり始めている。

 かするだけでも紙防御の時也にとっては無視できないダメージであるが、【不死の輪】の自動回復により何とか生き残っていた。

 しかし、このままでは――


「はぁ、はぁ……このままじゃ、ジリ貧かもな……」


 残念ながら、いくら攻撃力と速さが最強でもスタミナがなければ動けないし、攻撃できないのが現実だ。

 

(やれると思ったんだけどなぁ)

 

 実際、スタミナという要素がなければ1人でも倒せた可能性は高いと思う。時也はデスドラゴンのパターンは全部把握しているし、この後にデスドラゴンが何をするのかも大体分かるのだから。


「そんな俺が負ける理由がスタミナ不足か……情けねぇなぁ」


 もう、時也は最初のように走れなくなってきている。スタミナがほとんど残っていないのだ。

 デスドラゴンの爪による攻撃を避け続けている時也の足は止まり始め、剣を握り続けることすら出来なくなっている。

 今の時也に出来るのは逃げて、攻撃を避け続けることだけ。攻撃する為に足を止めてデスドラゴンに向かえば、たちまち返り討ちになって死ぬだろう。いや、今の時也にはそんなことをする元気すら残っていない。

 

(もう、ダメだ……)


 ついに、時也の足は止まってしまった。

 足が動かなくなってしまった為に時也は前のめりに倒れ込んでしまい、うつぶせで地面に横たわる。

 ここまで、時也はかなりの距離を移動した。最初にデスドラゴンと鉢合わせした場所からは1キロぐらい離れているだろうか。


「俺も……ここまで、なのかな」


 ここまで、時也はよく頑張った。

 レベル1000の最強クラスのレイドボスモンスター相手に1人でここまでやったのだ。誰もが称賛の言葉をくれるに違いない。

 だが、心残りはある。


「楽しく……なかったな」


 楽しくなかったと、時也は思った。どんなに強いモンスターと戦おうが、1人だけで戦ったのでは楽しくないのだ。

 

(ここで死んだら、俺はどうなるんだろう?)


 ゲームなら、死ねば一番近い町か村に強制的に転送され、所持金が半分になり、所持アイテムの半分がランダムに消える。

 だが、今の時也が死ねばどうなるのだろう。

 ここは間違いなくトラオの世界。景色も、モンスターも、彼の装備やスキルもそれを証明している。だが、時也はプレイヤーキャラクターのヤキトリとしてここにいるのか、それとも楪時也としてここにいるのか。

 

 ここは、現実なのだろうか。


 デスドラゴンの攻撃がかすった時、時也には痛覚があった。それはつまり、時也には感覚があるし、時也が今ここで生きているという証明になる。

 ゲームプレイ時に頻繁に使っていたメニューウィンドウは何をしても出ないし、採取ポイントを調べても何も起こらない。だが、時也が今着ている鎧や武器、さっきまで使っていたスキルは紛れもなくトラオの世界にあったもの。職業やステータスもプレイヤーキャラであるヤキトリのものだし、フィールドの景色やモンスターも全部トラオのものだ。


 ならここは、ゲームの世界なのだろうか。


 分からない、分からないことだらけだ。

 しかし、今の時也にとってはどうでもいいこと。何故なら、彼はデスドラゴンに見つかってしまったのだから。

 時也は一度仰向けになって上体を起こす。

 よく見ると、デスドラゴンは時也にトドメをさすために大きく口を開けて力を溜めている。時也はそれが何なのかを知っていた。それはデスドラゴンの攻撃の中で2番目に高い威力を誇るレーザー砲だ。

 食らえば紙防御である時也なんて一撃で殺せるし、もし避けたとしても、誘導効果があるので当たるまで追って来る。本来はそれを使う予備動作が確認できた瞬間、後衛や強化スキルを使えるプレイヤーが全員を強化する必要があるのだ。ちなみに時也の場合は元々の防御がカスなので、最大級の強化スキルを使って貰わないと死ぬ。

 

「あははは……まぁでも、1人で戦ったのに少しだけ楽しかったのは、お前が相手だったからなのかな」


 ここで時也の冒険は終わる。

 死ねば現実世界で目覚め、いつも通りに学校に行くのかもしれない。

 死ねば近くの町か村に転送されるのかもしれない。

 死ねば、ここで時也の人生は終わるのかもしれない。


 デスドラゴンは力を溜め終えた。だからこそ奴はその口で時也に狙いを付けたようだ。


「取り敢えず、これが最後のあがきな。……ディバインクロスグラインド!!」


 時也は最後の力を振り絞って右手を掲げ、彼の持つ光属性の魔法スキルの中で一番高い威力を持つスキルの名を叫ぶ。右腕を中心に直径5メートルはあろう魔法陣が現れ、そのまま光属性のレーザー砲を発射した。

 デスドラゴンが攻撃を放つ前に時也の放った光の奔流がデスドラゴンの胸にある宝石に当たり、デスドラゴンは体勢を崩す。おかげで時也はデスドラゴンの攻撃を食らわずに済んだが、ほんの少し命が伸びただけだろう。


「グギャアアア!!」


 デスドラゴンは怒ったのか、時也に向かって突進した。おそらく、時也のことをことを爪か牙で殺すつもりだ。

 

(まぁ安心しろよ。もう俺には腕を掲げる元気すら残っていない。最後の抵抗も成功したし、少しだけ満足した。でも最後に……誰かと一緒にデスドラゴンと戦いたかった、な)


 時也はゆっくりと目を瞑って、体から力を抜いた。

 しかし、数秒待ってもデスドラゴンの攻撃が時也に届くことはなく、何が起きたのか気になったのか時也は目を開ける。


「……あれ?」


 そこには、光属性の盾スキルに攻撃を阻まれているデスドラゴンの姿があった。そして光の盾スキルを使ったと考えられる人物は、時也とデスドラゴンを挟むように立っている。

 その人物は時也の方を向いて言った。


「助けが欲しそうに見えたので、助けに来ました!!」


 それは銀色の髪をおさげにした、水色の目を持つ少女だった。 

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